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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第5話、第一の悪夢・吸血 その13

     第5話その13


「おのれ……!ならば『赤子』と『若人』の攻撃を喰らうがいい!」

 トウキートの叫びに応えるように赤ん坊の顔をした『赤子』と青年の顔をした『若人』が首を伸ばしていく。そして『赤子』も『若人』もその口を大きく開けている。特に『若人』の方は『翁』よりもすさまじい口の開き方であり、耳元まで裂けた口からは鋭い牙が何本も覗いている。そして『若人』がその首をドンドン伸ばしていく中、『赤子』はある程度まで首を伸ばすとそこで動きを止める。そして大きく開けた口からすぐに凄まじい音量の泣き声を上げ出した。

「ぼぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!ぼぎゃあ!ぶぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!」

 赤ん坊らしく泣き声を使った騒音攻撃だった。凄まじい音量の泣き声に周囲の建物が震え、わずかに残った窓ガラスが粉々に砕けていく。

「見たか!これが『赤子』の死の叫びよ!この叫びの前でもがき苦しむがいい!」

 優位になったと思った瞬間得意げになるトウキート。だが、トウキートがドレイクに視線を向けた時、その眼を見張った。

 ドレイクは………大剣を地面に突き立て、両手で自分の両耳をしっかりと塞いでいた。思わず呆然とドレイクを見つめるトウキート。ドレイクが何故両耳を塞いでいるのか不思議でならない様子だった。

「な、何………?」

「あ、どうした?もう終わったか?」

 そう言ってドレイクは耳から手を離す。既に『赤子』の泣き声は止んでいたが、それでもまだ空気が震えているように感じられる。

「き、貴様……何故耳を塞げたんだ!」

「何故って…………いや、赤ん坊の顔で泣き声の騒音攻撃ってさすがに安直だろ」

「ぐ…安直だと……」

「さすがに俺でも分かるぜ。もうちょっと捻った方が良いんじゃないか?」

「おのれ!」

 次の瞬間トウキートは両手の爪を振りかざしドレイクに襲い掛かる。もちろん『赤子』はいつでも鳴き声の騒音を出せるよう口を大きく開けていたし、『若人』もそれ以上に大きく口を開けてその牙をカチガチと鳴らしている。

「死ねえええ!リザードマン!」

 トウキートは振り上げた爪を全て一気に振り下ろす。ザシャアアアン!と轟音を上げて地面を砕くトウキートの爪。ドレイクは一瞬早く地面から大剣を抜き放ちその場から飛び退き退避していた。だがそんなドレイクに『若人』が迫る。大きく開いた口がそのままドレイクの左腕に噛み付いていた。

ガブリ!ブシュ!

 嫌な音を立てて『若人』の牙がドレイクの左腕に食い込み、突き刺さる。

「チィッ!」

 思わず舌打ちするドレイク。地面から大剣を抜く時左手で抜いたため大剣をそのまま左手に持っていたドレイク。噛みつかれた痛みに思わず大剣を落としそうになるが、それに必死に耐える。

「おぎゃあ!おぎゃあ!ぼぎゃあ!おぎゃあ!ごぎゃあ!」

 さらに続けて『赤子』の泣き声が響き渡る。あまりの騒音に思わず右手で耳を押さえるドレイク。

「うがあああ!うるせえ!」

 思わず叫ぶドレイク。そして次の瞬間ドレイクは『若人』の横面に向けて拳を叩き込んでいた。ゴキィ!と音を立てて『若人』の頭が殴り飛ばされる。だが、『若人』の牙は抜ける際に一部ドレイクの腕の肉を抉っていく。そして傷口からは血が溢れ出してきた。

 思わず顔をしかめるドレイク。それは果たして痛みのせいか、騒音のせいか……。

 とにかく『若人』から解放されたドレイクはさらに一歩飛び退くと、そのまま足元に転がっている瓦礫を拾い上げた。そして振り被るとトウキートに向けて思いっきり投げつけた。

「うるせえ!クソガキ!」

ガゴン!

 ドレイクが投げつけた瓦礫は狙い通りに『赤子』の顔面に命中する。

「ぶぎゃ!」

 泣き声以外の声も上げられるのか妙な悲鳴を上げる『赤子』。そして同時に泣き声が止まったため騒音が止んでいる。その瞬間をついてドレイクは大剣を右手に持ち替えるとそのまま一気にトウキートに接近した。だが、トウキートもドレイクの接近に対し、10本の爪で迎え撃つ。ドレイクの大剣とトウキートの爪がぶつかり合う。

ギキィン!キィィン!ガァン!ガキイィン!

 凄まじい大剣と爪のぶつかり合い。だが、すぐに『赤子』と『若人』が首を上げてくる。そして二つの頭が再び口を開いたその瞬間だった。

「これで、どうだーーー!」

ボウオオオオオオオォォォォ!

 ドレイクの口から灼熱の炎のブレスが撃ち出される。そしてそれは狙いを違わず『赤子』の顔面に命中していた。

「ぼぎゃあ!ごぎゃあ!ばぎゃ!ご…がが……」

 すぐに火だるまになり、それあわせて泣き声も消えていく。『赤子』の頭部は物の数秒で消し炭になっていた。

「ぐぬぬ!おのれ!」

 悔しそうなトウキートの声が響き渡る。だが、次の瞬間ドレイクの脇腹に激痛が走った。気が付けばいつの間にか後ろに回し込んでいた『若人』がドレイクの脇腹に噛み付いている。

「クソッ!」

 悪態をつきながらドレイクは『若人』に大剣の柄を思いっきり叩き込む。グシャッと潰れるような感触が柄ごしに伝わってくるが、『若人』はまだ離れない。その瞬間ドレイクは『若人』の顎を左手で掴むとそのまま思いっきり握り潰した。

ゴキ!バキ!

 顎の砕ける音が響き渡り、そのままドレイクの脇腹から牙が抜けて地面に落ちる『若人』。だがドレイクはその隙を逃さない。そのまま一歩踏み込み『若人』の首を踏みつけると、そのまま大剣を一閃させ首を切断した。さらに念のため『若人』の顔面に大剣を突き立てておく。

「ぐぬ!お、おのれ……」

 ついに残りの顔がトーキの顔だけになったトウキート。悔しそうに歯軋りしているが、それでもドレイクを殺すために再び爪を振りかざす。

「なぶり殺しにしてくれる!」

「生憎だが御免被るぜ!」

 叫びながら再び激突するドレイクとトウキート。トウキートは爪を振りかざしながらその指一つ一つが別の生き物のような滑らかで奇怪な動きをしている。対してドレイクは大剣を振り被りながら全身に「氣力」を巡らせる。そしてさらに全身に行き渡らせた「氣力」を今度は大剣の刀身に集中させていった。

 これらの氣力を扱う動作を接近するまでの間に済ませるドレイク。以前に比べてだいぶ氣力の扱いが素早く正確になってきている。そして氣力を刀身に集中させたことで刀身が薄く赤い光に包まれている。これがドレイクの氣力の色なのだろう。

「死ねええええええ!」

「チェストオォォーー!」

 そしてドレイクの大剣とトウキートの10本の爪がぶつかり合い………。

バキガキイィィン!

 甲高い金属音が響き渡る。そして…………叩き折られ弾き飛ばされたトウキートの爪が何本も地面に落ちていった。

「バ、バカな!我が爪が!」

「遅せえ!テァリャアアアア!」

ザシュ!

 さらにドレイクの大剣の一閃がトウキートの左腕を斬り飛ばす。片腕になり半ば呆然とし始めるトウキート。

「まだまだぁ!」

ザバアァン!

 さらに大剣を一閃させるドレイク。トウキートの下半身を半ばで斬り裂いていた。そこからは今まで吸った分なのか人間の赤い血が溢れ出している。

「止めだ!」

 大剣を振り被るドレイク。だが次の瞬間トウキートは「ま、待て!ちょっと待ってくれ!」と右手を突き出して懇願してくる。そしてそのままトウキートの姿は以前のトーキの姿になっていった。その様子に思わず振り被っていた手を下ろすドレイク。

「ま、待ってドレイクのおじちゃん!おじちゃんは何でトーキのことイジメるの⁉やめてよ!もうこれ以上トーキのことイジメないで!」

 そう涙ながらに訴えるトウキート。幼女の姿で訴えてはいるが、その姿はかなりボロボロだ。左腕は無いし、下半身もボロボロで血まみれ、全身が傷だらけだった。だがそんな姿だからこそ同情を誘えると思ったのだろう。トウキートの行動は明らかに保身のための行動だった。そして……………そんな手に引っかかるドレイクではなかった。

「生憎だが、お前に同情するつもりは無い」

 その瞬間ドレイクは一気に大剣を突き出した。

ズブリ……。

 ドレイクの大剣が幼女の姿をしたトウキートの身体の中心を貫く。

「ごは!………き、貴様……こんないたいけな幼女が懇願しているのに……」

「本当にいたいけな子供は自分の事をいたいけだ何て言わねえよ」

 そう言うとドレイクはトウキートの身体から大剣を引き抜いた。それに合わせてトウキートがドシャッと音を立てて地面に倒れ込む。

 血が流れ、ピクピクと痙攣しだすトウキート。

「おのれ……おのれリザードマン……カ、カッドイーホ様の…一番の部下であるこの我が……こんな奴に…」

 ドレイクによってもたらされた敗北に悔しさをにじませるトウキート。そのまま歯を食いしばりながらドレイクを見上げる。

「だ、だが……ただでは死なん……貴様に…貴様に呪いをかけてやる!……カッドイーホ様を…倒さなければ……悪夢から出られなく…なる呪いを……な!」

 そう言った瞬間、トウキートの身体から黒い霧のような物があふれ出る。そしてその霧のような物は流れるようにドレイクに絡みつくとそのままドレイクの中へと入り込んでいった。

「うお⁉な、何だこりゃ⁉」

 思わず驚きの声を上げるドレイク。だが既に黒い霧のような物はドレイクの中に入り込んだのか、辺りには見当たらなくなっていた。

「くくく………せいぜい………悪夢を…楽しむ……が……………いい……」

 その言葉にドレイクは再びトウキートに視線を向ける。だが、トウキートの身体はすでに崩れ始めており、すぐに黒いモヤのようになって消え去ってしまった。

「何だったんだ、一体?」

 トウキートの「呪い」と言う言葉が気になったが、とりあえず何ともない。ドレイクが頭を捻っていると背後から足音が聞こえた。

「やったじゃないかドレイク!」

「あ、あんなに大きな怪物を一人でやっつけるなんて……ドレイクさん、すごいです」

 そう言いながらベルベラとフェミリンがドレイクのもとにやってきた。フェミリンはちゃんと隠れていたらしく無傷なままだったし、ベルベラも多少の傷があったが無事ラージデビルモスキートを倒した様子だった。

「あの……でも、私達この後どうなっちゃうんでしょうか?」

「ここは悪夢の中だって話だから、眼が覚めると良いんだけどね」

 不安げなフェミリンと周囲を見回しているベルベラ。周りからデビルモスキートが現れそうな気配はない。

「これからどうすべきかね?」

「さあな、まあ……なるようになるんじゃないか?」

 この後どうなるかなど全く想像できないドレイク。ベルベラの言葉にも適当に答えながら大剣を鞘に納めた。

「でもあの野郎、俺に対して呪いがどうだとか言ってたが………」

 ドレイクがそんな独り言を呟いた瞬間だった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 突如すさまじい揺れが世界を襲った。それは本当に世界が揺れているのではないかと思えるほどの振動だった。


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