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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第5話、第一の悪夢・吸血 その12

     第5話その12


「おのれ!おのれおのれおのれ!よくも我が眷属達を……」

 歯軋りしながらドレイクを睨むトーキ。もはや子供のふりをする余裕すらないのか先程までと口調が変わっている。

「どうした?お子ちゃまのふりはやめたのか?口調に素が出てるぜ」

「黙れ!……おのれ下等なリザードマン風情が…調子に乗りおって!」

 次の瞬間トーキの身体がビクンと震える。そしてガクガクと震えるとそのまま体が膨れ上がっていく。そして巨大化し変化していくその姿は……どう見てもデビルモスキートのそれだった。

 今やトーキの身体は10m近い巨体を持つ蚊の化け物の姿になっていた。ただ、蚊と言ってもその腕や脚は太く人間の脚の様にも見える。太く筋肉質に見えるその腕の手の指先からは長く細く鋭い爪が伸びており、頭に当たる部分には顔が5つついている。顔は右上に若い男の顔、左上に太った中年女性の顔、右下に年老いた老人の顔、左下に赤ん坊の顔、そして中心にトーキの顔が付いていた。

「このトウキート様か本当の姿を現わしたからには、お前達にはここで死んでもらうぞ!」

 トーキ………いや、トウキートはそう叫ぶとデビルモスキート達をドレイク達にけしかける。残りのデビルモスキートはラージが1匹に通常のデビルモスキートが5匹。それらがドレイク達に向けて襲い掛かってくるが、ドレイクは口の端から炎を燻ぶらせながらニヤリと笑みを浮かべていた。

「いつまでザコの後ろに隠れてるつもりだよ。こっちは苛立ってるんだ、暴れさせてもらうぜ!」

 次の瞬間ドレイクがその竜の様な口を大きく開く。そして燃え盛る灼熱のブレスとデビルモスキート達に向かって撃ち出した。

ゴウオオオオオオオオオオオオ!

 ドレイクの炎のブレスが薙ぎ払う様にデビルモスキート達を焼き尽くす。消し炭の様になって地面に落ちる5匹のデビルモスキート。これでその場にいた通常のデビルモスキートは全滅した。あとはラージデビルモスキートとトウキート本人だけである。

「へ……ブ、ブレスを吐いた⁉」

 ドレイクが炎のブレスを吐いたことに驚きの声を上げるベルベラ。普通リザードマンはブレスを吐いたりしないので相当驚いている。フェミリンに至っては、炎を吐くドレイクに対しても恐怖を感じたのか、涙目のまま身を固くしている。

「馬鹿な!何だ今のは⁉ブレスを吐いただと⁉」

 トウキートの方もまさかドレイクが炎のブレスを吐くとは思っていなかったようで驚きの声を上げている。

「どういうことだ⁉貴様、何故ブレスなど吐ける⁉リザードマンではないのか⁉」

「さあな!別に俺がなんだろうとお前には関係ないだろ!」

 驚愕のせいか一瞬動きが止まるトウキート。それに対しドレイクはニヤリと不敵な笑みを浮かべながら大剣を肩に担いていた。

「おいベラベラ!そっちの奴は任せたぞ!」

「あ、ああ………わかったよ!任された!」

 ドレイクの言葉に驚きで呆然としていたベルベラが気を取り直して単身ラージデビルモスキートの元へ駆け寄っていく。相手は5m以上の巨体を持つラージデビルモスキートだったが、ドレイクの見立てではベルベラならば全く問題のない相手だった。

「フェミリン、どっかに隠れてな!」

「えと…は、はい…」

 ベルベラの指示を受け、フェミリンは怯えながらも急いで物陰に隠れる。そしてそれを見届けたベルベラは心置きなくラージデビルモスキートに斬りかかっていった。

「おのれ……忌々しい冒険者共!」

 下僕……と言うか眷属を目の前でやられたことで苛立ちを隠せないトウキート。10m近いその巨体を羽で浮かせるとブウゥゥゥゥゥゥゥン!と言う耳障りな音を立てて上空に飛翔する。そして両手を振りかざしその細く長く鋭い爪をシャリシャリとすり合わせながらドレイクに向かって急降下していった。

「こうなったら構うものか!皆殺しにしてやる!どうぜまた魔力の高い人間を悪夢に連れ込めばいいだけの話だからな!」

 そう叫びながら両手を爪をドレイクに向かって振り下ろすトウキート。意外にも滑らかな指の動きから、10本の爪は全て別の生物のように動きドレイクに襲い掛かる。

ギィン!ギン!キン!カキィン!ガァン!

 次々と繰り出されていくトウキートの爪。ドレイクはそれらの攻撃を、回避し、大剣で受け止め、腕や手の甲で弾く、いくらかの攻撃をその身にくらいながらも致命傷や大きな攻撃を防ぎ、細かい攻撃もその半数以上を防いでいた。さすがに全ては受けきれなかったため小さな斬り傷は出来たが、それらはすべて大した傷ではない。

「チィッ!おのれ!」

「今度はこっちから行くぜ!チェアリャア!」

 舌打ちし、一旦距離を取るために再び上空へ飛ぼうとするトウキート。しかし次の瞬間ドレイクは大剣を両手で握りしめ、凄まじい踏み込みと共に一気に振り下ろした。

ザシュッ!…………………ボト、ボト…。

 辺りに何かが落ちる音が響き渡る。それは………トウキートの4本ある脚の内の下の2本が斬り落とされた音だった。

「ぐ、ぐああああああ!お、おのれ……たかがリザードマンの分際で!」

「俺たちリザードマンは人間種の中で最も戦士に向いている種族だ。あんまり舐めるんじゃねえぞ」

 その瞬間ドレイクはさらに上空に逃げようとしたトウキートの脇腹らしき場所を一閃する。

「ぐお!」

「まだだ!」

 脇腹を斬られ怯むトウキート。そして次の瞬間ドレイクはトウキートの後ろに素早く回り込むとその片羽を下から思いっきり斬り上げた。

サパァァン!

 思ったよりも軽い音を立ててトウキートの片羽が斬り飛ばされた。トウキートは片羽を失ったことにより体勢を崩し地面に落ちる。立ってはいるが、4本の後ろ脚の内2本を失っているのでかなり安定が悪そうだった。

「グウウ!おのれリザードマン!」

 叫ぶトウキート。その瞬間頭のある位置に5つついている顔のうち、太った中年女の顔と、老人の顔がブクブクと音を立てて伸びていく。そしてまるでろくろ首の様に首を伸ばした2つの顔がそのままドレイクに襲い掛かっていった。

「シャーーー!」

「ゲゲゲギィ!」

 別々の喚き声をあげながらドレイクに襲い掛かる2つの顔。そしてその内の太った女の顔が頬を大きく膨らませる。そして同時にその首の根元が膨らみ、そのふくらみが根元から顔に向かってどんどん上っていく。それは……首の中を何かが移動している様に見える。そしてその膨らみが顔まで達すると、太った女の顔の頬がさらに大きく膨らむ。明らかに喉から何かが上がってきたのだ。太った女の顔はきつく口を閉じてはいるが、その口からは何か毒々しい色の液体がわずかに漏れている。そしてそれに対して老人の顔は口が耳元まで裂けて大きく口を開いた。その口からは何か異常な臭気が漂っており、その口から吐き出されている息は何か汚らしい色をしている。

「これでも喰らうが良い!」

 トウキートが叫んだ瞬間老人の顔が口を限界まで開く。そしてそこから異常な悪臭を放つ息が凄まじい勢いで吐き出された。それはさながら悪臭のブレスと言ったところだった。

「うお!く、くっせえ!何だこりゃ⁉」

 あまりの悪臭に思わず鼻を押さえるドレイク。だが、そんなことはお構いなしに悪臭はドレイクに襲い掛かる。あまりの異常な臭気に吐き気がし、眼に痛みすら感じていた。

「ボオエエエエエエ!」

 そして悪臭でドレイクの動きが止まった瞬間太った女の顔から大量の毒々しい液体が吐き出される。嘔吐物を吐くような勢いで液体を吐き続ける太った女の顔。その液体はそのままドレイクを直撃した。

ジュウウウウウウウ!

「ぐあああああ!な、何だこりゃ!」

 思わず悲鳴を上げるドレイク。液体を頭からかぶったドレイクの全身を焼けるような痛みが襲う。見れば、鱗の隙間から液体が入り込み、ドレイクの皮膚を焼いていた。

「アハハハハハ!良いざまだなリザードマン!我が顔はそれぞれ特別な力を持っているのだ!『翁』は悪臭!『醜女』は強酸!さあ、我が前にひれ伏すがいい!」

 自分が優位となったとみるや、急に饒舌になるトウキート。だがそんな怪物を見ながらドレイクは舌打ちしていた。

「チッ……。おしゃべりなヤロウだな。ようは口臭のくせえジジイとゲロ吐いてるババアだろうが…」

 ドレイクはそのまま乱暴に顔にかかった『醜女』の強酸を拭い去る。確かに焼けるような痛みを感じるが、我慢できない程じゃない。

「もう一度喰らうがいい!」

 トウキートの叫びと共に再びドレイクに襲い掛かる『翁』と『醜女』。既に『翁』は口を大きく開けており、『醜女』も口の中に強酸をたっぷりとため込んでいる。再びそれらがドレイクに向けて吐き出されようとしていた。

「2度も同じ手をくうかよ」

 次の瞬間ドレイクは一瞬で身体に「氣力」を循環させる。そしてそのまま脚に「氣力」を集中させたドレイク。脚力を一気に増幅させ、そのまま地面を踏み抜きそうなほどの凄まじい踏み込みで地面を蹴り跳躍した。

「何⁉」

「甘いんだよ!」

 次の瞬間ドレイクは左手で『翁』の頭を掴む。そしてそのままその顔面に「氣力」で強化したすさまじい脚力の膝蹴りを叩き込んだ。

グシャ!

 声を上げる間もなく『翁』の頭が叩き潰される。ドレイクの膝蹴りは一撃で『翁』の顔面を砕き頭蓋骨を破壊し脳髄ごと粉砕していた。

「げえ⁉」

 トウキートが悲鳴を上げるが、ドレイクはまだ止まらない。さらにドレイクは空中で砕けた『翁』の頭を蹴り更に跳躍し、今度は『醜女』に飛び掛かる。そしてそのまま落下しながら大剣を振り下ろし、『醜女』の首を一刀のもとに斬り捨てた。

「ぐああ!」

 再び悲鳴を上げるトウキート。ドレイクは地面に降り立つと、足元に落ちてきた『醜女』の頭に大剣を突き立てた。ドスッと音を立てて大剣が突き刺さり、同時に口の中の強酸が地面に流れ落ちていく。

「偉そうなこと言ってた割りにはたいしたことねえな。これで終わりか?」

 ドレイクはそう言うと大剣を引き抜き、トウキートに向けて切先を突きつけるのだった。


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