第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第12話、第八の悪夢・螺旋階段 その4
第12話その4
迫るゴーストたちを殲滅したフェルフェル。そして改めて地道に階段を上っているのが馬鹿らしくなったフェルフェルは上空に向かって翼を羽ばたかせていた。螺旋階段の中心の空洞をひたすら上に向かって飛んでいく。
「………………」
しばらく無言で飛ぶフェルフェル。しかし、いつまで飛び続けても階段の先は見えてこなかった。
「…まだ…先が…見えない?」
さすがにおかしいと思い始めたフェルフェル。いくら悪夢の中だと言ってもどれだけ広い空間だというのだ。
「…いくら…なんでも…広…すぎる…」
この広すぎる空間に違和感を感じたフェルフェル。懐から短剣を取り出すと、それを螺旋階段の端っこに突き刺した。そしてそのまま再び上空へと飛び立っていく。
しばらく上昇を続けるフェルフェル。しかし、ある程度まで飛んでいたフェルフェルは突如上昇するのをやめた。そしてそのまま螺旋階段に降りるとしゃがみ込む。そして、足元に突き刺さっていた短剣を引き抜いた。
「…なる…ほど……やっぱり…ループ…してた…」
フェルフェルはつまらなそうにそう呟くと短剣を懐にしまった。そう……今懐にしまった短剣は先ほどフェルフェルが階段に突き刺した短剣だったのだ。そして、ずっと上昇し続けてきたのにその短剣が上にあったということは……この空間はどこかでループしているということを意味していた。
「……どう…しよう…」
どうするべきか次の行動に迷うフェルフェル。上に登るとループする以上それは出来ないが、かといって下ればいいというものでもないだろう。おそらく階段を下っても先程までと同じ結果になるはずだ。上下の移動は意味がないとすると………。
(…横に…移動…する…?)
しかし、横に移動しようにもこの空間には螺旋階段しか存在しない。移動のしようもなかった。どうしたものかと考え込むフェルフェルだったが………フェルフェルは意を決したように螺旋階段の外側に……身を躍らせた。
バサァッ!
一瞬の落下感ののち、翼を羽ばたかせて螺旋階段の外側……何もない空間に浮かぶフェルフェル。そのまま……しばらく飛んでいくことにした。
バッサ!バッサ!と翼を羽ばたかせ螺旋階段からどんどん離れていくフェルフェル。あまり離れすぎると戻れなくなるかとも思ったが、戻ったところであまり意味はないかもしれないと考え直した。実際もう螺旋階段が小さく見えるほど離れているがまだまだ空間は広がっている。もしかしたらこのどこかにナイトメアが潜んでいるかもしれないと考えていた。
「………ん?」
さらにしばらく飛び続けていたフェルフェルの眼にそれは突如入ってきた。そこは螺旋階段が細い縦の線にしか見えない程離れた場所であり、螺旋階段からでは絶対に見つけられなかっただろう。それは奇妙な球体だった。その球体は磨かれたようにキレイな表面をしており、銀色に光っている。まるで鏡の表面のようにも見えたが、奇妙なことにその表面には何も映っていなかった。まるで鏡のような表面でありながらフェルフェルの姿はもちろん周囲の光景もそこに映し出してはいなかったのだ。
「…なに…これ…?」
その奇妙な球体に、思わず頭の上にいくつも?マークを浮かべるフェルフェル。これが何なのかは全く分からない。だが………。
「…まあ…いいや…せっかく…だし…羽根…休め…してこう…」
大きさにして直径2m程の銀色の球体……その上にフェルフェルは腰を下ろした。
「…よっこいしょ…」
なんかおっさん臭い掛け声とともに腰を下ろすフェルフェル。
「………⁉」
いや、腰を下ろした………つもりだった。その球体にお尻が触れた瞬間……景色が一変した。今までの薄暗いなにもない空間から、一気に白一色の空間へと変化したのだった。
「ッッッッ⁉…………⁉⁉」
さすがのフェルフェルも驚いたのか、声にならない叫び声を上げていた。
一瞬で変化したのか……それとも一瞬で転移させられてきたのかは分からないが、その空間はほぼ白一色の何もない空間だった。いや、正確に言えば地面はある。白い地面に見渡す限りの白、白、白………思わずあまりの白さに眼がチカチカしてくる。
しかし次の瞬間、フェルフェルの視界の端を何かが横切った。そして浮遊するように飛んでいたそれはフェルフェルに向かって飛んできた。
「…………!」
思わず両手の拳銃を構えるフェルフェル。そうしている間にそれはフェルフェルの眼前まで迫って来ていた。
「オマエナゼココニイル?」
そいつはフェルフェルの眼の前まで来ると、イントネーションの乏しい棒読みのような口調でそう言った。
そいつのその口調にフェルフェルは若干の苛立ちを覚えながら改めてそいつを観察してみた。
そいつは先ほどのゴーストによく似ていたが、それよりもかなり大柄だった。真っ白い逆三角形の胴体から手が伸びており、足は先が薄くなって消えている。顔は見るものをゾッとさせるようなおぞましい表情をしており、頭の先からは長い黒髪がうねるように伸びて四方八方に広がっている。あきらかに先ほどのゴーストよりも上位の存在に見えたが、こいつが何者なのかは分からない。こいつがナイトメアなのだろうか?
フェルフェルは油断なく拳銃を構えながらそいつを睨みつけていた。
「…お前…誰…?」
「ワレハチーコ、コノアクムヲスベルモノニシテナイトメアガイッタイ」
「………ナイトメア…」
次の瞬間フェルフェルはためらうことなく引き金を引いていた。
パアン!
銃声が響き渡る。そして……フェルフェルの拳銃からは硝煙が立ち上っていた。




