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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第7話、第三の悪夢・孫娘と祖母 その8

     第7話その8


「脇腹の傷、痛みますか?」

「ん?……大したことねえよ」

 雨の中歩きながらフリルフレアの問いにドレイクはそう答えた。ブルーフォレストに斬られた脇腹の傷からはまだ血が滲んでいるが、とりあえず止血して応急処置はしておいた。多少痛むがまあ、行動に支障は出ないだろう。最も普段ならばこの程度の傷はフリルフレアの回復魔法で一発で治るのだが……。

「うちに来れば薬もあると思うので、ちゃんと治療しましょう」

 そう言ってニッコリ微笑むフリルフレア。もっともフリルフレアの言う薬というのは彼女自身が薬草を摘んできて自分で作っておいた薬だろう。恐らくは生活費にするために売っている薬のあまりだと思われる。

 ドレイクとフリルフレアはそのままフリルフレアの家……正確に言えばジェニファーの家を目指して歩いていた。

 そしてそのまましばらく歩き続けたドレイクとフリルフレアはジェニファーの家に到着していた。そしてドレイクとフリルフレアが家に到着したまさにその瞬間だった。

「ふ、ふざけるな!何が『絶世の美女がお相手する』だ!お前みたいな薄汚い婆なんか金を積まれたって抱けるか!このモンスターババア!」

 そんな叫び声が聞こえたかと思うと、一人の男がジェニファーの家から出てきた。男は顔を真っ青にしながらおぞましい物でも見るような視線をジェニファーの家の方に送っている。そして家の入り口には醜い厚化粧で何やら嫌らしい笑みを浮かべたジェニファーが男に向かって顔を覗かせていた。

「あら、何を言うの?せっかくこうしてあたしって言う絶世の美女が相手をしてあげるって言っているのに?」

「鏡を見やがれクソババア!」

 男はそう叫ぶと、1秒でもこの場にいたくないとばかりに全速力で走って逃げてしまった。男のその様子にジェニファーは不機嫌そうに鼻を鳴らしている。

「フン!全く見る目のない若造が!このあたしの相手をさせてもらえる栄誉に気が付きもしないなんて………何て愚かな男だい!」

 ジェニファーは何やら一人で憤慨している。その様子をドレイクとフリルフレアは少し離れた場所からポカンとしながら見ていた。この老婆は一体何をしているのか……?

 しかしこのままいつまでもポカンと見ている訳にも行かず、フリルフレアとドレイクはそのまま家に近づいていった。

「あ、あの…お婆様、今の方は一体………?」

「ああん?」

 恐る恐る声をかけるフリルフレア。それに対してならず者のような口調で応えながらフリルフレアの方を振り返ったジェニファーはフリルフレアの顔を見た瞬間杖を振り上げた。

「またお前かい!お前のせいで男が逃げちまったじゃないかい!」

「え……?あ、あのお婆様……今の方は別に私には気が付いていなかったような………」

「口答えするんじゃないよこのグズが!あと、お婆様じゃない!奥様と呼べと何べん言えば分かるんだいこの大馬鹿者が!」

 ジェニファーは顔を真っ赤にして癇癪を起しながらフリルフレアに向かって杖を振り下ろした。思わず頭を庇いながら身を固くするフリルフレア。しかし、その杖はフリルフレアに当たる直前で何者かによって受け止められていた。杖を掴んでいるのは赤い鱗に覆われた手だ…………そう、ドレイクである。ドレイクは少し乱暴にジェニファーから杖を取り上げるとその辺りに放り投げた。

「何一人で癇癪起こしてんだ婆さん。フリルフレアは何も悪い事してねえだろ」

 ジロリとジェニファーを睨み付けるドレイク。しかしそんなドレイクを見たジェニファーはギョッとして後退る。

「あ、赤いリザードマン⁉……フ、フリルフレア!一体何なんだいコイツは⁉…………ま、まさかあたしを殺そうと……」

「落ち着いてくださいお婆……奥様!この人はドレイクさんと言って森で襲われた私を助けてくれたんです!」

「お前を……助けたぁ?」

 フリルフレアの言葉に疑わし気な視線を返すジェニファー。そして胡散臭そうなものを見る様な眼でドレイクを見ている。

「そうです。私、薬草摘みをしていた時にブルーフォレストと名乗る騎士のような男に捕まって………」

「まさか、犯されたのかい⁉」

 ジェニファーがフリルフレアの両肩を掴む。その様子に………自分の事を心配してくれているであろうジェニファーの様子に、思わず涙が滲む。普段どれだけ厳しい事を言ってきたとしても、やはり心の中では心配してくれているのだと思うと胸が熱くなった。

「だ、大丈夫だと思います。ドレイクさんが助けてくれましたから。………おば…奥様、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」

 嬉しさで感極まったのか涙をこぼし、鼻を啜りながら深々と頭を下げるフリルフレア。それに対してジェニファーはフンッ!と鼻で笑うと、不機嫌そうにフリルフレアの顔を覗き込んだ。

「勘違いするんじゃないよフリルフレア。誰もお前の事なんか心配してないんだよ。ただ処女じゃないと商品価値が下がるってだけさね」

「え…………?商品価値……?」

 ジェニファーの言っている事の意味が分からずポカンとするフリルフレア。そんな察しの悪いフリルフレアにジェニファーはかなり苛立っていた。

「相変わらず鈍い娘だね。良いかい?貴族や金持ち連中の中には処女を抱けるならいくらでも金を出す奴らがごまんと居るのさ。だからお前みたいなグズの能無しでも処女ってだけで価値があるんだよ」

「え……処女?抱く……?それって………」

 思わず思考が停滞しそうになるフリルフレア。ジェニファーが言っていることは、つまりフリルフレアに金で男に抱かれろという事だ。身体を売れと言っているのだ。その事に気が付いた瞬間、フリルフレアの身体はガタガタと震えだしていた。ジェニファーは孫の自分に娼婦と同じ事をしろと言っているのだ。思わず、さっきまでとは違った意味での涙が込み上げてくる。

「お、奥様……私…男の人とそう言うのは……」

「お前の意見なんか聞いてないんだよフリルフレア!そうだ、明日から貴族や金持ち共に声をかけてみるかね。まあ、お前みたいなチンチクリンを抱きたがる酔狂な奴がいるかどうかは分からないが、まあ処女だといえば食い付く奴はいるはずさね」

「そ、そんな………」

 思わず震えながら拳を握りしめるフリルフレア。涙がポロポロとこぼれ落ちる。やはりジェニファーにとって自分など奴隷であり金儲けの道具でしかないのだろうか?自分の事を孫として認めてくれないのか?口惜しさと悲しさで胸が張り裂けそうだった。

「………おい、ちょっと良いか婆さん」

 その時、ずっと黙って様子を見守っていたドレイクが口を挟んだ。フリルフレアの頭をクシャクシャと撫でながらジェニファーを睨んでいる。

「さっきから聞いてりゃ俺の相棒を随分な扱いじゃねえか」

「あん?相棒?」

 ドレイクの言葉に胡散臭げに睨んでくるジェニファー。

「え?あ、あのドレイクさん……相棒って……?」

「いや、お前の事だぞ?」

 ドレイクは思わずフリルフレアのおでこを指先で突っつく。それに対し、突然相棒などと言われたフリルフレアはポカンとしながら目を白黒させている。

「わ、私がドレイクさんの……相棒?」

 突然の事に混乱しているフリルフレア。そんなフリルフレアを見てドレイクはため息をついた。

(ま、記憶が上書きされてるんじゃしょうがないか……)

 しかし、記憶が無いからと言ってフリルフレアをこのまま置いて行くわけにはいかない。それにこの傲慢な老婆の所にフリルフレアをおいておいたらどんな扱いを受けるか分かったものではなかった。だからドレイクは……強引にでもフリルフレアを連れていくことに決めた。


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