第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第6話、第二の悪夢・双子 その3
第6話その3
無事里の共同墓地にウサギを埋葬し終えたアレイスローとロックスロー。結局ウサギをただ無駄に殺しただけだったことに気が付いたアレイスローだったがその事は心の中に止めておく。余計なことを言って族長の大目玉を喰らったらたまったものではないからだ。
そして今日の仕事も終わったと言う事で、夕食を摂ることにした。正直な話空腹感ものどの渇きも全く感じていないアレイスローだったが、今食べておかないと明日の朝まで何も食べられないので一応食べておくことにする。
ロックスローの用意した夕食のメニューは………野菜スープと山盛りの生野菜だった。
確かにエルフはよく野菜を食べる。森に住むエルフには菜食主義者も多い。だがしかし、菜食主義者だからと言ってこんなに山ほど生野菜を食べる奴は中々いない。
しかしここにきてアレイスローは兄の好みを思い出していた。ロックスローは生野菜が大好物なのだ。生のキュウリやキャベツ、玉ねぎなんかに塩を振ってバリバリ食べるし、トマトやニンジンは何もつけずにそのまま食べる。自分の兄ながらピーマンを生のまま丸ごとかじり、「やはりピーマンはこの苦みが良いですね」とか言いながら嬉々としてモリモリ食べている様子を見た時はさすがに自分の眼を疑った。
という訳で、そんな生野菜大好きエルフのロックスローが用意した夕食なので生野菜が盛り盛りの増し増しになっているのは当然のことだった。
兄に夕食の用意を頼むべきではなかったと今さらながらに思う。
正直に言えば、魚くらいは食べたかったアレイスローだが完全に後の祭りだった。
「はぁ………」
思わずため息がが出るが、それを見たロックスローがアレイスローにジト目を送っている。
「何ですかそのため息は?人に夕食の準備をさせておいて随分な態度ではないですか」
「あ、いや、兄さんさすがにこれは……」
「まったく文句だけ言っていればいいとは随分良い御身分ですねぇ?」
「……………」
思わず、「そこまで言わなくても良いじゃないか」と思うアレイスローだったが、これ以上余計なことを言うと夕食を没収されかねないので我慢する。
「まあ、いいでしょう。それよりさっさと夕食にしましょう」
そう言うとロックスローはさっさと卓に着く。そして足元から瓶を取り出した。その瓶の中にはわずかに色の付いた透明がかった液体が入っている。それを見たアレイスローは急いで食卓に着いた。その瓶の中身は恐らくアレイスローも好きなものだ。
「兄さん、それは?」
「白の葡萄酒ですよ。お前も好きでしょう?」
そう言ってパチリとウィンクしたロックスローは手際よく葡萄酒の栓を開ける。そして自分とアレイスローの杯に白の葡萄酒をなみなみと注いだ。
「さて、それでは食べましょうか」
「そうだね兄さん。いただきます」
「はいはい、召し上がれ」
アレイスローはさっそく葡萄酒に手を付けた。口に含むと爽やかなブドウの風味がする。
わずかに黄色がかった透明な白の葡萄酒はまだ若く、それほど熟成していないものだったのだろうが、それでもブドウの香りとかすかな甘みを感じさせる。今現在全くのどの渇いていないアレイスローだったが、それでもこの白の葡萄酒はおいしく感じられた。
「やっぱり白の葡萄酒が一番だね」
「その意見には賛成ですね。赤も悪くないですが少し渋みがありますからね。やはりこのスッキリとした味わいは白ならではですね」
アレイスローの意見に賛同したロックスローはキュウリを手に取ると、塩を振ってバリバリとかじっている。そしてキュウリを呑み込むと、再び白の葡萄酒に口を付けた。
「やはり生野菜には白の葡萄酒が一番合いますね」
「そ、そうだね。あははは……」
ロックスローの言葉に若干乾いた笑みを浮かべるアレイスロー。兄の意見に賛同してあげたいところだが、正直な話生野菜をそのまま食べることがそれほど好きではない。別段嫌いとまでは言わないが、少なくとも兄ほど好きだとは言えなかった。
とりあえず野菜スープを口に運ぶアレイスロー。野菜スープは文字通り野菜しか入っておらず肉類が入っていないため出汁の面でどうしても旨味にかけるように思える。だが、この野菜スープは野菜の甘味や旨味がしっかりと出ており、しっかりと塩胡椒が効いているのもあって十分に美味しかった。
(野菜スープを飲むと、フリルフレアさんの作ってくれた野菜スープを思い出しますね……………フリルフレアさんって誰でしたっけ?)
突如思い浮かんだ名前に困惑するアレイスロー。フリルフレアという名前に聞き覚えがある様な気がしたが、残念ながらそんな名前の人物に心当たりはなかった。
気を取り直し生野菜にも手を出すアレイスロー。それほど好きではないのだが、野菜スープだけを食べている訳にもいかない。兄に何を言われるか分からないからだ。むいた生の玉ねぎを丸ごと一個手に取り、上から塩を振る。そして大きな口を開けてガブリとかぶり付いた。
「うぐ!か、辛!」
生の玉ねぎの辛さに思わず吐き出しそうになる。しかも齧った時に玉ねぎの汁が眼に飛んだのか眼がすごく痛い。涙がポロポロとこぼれ落ちていく。
「め、眼まで痛くなってきた……」
そう言って眼を押さえているアレイスローを見てロックスローが呆れたようにため息をついている。
「馬鹿ですねえ。そんなに勢いよく嚙り付いたら玉ねぎの汁が飛ぶに決まってるじゃないですか。玉ねぎはもうちょっと静かに食べないと」
そう言ってロックスローは生の玉ねぎを取ると塩を振った。そして端から盛大にかぶり付く。だが、アレイスローの時とは違い汁はほとんど飛んでいなかった。そんな兄にアレイスローは恨めしそうな視線を送っている。
「兄さんだって十分勢いよくかぶり付いてる様に見えるけど……」
「私の場合は汁を飛ばさないコツみたいなものがあるんですよ」
そんなことをいけしゃあしゃあと言うロックスロー。不公平だと思いながら兄に視線を送っていたアレイスローは腹いせだとばかりにもう一度玉ねぎにかぶり付き、再び玉ねぎの汁の洗礼を受けるのだった。




