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第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第2話、事件を追う者達 その1

     第2話、事件を追う者達


     第2話その1


 バイル村を後にしたドレイクとフリルフレアは再び道に迷っていた。山中の神殿が最終目的地ではあるが、そこまではかなりの距離があるので、まずその手前にあるマゼラン村を目指していた。

 しかし、そもそもバイル村にも迷い込んだ様なものである。当然現在地の把握もできていなかった。そして野宿で夜を明かし、半日ほど歩いたが結局再び道に迷う事となった。

「くっそ……そもそもあのバール村ってどこにあったんだよ。地図に書いてねえ…」

「ドレイク金梃になってるよ。バールじゃなくてバイル村ね。…訊いて来ればよかったのに……」

「バカ言うな。あんな状況で道なんか訊けるか」

「まあ……それはそうだけど……」

 そう言ってため息をつくフリルフレア。やはり村長の屋敷を焼き払ったのはやりすぎだったのだ。まあ、だからと言って素直に道を教えてくれたかどうか、はなはだ疑問ではあるが……。

「クソー、ホントにこのマ…マゼ…マゼラン村?って本当にあるのかよ」

 地図を見ながらドレイクがぼやく。もっとも、いくら地図を見ても現在地が分からなければ何の意味も無いのだが……。

「はぁ……。また今夜も野宿かなぁ…」

 ため息をつきながらぼやくフリルフレア。

「じゃあ、あのオイル村の方が良かったか?」

「まさか!あんな所に居たら何処に売り飛ばされるか分かったもんじゃないもの。あとドレイク、オイルじゃなくてバイル村ね。オイルじゃ油だから」

「あ?そうだったっけか?……まあ、どっちでも良いや」

 相変わらず人や物の名前を覚えないドレイクに、もはや諦めているフリルフレア。とにかく今は村の名前で議論している場合では無かった。

「とにかく、目的の神殿は山頂近くにあるんでしょ?だったら、上を目指して上っていくしかないんじゃない?」

「そうだな、それしかないか…」

 朝から山道を登りっぱなしだったため正直フリルフレアの脚はパンパンだったが、だからと言って歩みを止める訳にもいかなかった。

 と、その時ドレイクが良いことを思いついたとばかりにパチン!と指を鳴らした。

「そうだフリルフレア!お前ちょっと飛んで上から様子を見てきてくれよ。上手くいけば現在地が分かるかも!」

 名案を思いついたとばかりに喜ぶドレイクだったが、対照的にフリルフレアは気が進まなそうな顔をしている。

「え……飛ぶの?……ここで?」

「え?嫌なのか?」

「うん…」

 どこか恥ずかしそうに渋るフリルフレア。そんなフリルフレアの様子にドレイクは頭の上に?マークを浮かべていた。

「大した手間じゃないだろ?何で嫌なんだよ?」

「だって……ここで飛んだら…パンツが丸見えになっちゃうもん…」

 恥ずかしそうにそう言うフリルフレア。どうやらドレイクに下着を見られるのが嫌らしく、モジモジしているフリルフレアにドレイクは頭を押さえてため息をついた。

「誰がそんなお子ちゃまパンツ見たがるか……」

「ミィィィィィ!お、お子ちゃまって……ドレイクがどうしてそんなこと知ってるのよ!」

「え?だってお前が着替えるたびに散々見てるし」

「着替えるたび⁉ドレイク!私着替える時は『後ろ向いて』って毎回言ってるよね⁉」

「そうだっけか?」

「ミキィィィィィ!ドレイクのエッチ!スケベ!変態‼」

 興奮のあまり口癖の叫び声が若干変わっているフリルフレア。ドレイクを睨みつけて地団太を踏んでいる。

「はいはい、悪かったよ。それじゃこれで良いんだろ?」

 そう言って自分の両目を手で覆い隠すドレイク。しかしフリルフレアは首を横に振っていた。

「もう!……それにそれだけじゃないの。ほら、飛ぶってことは木の枝や葉の中を通らないといけないじゃない?」

 少し落ち着いたフリルフレアは、今度は若干バツが悪そうにそう言うと、自分の頭上を指差した。そこには木々が生い茂っており、彼女の言葉通り枝や葉の間を通らなければ上空までは飛ぶことは不可能だろう。

「だから何だよ?」

 いったん目から手を放すドレイク。フリルフレアの言おうとしている事が理解できない様子だった。

「だから、ほら……木の枝や葉っぱの間を通るとさ……」

「通ると?」

「その……頭とか羽根に虫がくっつくと嫌だから……」

「……………」

 モジモジしながら言うフリルフレア。そんな彼女を見たドレイクは問答無用でフリルフレアの両脇腹を掴むとそのまま上に放り投げた。

「ほ~ら飛べ~」

「ミイイィィィィィィ!」

 ドレイクに放り投げられてそのままズボッと音を立てて木の枝や葉の中に顔から突っ込むフリルフレア。そのまま飛び立つのかと思いきや、身体を丸くして下に落ちてくる。

「おいおい」

 思わず落ちてきたフリルフレアをキャッチするドレイク。上手くお姫様抱っこでキャッチできたのでフリルフレアが喜ぶかと思ったが、彼女は両手で顔を覆って身体を強張らせていた。

「ミィィィ……虫、やだ……」

「……悪かったよ」

 思った以上に虫嫌いは酷い様で、ドレイクはバツが悪そうに頬を掻いた。そしてフリルフレアの頭にくっついていた毛虫をばれない様に取り外してやった。ちなみに毛虫はフリルフレアに見えない方に放り捨てる。

「じゃあ、もうちょっと開けた場所を探すか。そうしたらちょっと飛んでみてくれるか?」

「うん…それならいいよ」

「サンキュー」

 そう言ってフリルフレアの髪をワシャワシャと撫でまわすドレイク。フリルフレアが「ミィィ、子供扱いしないでよドレイク」と言ってドレイクの手を外した。そしてドレイクがさてどちらに進むべきかと周りを見渡したその時だった。

「キシャァァァァァァ!」

 獣のものでは無い、魔に属する物の奇怪な叫び声が響き渡ってきた。

「ドレイク⁉」

「魔物だな!結構近いぞ!」

 周囲を警戒しつつ大剣を引き抜くドレイク。魔力を帯びたその赤い刀身がわずかに赤く光っている。そしてフリルフレアも腰から短剣を引き抜いた。

「どうするの⁉」

「しっ!ちょっと待て!」

 ドレイクは静かに!とばかりに口元に人差し指を当てる。そして耳元に片手を当てて耳を澄ませる。

キシャアァァァ!キィン!キィン!ガアアアア!ザシュッ!

 魔物の叫び声に交じって剣戟音が聞こえる。誰かが戦っているのは明白だった。

「誰かが…戦っているの?」

「そうだろうな…これはチャンスだ!」

「チャンス?」

「加勢に行くぞ!うまくいけば道が訊けるかも知れない!」

「あ、なるほど!」

 ドレイクは頷くとそのまま走り出した。フリルフレアも後に続く。

 魔物の叫び声や剣戟音が聞こえる方に向かっていくと、少し開けた場所に出た。そしてそこでは3人の冒険者らしき男達と、体長4~5m程の牙の生えたミミズの様な魔物、そして見覚えのある潰れたイカのような頭を持つ魔物が4体程いた。

「このイカモドキ共は!」

「ブレインイーター⁉」

 ドレイクとフリルフレアから驚きの声が上がる。そこにいたのはアサシンギルド事件の時にたびたび遭遇したブレインイーターと言う魔物だった。そのブレインイーターたちはドレイクとフリルフレアに気が付いたのか視線を向けてくる。

「よそ見をするとはな!」

 次の瞬間冒険者風の3人の内の一人、白い鎧を着て大きな盾を持った戦士風の男が長剣を一閃させる。その剣閃にブレインイーターの首が宙を舞った。それを見たドレイクは大剣を担いで駆け出した。

「フリルフレア、援護を頼む!」

「うん、任せて!」

 頷くフリルフレアをその場に残し、ドレイクは戦局の中心へと駆け付けた。

「加勢するぞ!」

「すみません!感謝します!」

 ドレイクの言葉に、魔導士風の男が答える。後ろを向いているため顔は見えないが、耳が尖っているためエルフかハーフエルフであろうことが分かった。

 そしてもう一人、小柄な人影が一つ。一見ヒューマンの子供にも見えたが、この場にいる以上それは無いだろう。恐らくはホビットであり、服装も動きやすさを重視した軽装であることから盗賊であろうと考えられた。

「ノウミソクワセロ」

「キシャアアアアア!」

 ブレインイーターと巨大牙ミミズが襲い掛かってくる。ブレインイーターは1体は白い鎧の戦士に、1体はホビットの盗賊に、そして最後の1体は目ざとくフリルフレアを見つけてそこに近寄っていく。

「フリルフレア!」

 ドレイクが叫びフリルフレアに駆け寄ろうとする。しかし次の瞬間、巨大牙ミミズがその大きな口を開けてドレイクに襲い掛かって来た。

「シャアアアアア!」

「チィ!」

 鋭い牙を大剣で受け止めるドレイク。そこにエルフらしき魔導士が駆け寄ろうとする。

「耐えてください!今魔法で……」

「俺は大丈夫だ!それよりイカモドキ共を!」

 次の瞬間ドレイクの大剣が巨大牙ミミズの鋭い牙を打ち払う。さらに大剣を一閃させるドレイク。それにより巨大牙ミミズの牙が半分近く打ち砕かれた。

 それを見たエルフらしき魔導士はミミズをドレイクに任せていいと判断したのかブレインイーターの方に近寄っていった。

 そして、白い鎧の戦士やホビットの盗賊がブレインイーターと戦う中、フリルフレアに迫るブレインイーター。

「ミィィィィ!来ないで!『フェザーファイア!』」

 次の瞬間フリルフレアが前に突き出した翼の先と掌から無数の炎の羽根が撃ち出される。それらはズドドドドドン!とすさまじい勢いでブレインイーターを撃ち抜いた。

「グワ!」

 悲鳴を上げて吹き飛ぶブレインイーター。その身体にはフリルフレアの魔法で撃ち抜かれ無数の穴が出来ていた。そしてすぐに砂の様に崩れ去っていく。

「クソ!こいつ!」

 ホビットの盗賊は苦戦しているらしく、手に持ったショートソードは有効打にはなっていない様子だった。

「は!てぇい!」

 白い鎧の戦士は長剣で確実に相手に傷を増やしているが、決定打にはなっていない様子だった。

 それを見たエルフらしき魔導士は精神を集中させる。

「『マジックブースト!』魔力増強!対象を2体に拡大!くらえ『ライトニングジャベリン!』」

 次の瞬間エルフらしき魔導士の持つ杖の先から雷の槍が2本撃ち出される。その電撃は一瞬でブレインイーター2体を撃ち貫き、そのまま消滅させた。

 巨大牙ミミズの攻撃を大剣で受け止めながらドレイクはその様子をしっかりと見ていた。

(こいつ……今の魔法を二つとも無詠唱で発動させやがった!)

 その事実にさすがに驚くドレイク。そもそもドレイクの知る限り魔法を呪文無詠唱で発動させる者など一人しかいなかった。

(おっと、その前にまずこいつをどうにかしなきゃな)

 ドレイクは再び目の前の巨大牙ミミズに意識を集中させる。

「よし!あとはあの大物を全員で倒せば!」

「悪いが、手だし無用で頼むぜ!」

 白い鎧の戦士の言葉にそう答えるドレイク。迫る巨大な口を押し返す。。

「何格好つけてんだリザードマン!良いからみんなで…」

 ホビットの盗賊がそう言った次の瞬間だった。

「おおおおおおお!」

 雄叫びと共にドレイクの筋肉が膨れ上がる。そしてそのまま巨大牙ミミズを弾き飛ばした。5m程もある巨大牙ミミズの身体が宙を舞う。

「ええー⁉」

 驚きの声を上げるホビットの盗賊。フリルフレアにとってはドレイクの馬鹿力は慣れっこだったが、エルフらしき魔導士も白い鎧の戦士も呆然とドレイクの方を見ている。

「チィエストオオォォーー!」

ザバアン!

 ドレイクの咆哮と共に振り下ろされた一撃は巨大牙ミミズを真っ二つに両断していた。

 ドウン!と音を立てて倒れ込む巨大牙ミミズを呆然と見ていた3人の冒険者。フリルフレアがドレイクの元に駆け寄るのを眺めていたが、我に返ったようにドレイクの元に近寄ってくる。

「これは……まさか、マンイーター?」

「マンイーター?」

 エルフらしき魔導士の言葉に訊き返すドレイク。何となくその魔導士の声に聞き覚えがある気がしたが、とりあえず気にしないでおく。

「人間を主食にしている巨大ミミズ型の魔物ですよ。もう一体のはブレインイーターと言って……」

「ああ、そっちは知って……って、どうしたフリルフレア?」

 さっきから大人しいと思っていたフリルフレア。知らない人たちの前でしおらしくしているのかとも思ったがそうでもない様子だった。視線を向けてみると、信じられないものを見る様な眼でエルフらしき魔導士のことを見ている。驚きのあまり両手で覆った口から声も出ていない様子だった。

「何にそんなに驚いて……」

 ドレイクもエルフらしき魔導士に視線を向ける。ドレイクはそこで先ほど魔導士の声に聞き覚えがあるような気がした理由を知った。

 フリルフレアが震える指でエルフらしき魔導士を指差す。

「ロ、ロックスロー…さん……?」

「金髪優男⁉」


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