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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第11話、第七の悪夢・灼熱の島 その14

     第11話その14


「よくやったよフリルフレアちゃん!」

 フリルフレアのファインプレーにシェリエルが歓声を上げる。対してモンドールの方は忌々しげにフリルフレアの事を見上げたままだ。

「なぜ邪魔をする小娘!」

「そんなの当然じゃないですか!」

 モンドールの叫びに対し猛然と言い返すフリルフレア。モンドールの言葉はおとなしくリップを喰わせろと言っているのと同等だった。フリルフレアにしてみれば邪魔をしない訳がなかった。

「フリルフレアちゃん!そのままリップを守りながら飛んでてちょうだい!」

「ラジャー!」

 応えながらフリルフレアはモンドールやカワンナーガから距離をとるようにその場から少し飛んで離れていった。

「おのれ!おのれおのれおのれ!皆でワシの邪魔をしおって!」

 その時モンドールが突如叫び出した。どうやらドレイクとフリルフレアによってリップ達が守られたのがよほど気に入らなかったらしい。

「おのれえええぇぇぇぇ!」

 次の瞬間モンドールの口からいくつものマグマの弾丸が撃ち出された。直径30cm程のマグマの塊が弾丸として撃ち出されたのだ。

「ひゃあ!」

 上空にも飛んできたマグマの弾丸を何とか避けるフリルフレア。抱きかかえているリップがギュっとフリルフレアの身体にしがみついてきた。

「ふえ……フリルフレアお姉ちゃん…怖いよう……」

「だ、大丈夫!リップちゃんは私が守るから!」

 励ますようにリップを強く抱きしめるフリルフレア。幸いマグマの弾丸はそれほどの速度で飛んできているわけではないので上空まで来る頃には大分失速している。避けるのはそれほど難しくはなかった。

 だが、上空のフリルフレアはそれで良いかもしれなかったが、地上の、特にマグマの中にいるドレイクにとってはかなり致命的だった。ただでさえ歩くだけで精いっぱいの状況でマグマの弾丸を避けながら進むというのはかなり無理があったのだ。事実、今撃ち出されたマグマの弾丸のうちの一発がドレイク達の近くに着弾していた。直撃こそしなかったものの、弾丸がマグマの中に撃ち込まれたことでマグマ自体が跳ね、それによりドレイクやロックの身体にもマグマが降り注いでいた。

「ぐ……くそ…」

「うわぁ!あち!ああ、熱い!蜥蜴のおっちゃんどうにかしてよ!」

「男ならちったあ我慢しろよ……」

 愚痴るようにボソッと呟くドレイク。だが、自分で言っておいてなんだがそんなことは無理だということくらいドレイク自身にも分かっていた。マグマの温度は1000℃を超える。そんなものを少しでも浴びれば、ただの子供であるロックに耐えられる訳がなかった。

 だが幸いなことに近くに着弾したのは一発だけだった。ドレイクはそのままロックを抱えなおすと再び歩き出した。

「ああああああ!」

 しかしその時辺りに女の悲鳴が響き渡った。この場にいる女はフリルフレアとシェリエル、リップの3人。そしてその声はフリルフレアの声でもなければ、子供の声でもなかった。

「緑の姉御……!」

 悲鳴がシェリエルのものと分かり、ドレイクは祭壇の上にいるシェリエルの方を見た。シェリルは全身から煙を上げながら倒れ込むところだった。モンドールの撃ち出したマグマの弾丸を何発もその全身に浴びてしまったのは火を見るよりも明らかだった。

「ぐ……うう…」

 倒れ込みながらも何とか立ち上がろうとするシェリエル。だが、マグマの弾丸によるダメージはあまりに大きく、立ち上がるどころかまともに動くことすらかなわなかった。

「くくく……ワシの邪魔をするからじゃ…」

 倒れ込んだシェリエルを見て、口の端を吊り上げて笑うモンドール。そしてそのままシェリエルにとどめを刺すべくその大蛇の身体をうねらせて彼女に近寄ろうとした。

「さて、まずはシェリエルを殺し……次はあの愚かな蜥蜴共々ロックにマグマの中へ沈んでもらうかのう」

 そんなことを言いながら這いずるモンドール。この時ドレイクはロックを抱えたままマグマの中をなんとか歩いており、フリルフレアはリップを抱きしめたまま上空で距離をとっていた。この場にはもはやモンドールがシェリエルにとどめを刺すのを止める事ができる者はいない……………そう思われていた。

 …………………しかし次の瞬間。

「させぬわこの愚か者が!」

ガシィッ!

ジュウウゥゥゥ!

「ぬおおおおおお!」

 突如響いた叫び声。そしてその直後何かをガッシリと掴む音と共に肉の焼ける音が響き渡った。次で響く苦悶の雄叫び。それは何者かがモンドールの身体にしがみつきその動きを封じた音だった。

「……何の真似じゃジェイガン」

「ワシが……ワシが間違っておった…」

「そうじゃな。貴様はワシのためだと言ってその実ワシを見下していただけの偽善者じゃ」

「そうかもしれん……いや、そう思われても構わん!」

「何じゃと?」

「たとえ親友(とも)だと思っていたおぬしからどう思われようとも……おぬしの過ちはワシが止めなければいけなかったんじゃ!」

 そう叫んだジェイガンはモンドールを掴む腕にさらに力を込めた。モンドールの身体はいくらか温度は下がっていたとはいえマグマでできている。その身体を抱え込んでいるのだからジェイガンの身体は全身が焼けただれていた。服も燃え落ちており、その下から覗く身体は70歳を超えているとは思えないほど筋肉質だった。

「ふん…それでジェイガン、ここから貴様に何ができるんじゃ?」

「舐めるでないわ!ワシとて元傭兵の身!おぬしを押さえて引きずる事位は出来るわ!」

 そう叫ぶジェイガンであったが、その全身はどんどん焼け焦げていく。

「ジェ、ジェイガンさん……!」

 フリルフレアがリップを抱えたままとっさにジェイガンの元へ飛んでいこうとする。しかしジェイガンはそんなフリルフレアの行動を察したのか彼女の方へ視線を向けた。

「小娘!おぬしはそこにおれ!おぬしはそのままリップを守っておるんじゃ!」

「で、ですが!」

「ワシの事は気にするでない!」

 必死に叫んでくるジェイガンにどうすべきか躊躇するフリルフレア。ジェイガンを助けに行きたいが、今リップを手放せばまたカワンナーガに捕らえられる恐れがあった。

「くっそ……待ってろ爺さん!…今行く!」

 今度はドレイクが額から脂汗を流しながらも必死に歩みを進めていく。熱さのあまり神経がやられてすでに感覚がない脚だったが、それでも懸命に歩き続ける。しかしそんなドレイクに対してもジェイガンは叫び声をかけた。

「蜥蜴男おぬしもじゃ!……ワシの事など気にするな!」

「だがよ…爺さん!」

「今おぬしがロックを手放したら……誰がその子を守るんじゃ!こやつもあの黒い水晶のような奴もロックとリップを殺そうとしているんじゃぞ!」

「でもそれじゃあんたの身体が……このままじゃあんたが死ぬぞ!」

 ドレイクの言葉通り、ジェイガンの全身は既に焼けただれ酷い火傷に覆われていた。正直な話、すでに息絶えていてもおかしくないレベルの火傷であり、抱えている腕や身体の表面は黒く炭化しているところすらあった。だがドレイクの言葉を聞いた瞬間ジェイガンは眼を見開いて叫んでいた。

「馬鹿者!ロックもリップも未来ある子供達じゃぞ⁉これからの世界を担う子供たちとワシらの様なおいぼれの命を天秤にかけるでないわ!」

「じ、爺さん……」

 ジェイガンの必死の……魂の叫びともいえるその言葉に、言葉を失うドレイク。

「ワシはもういいんじゃ……。ワシも、このモンドールも、十分に生きた。子供たちを助けるために死ねるなら、本望と言うものじゃ」

 そう言ったジェイガンはそのままモンドールの身体を抱えて一歩、また一歩と歩き出した。

「ジェ、ジェイガン!貴様何のつもりだ!」

「なあモンドールよ……もう良いじゃろう?おぬしが寂しいのは分かる。……じゃがそのために子供の命を犠牲にするのは……許されることではなかろう?」

「ならば………ならば貴様はワシに一人寂しく死ねと言うのか!」

「そうは言っておらんじゃろう…」

 さらに一歩、また一歩と歩みを進めるジェイガン。その時、モンドールはジェイガンの狙いに気が付いた。慌てて大蛇の身体をうねらせて抵抗を始める。

「ま、待て!貴様まさか……!」

 暴れるモンドール。しかしジェイガンはその身を焼かれようともガッシリとモンドールの身体を抱え込んで離さなかった。

「ワシが一緒に死んでやる……おぬしはワシと一緒じゃ納得せんかもしれんが……まあ、そこは諦めてくれ」

「や、やめろジェイガン!」

ガブリッ!

 暴れるのをやめモンドールはその口を大きく開きその鋭い牙でジェイガンの胸元に噛み付いた。モンドールの鋭い牙ジェイガンの胸を貫く。

「ゴフッ!………モンドールよ…後の事は…若者に任せ……老害は去るべき…なんじゃ…」

 血を吐きながらも歩き続けるジェイガン。そしてそのあとすぐに歩みは止まった。ジェイガンはモンドールを抱えたまま……祭壇の端に立っていた。

「ゴフッ…ゲホゲホッ!……なあモンドールよ……」

「よせ……やめろジェイガン!」

「…あの世に…逝ったら………また酒を酌み交わそう……」

ザバァン!

 そう言い残し、ジェイガンはモンドールを抱えたままその身をマグマの中へと投げ入れたのだった。

「やめろおおぉぉぉぉぉ!」

 モンドールの叫びがむなしく響く中、ジェイガンとモンドールの姿はマグマの中へと消えていった。

「爺さん!」

「ジェイガンさん!」

 ドレイクとフリルフレアの叫びがその灼熱の島に響き渡った。


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