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第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第1話、とある村の出来事 その6

     第1話その6


 フリルフレアは泊まっていた部屋にそのまま監禁されていた。かなり厳重に縄をかけられており、両手首だけでなく二の腕や胸元、足首に膝上に太腿とかなりきつく縛られ、翼も一まとめに括られてその体制のままベッドに転がされていた。

(一体何なの?この人たち、私をどうするつもりなの?)

 バルカスたちの目的が分からなかった。だが、こうして自分を監禁している以上何か害意があって行動していることは間違いない。その事実に恐怖を感じる。思わず瞳から涙がこぼれ落ちていた。

「ふ……ん…んむ…」

 思わず泣き声をあげそうになるも、口をきつく覆っている猿轡のせいでそれすらもままならない。悪人の手に落ちてしまった情けなさと恐怖でさらに涙が溢れてきた。

「悪いなぁ嬢ちゃん。嬢ちゃんの身柄は奴隷商人に売らせてもらうよ。この村のためにね」

 そう言ってモーリスがフリルフレアの頭を撫でた。部屋の中にはフリルフレアと見張りのために残ったモーリスのみがおり、バルカスとセットンは席を外していた。

 頭を撫でてくるモーリスの手を振り払うように頭を振るフリルフレア。嫌がられているのを察したモーリスは肩をすくめると部屋の入り口近くの椅子に座った。

(どうしよう……私、奴隷商人に売られちゃうの?……嫌だよ…助けて、ドレイク…)

 心の中で相棒の名を呟いたとき、フリルフレアはふととあることに気が付いた。

(あれ…?待ってよ…私に何かあったらドレイクが騒ぐはずだよね…?)

 猿轡越しに深呼吸して無理矢理冷静さを取り戻そうとする。嫌な考えにたどり着きそうだったが、それでも慎重に考えを進めていった。

(例えば朝になって私がいなければ……ドレイクは村の人たちを疑うはず……。でも、そんなことは村長さんたちだってわかってるはずだよね……)

 ならば村長たちはどうするだろうか?その考えの答えに辿り着くのが怖かったが、それでもフリルフレアは考えを進めた。

(なら、村長さん達はドレイクに騒がれないように………ドレイクを…殺し…!)

 最悪の答えに辿り着いた瞬間フリルフレアの顔が青くなり瞳から涙があふれ出す。

「ふう!ふんうむふむ!(だめ!そんなのだめ!)」

 叫ぼうとしたが、その声は猿轡に阻まれて呻き声にしかならなかった。それでも体を起こして部屋を飛び出そうとする。もちろん厳重に縛られていたのでベッドの上で跳ねまわっただけだったが、それでもフリルフレアは部屋の入口へと急ごうとした。

「うわ!何だ、暴れるな!」

 慌ててモーリスがやってきてフリルフレアを押さえつける。

「大人しくしろ!」

「ふむぅ!ふううふ!(ヤダァ!ドレイク!)」

 呻き声をあげながら暴れるフリルフレア。だが、力ではかなわずモーリスに押さえつけられてしまう。

(やだ!ドレイクが殺されちゃうなんてダメェ!)

 その考えに必死に首を振る。否定したい、しかし考えれば考えるほど村長たちがドレイクを生かして返すとは考えられなかった。それに彼らはさっき睡眠薬がどうのと言っていた。いくらドレイクでも睡眠薬で眠らされたらきっと殺されてしまう。

(神様お願いです!私はどうなっても良いからドレイクを助けてください!)

 普段は信仰など全くしないのに、思わず神にすがって祈ってしまうフリルフレア。

(お願いです神様!ドレイクを助けてくれたら入信でも何でもしますから!)

 一体どの神に祈っているのかは謎だったが、心の中で必死に神に祈るフリルフレア。

 次の瞬間だった。

ガチャリ。

 突然入り口のドアが開くとそこから緋蜥蜴…ならぬ人影が足早に入り込みそのままフリルフレアを押さえつけているモーリスの脇腹に盛大に蹴りを叩き込んだ。

「ほべ!」

 妙な悲鳴を上げながら吹っ飛んだモーリスは、そのままドォォォン!と轟音を上げて壁に激突した。そしてそのまま口から涎を吹いて倒れ込む。完全に目を回していた。

 フリルフレアは呆然としながらその人影を見上げていた。その人影は、緋蜥蜴ならぬ赤蜥蜴、ドレイク・ルフトその人だった。

「ふむうむ!(ドレイク!)」

「大丈夫か、お前?」

 ドレイクは屈みこむと、フリルフレアの猿轡を外してあげた。口を開放されたフリルフレアは口の中の布を吐き出すと、咳込み涙目になりながらドレイクを見上げた。

「けほっけほっ!ド、ドレイク……無事だったのね!」

「無事?…ああ、まあなんか6人組の男共に襲い掛かられたけどな」

 そう言ってドレイクはフリルフレアを縛っている縄を解いていく。

「6人組⁉大丈夫だったの⁉」

「大丈夫って………ただの雑魚だったぞ?」

「そ、そうなんだ……よかったぁ…」

 ドレイクの言葉に思わずホッとするフリルフレア。

(神様、ドレイクは無事でした。ありがとうございます。あ、でも……やっぱり入信とかはなしで…)

 どの神に対してだかは分からないが、とりあえず自分に都合よく心の中で神に感謝するフリルフレア。神官戦士であるゴレッドあたりが聞いたら「フリルの嬢ちゃん。神々に対してはもうちょっと敬意っちゅうもんをじゃな……」とお説教をしそうだったが、今はいないので問題ない。

 そうこうしているうちにフリルフレアを縛っていた縄を解ききるドレイク。縄を解かれたフリルフレアは思わずドレイクの胸に飛び込んだ。

「無事で良かった、ドレイク!」

「あ、ああ……」

 突然胸に飛び込んできたフリルフレアに若干面食らうドレイク。不慣れな手つきでその小さな肩を抱いてやる。

「お前の方はなんともないんだな?」

「うん!縛られてたところがちょっと痛いけどね」

 そう言ってニッコリと微笑むフリルフレア。その笑顔に思わずドキッとしてしまうドレイクだったがすぐに気を取り直すと、そのまま部屋に置いてあった鎧を身に着け大剣を背負った。フリルフレアも冒険用のベルトを身に着けブーツを履き、ケープを羽織る。

「ドレイク、これからどうするの?」

「別にこのまま逃げ出しても良いんだが……」

 そう言って何やら考え込むドレイク。

「どうしたの?」

「いや、この村の連中…恐らく村ぐるみで追いはぎみたいなことやってるんだよな……」

「追いはぎみたいなこと…」

 納得するフリルフレア。どうやら村長たちは金や荷物を盗み、さらに自分を奴隷商人に売ろうとしたのだと気が付いた。

「それって犯罪だよね……どうするの?冒険者ギルドに連絡する?」

「そんな事してたら逃げられちまうだろ」

 ドレイクの言葉に一抹の不安を感じるフリルフレア。

「え?……逃げられるって……じゃあ、どうするつもり?」

「ここは……全員叩きのめした方が良いんじゃないか?」

「全員⁉」

 驚きの声を上げるフリルフレア。いくら小さな村でも村人は総勢100人はいるだろう。その中で戦える人間がどれくらいいると思っているのか。

 そんなことを考えていると、バタバタと足音が2つ近づいてきた。

「おいモーリス、大変だ!あの赤いリザードマンの所に向かわせた6人が返り討ちに…」

 そう言って入り口の奥からセットンとバルカスが顔を出した。

「お、お前達!」

 驚きの声を上げるセットン。そしてその後ろからバルカスがすごい形相で睨んでいる。

「おのれリザードマン……よくもわしの村の若者たちを…」

 睨みつけてくるバルカスとセットン。思わずドレイクの後ろに隠れるフリルフレアと、ため息をつくドレイク。

「あいつら手ごたえが無さ過ぎたぜ?次は何だ?お前らが相手になってくれるのか?なあ、バルタンにゼットンよ」

「ミィィィ。ドレイク、それだと光の巨人と戦う悪の怪獣や宇宙人になっちゃうよ。バルカスさんとセットンさんだからね」

「え?そうだったっけ?………まあ、どっちでも良いだろう!」

 そう言うとドレイクは前に出ながら指の関節をボキボキと鳴らした。


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