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第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第1話、とある村の出来事 その4

     第1話その4


「ミィィィ、お腹いっぱい…」

 そう呟いてフリルフレアはベッドに倒れ込んだ。結局止まるところを知らないドレイクの食欲により料理の大半がドレイクの胃袋の中に収められてしまったのだが、それでもバルカスとセットンに勧められてフリルフレアもお腹いっぱいになるまで食事をさせてもらった。

 正直あまりに遠慮というものをしないドレイクに恥ずかしさを感じ顔から火を噴きそうだったし、料理の味もほとんど分からなかったが、それでも満腹になるまで食事ができるというのは幸せだった。

 ドレイクが食べすぎたせいでバルカスとセットンが何も食べていなかったような気がするし、正直ドレイクのあまりの食欲に二人が青い顔をしていた気がしたがそれでも心の中で二人に感謝を述べる。

(バルカスさん、セットンさん……お料理ご馳走様でした…)

 そんなことを考えているとそろそろ眠気を催してくる。

「ふわ~~~ぁ」

 思わず大きな口を開けて欠伸をしてしまう。先ほど食事を終えて食堂を出た時のドレイクも大きな欠伸をしていたのを思い出す。

(きっとドレイクも満腹で眠くなったのね)

 そう思いながら再び「ふわ~~~ぁ」と欠伸をしてしまうフリルフレア。強烈な眠気を感じながら、(きっと…ドレイクも今頃…藁にくるまって…寝てるよね……)と頭の中で考える。そうしている間にも睡魔はどんどん押し寄せてきた。

 眠気のあまり、寝る前に着替えた方がいいという考えにさえ及ばず布団を被るフリルフレア。数秒後には彼女から静かな寝息が聞こえてきた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 フリルフレアが寝息を立て始めてからどれ程の時間が経っただろうか。フリルフレアの部屋の扉がわずかな音を立ててゆっくりと開かれる。扉を開けた人影は3つ。その人影達はゆっくりと忍び足でフリルフレアが寝ているベッドに近づいて行った。

 暗がりでよくは分からないが人影達はその手に何かを持っている様子だった。そして人影の一人がフリルフレアの顔を覗き込む。開かれた扉から差し込む光に照らし出されてフリルフレアは幸せそうに寝息を立てていた。

「ククク、睡眠薬が良く効いているみたいだな」

 そう言ってニヤリと笑う人影の顔が扉から入る光に照らし出される。それは村長の息子のセットンだった。その手にはロープが握られている。

「当然ですよ。俺が作った特製の睡眠薬ですからね」

 次いで、そう言った人影も照らし出される。その男はドレイク達を村に入れたモーリスだった。その手には布切れや手拭いが握られている。

「とにかく、この娘を早く監禁してしまえ。この美しい翼の持ち主ならば高く売れるじゃろう」

「分かってるぜ親父」

「任せてください村長」

 最後の一人も光に照らされ映し出される。そこにいたのは村長のバルカスだった。腕を組み、嫌らしい笑みを浮かべながらフリルフレアを見下ろしている。

「この娘、奴隷商人に売ったらいくらになるかな?」

「さあな。じゃが、この美しい翼ならば引く手数多じゃろう。奴らに差し出すなどもったいない。見世物小屋でも愛玩奴隷でも高値で売れるのは確実じゃからな」

「くくく、確かにな」

 バルカスの言葉に、笑いが堪えられないといった様子のセットン。だが、そこでモーリスが不安の声を上げる。

「でも、大丈夫なんですか?こんな小娘でも一応冒険者なんでしょう?今は薬で眠らせているけど、もし暴れ出したら……」

 モーリスの言葉をセットンは鼻で笑い飛ばす。

「心配するな。この小娘見たところ魔法職だし、装備から察するに恐らく精霊使いだろう。精霊魔法さえ使わせなければなんてことない」

「そ、そうなんですか?」

 モーリスの言葉にセットンは右腕に力こぶを作る。

「安心しろ、そもそもこの小娘はたかだかランク2。あのリザードマンも戦士だろうがランクは2だ。元冒険者でランク5まで行った俺の敵じゃない」

「フォッフォッフォ。そう言う事じゃモーリス、何も心配するでない」

「は、はい。村長がそうおっしゃるのでしたら……」

 セットンとバルカスの言葉にホッとするモーリス。しかし再び疑問を口にした。

「あ、でも…もし魔法を使われたら…」

「それも心配するなモーリス。精霊使いなんてのは、精霊と会話さえさせなければただの木偶の坊だ」

「せ、精霊と会話…?」

 どういうことか分からないといった様子のモーリスに、セットンは肩をすくめる。

「要は口を塞いどきゃ何の問題も無いってことさ。まあ、これは魔法職全般に言えることだけどな」

「な、なるほど」

 モーリスが納得したのを確認すると、バルカスはフリルフレアの頬に触れた。

「フォッフォッフォ。よく寝ておるわい」

「う、う~ん……」

 バルカスに触れられた拍子に寝返りを打つフリルフレア。そしてそのままうっすらと眼を開く。

「ふえ…?………ん~……?」

 フリルフレアの薄く開かれた瞳にぼんやりとした人影が映る。しかし寝ぼけているせいかそれを人影と認識していないフリルフレアは眠そうに目を擦った。そして再び開かれた瞳の先がバルカスの視線とぶつかり合う。

「……………え?」

 何度も瞬きをするフリルフレア。目をパチクリさせても目の前の光景は変わらない。視線の先には冷ややかな目で自分を見下ろすバルカス村長の姿。

「え?……え…?」

 状況が理解できない。自分を見下ろす村長。その両サイドに村長の息子のセットンと、この村で最初に出会ったモーリスと言う男。

 なぜ彼らが自分を見下ろしているのか?全く理解できずにフリルフレアの頭にはいくつもの?マークが浮かんでいた。

「えっと…………あの…?」

 フリルフレアがそう呟いた瞬間だった。

「何をしておる!早く縛ってしまえ!」

「任せろ!」

「わ、分かりました!」

 村長バルカスの言葉にセットンとモーリスが答える。そしてそのままフリルフレアの身体を二人掛かりで押さえつけてくる。

「え⁉ちょ、ちょっと…何するんですか⁉」

「モーリス!先に黙らせろ!」

「分かりました!大人しくしろ!」

「やだ!や、やめて……むぐぅ!」

 叫ぼうとしたフリルフレアの口をモーリスが押さえつける。中年男性特有の大きくてゴツゴツした掌が、フリルフレアの口と鼻を完全に覆い、声を完全に遮断していた。

「ふっ……むっ……んん!」

 何とか手を剥がそうと首を振ろうとするが、モーリスに頭ごと押さえつけられているので全く動きそうもない。

 ならば手を使って剥がそうとモーリスの大きな手にフリルフレアの小さな手をかけるて引っ張るが、ビクともしない。そうしている間にフリルフレアの両手首がセットンに捕まれてしまう。

「んん!……ふぅ……むっ!」

 何とか声を上げようとするが、呻き声すらまともに出せない。そうしている間にフリルフレアはセットンにより無理矢理上体を起こされそのまま両腕を後ろ手に捻り上げられてしまう。

「うむぅ!……んん!」

 腕を捻り上げられた痛みで思わず悲鳴を上げそうになったが、口から出たのは意味のない呻き声だけだった。そして、そうしている間にセットンは慣れた手つきでフリルフレアの両腕を持っていたロープで縛り上げてしまう。

 抵抗しようと足をバタバタとさせるフリルフレア。しかし、今度は無理矢理うつ伏せにされるとそのままあっけなく両脚も縛られてしまった。

「ふー……んん……ふぅ!」

 口を塞ぐモーリスの手に力が込められる。あまりの圧迫感に息が詰まる。モーリスの手はフリルフレアの口と鼻を塞いでいるので呼吸がまともにできない状態だった。

(何⁉何なのこれ⁉…どういうこと⁉)

 頭の中がパニックに陥る。なぜバルカスたちが自分を拘束するのか?(さっきまであんなに優しかったのに!)そう思うと涙が溢れてくる。何か彼らの気に障ることでもしてしまったのかとも考えたが、その程度の事でこんな仕打ちをされるとも考えづらかった。

「おいモーリス。薬の効きが悪かったんじゃないか?」

「すみません村長。どうやらこの娘、あまり酒やジュースを飲まなかったみたいです」

 バルカスの言葉に申し訳なさそうに答えるモーリス。

(薬⁉一体どういうこと⁉)

 理解できないといった風なフリルフレア。セットンがさらに厳重に縄をかけてフリルフレアの身体を縛り上げていく中、それでも何とか脱出しようともがき続ける。

「ふ……むっ……むぅ」

 もがき続けても縄は一向に緩まず、むしろ食い込んでいくばかりだった。それにフリルフレアの口を塞ぐモーリスの手も一向に剥がれない。

(どうしよう……何とかドレイクに…ドレイクに知らせないと……)

 こういった目に合うのもこれで3度目だろうか?以前よりは若干冷静に事態に対処できるようになったフリルフレアだったが、それでもまだ自力で逃げだすのは無理な様だった。

 そして、そうこうしている間にやっとモーリスの手がフリルフレアの口から離れる。

「ぷはっ!…ハァハァ……ド、ドレイ…うぐ!」

 しかし解放されたのもつかの間、すぐにフリルフレアの口に布切れが詰め込まれる。フリルフレアの小さな口の中に容赦なく布を詰め込んでいくセットン。すぐに口の中が布でいっぱいになる。そしてそれを吐き出させない様にフリルフレアの鼻から口までを覆う様に手拭いで猿轡をした。

「むぅ!……うう…むぅん!」

 ここまで厳重に拘束されてしまってはもうフリルフレアには何もできる事は無かった。

(うそ……また私……捕まっちゃうの…?)

 自分の無力さに思わず涙がこぼれだす。同じ状況に陥っても、ドレイクならば欠伸をしながら切り抜けるだろう。ドレイクどころか、何度か共に仕事をしたローゼリットやスミーシャでもあっさりと状況を打破するはずだ。

 それでも自分はすぐに悪人の手に落ちてしまう。捕まってしまった恐怖と、自分の無力さに対する絶望からフリルフレアは涙するしかなかった。

 それでもやはり、こんな時に思い浮かべる顔は一つだった。いつもいつも頼ってしまうが、それでも閉じた瞼の裏に浮かぶ顔、それは赤燐を持つリザードマンである相棒。

(私……また捕まっちゃった……助けてよ、ドレイク…)

 フリルフレアの瞳から涙がこぼれる。その涙を見ながらバルカスたちはその口元を歪めて笑っていた。


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