第1章 赤蜥蜴と赤羽根 第2話、集う冒険者たち
第2話、集う冒険者たち
翌日、遅めの朝食兼昼食を済ませたドレイクとフリルフレアは冒険者ギルドに来ていた。
あの後、ドレイクは運ばれてきた料理をあっさり平らげると、さらにいくつも料理を追加しフリルフレアを驚かせた。その翌日、寝坊したドレイクに合わせて遅めの朝食兼昼食をとったフリルフレアはその食卓でもドレイクの大食いに驚かされることとなった。
そして、まずは仕事を探しに行こうという話になり今に至る。
「あらためてみると、いろんな依頼がありますね~」
冒険者ギルドの掲示板を見上げて、フリルフレアは「ほへ~」と間の抜けた声をあげながら感心していた。
冒険者ギルドの掲示板には様々な仕事の依頼書が張られており、そこには仕事内容や報酬額、ギルドの方で設定した推奨冒険者ランク、推奨人数などが書かれている。冒険者たちはそれらを確認し、自分たちのランクや人数に合った仕事を受けるのである。
「しかし、どれにするかな~。ある程度実入りのいい仕事がいいんだが……」
「それだとこっちの方ですか?」
フリルフレアが指さした方に視線を向ける。そこはランク10以上推奨の高レベルの仕事が張り出されている。
「ん~、赤羽根にとっては初めてのまともな依頼なんだから、もうちょっと控えめな奴の方がいいな……」
「そうなんですか?」
「一般的にランク10以上なんてのはベテランだからな。当然推奨ランク10以上なんてのもベテラン向けになるな」
「なるほど」
試しにランク10以上推奨のベテラン向けの仕事に眼を通してみる。
『推奨ランク15オーバー、求む真の勇者!魔王フォルテスタント討伐』『推奨ランク10オーバー、魔法職限定、稀代の奇病、竜腐病治療法の調査』『推奨ランク11、伝説のフェニックスの卵の探索』『推奨ランク13、深淵の魔穴の調査』『推奨ランク15、暴竜アウドラギウス討伐』『推奨ランク10、漁師を襲う亡霊船の退治』『推奨ランク10、巨人種の残した魔法遺跡の調査』この辺りまで目を通したところで、ドレイクは見るのをやめた。とてもではないが、まだ冒険に不慣れなフリルフレアを連れてできる仕事ではない。
フリルフレアに合わせて初心者向けの依頼を受けるべきだろうか?
(いや、それだと実入りも大したことないし、どうせ俺が付いてるんだ。いくらか上のランク向けの依頼でも問題ないだろ……)
横で他の依頼書と睨めっこしているフリルフレアを放っておいて、ドレイクはランク4~7位推奨の中堅どころ向けの依頼に目を向けてみた。
『推奨ランク7、ウッドイーター討伐』『推奨ランク7、ワイバーン討伐』『推奨ランク6、古代遺跡調査』『推奨ランク5、隣国までの商隊の護衛(魔物の多い山道を使用)』等々、様々な依頼が張り出されている。ソロやコンビ向けの依頼よりもパーティー向けの依頼の方が圧倒的に多かったが、討伐系の依頼ならば、実力的に問題無ければソロでも受けられることは多かった。ならば、コンビでも問題はないだろう。
ドレイクが一つの依頼書に手を伸ばしたところで、フリルフレアが1枚の依頼書を持って駆け寄ってくる。
「ドレイク、このお仕事はどうですか?」
「どんな仕事だ?」
ドレイクがフリルフレアの手元を覗き込む。そこには『推奨ランク3、行方不明事件の究明』と書かれていた。
「町長さんからの依頼ですね。ラングリアで起きている行方不明事件の捜査らしいです。行方不明者の捜索や事件の解明をしてほしいらしいです」
「行方不明事件?」
「あれ?ドレイクは知りません?半年くらい前からだったと思うんですが……」
フリルフレアは顎の下に人差し指を当てて「え~と……」とつぶやきながら記憶をたどっていった。
「確か、最初に行方不明になったのは薬局のご主人だったと思います。ママ先生の昔の同業者だったって言ってましたから覚えてるんです。その後は確か…道具屋の息子さんだったかな?鍛冶屋の奥さんもそうだったと思います。とにかくもう何人も行方不明になっているんですよ!」
「ふ~ん……」
興奮気味に語るフリルフレアだったが、ドレイクの相槌は気の抜けたものだった。フリルフレアが少し不満そうな表情をする。
「ダメですか?」
「ダメ……と言うか、これって自警団がちゃんと捜査してるんだろ?」
「あ……そうですね。そうだと思います」
「捜査のプロの自警団が半年捜査して解決できてないのに、ポッとでの俺たちがいきなり出てきて解決できると思うか?」
ドレイクの言葉にフリルフレアは眉間にしわを寄せる。確かに、何か確たる情報を持っているわけでもない自分たちがいきなり現れて、即事件解決と言うのは少し無理があるように思える。
「…………ちょっと難しいと思います」
「だろ?それにな……」
「それに?」
フリルフレアがドレイクを見上げる。ドレイクはどこか誇らしげに胸を張り両手を胸の前で組んでいた。そして、カッと目を見開く。
「俺はそういった頭を使う仕事は苦手だ‼」
「威張らないでください!………まあ、何となく納得はしましたけど…」
ドレイクの言葉に項垂れるフリルフレア。だが、薬草採取すらまともにできていなかったドレイクの状況を見れば、その言葉に納得するしかなかった。
「ドレイクって、本当にランク13なんですか……?」
「いや、なんか大型の魔物を何体か討伐してたらいつの間にかそう認定されてただけだからな……」
ジト目でにらんでくるフリルフレアに、居心地が悪そうに頬を掻くドレイク。実際ドレイクは、冒険者ギルド内部にも、その実力は認められていたが、同時に採取や探索系及び頭を使う仕事の質の悪さや成功率の低さで目をつけられていた。
「昨日の食事中に冒険者ランク13て聞いたときは、『すごい!大ベテランじゃないですか!』って感激したのに……」
「悪かったな……、苦手なんだよ何かを探したり、頭を使ったりするの…」
「分かりました……、仕方ありません、この仕事はあきらめましょう」
そう言ってフリルフレアは手に持っていた依頼書を掲示板に戻した。
「でも、それならどんな仕事ならいいんですか?」
「これなんてどうだ?」
ドレイクが先ほど手を伸ばしかけた依頼書を掲示板からはがす。フリルフレアは身を乗り出してその依頼書を覗き込んだ。
「ええと、『推奨ランク4、多種モンスター討伐』ですか?」
「ああ、何でも魔導士ギルドの職員が町の近くに多種のモンスターが集まっている廃墟を見つけたらしい。その魔導士ギルド職員からの依頼だな」
ドレイクの言葉にフリルフレアが首を傾げた。
「モンスターを見つけて、自分のお金で仕事の依頼を出したんですか?」
「そうみたいだな……まあ、金持ちの道楽みたいなもんなんだろ?職員って言ってもギルドの幹部みたいだし」
「そうですか……」
何か違和感の様なものを感じたフリルフレアだったが、それが何なのかはよくわからない。横ではドレイクが嬉々として依頼書の一角を指さしていた。
「それにみろよ、この報酬額!こんな依頼でこの額は破格だ!」
「そうなんですか?」
ドレイクが指さしたところを見てみると、そこには報酬総額10000ジェルと書かれていた。確かに破格の金額である。
「二人で分けても一人5000ジェル。これだけあれば、当分金には困らない」
「確かに……、これだけあれば、孤児院の経営もだいぶ楽になるはず……」
フリルフレアの言葉にドレイクはギョッとした視線を送る。
「え……何だお前、もしかして仕事の報酬を孤児院に寄付するつもりなのか?」
「つもり……と言いますか、半分はそのために冒険者になったので…。あ、もちろん生活費は残しますけど」
「信じられん……冒険者になったのって、記憶探しのためだけじゃなかったのかよ」
「ええ、そうです」
ニッコリ微笑むフリルフレアがなぜか異様にまぶしいような気がしてドレイクは視線をそらした。あんな言われたかをすると、自分の浅ましさがどこか後ろめたい。
「ま、まあ、報酬をどうするかはお前の勝手だから、俺が口をはさむことじゃないからな」
そう呟くと、ドレイクは手に持っていた依頼書をフリルフレアに向けた。紙の表面をピシッと指ではじく。
「どうだ?ランク4向けの依頼だが、冒険の雰囲気や戦闘に慣れるためにも悪くない仕事だと思うんだが?」
「‥‥‥‥そうですね…」
フリルフレアは依頼書をじっと見て考え込んでいる。ドレイクの言わんとする事はわかるが、若干問題が無い訳ではない。
「ドレイクの考えはわかりました。……ですが、正直私あまり戦力になりませんよ?」
「うん?」
「冒険者として駆け出しっていうのもありますけど、私戦うのは苦手です」
「そんなのは、ジャイアントクロウに追い回されてたのを見ればわかる」
「嫌なことを思い出させてくれますね……」
ドレイクと出会った時のことを思い出し、フリルフレアが苦い顔をする。ジャイアントクロウに追い回された記憶はある意味トラウマになりかねない。
「安心しろ、基本的には戦うのは俺だ。赤羽根には魔法での援護を頼む」
「援護、ですか?」
フリルフレアの言葉にドレイクは「ああ」と頷く。フリルフレアがどんな魔法を使えるのかは知らなかったが、精霊魔法を使えるらしいのでそれに期待しての事だった。
「何かしら出来るだろ?精霊魔法で」
「そうですね……私の使える精霊魔法で戦いの役に立ちそうなものっていうと…」
フリルフレアが顎に人差し指を当てて視線を宙に泳がせる。自分の仕える魔法を再確認して、戦闘で使えそうなものをピックアップしているようだ。
「ファイアシュートやフェザーファイアは攻撃魔法ですね、フレイムボディも反撃魔法です。………後はメイクウォーター、ブレス、フリーズ、カインドウォーム。この4つはあまり戦闘向けじゃないです」
「実質、戦闘で役立ちそうなのは3つか」
「そうですね」
ニッコリ微笑みながら答えるフリルフレアを見ながら、ドレイクは気になったことを口にした。
「何か、炎系の魔法が多い気がするんだが気のせいか?まあ、俺は精霊魔法についてよく知らんのだが……」
「ドレイクの言う通りですよ?私炎系の魔法は得意なんです。炎の精霊と相性が良いんじゃないですか?」
「そういうものなのか……」
フリルフレアの言葉に納得した様な、していない様なドレイクだったが、とりあえずその言葉を言葉通り受け取ることにする。どうせ考えたところで、結論など出て来はしない。
「まあいい。あとは自分の身さえ守ってくれればいいが……」
「正直料理以外で刃物を使ったことなんてありません」
「だと思ったよ」
両腕を組んで、ドレイクは考え込む。初めての戦闘で、いきなり援護と自衛をやらせるのもどうだろうか?ならばいっそ、フリルフレアには魔法で自分の身を守らせた方がいいのではないかと考える。
どちらにしろ、ランク13の自分にとって、ランク4の依頼など容易いはずである。場合によっては彼女の身を守りながらでも戦える自信はある。それにいざとなれば、奥の手もある。
そこまで考えたところでドレイクは問題なしと結論付け、フリルフレアに視線を向けた。
「まあ、問題ない。まずは魔法を使って自分の身を守ってくれればいい」
「まあ、そういうことでしたら……」
まだ若干不安そうではあったが、了承したフリルフレアを見て、ドレイクはこの依頼を受けることに決めた。
「よし!じゃあ、この仕事で決定だな」
「わかりました」
ドレイクは依頼書を持って、ギルド内の受付カウンターに向かった。その後ろをフリルフレアがトテトテとついて行く。
「この仕事で頼む。俺、ドレイク・ルフトとフリリフ……赤羽根の2人だ」
「フリルフレア・アーキシャです‼」
いまだに名前を覚えないドレイクに思わず怒りマークを浮かべて怒鳴るフリルフレア。
一方カウンターに座っていたギルドの受付嬢は驚いた表情を浮かべてドレイクを見上げていた。
「あ、赤蜥蜴さん、コンビを組んだんですか⁉」
「ああ」
「驚きました……しかし、フリルフレアさんって……一昨日冒険者登録したばかりですよね?」
「はい。あの時はお世話になりました」
フリルフレアがペコリと頭を下げる。どうやら彼女の冒険者登録を担当したのがこの受付嬢だったようだ。
驚きのあまり、若干変顔になっていた受付嬢だったが、「いかん、いかん」とか言いながら、顔を振って表情を元に戻す。
「ま、まあ駆け出しの方はベテランの方と組んでいろいろ教わるのも一つの手段ですからね……。それで、この仕事を受けられるんですね?」
そう言うと受付嬢は、ドレイクの手から依頼書を受け取る。そして、その依頼書全体に目を通した。
「あ、この依頼ですか。魔導士ギルド幹部のルドンさんからの依頼ですね」
「ええ、そうです」
フリルフレアの言葉に受付嬢は、依頼書とフリルフレアとドレイクを交互に見比べる。
「あの、推奨人数5人って書いてありますけど、大丈夫ですか?」
「あれ?そんなこと書いてあったか?」
ドレイクが依頼書を覗き込む。受付嬢の指さした先には確かに『推奨ランク4、推奨人数5人』と書かれていた。どうやら見落としていたらしい。
「ドレイク、どうしますか?さすがに5人推奨の所を2人じゃ……」
不安そうなフリルフレア。それに対してドレイクの反応は意外にもあっさりしたものだった。
「いや、問題ない。こう見えてもランク13だ。もっと高ランクの依頼を一人でこなしたこともある。心配するな」
「そうなんですか…」
少しホッとするフリルフレア。
「そういうわけだ。問題ないからこの仕事で頼む」
「わ、分かりました。ですがこの依頼、魔導士のルドンさんが直接モンスターを発見した時の状況を説明したいと言っておりますので、お手数ですけどまずは町外れにある魔導士ルドンさんのお屋敷を訊ねてもらえますか?」
「なんだそりゃ、面倒くさいな」
「依頼人の意向ですので……」
受付嬢の言葉にため息をつくドレイク。そんなドレイクをフリルフレアがなだめる。
「仕方ありませんよドレイク。とりあえずそのルドンさんって人のお屋敷に行けばいいんですね?」
「そうなります」
「分かりました。さ、行きましょうドレイク‼」
面倒くさそうにしているドレイクの背中を押しながら、フリルフレアは「行ってきます!」と言いながら受付嬢に向かって手を振り冒険者ギルドを後にした。
「ここみたいですね」
フリルフレアの指さした先には小さめながらどこか物々しい雰囲気をかもし出した屋敷がそびえ立っていた。正直な話夜中には近寄りたくない屋敷だとフリルフレアは感じた
その屋敷は町の敷地内にはあるものの、周囲は木々に囲まれており、隣家までは50m~100m程もある。壁面には何の植物か蔦が絡まっており、正直印象は良くない。
(なんか、お芝居に出てくる悪い魔導士のお屋敷みたい……)
屋敷の雰囲気に押されているフリルフレアをしり目に、ドレイクは無遠慮に扉をドンドンと大きな音を立ててたたいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
反応が無かったので再度扉をドンドンたたいていると、いきなり扉が開かれた。
中から出てきたのは、浅黒い肌に濃い髭を蓄えたドレイク並みに大柄な男だった。その大男がじろりとドレイクとフリルフレアを睨みつける。
「何だお前たちは?」
「何だとはごあいさつだな。仕事で来た冒険者だ。この依頼に関する話を聞きに来た」
ドレイクは依頼書を取り出すと、大男の目の前に突き付けた。
「あんたが魔導士ウドンとやらか?」
「ドレイク、ウドンじゃなくてルドンさんです」
「え?そうだっけ?……まあ、いいや。その何とかドンさんとやらはあんたか?」
「だから、ルドンさんですって」
呆れるフリルフレア。もはやドレイクがわざと言っているとしか思えない様なボケだが、それがわざとでは無いところがなんとも恐ろしいところである。
「……ルドン様は仕事のため書斎にこもっておられる。しばらく待っていろ」
大男はそう言い残すと、扉を閉めてしまった。この場で待てということだろうか?
「ドレイクが変なこと言うから怒らせちゃったんじゃないですか?」
「しょうがないだろ、ウドンだかカツドンだか知らないが、名前が覚えにくいんだよ」
「どこがですか………」
今さらながらドレイクの物覚えの悪さに戦慄を覚えるフリルフレア。
(この人よく今まで一人でやってこれましたね……)
そんなことを考えていると、唐突に扉が開いた。中から先ほどの大男ともう一人、小太りの小男が出てくる。
「やあ、お待たせしました。私がこの屋敷の主のルドンです。冒険者の方ですね?」
「ああ、そうだ。あんたの出したっていうこの依頼の件で来たんだ」
ドレイクはルドンと名乗った小男に仕事の依頼書を見せる。ルドンはその依頼書をまじまじと見つめる。
「はい、確かに私の出した依頼です。では詳しい話をいたしましょう、どうぞ中へ…」
依頼書から視線を外し、ドレイクとフリルフレアに視線を向けたところでルドンの動きがピタリと止まる。そしてフリルフレアの方をまじまじと見つめる。
「え……あの…何か?」
「ああ、いえ何でもありません。どうぞこちらへ」
ごまかすように言って先頭を歩きだすルドンに案内されドレイクとフリルフレアは屋敷に足を踏み入れた。ルドンの後を歩きながらドレイクはキョロキョロと周りを見回す。
「何かけっこう殺風景だな。人いないし……」
「そうですね……あ、でも地下室あるみたいですよ」
フリルフレアの指さした先には下りの階段があった。ルドンは少し慌てたようにフリルフレアの視線を遮る。
「ち、地下室は魔導士ギルドの仕事で使う研究室になってまして…ご遠慮ください」
「あ、すみません」
素直にペコリと頭を下げるフリルフレア、そんな彼女を見てなぜかルドンは生唾をゴクリと飲み込む。
一方ドレイクはかすかに鼻をヒクつかせながら胡散臭そうに地下室への階段を見ていた。
そうこうしているうちに、階段を上った先にある部屋に通される。
「さあ、おかけください」
「ああ」
「失礼します」
ルドンに促されるままドレイクとフリルフレアは長椅子に腰を下ろす。
「さて……どこから話しましょうか……そう、あれは私が…」
「手短に、必要最低限で頼む」
「……そうですか」
ドレイクが話を遮ったため、ルドンは不機嫌そうな顔をした。
「ちょっとドレイク、話はちゃんと……」
「必要ない。情報は短くシンプルな方が覚えやすい」
「それはそうですけど……」
問答無用なドレイクの物言いに頷きはするものの、フリルフレアは不満げだった。正直もう少し対人関係や言葉の内容に気を使ってほしい。相手は仮にも依頼人である。
「ラングリアから東に1日くらい歩いたところに今は無人の廃墟となっている古代遺跡があるんですがね、私が調査のためにその遺跡に向かうと、そこにモンスターが住み着いておったんです」
「モンスターですか…」
「何のモンスターだ?種類は?数は?」
モンスターと言う言葉に考え込むフリルフレアとは対照的に矢継ぎ早に質問するドレイク。
「お、落ち着いてください」
「落ち着いている、それより質問の答えは?」
「あ、はい……ええと、おそらくゴブリンやオークだったかと」
「おそらく?自分で説明したいと言っていた割には要領を得ないな……。それだけか?」
「と、おっしゃいますと?」
「単純にゴブリンとオークだけだったのかと聞いてる。ホブゴブリンや、ハイオークはいなかったのか?その他の種類のモンスターはいなかったのか?」
「いや、どうでしたかな~」
ドレイクの問いにどこか要領を得ないルドンの回答。ドレイクが少しイライラし始める。
「おい、おっさん」
「ドレイク、待ってください。ルドンさんのそれくらいしかモンスターはいなかったんですね?」
「え、ええ。そうですよ」
ドレイクの口調にすごみが帯びてきたところでフリルフレアが割って入った。ドレイクをなだめて、ルドンに話しかける。
「分かりました。でしたら私たちにお任せください」
少しわざとらしくエッヘンと胸を張るフリルフレア。ちなみにフルルフレアはかなりつつましい胸をしているので、強調したところで別に誇れるものでもない。
そんなフリルフレアにルドンは舐めまわすような視線を送っている。その視線に気が付いたフリルフレアはゾッとしながら、軽く自分の身体を抱く。
「と、とにかくお話しは以上ですよね。それでは失礼します」
そこまで言うと、フリルフレアはイライラしたままのドレイクの背中を押して慌てたようにルドンの屋敷を後にした。
「おい赤羽根。あのおっさんの視線に気が付いたか?」
「気が付いたからこんなに急いで出てきたんですよ……」
青い顔をしながらフリルフレアがつぶやく。あの視線は明らかにおかしかった、どこか異常なものを感じる。
「あのおっさん、間違いなくロリコンだぞ」
「ミイィィ!誰がロリですか!」
フリルフレアの叫びがむなしく響いた。
「それじゃあさっそく準備を整えて、出発しましょう!」
意気込むフリルフレアにドレイクが「ちょっと待て」と待ったをかける。
「どうしたんですか?」
「あのウコンとかいうおっさんの話、いまいち信用できない。ゴブリンやオークだけって話も疑わしい」
「ドレイク、ウコンじゃなくてルドンさんですよ」
ドレイクの物覚えの悪さにいい加減めまいを覚えそうだったが、今はぐっとこらえる。それよりもドレイクの言葉の方が気になった。
「でも、信用できないって?」
「正直、俺の勘なんだが……あのおっさんなんか隠してるな」
「隠してるって何をですか?」
「そこまではわからん。だが、大した情報がある訳でもないのにわざわざ自分の屋敷に来させるなんて……何か裏を感じる」
「確かにちょっと………かなり怪しい雰囲気でしたけど…」
フリルフレアはルドンの視線を思い出してゾッとする。あんな視線で舐めまわすように見られては嫌悪感を抱かざる負えない。
一方ドレイクもルドンに対する不信感を募らせている。モンスターとはいえ、ただのゴブリンやオークが数匹集まっている程度なら依頼の推奨ランクは2、良いところ3だ。4と言うのは少し高い気がするし、冒険者ギルドが推奨ランク4と決定したならば、当然そこにいるモンスターはもう少しランクの高いものがいるはずだ。ルドンの話と食い違うことになる。
ドレイクなりに考えてみる。このルドンからの情報がもし自分たちを油断させるための物だとしたら?あるいは、冒険者ギルドに出した依頼の時点でも何かしら作為的に情報が捻じ曲げられていたら?正直高すぎる報酬額も気にかかる。
疑い出したらきりがないとはいえ、用心に越したことはない。今回はフリルフレアもいるのだ。いきなりの冒険でそんな危ない橋を渡らせることはできない。
これが自分一人ならばどうとでもできる自信がある。だが、フリルフレアがいる以上彼女の身を守る必要がある。そうなると、人手が欲しい。ある程度腕の立つフリルフレアを守れる実力のある人材が…。
「赤羽根、作戦変更だ」
「え?」
ドレイクの言葉に、彼を見上げながら頭のてっぺんに「?」を浮かべているフリルフレア。
「どういうことですか?」
「今回の依頼人、どうにも胡散臭い。だから、少し人手を集める」
「人手、ですか?」
「ああ、あのおっさんの言っていた情報は当てにならない。恐らくもっと上位のモンスターもいるだろう。俺一人でお前を庇いながら戦うにも限度がある」
「別に庇ってもらわなくても……」
ちょっと不満そうに言うフリルフレアだが、ドレイクは首を横に振った。
「実戦はそう甘くない。駆け出しの魔法職が実戦の雰囲気に呑まれて魔法も使えず殺されたなんて話は珍しくもない」
「う……まあ、確かに…」
フリルフレアとてそんな話は知っている。だからこそそれが自分に当てはまらないとは言い切れなかった。
「とにかく、臨時で仲間になってくれる冒険者を探す。まあ、その分報酬は減っちまうけどな」
「分かりました。それは構いませんけど……」
フリルフレアがドレイクをどこか不思議そうに見上げている。その瞳にはわずかに困惑の色が浮かんでいる。
「けど、なんだ?」
「いえ……ドレイクでも頭を使うんですね」
「ほっとけ!」
フリルフレアの自分に対する認識がなんとなく分かったような気がするドレイクだった。
「とにかく、あと2~3人人手が欲しい」
「分かりました」
ドレイクの言葉に答えたフリルフレアは、人差し指を顎にあてて「ん~」と考えを巡らせた。
「ドレイク、当てはあるんですか?」
「いや、無い。俺は今までずっとソロでやってきたからな。誰とも組んだことがない」
「そうですか……」
再び「ん~」とうなって考え込むフリルフレアだったが、すぐに表情を切り替えて、ドレイクの方を見上げる。
「でしたらドレイク。ここは二手に分かれませんか?」
「どういうことだ?」
「私冒険者ギルドでパーティー募集の掲示板を中心に探して回りますから、ドレイクは酒場の方をあたってください」
「構わんが……お前、一人で大丈夫か?」
「一緒に仕事をしてくれる人を探すだけですよね?大丈夫です。それにいざとなったらドレイクの名前を出しますから」
「そうか……、正直俺の名前を出しても信用されるかどうかは怪しいぞ?」
「え、ランク13なのにですか?」
「…………ああ」
渋い顔をして頷くドレイク。残念ながら、彼は冒険者内ではあまり評判が良くない。「鱗が赤いのは返り血によるもの」だの「筋力に特化しすぎて脳みそまで筋肉になった馬鹿蜥蜴」だの「食い意地が張りすぎていつも金欠の貧乏蜥蜴」など散々な評判である。正直冒険者ランクが高いからと言って尊敬のまなざしを向けられた覚えなど1度もなかった。
「と、とにかくだ、俺の名前を出すなら慎重にな」
「分かりました!」
ドレイクに向かってビシッと敬礼したフリルフレアを見て、「まあ、とりあえず大丈夫そうか」と納得し、フリルフレアの意見を取り入れることにする。
「分かった。じゃあ俺は酒場に行って探してくる」
「はい!お願いします。人手が見つかっても見つからなくても1時間後に虎猫亭に集合しましょう!」
「ああ、じゃあ1時間後にな」
ドレイクはそう言うと、手を振りながら酒場街の方へ歩いて行った。それをドレイク同様手をヒラヒラと振りながら見送るフリルフレア。
「さて、それじゃ私は冒険者ギルドに向かいますか」
そう言って、軽く伸びをした後に冒険者ギルドに向かって歩き出すフリルフレア。その後ろに人影が一つ。ユラユラとフリルフレアの背後から近寄っていく。
そして………。
「お嬢さん」
「ミイイィィィィーーーーーーー‼」
バシィィン‼
人影が背後から声をかけ、フリルフレアの肩に手をかけた瞬間彼女の悲鳴が鳴り響き、同時に驚きのあまり結構な勢いで広げられたフリルフレアの美しい深紅の翼がその人影の顔面を直撃していた。
カランカラン!
酒場街にある1軒の酒場に目を付けたドレイクは、扉を開けると中を覗き込んだ。昼間だというのに薄暗い店内には、数人の男女がいた。皆一様に酒を手にしているが、扉が開くと同時にドレイクに視線を集中させた。客たちの鋭い視線がドレイクに突き刺さる。その場の雰囲気が一気に張り詰める。だが、それも一瞬のことで、ある者は再び酒を飲み始め、ある者は興味なさそうに視線を外した。
そんな雰囲気を気にせずドレイクは店内に足を踏み入れる。
ここは酒場街の中でも1部の冒険者御用達の酒場であり、店内にいる客はすべて冒険者であった。そんな中、ドレイクは店内をキョロキョロと見回す。
そんなドレイクに向かって歩み寄っていく人影があった。その数3つ。全員ヒューマンであり、それぞれ筋肉質で大柄な戦斧を背負った男、ナイフを何本も腰にぶら下げた中肉中背の男、最後に長身で腰に長剣を差し差し背中に大盾を背負った男だった。考えるまでもなく大柄な男と長身の男は戦士、中背の男は盗賊だろう。
3人は一様にニヤニヤしながら、ドレイクに近寄っていく。
「あれ~?こんなところにリザードマンがいやがるぜ?しかもなんか赤い」
「おめー、もしかして『赤蜥蜴』ってヤツか?」
「確かに赤けぇや!ヒャヒャヒャヒャ!」
明らかに酔っぱらっている3人は、どうやらドレイクに難癖をつけに来たようだった。ドレイクが面倒くさそうな顔をする。
「世にも珍しい赤いリザードマンってなぁ!偉そうにいっぱしに冒険者なんかしやがって!」
「見世物小屋にでもいた方が良いんじゃねえか?」
「ちげえねぇ!」
ゲラゲラと笑う男たちを面倒くさそうに見ていたドレイクだったが、男たちの笑い声に明らかにイライラを募らせている。
「ちっ、うるせえな」
ドレイクはボソッと呟いただけだったが、男たちは聞き逃さなかった。大柄な男がドレイクの胸ぐらをつかみ上げる。そして顔をグイっと近づける。
「あ?オメー、今なんつった?リザードマン如きがあんまり図に乗ってやがると…」
「うるせえって言ったんだ」
バキィ‼
答えた瞬間ドレイクの握りこぶしが、大柄な男の顔面にめり込んでいた。男は「ぶはぁ!」と呻き、ガラガラドオオン!と大きな音を立てて、後方のテーブルをひっくり返しながら吹き飛んだ。一瞬で目を回した様で起きてくる気配はない。その様子を見た残りの二人は頭に血が上った様子で短剣と長剣を引き抜く。
「ヤロウ!やりやがったな!」
叫びながら中背の男は短剣を構えて突進してくる。同時に反対側からは長身の男が長剣を振り上げ、今まさに振り下ろさんとしていた。
「死ねぇ!」
「死なねえよ」
キイィン!
呟くとドレイクは長身の男の斬撃をあっさりと腕につけた金属鎧で受け止める。それと同時に中背の男の刃が届くよりも速くその腕をつかみ、力任せに放り投げる。
ガゴオオオン!と大きな音を立てて中背の男が扉を壊して出入り口の外へ消える。
「くそ!このやろおお!」
長身の男が何度も剣を繰り出すが、ドレイクはそれをあるいは掌で、あるいは腕で、あっさりと捌いていく。
「く、くそおおお!」
長身の男は焦りからかだんだんと大振りになっていった。そして、大上段に剣を振りかぶり一気に振り下ろす。
パシッ!と音がして、剣が受け止められる。ドレイクが頭上で、両掌を合掌する様に刀身を挟み込んで剣を受け止めていた。そして、「はああああ!」と気合を発すると、バキィィィン!と音を立てて男の長剣をたたき折る。
「な、何⁉バカな…」
「バカはお前だ」
ズン!
その瞬間ドレイクの拳が長身の男のみぞおちに叩き込まれた。
「………!」
悲鳴を上げる間もなく崩れ落ちる長身の男を見ながらドレイクはため息をついた。正直この手の難癖は珍しくもない。どうも、自分の目立つ外見といつの間にかなっていた13と言う冒険者ランクが原因らしいのだ、自分ではどうすることもできない。
ドレイクは難癖をつけられるたびにこうして問答無用で対処していた。
「へえええ!お兄さん強いんだね!」
先ほどまで静観を決め込んでいたケット・シーの女が声をかけて来た。女はまだ少女らしい面影を持ち、青い瞳と、オレンジ色の髪をショートカットにしており、同じ色の猫に似た耳と尻尾を持っていた。腰は細かったが、しまったヒップとかなり豊満なバストをしていた。腰の後ろに小剣を2本差しており、革鎧を着てはいるが、かなり露出度の高い服装をしていたため胸の鎧からバストがこぼれ落ちそうだった。
「噂の赤蜥蜴!ランク13って噂は本当みたいだね!」
嬉々として話しかけてくるケット・シーの女にドレイクは視線を向ける。酒を片手に持っていることから酔っている事が分かるが、自分を見失うほど酔っているようには見えなかった。恐らく酒で少しテンションが上がっているだけだろう。
そのケット・シーの女の横にもう一人女がいるのに気が付いた。その女も酒を片手にしてドレイクの方を見てはいるが、特に酔った様子もない。女は肩くらいまである黒髪を持ち、こちらを向いた瞳は綺麗な金色をしていた。細身ながらしまった体つきをしており、胸の形が非常に整っているのが分かった。耳がわずかに尖っていることからもハーフエルフであることがうかがえた。こちらも軽装だが、露出は低めだった。腰に何本も短剣を差していることから、おそらく盗賊だろうと考えられる。
ハーフエルフの女はドレイクの方をつまらなそうに見ていた。
「お前らも何か用か……?」
ドレイクがわずかに凄みを利かせた声を発した。場合によっては相手になるという意思表示だったが、ケット・シーの女は特に気にした様子もなくケラケラと笑っていた。
「いやいや~、別に用なんて無いよ。ただ鬱陶しかったあの3人組をあっさりのしちゃったからすごいなって驚いただけだよ」
「鬱陶しかった?」
「そうそう。なんか、あたしとローゼを口説こうとしてたんだけどさ!『あんたたちなんかに用は無いよ』って振ってやったんだけど、しつこくて」
両手を広げ、肩をすくめながら「は~、やだやだ」とか言っているケット・シーの女を見ながら、「それってつまり俺が難癖付けられたのそれの腹いせじゃないのか?」と思ったドレイクだったが、言えば面倒なことになりそうだったので、その言葉を飲み込んだ。
「だからさ、お礼だと思って一舞見てってよ」
「舞?お前さん踊り子か何かか?」
ドレイクの疑問にケット・シーの女は一礼をもって答える。いつの間にか、女を囲むように酒場にいた男たちが集まっていく。ちなみに10人程いたが、誰一人としてのされた男たちを介抱しようとはしなかった。酒場の主ですら倒れたテーブルやイスを片付けただけで、男たちのことは無視している。冒険者同士の喧嘩など日常茶飯事なので、誰も気にしていないのだ。当然この程度のことで自警団に連絡しようとする者などいはしない。
「みんな注目~。スミーシャ・キャレットが踊ります!ローゼ、お願い!」
「はぁ、仕方ないな」
ケット・シーの女、スミーシャの言葉に、ローゼと呼ばれたハーフエルフの女はため息をもって答える。そして……。
「輝く星~~♪きらめく夜空の下~~♪、愛を唄う二人~~♪…………」
ローゼと呼ばれた女は無演奏ながらキレイな歌声を披露していた。そしてその歌声に合わせて、スミーシャが舞を披露していく。
想いは彼方~~~♬、遥かな世界を~~~♪、ただ二人~歩む~~~♪。
パチパチパチパチ!
美しい歌声と舞に、自然と拍手が沸き起こった。ドレイクも素直に拍手を送っている。
「どうも~、スミーシャ・キャレットと、ローゼリット・ハイマンでした!」
スミーシャの締めの言葉に一層大きな拍手が起こった。
「はっはっは。こりゃいいもんを見せてもらったわい。のう赤蜥蜴?」
歓声が沸き起こる中、ドレイクの後方からそんな声がかけられた。ドレイクが視線を向けると、そこには知った顔があった。
「久しぶりじゃの、赤蜥蜴。元気にしとったか?」
「灰色石頭…いたのかよ」
ドレイクに「灰色石頭」と呼ばれたのは恰幅の良いドワーフだった。灰色の髪はボサボサの短髪だが、同じ色をした髭は長くなぜか3本の三つ編みにしてあった。金属鎧を身にまとっており、背中には大きなウォーハンマーを背負っている。
人の良さそうな顔が今は満面の笑みをうかべていた。このドワーフの男の名は「ゴレッド・ガンデル」。鍛冶と鋼の神である鋼神アルバネメセクトに仕える神官戦士であり、冒険者ランク10のベテラン冒険者だった。
「カッカッカ!お前さん相変わらず人の名前を覚えんのう!」
そう言ってバシバシとドレイクの背中をたたくゴレッド。「灰色石頭」とは、人の名前がなかなか覚えられないドレイクが、ゴレッドの第1印象で勝手に決めたあだ名である。
「どうでもいいだろうが……あ、そうだ。灰色石頭、あんた確かランク10だったよな?」
「ん?ああ、そうじゃが?」
「ちょうどいい、あんたに折り入って頼みがあるんだが……」
「頼み?わしより3つもランクが上のお前さんがか?」
ゴレッドは不思議そうな顔をしてドレイクを見上げた。ドレイクとゴレッドは互いにソロ冒険者であり、面識はあった。組んで冒険をしたことこそないものの、お互いの冒険者ギルド内での評判は知っており、その実力は認めあっている。たまに酒を一緒に飲む飲み仲間的な関係でもあった。
「ちょっと人手を探してたんだ」
「人手?お前さんソロじゃなかったんか?」
「いや、実は少し事情があって……」
「事情?」
「ああ、実は今駆け出しとコンビを組んでるんだが……」
二人で近くの空いている席に着くと、ドレイクはゴレッドに今までのいきさつを話した。フリルフレアと出会ったこと、彼女とコンビを組むことになったこと(このあたりの詳細はかなり端折った)。ランク4向けの依頼を受けたが、どうにも依頼人が怪しいこと。フリルフレアの身を守りながら戦うために少し人手が欲しいことなどを話した。
ドレイクの話を聞きながらゴレッドはフムフムと頷いていたが、聞き終えるとニンマリと笑みをうかべた。その顔は明らかに何か面白いものを見つけたような、新しいおもちゃを手に入れたようなそんな笑みだった。
「何じゃ赤蜥蜴。お前さんその赤羽根の嬢ちゃんにずいぶん執着しとるみたいだのお!」
「いや、別に執着してるわけじゃ……」
「そうかの~?わしなら駆け出しのガキどもの相手なぞせんがのぅ。わざわざ一緒に仕事をしてやって、その上守るために人手まで集めるとはの。随分と気に掛けとるじゃないか」
「気に掛けてるって……、今回はただ単に依頼人が怪しいから……」
「カッカッカ!良いわい良いわい!別に隠さんでも!」
「隠すって何をだよ」
「赤蜥蜴、お前さん実はその嬢ちゃんに惚れとるんじゃろう?」
ニヤニヤと笑いながらそう言ってゴレッドはドレイクの眼の前に突き出した左手の小指を立てた。ドレイクとフリルフレアが男女の関係にあると言いたい様だった。
「何でそうなるんだよ……。あいつまだ子供だし第一リザードマンとバードマンだぞ?」
「子供?その嬢ちゃん冒険者なんじゃから成人しとるんじゃないのか?」
「そうだった……ロリ顔だから忘れてた。……とにかく、俺はリザードマンであいつはバードマンだ。浮いた話になる訳ないだろ」
「分からんぞ?最近は異種族カップルなんて珍しくもないわい」
「いや、しかしだな………」
ドレイクがいい加減うんざりして答えた時だった。ドレイクとゴレッドの座るテーブルの横に二つの人影が近づく
「ふ~ん、つまり、赤蜥蜴のお兄さんはその赤羽根のお嬢ちゃんのために人手を集めてるって訳なんだ~。これって愛かなローゼ?」
「私が知るか」
そこには先ほど舞を披露したケット・シーの女、スミーシャ・キャレットと、歌声を披露したハーフエルフの女、ローゼリット・ハイマンが立っていた。スミーシャは何か面白いものでも見つけたような表情をしているが、ローゼリットの方はつまらなそうにそっぽを向いている。
「何だお前ら、まだ何か用か?」
ドレイクが少し鋭い視線を向ける。どうやら彼女たちは盗み聞きしていたようだ。聞かれて困るような内容ではないが、あまり気分のいいものではない。
「用が無いなら……」
「赤蜥蜴のお兄さん。よかったらあたしとローゼを雇わない?」
ドレイクの言葉を遮る様にスミーシャが言ってくる。その言葉にドレイクは胡散臭そうな視線を向ける。
「別に、歌手と踊り手に用は無いんだが……」
「ノンノンノン!あたしたちこれでも冒険者」
そう言ってスミーシャが胸元から冒険者認識票を出す。横ではローゼロットも同様に冒険者認識票を出していた。それぞれ冒険者ランク7と書かれている。
「あたしたち普段は4人パーティーなんだけどさ、今そのうち2人が故郷に里帰りしちゃってて、あたしたち留守番で暇なんだよね。面白そうな話だからあたしらものせてよ!」
「私は少し金が入り用なだけだ」
スミーシャはさもいい暇つぶしを見つけたと言わんばかりに上機嫌に話しかけてきた。一方ローゼリットは表情も変えずにボソッと自分の意見を言う。
「おい赤蜥蜴、この姉ちゃん達は信用していいと思うぞ。名前を聞いて思い出したが、今若手の中でもかなり評判のいい奴らじゃ」
ガハハと笑いながらゴレッドも太鼓判を押す。どうやら彼の評価も悪くないようだった。
実際、冒険者ランク7の中堅である。報酬さえ払えば、私情をはさまず働いてくれるであろうことは想像できる。
「……成功報酬のみだぞ?総額10000ジェルの仕事を人数で割った額が報酬だ」
「赤羽根の嬢ちゃんを入れて一人2000ジェルか……悪くはないの」
「赤羽根が誰も連れて来なければだけどな」
ゴレッドは報酬の額に納得してくれたようだった。スミーシャは特に報酬の額を気にしている様子もなく、ローゼリットはつまらなそうにしていて考えていることが読めなかった。
「それで良いならお前らを雇う」
「それで良いよ!あたし、面白そうだから乗った!その赤羽根のお嬢ちゃんも見てみたいし」
「スミーシャ……またそうやって勢いで」
スミーシャの言葉にため息をついているローゼリットだったが、特に反対はしていないようだった。ゴレッドはどこか満足げに笑っている。
「ガッハッハ!良いわい良いわい!若い姉ちゃんと一緒なら冒険も楽しいじゃろ!」
ゴレッドの笑い声にいくらか不安を覚えるドレイクだったが、3人とも条件に異論は無い様だった。ならば答えは一つだ。
「分かった。今回の仕事限定のパーティーだが、よろしく頼む」
ドレイクの言葉に3人は力強くうなずいた。
ドレイクたちが虎猫亭に帰ると、フリルフレアがすでに1階の酒場で待っていた。しかし、彼女の座るテーブルの向かい側には見たことのない金髪で紫色の眼をしたエルフらしき男が座っている。
「赤羽根、帰ったぞ」
「お帰りなさいドレイク………わ!たくさん連れてきましたね!」
ドレイクの言葉に振り返ったフリルフレアはドレイクの後ろに控えている3人を見て驚きの声を上げた。3人も連れてくるとは思ってもみなかったようである。
一方ドレイクは、フリルフレアの向かい側に座る男を見てわずかに鼻をヒクつかせる。そして面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「赤羽根、そいつは?」
「はい、この方はロックスローさんって言いまして……」
それからフリルフレアはそのロックスローと言う男と出会った経緯を話した。ドレイクと別れた直後に、後ろからいきなり肩を叩かれたこと。驚きのあまり悲鳴を上げながら翼で思いっきり後ろのいたロックスローの顔面を叩いてしまったこと。当たり所が悪くのびてしまった彼を介抱したこと。その後目を覚ました彼になぜ声をかけて来たのか聞いてみたこと。実はロックスローがドレイクとフリルフレアの話を聞いてしまい、力になれるんじゃないかと考えて声をかけて来たということ。そして最後に、その厚意を受け、力を貸してもらうことに決めたことなどを話した。
フリルフレアが話す中黙って聞いていたドレイクだったが、話を聞き終えたところでロックスローに胡散臭そうな視線を向ける。
「力になるって……こいつ役に立つのか?」
「ドレイク!そんな言い方は無いと思います。それにロックスローさんはなんとランク11だそうです」
「ランク11!そりゃ大したもんじゃわい」
つまらなそうなドレイクの横でゴレッドが感心している。その後ろではスミーシャがロックスローを値踏みするように見ている。
「すごいねランク11なんて。見たとこ魔導士みたいだけど?」
「ええ、私は魔導士ですよ。もっとも、実戦はあまり得意じゃないんですけどね」
「何を言っとるんじゃ。ランク11ともなれば、それが実力を示しているわい!のう赤蜥蜴、赤羽根の嬢ちゃんに男が寄ってきて気に食わないのはわかるが、ここは一つ力を借りたらどうじゃ?」
ゴレッドの冗談交じりの物言いに、ドレイクは苦い表情になる。
「べ、別に気に食わないわけじゃない……わかったよ、じゃああんたもついて来るんだな」
「ええ、よろしくお願いします」
ドレイクの物言いに、ロックスローが満足げにうなずいている。一方のドレイクの表情はいまだどこか不満げだった。ムスッとした表情のまま、席に着く。続いてゴレッドたちも同様に席に着いた。
「なるほど、それでこの子が赤羽根ちゃんね?本当にきれいな翼だね~、ローゼもそう思うでしょ?」
「ああ、確かにな……それに話通り子供っぽい……」
スミーシャとローゼリットがフリルフレアをじっと見て翼の美しさに感心している。それにドレイクのフリルフレアに関する言葉を思い出し、その幼く見える外見に「なるほど」と納得している様でもあった。
「赤羽根……子供……」
スミーシャとローゼリットの言葉を聞き、フリルフレアの目じりが吊り上がる。そのまま鋭い視線をドレイクに向けた。
「ドレイク………?」
「あー、さすがに人数が多いからな、軽く自己紹介してくれ」
フリルフレアの鋭すぎる視線に居心地の悪さを感じたドレイクは、頬を掻きながら視線をそらし、自己紹介を促した。まあ、半分はフリルフレアからの非難の視線をごまかすためであったのだが……。
「はいはーい、あたしからやる!」
勢いよく手を挙げたのはスミーシャだった。全員異論は無いのか無言で先を促す。
「あたし、スミーシャ・キャレット!歳は19歳!見ての通りのケット・シーでランクは7!職業は踊り子だよ!」
言いながらスミーシャは椅子の上にヒョイッと飛び乗ると、軽やかにクルクルと回転してみせた。回るたびにスミーシャの胸元がユッサユッサと上下に揺れ尻尾もヒラヒラと揺れていた。
「ちゃんと魔円舞も使える本物の踊り子だよ!」
さらにクルクルと回転した後、ビシッと決めポーズをするとフリルフレアに向かってパチンとウィンクをする。スミーシャの色っぽい視線に思わず赤面してしまったフリルフレアは、慌ててごまかす様に疑問を口にした。
「ドレイク、魔円舞って何ですか?」
「あ~、魔円舞ってのはだな………」
「魔円舞と言うのはですね、魔法の一種で舞踏魔法とも呼ばれ、魔力を込めた舞や踊りを媒介に様々な効果を発揮する魔法です」
「……………ちっ」
自分が説明するよりも早く、ロックスローに魔円舞の説明をされてしまったドレイクは舌打ちをし、ロックスローを睨みつける。一方睨みつけられたロックスローは「睨まないでくださいよ~」などと言いながら両手をパタパタを振っていた。
「戦闘でもちゃんと役立つ踊り子だから安心してね!じゃあ、次はローゼの番ね」
「なんで私なんだ……」
スミーシャからバトンを渡されたローゼリットはため息をついてしぶしぶ自己紹介を始めた。
「ローゼリット・ハイマンだ。歳は21。見ての通りハーフエルフだ。職業は盗賊、以上だ」
ローゼリットのそっけない自己紹介が終わる。だが、彼女を見るフリルフレアの瞳はキラキラと輝いていた。
「あ、あの!綺麗な金色の瞳ですね!」
ローゼリットの瞳を覗き込むようにしてフリルフレアが歓声を上げる。彼女の美しい金色の瞳をまじまじと見つめている。
「別に……単に母親譲りでこんな眼をしてるだけだよ」
一方ローゼリットの返答はそっけないものだった。つまらなそうな物言いが、あまり触れてほしくない物事の様に感じさせた。そのままプイっとそっぽを向くと「もういいだろ」と言って、腕を組んで押し黙ってしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
しばらく気まずい雰囲気の沈黙が続いた。誰も言葉を発せずにいる中、「やれやれ」と言いながらため息をついたのはゴレッドだった。
「先に進まんから次はわしが行くぞ」
そう言いながらゴレッドは手を当てて首をグルングルン回している。首の関節がポキポキと音を鳴らしている。
「わしはゴレッド・ガンデル、歳は百と七つじゃ。鋼神アルバネメセクト神に仕える身じゃが戦士としての修練も積んでおるぞ。こう見えてもランク10じゃ!」
自慢げにエッヘンと胸を張るゴレッドに、フリルフレアが「はーい」と手を挙げる。
「何じゃ?赤羽根の嬢ちゃん」
「ドワーフさんですよね?」
「はっはっは!野暮なこと聞くのう嬢ちゃん。わしがケット・シーに見えるかの?」
ゴレッドは笑い飛ばしたが、フリルフレアの視線は酒場のカウンターでグラスを磨いているドワーフの様な体型をしたケット・シーに注がれていた。虎猫マスターである。それを見たドレイクが複雑な表情でボソッと呟く。
「いや、あれは例外だろ……」
「そうなんですか⁉」
ドレイクの呟きに驚きの声を上げるフリルフレア。無垢な彼女はどうやら虎猫マスターを一般的なケット・シーだと思っていたらしい。
「あんなケット・シー、あたしだって他に見たこと無いよ」
スミーシャがヤレヤレと肩をすくめる。他のメンバーもうんうんと頷いていた。
「……まあ良いわい。それより、回復魔法はお手の物じゃから、怪我したらわしに言うんじゃぞ?分かったの嬢ちゃん」
「あ、はい。分かりました」
フリルフレアの言葉に満足げに頷いたゴレッドは「ほれ、次はお前さんじゃ」とロックスローを促した。ゴレッドの言葉にロックスローは、「そうですね、それでは改めて…」と少し緊張した面持ちで言葉を切り出す
「初めまして、ロックスロー・ストランティスと申します。見ての通りのエルフです。歳は216歳。職業は魔導士です。残念ながら実戦はあまり得意ではありませんが、その分探知系の魔法は得意ですので、どうぞよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げるロックスローに相変わらず面白くなさそうな視線を向けるドレイク。一方ゴレッドは感嘆の声を上げる。
「ロックスロー、お前さんソロじゃろ?ソロの魔導士でランク11とは大したもんじゃわい」
「いえいえ、実戦が苦手なのでほとんど試験でランクを上げたんですよ。だから、もしかしたら実戦では皆さんの足を引っ張んてしまうかもしれません」
「わっはっは!ランク11が謙遜しおるのう!そのランクで、実戦が苦手もなかろう?」
ゴレッドが「冗談はほどほどにせい」と言わんばかりに笑いながらロックスローの背中をバシバシ叩いていた。ロックスローは衝撃でゴホゴホと咽ていたが……。
一方ドレイクが、顎の下に手を当てて「う~ん」と唸って考え込んでいたが、カッと目を見開くと、高々と宣言する。
「つまり、踊り猫、金目ハーフ、灰色石頭、金髪優男だな!」
ドレイクの言葉に、フリルフレアがバン!と音を立てるほどの勢いでテーブルに突っ伏す。スミーシャとローゼリットは何のことかわからず目を丸くしており、ロックスローはドレイクが何を言っているのか分からずポカンとしている。
ゴレッドだけが納得したのかガハハハと大声で笑っていた。
「赤蜥蜴、お前さんは本当に相変わらずだのう!」
さも愉快そうに笑っているゴレッドを、何のことか分からずポカンと見ているロックスローに、頭を上げたフリルフレアが説明をする。
「えっとですね、ドレイクって人の名前を絶対に覚えないんです」
「待て赤羽根、絶対ではないぞ」
「本当ですか?じゃあ、試しに誰かの名前言ってみてください」
「ドレイク・ルフト」
「自分の名前じゃないですか!」
ドレイクのボケなのか本気なのか分からない答えに、思わずフリルフレアのキレの良いツッコミが炸裂していた。
「ナイスツッコミ、赤羽根ちゃん」
「あ、えっと………えへへ」
「赤羽根、ほめてないと思うぞ……」
スミーシャの称賛に照れているフリルフレア。そのフリルフレアにさらに冷静にツッコミを入れるドレイクだった。
「話が進まんから、ほれ次はお前さんが行け、赤蜥蜴」
「俺かぁ?」
ゴレッドの物言いに不満げだったドレイクだったが、どちらにしろもう残りは自分とフリルフレアだけだったことを思い出す。仕方ないとばかりにため息をついた。
「ドレイク・ルフトだ。………他に何言えばいいんだ?」
名乗っただけで次が分からず、思わず隣のフリルフレアに聞いてしまうドレイク。他の人間がドレイクの物言いに脱力する中、フリルフレアだけはドレイクにまともに対応している。
「年齢……は、分からないですよね……。種族はリザードマンって見ればわかるし…。後は職業やランクを言えばいいんじゃないですか?」
「そうなのか……。あー、職業は戦士だ、ランクは13、こんなもんかな?」
「良いんじゃないですか?」
ドレイクの言葉にフリルフレアが頷く。そして、最後にフリルフレアは1度席から立ち上がり、皆に向かって一礼した。
「私で最後ですね。初めまして皆さん、フリルフレア・アーキシャです。心配性のドレイクの声掛けで、私の初めての冒険に集まってくださってありがとうございます」
「初めては昨日のツケの回収じゃないのか?」
「あれはノーカンです」
ドレイクのツッコミをサラッと受け流すフリルフレア。この二人の関係がなんとなく見て取れる図である。
気を取り直して、フリルフレアは自己紹介を続けた。
「見ての通りのバードマンで、正確じゃ無いんですけど、一応15歳です。精霊使いで、いくつか魔法が使えます。ただ、ホントのホントに駆け出しなんで、ランクはまだ1です。未熟者ですけど、よろしくお願いします」
そう言ってフリルフレアは全員に向かってペコリと頭を下げた。そんな彼女を見ながら、スミーシャはウンウン頷いており、ローゼリットは相変わらずつまらなそうな表情だったが、よく見れば口の端がわずかに上を向いていた。
ドレイクが頭を下げているフリルフレアの髪をクシャクシャと撫で回す。
「まあ、そういうわけなんでなるべくこいつをサポートしながら、あんまり無理させないようにしてくれ」
そういうとドレイクはさらにフリルフレアの頭を撫でまわした。ただでさえくせっ毛なフリルフレアの髪が余計にクシャクシャになる。
「ミィィ!やめてくださいドレイク!」
「あ、悪い悪い」
非難の声とともにドレイクの手がどかされる。半ベソかきながら、髪の毛を整えているフリルフレアを見て、スミーシャがズイズイっと近づいてくる。
「やだ、何このかわいい生き物……」
「ミィ?」
半ベソのままスミーシャを見上げたフリルフレア。そんな彼女を見て、キュンキュンしたのかスミーシャが思いっきり抱きしめてくる。
「やだ、フリルちゃんかわいい!ねえねえローゼ!持って帰っていい⁉」
「良い訳ないだろう……」
フリルフレアを抱きしめているスミーシャをジト目で睨んでいるローゼリット。自分の仲間の行動についていけていない感じだった。
「ねえねえフリルちゃん、よかったらこの冒険の後あたしたちのパーティーに入らない⁉」
「おい、何ひとの相棒を勝手に……」
「ミィィ、ごめんなさいスミーシャさん」
スミーシャの勧誘の言葉にドレイクが抗議をし終える前にフリルフレアの口から拒否の言葉が出ていた。
「お気持ちはうれしいんですけど、私はドレイクと運命共同体なんです」
「な……運命⁉」
フリルフレアの言葉に驚きの声を上げるスミーシャ。まあ、いきなり運命なんて言われたら誰だって困惑するではあろうが………。
ショックを受けたようなスミーシャだったが、すぐにドレイクのことをキッと睨みつける。
「ちょっと赤蜥蜴!フリルちゃんをどうやって洗脳したの⁉」
「してねーよ。そもそもコンビ組もうって言いだしたの赤羽根の方からだぞ?」
「ガーン!」
何やらショックを受けて膝をついて項垂れているスミーシャ無視して、ドレイクは依頼書を取り出した。
「それじゃ、今回だけの一時的なパーティーだがよろしく頼む。明日の昼前に出発するから準備をしておいてくれ」