第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第1話、とある村の出来事 その1
第1話、とある村の出来事
第1話その1
「ドレイク、この仕事はどうかな?」
「んん?何々?…『推奨ランク5、精霊樹の枝の採取』……精霊樹って何だ?」
ドレイクが頭に?マークを浮かべる。何となく聞き覚えがあるような気がするが、明確なイメージがわかない。
「精霊樹って言うのは樹の精霊界に生えている木の事だよ」
「そんなもんどうやって取ってくるんだよ?」
「精霊使いってある程度実力が上がると、精霊にいろいろお願いできるようになるんだよね。まあ、人間界に召還するにはさらに実力を上げないとダメだけど」
「そうなのか……それで、お前はそれが出来るのか?」
「私?…ううん、出来ないけど?」
フリルフレアの言葉に思わずこけそうになるドレイク。
「お前にできないんだったら、一体誰がその枝を持ってくるよう精霊に頼むんだ?」
「あ、そっか」
フリルフレアのボケに頭を抱えるドレイク。その依頼書をフリルフレアの手から奪うと掲示板に戻してしまう。
「却下だ却下。他にないのかよ」
「じゃあ、こっちはどう?」
そう言うとフリルフレアは手に持った依頼書をドレイクに見せた。
「今度は何だ?……『推奨ランク4、村の周囲で起きた冒険者行方不明事件の調査』………お前、行方不明事件好きだな…」
「ミィィィ、行方不明事件好きってどういう事よ」
不満そうな声を上げるフリルフレア。しかしドレイクは額を押さえて首を横に振った。
「だってお前、マン・キメラ事件の時も散々行方不明事件の捜査やりたがってたじゃないか」「べ、別に行方不明事件が好きなんじゃなくって……その、捜査するって言うのがちょっと探偵っぽくてカッコいいかなって思っただけだよ」
「探偵ねぇ……」
ため息をつくドレイク。正直に言えば事件を颯爽と解決する様な探偵などは物語の中だけの存在だというのがドレイクの見解だ。
フリルフレアが何の物語に憧れたのかは知らないが、単なるミーハーなのは明白だった。
「これも却下」
「ええー、何で~?」
「何でもクソもあるか。こういう頭使う調査系の仕事は苦手だって言ってるだろ」
そう言って「ほら、別の仕事探すぞ」と依頼書を掲示板に戻すドレイク。フリルフレアがほっぺたを膨らませながら「むぅ~、ケチ~」と言ってむくれていたがとりあえず気にしないでおく。
「もうちょっとまともなの選べよ」
「別に変な依頼ってわけじゃないでしょ?」
「そうかもしれないが、もうちょっと俺たちに合った仕事をだな…」
「だって、ドレイクに合わせると討伐系の仕事ばっかりになっちゃうんだもん」
「む………」
図星をつかれ黙り込むドレイク。確かにドレイクが得意とするのは魔物の討伐系の仕事だったが、フリルフレアがそれを得意とするかと言えば答はNOだった。それにフリルフレアには彼女なりにある考えがあったのだ。
「じゃあ、どんな仕事が良いんだよ?」
「う~んとね、少しラングリアから離れる仕事はどうかなって…」
「ラングリアから離れる?」
フリルフレアの言葉に疑問の声を上げるドレイク。フリルフレアが町から離れたがっていたとは思わなかった。
「別の町に行きたいのか?」
「うん……あ、もちろん拠点はラングリアで良いんだけど…」
そう言って少し黙ったフリルフレア。一度目を閉じて、両手を握りしめた。
「ほら、私たちの目的って記憶の手掛かりを探すことじゃない?だから、そろそろいろんな町や村に行ってみて記憶の手掛かりでも見つけられないかなって……」
そう言って目を開けドレイクを見つめるフリルフレア。その言葉にドレイクは顎に手を当てて少し考え込んだ。確かにフリルフレアの言うことも尤もだ。いつまでもラングリアに居ても記憶の手掛かりが見つかるとは限らない。それならば他の町や村に行ってみるのも一つの手だった。
「それなら……何か運搬系の仕事を探してみるか」
「あ、確かに」
ドレイクの言葉に納得するフリルフレア。運搬系の仕事は探していなかった様だ。
二人はそろって掲示板に視線を移し、運搬系の仕事を探し始めた。運搬系の仕事は比較的低ランクでもかなり豊富にあり、二人はその中の一つに目を付けた。
「これなんて良さそうだな。『推奨ランク3、水晶球の運搬』」
「う~んと……隣町のアラセアからコルト山の山中にある神殿へ祭事に使う水晶の宝珠を運搬……報酬は一人1200ジェル。そうだね、良いんじゃない?」
ドレイクが手に取った依頼書にフリルフレアも賛同する。
「よし、じゃあこれに決定だな」
ドレイクとフリルフレアは依頼書を持って受付まで行き、その依頼書を差し出した。
「この仕事で頼む。ドレイク・ルフトとフリルフレア・アーキシャだ」
「ミィィ、よろしくお願いします」
「はいはい、こちらの依頼ですね」
そう言って依頼書を受け取る受付嬢。そのまま依頼書に目を通す。
「ふむふむ、アラセアからコルト山中の神殿まで、祭事に使う宝珠の運搬。まあ、推奨ランクが3なのでランク13の赤蜥蜴さんがいれば大丈夫でしょう」
受付嬢はそう言うと依頼書をドレイクに返した。
「問題ありませんね。まずは宝珠を受け取りにアラセアまで行ってください。頑張ってくださいね」
そう言ってパタパタと手を振る受付嬢に「行ってきます!」と挨拶をしたフリルフレアはドレイクと共にその場を後にした。




