第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第11話、第七の悪夢・灼熱の島 その2
第11話その2
ドレイクとフリルフレアは海岸沿いを歩いていた。
あの後、まずここがどういう場所なのかを確認するべきだと考えたドレイク。ひとまず溶岩の海がない場所まで行ければこの暑さともおさらばできるのではないかと考え、海の方を見ながら海岸沿いを移動していたのだ。だが、残念ながらいくら歩いても溶岩の海が途切れるところは見つからなかった。それどころか………。
「ん?あれ……おいフリルフレア、何かここ見覚えないか?」
「え?………そういえば…」
キョロキョロと周りを見回しながらそう言うフリルフレア。この場所は明らかにドレイクとフリルフレアがこの悪夢に降り立った時にいた場所に似ている。体感時間で3時間ほどは歩いたはずなのだが……。ドレイクは嫌な予感がした。
「………ここ…最初にいた場所じゃねえか?」
「………ちょっと待っててドレイク」
フリルフレアはそう言うと、そのまま翼を羽ばたかせて空へと舞いあがった。急速に高度を上げていくフリルフレア。下を確認すれば、ドレイクがしっかりと上を見ていた。
…………いや、上を見ているというよりもこれは……。
「ちょ、ちょっとドレイク!上見ないでよ!」
「なんでだよー!」
スカートを押えながらはるか上空から眼下のドレイクに向かって叫ぶフリルフレアと、それに対して上空のフリルフレアに向かって叫ぶドレイク。ドレイクはどこか不満そうだ。
「何でも何も……スカートの中見えちゃうじゃない!」
「馬鹿野郎!何言ってんだ!」
フリルフレアの言葉に少し怒った様子で怒鳴り返すドレイク。その様子にフリルフレアは少し自分の軽率な言葉を反省した。
(そうよね。ドレイクだって危険が無いかと私の事心配して見ててくれたんだもんね。変に疑っちゃった)
心の中で「いけないいけない」とテヘペロするフリルフレア。そんなフリルフレアの様子をドレイクはほぼ真下からガン見している。
「こっちはわざわざ真下まで移動して覗き込んでんだぞ!スカート押えて隠すんじゃねえ!」
「ちょっとは悪びれろ!このドスケベ!」
ドレイクの堂々と覗き込んでる発言に、さすがのフリルフレアも怒鳴り返す。てっきり自分の事を心配してくれているのだと思っていたらとんでもないドスケベだった。そして怒りの感情そのままに腰に差してあるナイフを引き抜くとドレイクに向かって投げつけた。
カツーーン!
飛んでいったナイフがドレイクの顔面に直撃するが、思ったよりも軽い音を立ててあっさりと弾かれる。どうやらドレイクのミスリル並みに硬い鱗の前ではフリルフレアの投げたナイフなどでは傷一つ付けられないらしい。
「チッ!」
思わず舌打ちするフリルフレア。それに対してドレイクは下から文句を言い出す。
「何すんだよ!危ねえじゃんか!」
「防御もしないで鱗だけで弾いたくせによく言うわね…」
なにやらいけしゃあしゃあとほざくドレイクにあきれるフリルフレア。もう相手にするのも馬鹿らしくなってきたので、ドレイクなど放っておいてさらに高度を上げる。もちろんスカートはちゃんと押さえたままだ。そしてそのまま自分たちの居た場所を確認し、そして周囲に視線を送った。
「!………これって!」
眼下の光景を確認したフリルフレアは急いでドレイクの元へと降り立った。
「あのなあフリルフレア。いくら俺の鱗が頑丈だからって、もしナイフが眼にでも刺さったらどうすんだよ。いくら俺だって眼球は………」
「そんなことよりドレイク」
「そんなこと⁉いやちょっと待てフリルフレア。お前そもそも最近ちょっと暴力的っていうかだな………」
「だからそんなことどうでもいいでしょ!それよりドレイク!ここ島だよ!」
「いや、どうでもいいってそんな……………って、島⁉」
「うん、上から確認したから間違いないよ。ここ小さな島だったんだよ。さっきも、3時間くらいかけて島の周りをぐるっと一周しただけだったみたい」
「まじかよ…」
この悪夢に来た時突然海岸に出たのでおかしいとは思っていたドレイク。どうにか暑さのしのげる場所を探して海岸沿いを歩いていたのだが、ここが島でその島の周りを溶岩の海が囲っているのだとすれば話は別だ。つまりはこのすさまじい熱気の、ある意味灼熱の島ともいえる場所からは脱出不可能だというわけだ。むしろ島の中心に向かった方が溶岩の海からは遠ざかる分いくらかましにはなるだろう。それでも根本的な解決にはならない。これはそういう悪夢なのだろう。実際熱気以外にも感じたことがいくつかあった。
「ねえドレイク」
「どうした?」
「なんかさっきから………喉が渇かない?」
「お前もか……実は俺もさっきから喉がカラカラだ」
おかしな話だった。今までの悪夢では喉の渇きや空腹感など一切感じなかった。だがこの悪夢に入ってからは、空腹感は感じないが喉の渇きは感じるようになっていた。と言うことは…………。
(この暑さと喉の渇きもあわせての悪夢ってことか……)
いやな感じだ。この悪夢を作った奴の性格の悪さがうかがえる。もっとも、どうせ悪夢を作ったのはナイトメアなので、そもそもナイトメアに性格の良い奴なんているのか?という話ではあるのだが……。
「あれ?でもまてよ……」
「どうしたのドレイク?」
「いや、喉が渇いたならあの水飲めばいいんじゃねえか?」
ドレイクはそう言って島の周りを囲う海の水を指差した。確かに海の水とは言ったがこの水は塩水ではない。それに溶岩の海に囲まれている割には水自体は冷たかった。ならば喉が渇いたならばその水を飲めばいいだけではないのか?
「…?どういうこと?」
「いや、つまりよ……ここは悪夢なんだから当然この状況は悪夢野郎が作ったんだろ?当然この暑さも渇きも奴らの仕業のはずだ。それにしちゃただの水が用意されてるなんざ都合が良すぎねえか?」
「あ……なるほど…」
思わず考え込むフリルフレア。ドレイクの言う通り、この暑さや喉の渇きのなか水が用意されているのは不自然だ。ナイトメアが作った悪夢にしては優しすぎる。これならば、海の水は本当に海水でしょっぱくて飲めない程の方がよっぽど悪夢らしい。
「……………?」
顎に人差し指を当てて考え込んでいたフリルフレアだったが、ふととあることに気が付いた。もしかしたら………。
「逆に……飲ませたいのかな?」
「飲ませたい?何をだ?」
「だから水。正確に言うとそこの海水」
そう言ってフリルフレアは海の方を指差した。単純に考えれば、暑くて喉が渇いたところに水があれば飲むだろう。そしてその水が海水ではなくただの水だったならば飲むのは当然だ。そしてそうさせることがナイトメアの目的だとするならば………。
ドレイクが「水を飲ませたい?何だそりゃ?」等と言いながら海に近寄っていく。
「ちょっと待ってドレイク」
「どうした?」
「もしかしたらこの水……ただの水じゃないかもしれない。調べてみる」
フリルフレアはドレイクを追い抜いて海に駆け寄ると、海に手の平をかざして精神を集中させた。海の水に宿る精霊を調べてこの水がどういうものであるか調べているのだ。
(もっとも、悪夢の中だからちゃんと精霊がいるかどうかは分からないけど……)
それでも今は他に水の状態を調べる方法はない。フリルフレアは慎重に水の中から精霊の痕跡を探した。
(………いた!……でも、これって…!)
水の精霊を見つけ、水の状態を確認したフリルフレアは、その水がどういったものであるかを確認し、思わず歯ぎしりした。
「どうだ?」
「……ひどい……」
「ひどい?」
フリルフレアの呟きの意味が分からず聞き返すドレイク。そしてフリルフレアは怒ったような、それでいてどこか悲しそうな、そんな表情でドレイクを見上げていた。
「この水……毒が入ってるよ…。それもかなり酷い毒が……」
「酷い毒?」
「うん……。無味無臭の毒だけど、この毒入りの水を飲むと余計喉が渇くみたい。少量の摂取ならそれだけで済むけど……大量に摂取すると、どんどん喉が渇いていって、さらに呼吸困難を引き起こすみたい。そして最終的には苦しみぬいて死に至る………そういう毒が入ってる…」
ナイトメアが作り出した毒の水の残酷さに、フリルフレアの瞳に思わず涙がにじむ。この毒は非常に残酷だ。暑さと渇きで喉が渇いたところに、ただの水と思われる毒の水が用意されているのだ。そしてその水を飲むと余計喉が渇きさらに毒の水を飲むことになる。それによりさらに喉が渇きさらに毒の水を飲むことになるのだ。そしてしまいには毒が全身に回り、呼吸もままならない状態で異常な喉の渇きを感じながら恐怖と絶望を感じて死に至る。
これは渇きという人間の根本的欲求に付け込んだ非常に卑怯で残酷な人間の殺し方だ。しかも悪夢王カッドイーホ復活のための恐怖と絶望を集めながら殺すというナイトメアらしい陰湿なやり方だった。
「うげ……俺さっき少し飲んじまったぞ…」
ドレイクは水を吐き出そうとしているが、どうやら胃から出てくる様子はなかった。
そしてフリルフレアは、この悪夢に捕らえられて人間達がすでに数多く犠牲になっているであろうことを感じ取り、涙をにじませながら拳を握りしめていた。
「こんなやり方……許せない……!」




