第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 プロローグ
今回から細かい区切りで投稿していきます。何卒宜しくお願い致します。
赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器
プロローグ
そこは祭壇のような場所だった。その祭壇の奥には巨大な縦穴が開いており、暗く深いその縦穴の中を窺い知ることはできなかった。それでも何か蠢く様な音だけはかすかに響いていた。
「ハハハハハ!ついに!ついにこの時が来た!生贄の数はすでに96人、後4人で100人に達する!そして、魂の宝珠もこちらに向かっている!」
魔導士風の人影が高々と笑い声をあげる。その人影の前には跪く人影が一つ。
「どれほどこの時を待ちわびたことか!かのお方がついに復活されるのだ!」
「はっ……」
祭壇の前で叫ぶ人影に、跪いた人影は同意とばかりに頷く。
「あのお方を復活させ、裏から操り世界を我が前に跪かせてくれる!そうだ!このラパーサこそがこの世界…ゴフ!」
ブシュ!
次の瞬間跪いていた人影が一瞬で剣を引き抜くと目の前の魔導士風の人影の胸を刺し貫いていた。
「……あ……が…き、きさま…」
「バカめ!ランキラカス様を蘇らせるのはこの俺だ!貴様などにランキラカス様を操られてたまるか!死ね!」
そのまま人影は剣を引き抜くと、魔導士風の人影を大穴に蹴り落とした。
「餌にでもなっていろ。はーはっはっはっはっは!」
人影の笑い声が祭壇に響き渡った。
「ドレイク、どんな依頼が良いかな?」
「討伐系」
「……即答だね」
「その方が簡単だからな」
「それはドレイクだけだよ。私は毎回死にそうな目に合ってるんだけど…」
ドレイクをジト目で睨むフリルフレア。
アサシンギルドの一件から3週間程が経過していた。その間ドレイクとフリルフレアはランク1~3向けの依頼を中心に仕事をしながら生活していた。そして先日フリルフレアは遂にランク2に昇格。それを機会にドレイクの得意とする討伐系の依頼も受けだしたのだが、そのたびにフリルフレアは大変な目にあっていた。
それ故、今度はそれ以外の仕事を受けようと思い冒険者ギルドを訪れたのだがドレイクが相変わらずの為先ほどの会話に至っていた。
「高ランクの仕事はどんなのがあるのかな?」
「高ランクはまだやめておいた方が良いだろ」
「見るだけ見るだけ」
そう言ってフリルフレアはベテラン向けのランク10以上推奨の掲示板に近寄っていく。
「あ、このクエストまだ残ってるんだ」
「ん?何の依頼だ?」
「ほらこれ」
そう言ってフリルフレアが指さした場所には『推奨ランク15オーバー、求む真の勇者!魔王フォルテスタント討伐』と書かれた依頼書が貼ってあった。
「まだ残ってるって言うか……誰もこんなクエスト受けないだろ……」
ドレイクが胡散臭そうな視線を依頼書に向ける。
「え、そうなの?冒険者ってみんな勇者になって魔王退治がしたいんじゃないの?」
「最初はそう思っていても、大概のやつは冒険者になってすぐに現実を知ることになるさ」
「現実って?」
「普通の冒険者じゃとてもじゃないが魔王討伐なんて無理ってこと」
「無理なの?」
フリルフレアの言葉にドレイクはジト目を送る。
「当たり前だろ。魔王がそんな簡単に倒せたらとっくの昔に勇者がわんさか誕生してるっての」
「あ、なるほど」
納得するフリルフレア。それを見てドレイクは肩をすくめた。
「まあ、フォルテスタント討伐なんてやってのける奴がいたら今頃大騒ぎになってるってことだな」
「……………」
「…どうした?」
ジッと見つめてくるフリルフレア。ドレイクは何か無言の威圧の様な物を感じる。
「何でフォルテスタントっていう名前は覚えてるの?」
「いや、そこに書いてあるし」
依頼書を指差すドレイク。
「それに冒険者なら魔王の名前くらい覚えておいた方が良いだろ」
「じゃあ、わざわざ魔王の名前は覚えたの?」
フリルフレアの疑問に、ドレイクは首を横に振る。
「いんや、何か知らないが元々覚えてた」
「つまり、たまたま覚えていただけじゃない」
「まあ、そうとも言うが……」
フリルフレアにツッコまれ、若干苦い顔をするドレイク。
「でも、お前も冒険者なんだから魔王の名前くらい覚えておいた方がいいぞ?」
「まあ……確かにそうだけど」
若干話題を逸らすドレイクと、それに乗るフリルフレア。
「魔王は全部で7体。それぞれ7つの大罪を司っているんだ」
「大罪?」
「ああ。魔王序列第1位が強欲を司る魔王、ゼノガイア。序列2位が憤怒の魔王カオスラグナ。3位の魔王が怠惰を司るべラルド。4位は傲慢の魔王でこれがフォルテスタント。序列5位は嫉妬の魔王であり、ゼノガイアの魔王妃でもあるシャミーラ。6位はランキラカス、この間の口目玉野郎とかの親玉だ。司るのは暴食。最後の7位はエロ魔王でメルベクリクスだ」
「エロ魔王?……あ、色欲ってことね」
ドレイクの非常に分かりずらい説明だったが、何とか理解するフリルフレア。だが、何か疑問があるのか人差し指を顎に当てて何か考えている。
「でもドレイク、何で討伐の依頼が出ているのがフォルテスタントだけなの?」
「ああ、それはフォルテスタントだけ人間界に進出してきてるからだろ」
「進出?」
「ああ、奴だけは人間界に根城を作ってそこに居座っているからな。他のやつらは大体魔界にいるけど」
「ふ~ん」
何やら納得しているのかしていないのか微妙な返事をするフリルフレア。
「ドレイクは魔王倒せないの?」
「お前なあ……無理に決まってるだろ。この間の口目玉野郎に散々苦戦したの忘れたのか?魔王はあんなのよりはるかに強いんだぞ?」
「あ、そっか」
「そもそも魔王と対等に渡り合えるのなんて神か竜王ぐらいだろう」
「そうなんだ」
そう言ってフリルフレアは掲示板に視線を戻す。どうやら一応は納得してくれたようだ。そして次の依頼書を指差した。そこには『推奨ランク10オーバー、魔法職限定、稀代の奇病、竜腐病治療法の調査』と書かれた依頼書が張ってある。
「それじゃ、これってどういう依頼なの?」
「竜腐病の調査か……」
ドレイクは少し苦い顔をする。
「書いてある通りだろう。竜腐病って言う奇病の治療法の解明だ」
「竜腐病って?」
「竜腐病って言うのは竜種だけがかかるとされている奇病なんだ。発症した竜は狂って暴れまわるようになって、最後は死んじまうらしい」
「竜しかかからないの?」
「ああ、そうらしい」
ドレイクの言葉に、人差し指を顎に当てた何やら考え込むフリルフレア。
「じゃあ、これって竜からの依頼なの?」
「いや、それは無いだろう。竜はプライド高いから人間の冒険者に頼もうなんざ思わないだろうし。恐らくは竜を崇める者、俺みたいなリザードマンからの依頼だろう」
「あ、そっか。リザードマンって竜の眷属で、竜王様に仕えているんだもんね」
納得したとばかりに頷くフリルフレア。そのまま次の依頼書へ視線を送る。
「あ、ランク11になるとフェニックスの卵の探索ができるんだ」
思わず生唾を飲み込むフリルフレア。そんなフリルフレアにドレイクがジト目を送る。
「お前今『フェニックスの卵でオムレツ作ったら美味しそう』とか考えてただろ」
「そ、そそそそんなこと考えて無いよ!」
「どもりすぎだろ」
「ほ、本当だよ!だって考えてたのはオムレツじゃなくてプリンだもん!」
「食べるつもりなのは同じじゃねえか……」
呆れるドレイクだったが、フリルフレアは必死に「違うもん!」とか言っていた。
そんなフリルフレアを無視してドレイクは掲示板に視線を戻す。そこには『推奨ランク13、深淵の魔穴の調査』『推奨ランク10、巨人種の残した魔法遺跡の調査』『推奨ランク13獄魔獣ザンゼネロン討伐』『推奨ランク10死霊城と噂される古城の調査』『推奨ランク15、暴竜アウドラギウス討伐』などの依頼が貼られていた。
「亡霊船の依頼は誰かが受けたみたいだな……」
顎に手を当ててそんなことを呟くドレイク。横を見れば、フリルフレアも再び掲示板に視線を戻していた。もっとも、人差し指を顎に当てた何やら考え込んでいたのだが……。
そんなフリルフレアを見ていたドレイクだったが、特にこの場に用も無くなったので元の仕事探しに戻ることにした。
(まあ、こんな高ランクな依頼はフリルフレアと一緒じゃ無理だろう。こいつがもっと強くなったら考えてやらなくもないけど……)
そんなことを考えながらこの場を離れようと後ろを向くドレイク。しかしそんなドレイクのマントをクイクイと引っ張る者がいる。後ろに視線を送ると、フリルフレアが掲示板を見上げたままドレイクのマントをクイクイと引っ張っていた。
「何だよ」
「ねえドレイク、暴竜って?」
「暴竜?」
フリルフレアの視線を追うと、『推奨ランク15、暴竜アウドラギウス討伐』と言う依頼書が貼ってあった。
「知らん、恐らく狂暴な竜なんだろう」
「ドレイクも知らないの?」
「少なくとも、暴竜なんて呼ばれてる竜には心当たりがないな……。アウドラギウスって名前には何となく聞き覚えがあるけど……」
「へええ、そうなんだ。何処で聞いたの?」
「何処って……」
頭の中で考える。アウドラギウスという名前には確かに聞き覚えがあった。だがそれをどこで聞いたかと言うと………。
ズキ…。
頭の奥が鈍く痛む。…………何も思い出せなかった。確かに聞き覚えのある名前だが、それに関することはポッカリと穴が開いた様に何も思い出せない。それに無理に思い出そうとすると頭の奥が鈍く痛んだ。
「思い出せないな……」
「え?思い出せないの?」
「ああ……。恐らくだが……この名前を聞いたのは俺が記憶を失う前だったのかもしれないな。だから思い出せないんだろう」
「あ、なるほど……」
納得するフリルフレア。ドレイクも知らないとなるとこれ以上調べようもなかった。
「でも、何が気になったんだ?」
ドレイクの問いにフリルフレアは「えへへ」と言いながら頭の後ろを掻いた。
「ほら、こういう二つ名ってすごい人にしかつかないじゃない?この場合は竜だけど……。だからこの暴竜さんもすごい人……じゃなくて竜で、例えば竜王様なのかなー?…って思って」
「…………」
案外しょうもない理由だったので思わずジト目で睨むドレイク。
「竜王に討伐依頼なんか出てたら仕えてるリザードマンの部族全てを敵に回すようなもんだぞ?そんなことある訳ないだろ」
「そうれもそうだね」
そう言うとフリルフレアは「違ったか~」などと言いながらその場を離れていった。ドレイクはため息をつきながらその後を追った。
 




