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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第8話、第四の悪夢・吹雪の宿 その5

     第8話その5


「これは⁉」

「うそ、マスターさん⁉」

 駆け付けたドレイクとフリルフレアが見たもの、それは厨房の床に倒れ込んでピクリとも動かない宿の主人の姿だった。指一本動かさず、それどころか胸も上下していない。呼吸が止まっている事が見ただけで分かった。

 ドレイクは倒れている主人の傍らにしゃがみ込むと念のため首筋の脈に触れる。

「⁉………冷たい?」

 思わず自分の手を見つめるドレイク。正直目の前で起きている事がにわかに信じがたい。

「どうしたのドレイク?」

「この死体…………凍っている」

 ドレイクは動かない主人の身体を少し強めにコツコツと叩く。その音は明らかに硬い物を叩いている音だった。

「どういうことだ?魔法で死体を凍らせたのか?」

「いくら魔法でもそんなに一瞬で凍らないよ。私達が悲鳴を聞いてからここに来るまで一分もかかってないんだよ?」

「それもそうだな……なら凍らせて殺した?」

 そう言いつつもドレイクは首をひねる。そう結論付けるにはどこか違和感を感じた。しかしその違和感の正体もフリルフレアの言葉で明らかになる。

「それも難しいんじゃないかな。氷の魔法で凍らせて殺したんなら周りだって凍ってるんじゃない?でも、厨房の中はキレイだよ?」

「確かにそうだな……」

 ドレイクは改めて厨房の中を見回す。厨房の中など入ったことは無いが、ごく一般的な形の厨房だと思われる。キレイに整頓されており、調理台の上には何も置いてない。裏口らしき扉があり、その横には換気用の窓が付いていた。

 ドレイクはふと気になって裏口の扉に近づいた。そしてそのままガチャガチャとノブを動かすが、鍵が掛かっているのか扉は開かなかった。次に横の窓を開けてみるが、窓は外側に格子が付いていた。それを見たドレイクは振り返ってフリルフレアを見た。フリルフレアは不安そうに厨房の中を見回している。

「なあフリルフレア……」

「え、何ドレイク?」

「これってよ………このマスター殺した奴って……どこ行ったんだ?」

「え………?」

 ドレイクの言葉の意味が一瞬理解できなかったフリルフレア。だが、ドレイクの言っている事の意味を理解した瞬間背筋がゾクッとした。

「マスターの悲鳴が聞こえてから俺達がここに来るまで誰にも会ってない。なのに裏口の扉は鍵が掛かってるし窓は出入りできない」

「それってつまり………犯人は…お化け……」

 顔を青くしながらそう呟くフリルフレア。しかしそんなフリルフレアをドレイクはジト目で見ている。

「何だよお化けって……。もっと現実的に考えろよ、まあここは現実じゃなくて悪夢の中だけどな」

「悪夢の中ならお化けがいる可能性だって……」

「どんだけお化けに会いたいんだお前は…、んな事より高レベルの魔導士が犯人って考える方が妥当だろ」

 ドレイクの言葉にキョトンとするフリルフレア。

「そ、そっか……、高レベルの魔導士なら対象だけを凍らせたり瞬間的に転移してここから脱出できるかもしれない!」

「そう言うことだ」

 若干呆れながら肩をすくめるドレイク。その時、厨房の入り口が騒がしくなった。見れば目を覚ましたノイセルが美女3人を引き連れて厨房の入り口に立っている。

「こ、これは……アーキットさん!しっかりなさってください!」

 ノイセルの言葉から察するに、宿の主人はアーキットという名前なのだろう。そしてノイセルはアーキットの死体に駆け寄ると両肩を掴んで揺さぶろうとした。しかし死体に触れた瞬間急いで手を引っ込める。そしてその後恐る恐るアーキットの死体を指先でつついていた。

「こ、これは……死んでいる………凍って死んでいる!」

 ノイセルの言葉に美女3人が「キャーーーー!」と悲鳴を上げている。

「あなた方!あなた方がアーキットさんを殺したのでございますか⁉」

「ちげーよ。俺達が来た時にはもう死んでた」

 ドレイクの言葉にウンウン頷くフリルフレア。しかしノイセルはドレイクの方に疑いの眼差しを向けている。

「本当でございますか?言っておきますが、わたくしに嘘は通用しませんよ?」

 ノイセルがそう言った瞬間、美女3人が動く。まず茶髪ショートの美女がノイセルの右腕に抱き付きながら叫ぶ。

「何故なら!」

 次に金髪ロングの美女がノイセルの左手を取り自らの胸に埋める様に抱きしめる。

「ノイセル様は!」

 そして最後に白髪オカッパ美女が後ろからノイセルに抱き付いた。

「名探偵だからですぅ!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 3人の美女の叫びの後に若干の沈黙が辺りを支配する。

(………なんなんだコイツ等?)

 急にアホらしくなってきたドレイク。付き合ってられんとばかりに厨房を出ようとしたドレイクだったが、フリルフレアに服の袖を引っ張られて引き止められた。

「ねえねえドレイク、ノイセルさんって戦神ハルバス様に仕えてるんだよね?」

「ああ、確かそう言ってたな」

「ハルバス様ってああいう女の子を侍らすのってお許しになってるのかな?」

「いや、どうでも良いだろそれ……」

 フリルフレアの疑問が本気でどうでも良い事だったので思わず全身の力が抜けそうになるドレイク。記憶が上書きされている人間に対して宗教の教義についてどうこう言ったところで始まらないだろう。そう思いながらドレイクがノイセルの方を見ると、彼はアーキットの死体を何やら調べていた。

「ねえドレイク、これからどうするの?」

 フリルフレアが再度ドレイクの服の袖を引っ張る。どうやら先程の疑問はドレイクに流されたため答えを出すのを諦めたらしい。

「ま、探偵が居るんだから任せときゃいいんじゃねえの?」

「でもノイセルさん、本当は探偵じゃ……」

「その辺は本人がどうにかするだろ」

 ドレイクはそう言うとそのまま厨房を後にした。フリルフレアがその後に続く。

「お二方とも、泊まっている部屋に戻ったらそのまま部屋から出ないでくださいませ。いつ犯人と遭遇するか分からないでございますので。あと内側から鍵をかけるのをお忘れなきようお願いいたします」

「はいよ」

「わ、分かりました」

 ノイセルの言葉に頷くドレイクとフリルフレア。二人は仕方なくノイセルに言われた通り部屋に戻って内側から鍵をかけたのだった。


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