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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第6話、第二の悪夢・双子 その9

     第6話その9


「喰い殺されたって一体どういうことですか⁉何でそんな………」

 思わずドレイクに掴み掛るアレイスロー。ドレイクがロックスローの死因について隠していたことがあり、さらに実はロックスローはただ殺されただけではなく悪魔に喰い殺されたというドレイクの言葉に、流石のアレイスローも動揺を隠し切れなかった。そして動揺しているのはロックスローの方も同じ様子だった。

「あ、あなた……い、一体何を言っているんですか⁉わ、私が……く、喰い殺されただなんて………」

 動揺からか思わず言葉を噛みまくっているロックスロー。ドレイクを指差しながら睨み付けているがあまり様になっていない。

「俺も直接見た訳じゃないんだけどな。けど、これは人から聞いた話だが確かな情報だぜ」

「人から聞いた話なのに確かな情報?どこかの情報屋にでも聞いた話なんですか?生憎ですがこっちは私の……被害者本人の話なんですよ。これほど確かな情報はありませんよ。……そう言う訳ですからアレイスロー。その方の胡散臭い情報をうのみにしてはいけませんよ。私は本物のロックスローです」

 いくらか動揺も収まったのか言葉を噛むことは無かったがそれでも少々早口にそうまくしたてるロックスロー。アレイスローは戸惑ったようにドレイクとロックスローを見比べている。だがドレイクの方は腕を組み、首を横に振りながらため息をついていた。

「生憎だが、俺の方も情報の信憑性じゃ負けてないんだよ」

「な、何ですって……」

 ドレイクの態度に再び動揺がにじみ出るロックスロー。ドレイクはそんなロックスローを睨みながら口を開く。

「お前の方が被害者の情報なら、俺の方は加害者の情報なんだよ」

「か、加害者……?」

「俺は金髪優男を殺したバルゼ何とかっていう悪魔侯爵野郎から直接その話を聞いたんだ。本物の金髪優男を喰い殺してその能力を奪い取ったってな!」

「………!」

 ドレイクの言葉に思わず言葉を失うロックスロー。そのまま歯軋りをしドレイクを睨み付けている。被害者と名乗る者の証言、加害者から直接聞いた証言、信憑性としては五分と言えるかもしれない。

「…………ドレイクさん」

 まだ迷っているのかアレイスローはドレイクの方を見ながらも目を合わせられないでいた。彼の心の中では目の前の兄を信じたい心と、仲間であるドレイクを信じたい心がぶつかり合っているのだ。それにドレイクが告げた真実があまりに残酷だったためそれを信じたくない気持ちもあったかもしれない。アレイスローの気持ちはどちらかと言えばロックスローの側に傾いていた。

 そんな仲間の心の中の葛藤が見えている訳では無いのだろうが、ドレイクは静かにアレイスローの肩を叩いた。

「どっちを信じるかはお前しだいだ。お前が自分で決めればいい。……まあ、俺は前の悪夢を作った悪夢野郎にかけられた呪いのせいで奴らの親玉を倒さないと悪夢から脱出できなくなっちまったからな。マジロ何とかとか言う悪夢野郎は倒させてもらうけどな」

 そう言ってドレイクは親指をグッと立てる。まるで「お前はお前の信じる道を行け!」とでも言っているようだ。

 ドレイクの言葉に思わず悩むアレイスロー。ドレイクにはどちらを信じるか自分で決めろと言われたが、どうするべきか決めかねていた。だが、同時にドレイクが気になることを言っていたのに気が付いた。

「ドレイクさん、今言った悪夢から出られない呪いって……?」

「ん?ああ……俺が最初に落ちた悪夢…ここに来る前に居た悪夢なんだが…そこでその悪夢を作った主、トウキー何とかって奴を倒したんだがその時に呪いを受けてな、奴らの親玉のカッド何とかって奴を倒さないと悪夢から脱出できなくなっちまったんだ」

「親玉……つまりナイトメアロードを倒さないと悪夢から出られない呪い⁉それではナイトメアロードを倒さないと結局私達も脱出することは……」

「いや、どうやら出られないのは俺だけらしい。他の奴らは脱出した形跡があった」

 安心しろと言いたげに首を振りながらそう答えるドレイク。だが、そんなドレイクとアレイスローのやり取りのよそに驚愕の声を上げる者がいた。

「な、何じゃと⁉……まさかトウキートが倒されたというのか!」

 声を上げたのはずっと黙って事の成り行きを見ていた族長だった。信じられないものを見る様な眼でドレイクを見ている。

「トウキー……そうだな、確かそんな名前だったぜ」

「ありえん!あ奴はカッドイーホ様の一番の部下じゃぞ⁉」

 動揺しているのか突然饒舌になる族長。杖を放り出し、その場をウロウロし始める。その族長の様子にアレイスローは唖然となっていた。先程までヨボヨボのシワシワでプルプル震えていたくせに突然元気になったように見える。

「あ、あの………族長?」

 ロックスローの方も面食らったのか、思わず眼が点になっている。だが、族長は急にピタリと足を止めるとそのままドレイクとアレイスローの方を指差した。

「こうなったらやむを得ぬ!ロックスローよ、弟共々あのリザードマンを殺すのじゃ!」

「こ、殺す⁉」

 族長の言葉にロックスローが慌てた様な声を出す。

「族長!話が違うじゃないですか!アレイスローは私と一緒にこの夢の世界で暮らして構わないって……」

「ええい!黙らんか!アレイスローの記憶から作り出した偽物のくせに!」

 族長のその叫びにその場の空気が一瞬で凍り付く。

「ぞ、族長……今なんて……?」

「に、兄さんが……私の記憶から作り出した偽物…?」

 ロックスローとアレイスローの言葉にハッとする族長。どうやら動揺しすぎて自分が失言していたことに気が付いていなかったらしい。だが、すぐにニヤリと嫌な笑みを浮かべる。

「フン!そうじゃよ!お前はアレイスローの記憶から作り出した偽物。アレイスローをこの悪夢の中に引き留めるための駒でしかないわい」

「そ、そんな………」

 あまりのショックに思わずその場で膝から崩れ落ちるロックスロー。アレイスローもショックなのかその場に立ち尽くしている。だが、そんな中ドレイクは族長を睨み付けていた。

「おい族長野郎。今の話から察するに………お前が悪夢野郎だな?」

「悪夢野郎?…妙な呼び方をしおって………そうじゃ!ワシがこの悪夢の主!ナイトメアのマジロッヒ様じゃ!」

 そう叫ぶと族長……マジロッヒは指をパチンと鳴らした。

ザザ!ザザザッ!

 次の瞬間そんな音を立てて何人ものエルフが木々の間から姿を現わした。ドレイク達の後ろから追って来ていていつの間にか姿が見えなくなっていたエルフ達も姿を現わしている。エルフ達は各々武器を手にしている。

「良いかお前達!このリザードマンとアレイスローを殺せ!息の根を止めるんじゃぁ!」

 マジロッヒが叫んだ瞬間その場にいたエルフ達の姿が一変する。全員目が真っ赤に血走り、肌がまるでダークエルフのように……いや、それ以上に黒くなっていく。そして口が耳元まで裂け、そこには鋭い牙がズラリと並んでいる。エルフ達が化け物のように変わっていく光景はさながら悪夢のようだった。

 そしてその変化は………………ロックスローにも起きていた。ロックスローは「うぐ!が!あがああああああ!」と叫び声をあげながら他のエルフと同様に目が血走り肌が真っ黒に染まり口が耳まで裂けていく。

 その光景に愕然とするアレイスロー。偽物だったとはいえ、目の前で兄が化け物になったのだ。そのショッキングすぎる光景に目を覆いたくなる気分だ。

 そしてそんなアレイスローの横に立つドレイクは既に鞘から大剣を引き抜いている。アレイスローも杖を構え静かに深呼吸していた。

「ドレイクさん………兄は私が…やります。……手出し無用でお願いします」

「……分かった。それなら周りの似非ダークエルフとあの悪夢野郎は任せとけ」

 アレイスローとドレイクがアイコンタクトを取り互いに頷いた瞬間、まわりの黒いエルフ達が一斉にドレイク達に襲い掛かって来たのだった。


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