第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第11話、第七の悪夢・灼熱の島 その4
第11話その4
一刀両断され、黒い粒子状になって消えていくフロアイミテーターを眼の端で確認しながらドレイクは大剣を背中の鞘に収め、フリルフレアの元へと歩いて行った。
「大丈夫か?」
「あ、うん…ありがと」
差し伸べられたドレイクの手を掴み立ち上がるフリルフレア。左手ではまだ幼女を抱きしめたままだったが、ドレイクの手を右手で掴んだ瞬間肩に痛みが走り思わず顔をしかめる。右肩にはフロアイミテーターの牙で抉られた傷ができていたのだ。今までは幼女の事ばかり気にかかって忘れていたが、実際にはかなりの激痛を感じる。
「お前、その傷…」
「うん、さっきフロアイミテーターにやられたみたい」
フリルフレアは抱きしめていた幼女を下ろすと右肩を押えた。正直傷口は痛みと同時に熱さも感じる。
まだ肩を震わせ泣いている幼女を見ながらフリルフレアは顔を歪めながらも精神を集中させた。
「『ヒーリングフレイム』」
フリルフレアの翼から輝く炎が溢れ出すと、彼女の身体を包み込んで優しく燃え上がった。そしてそれと同時に肩の痛みが和らぎ、消え去っていく。
「ふう……」
肩の治療を完了させ一息つくフリルフレア。服が血で汚れているが、この際それは気にしないことにした。そしてフリルフレアは泣き続けている幼女に視線を合わせるようにしゃがんで向かい合うと、彼女の頭を優しく撫でた。
「大丈夫?怖かったよね。でももう安心して?さっきの怖い奴はこのおじちゃんがやっつけてくれたから」
「おじちゃんて……お前、せめてお兄さんにしろよ」
自分を指差してくるフリルフレアにジト目で抗議するドレイク。だがフリルフレアは当然そんなことは耳にも入っていない。そしてフリルフレアの言葉に少し安心したのか幼女は泣き止むと、不思議そうにフリルフレアを見上げた。そして次にフリルフレアが指さすドレイクの方へと視線を向ける。ドレイクと視線が合った瞬間ビクッとした幼女だったが、そのままドレイクを見上げてポカンとしていた。
「おいチビッ子。おじちゃんじゃないぞ、お兄さんだからな」
そう言って親指でビシッと自分を指差して決めて見せるドレイク。フリルフレアが苦笑いしながら「そここだわるんだ…」と呆れているが、おじちゃんとお兄さんでは全然違うのだ。ドレイク的にも自分の年齢が分からないとはいえ、中年か青年かと言われたら当然青年でありたいと思う。それに相棒からおじちゃん扱いされるというのは正直嫌だった。
「ふ…ふえ………」
その時幼女が少し声を上げた。二人して幼女の顔を覗き込むと、その瞳に再び涙がたまってきている。そしてそのまま涙がポロポロとこぼれ出した。
「ふわああああああん!こ、怖いよー!」
「「怖い⁉」」
突然声をあげて泣き叫び始めた幼女に困惑するドレイクとフリルフレア。彼女の言う「怖い」が一体何を示しているのか分からなかったのだ。
(怖い物って言っても……もう魔物はいないのに…)
おろおろしながらもフリルフレアは幼女を抱きしめて頭を撫でてやった。それでも彼女の言う怖いものが何なのか分からず、周りをキョロキョロと見まわす。しかし、残念ながらこの場にいるのはフリルフレアと幼女、あとはドレイクだけだ。ドレイクが幼女の機嫌を取ろうとしているのか顔を近づけて「ベロベロバ~!」とか「顔芸!どうもドラゴンです」とかやってるのが若干怖い気がしなくもなかったが………。
(…………ん?)
ここでふと気になることがあったフリルフレア。自分の腕の中でピーピー泣いている幼女をよく見てみると、必死に顔を背けてフリルフレアの胸に顔をうずめている。もっともうずめられるほど胸はないのだが……。
………話を戻そう。とにかく幼女は何かから必死に顔を背けているのだ。そしてその方向にあるものと言えば………。
「どうだ!よく見てみろよ、このローストチキンも骨ごと嚙み砕く強靭な歯を!」
「ふええええええん!いやあ!トカゲのお化け!やだあ!」
何やらよくわからない自慢をしながら自分の牙を見せつけているドレイクと、そのドレイクから必死に顔をそらしている幼女。よほど怖いのかその小さな身体がブルブル震えている。これはどう考えても………。
「おのれかぁ!」
スカーーン!
フリルフレアが投げつけた鞘に収めたままの短剣が回転しながらきれいな放物線を描いてドレイクの顔面を直撃する。もっとも、短剣が顔面にぶつかってもドレイクは相変わらずケロッとしているのだが…。
「いや、何すんだよいきなり」
落ちた短剣を拾い上げてフリルフレアに返しながらも文句はちゃんと言うドレイク。しかしフリルフレアは目を吊り上げてドレイクを睨んでいた。
「聞いててわかんないの⁉ドレイクの顔が怖いからこの子が怯えちゃってるんじゃない!」
「ええ⁉何だよそりゃ!」
「何だも何もないの!いいからドレイクはどっか行ってて!」
「いや、そんなこと言われても……」
「良いからどっか行け!」
ガスッ!
フリルフレアの問答無用の蹴りがドレイクの脛を直撃する。もっとも毎度のごとくドレイクにダメージはないのだが…。それでもドレイクは再度抗議しようとしたが「いい加減にしろ」と言いたげなフリルフレアの観光の前にシュンとなりおとなしくその場から離れていった。
フリルフレアはドレイクがかなり離れたのを確認しると、幼女の頭を撫でながら語りかけた。
「もう怖いトカゲのお化けは向こうに行っちゃったよ?」
「ふえ……ほ、ほんと……?」
「うん、だからもう怖くないよ」
フリルフレアの言葉に安心したのか、とりあえず泣き止んだ幼女。そのまま恐る恐る周りを見回すが、ドレイクの姿が見えないのを確認してホッと息をついた。
フリルフレアは改めてしゃがんで幼女に視線を合わせると、その肩にやさしく触れた。
「えっと…私はね、フリルフレアって言うの。冒険者なんだよ」
「……フリル…フレア…お姉ちゃん?」
「そう、フリルフレアお姉ちゃん。あなたのお名前を教えてくれる?」
優しく問いかけるフリルフレアに対し、幼女は少し考え込んでいたが、すぐに口を開いた。
「…リップのお名前は……リップだよ」
「リップちゃん、可愛いお名前だね♡」
フリルフレアがそう言ってリップの頭を撫でてあげると、彼女は嬉しそうに「えへへ」と微笑んだ。どうやら可愛い名前と言われたのがうれしかったようだ。
「リップちゃんは何処から来たの?一人だったの?」
「んとね…あのね……パパとママがいなくなっちゃったの。それでね……お兄ちゃんと一緒にいたの。後おじいちゃん達とお姉ちゃんといたの」
「そうなんだね」
察するに、両親がいなくなったというのは悪夢に引き込まれたということだろうか?それにどうやら兄がいるみたいだが、おじいちゃん達というのとお姉ちゃんというのも気にかかる。だが、恐らくは5~6歳くらいであろうリップからはこれ以上正確な情報は得られないだろう。どうしたものかと考え込むフリルフレアの耳に、その叫びは突然聞こえた来た。
「チックショー!放しやがれ!この蜥蜴野郎!」
どう考えてもドレイクが何かやらかしたような、そんな叫びだった。




