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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第5話、第一の悪夢・吸血 その6

     第5話その6


「ウ、ウソ………アトレストさんが…死ん……」

 フェルナンドを連れてベルベラたちと合流したドレイクがアトレストの死を告げると、フェミリンはそう呟きながら大粒の涙をこぼした。

 ラージデビルモスキートを一刀両断したドレイクは隠れていたフェルナンドを連れてその場を後にした。アトレストの死体をそのままにしていくのは気が引けたが、今は埋葬している場合では無いだろうし、ここは悪夢の中だ、悪夢の中で死んだアトレストが現実でどうなっているかは分からないが、少なくともこの場で埋葬する必要は無いだろうと考えた。

 なのでそのままフェルナンドを連れてベルベラたちと合流し、アトレストが亡くなったことを告げたのだ。

 両手で顔を覆い、ボロボロと涙をこぼしながら崩れ落ちるフェミリン。

「フェミリンはね……奴らから逃げる途中家族とはぐれて一人で泣いている時に、奴らに襲われたところをアトレストに助けられたのさ」

 ベルベラの言葉に何となく事情を察するドレイク。確かにフェミリンがアトレストに対して信頼を寄せているのは感じ取っていた。フェミリンのアトレストに対する信頼にそんな理由があったとは知らなかったが、確かにそれなら納得する。それに彼女の態度から何となくアトレストに対する好意のような物も感じられていた。吊り橋効果もあったのかもしれないが、少なくともフェミリンがアトレストに対して信頼以上の感情を秘めていたのは事実だろう。それだけに、彼女の心中を察するといたたまれない。

「すまない……俺がもう少し早く駆け付けていれば……」

 ドレイクの謝罪にもフェミリンは答えず、ただひたすら泣き続けている。

「フェミリンお姉ちゃん……」

 トーキが心配そうにフェミリンを見ている。そしてベルベラがフェミリンの肩を優しく叩いた。

「辛いかもしれないけどしっかりしなよフェミリン。せめてあんたがアトレストの分も生き延びなきゃ……」

「ううう……ベルベラさん……」

 頭をなでるベルベラをへたり込んだまま見上げるフェミリン。ベルベラが優しく微笑むと、フェミリンは泣き顔のまま、鼻水を啜りながらだったが何とか頷いた。

「うむうむ、辛いだろうなぁ。ここは男前で貴族のワシが慰めてやろう。存分にワシに抱き付いてくると良いぞ」

 それまでのしんみりとした空気をぶち壊す様にしゃしゃり出てくるフェルナンド。そして馴れ馴れしくフェミリンの肩を抱く。

パアン!

 次の瞬間何か弾けるような音が響き渡った。それは、フェミリンが自分の肩を抱くフェルナンドの手を引っ叩いた音だった。そしてフェミリンは急に立ち上がると、手を叩かれて呆然としているフェルナンドに猛然と掴み掛る。そして両手でフェルナンドの胸ぐらを掴み上げたフェミリンの顔は先程までの泣き顔から一変して怒りの色一色に染まっていた。

「あんたが!あんたがアトレストさんを!」

「へ……ワ、ワシ…?」

 フェミリンの怒りの理由が理解できないのか呆然と呟くフェルナンド。だが、今やフェミリンの怒りの矛先は完全にフェルナンドの方を向いていた。

「あんたがアトレストさんを殺したのよ!」

「ワ、ワシが?な、何をいっとるんじゃ?あの若造を殺したのはあの化け物共……」

「あんたが好き放題わがまま言ってあの場所に取り残されて!それを心配したアトレストさんがあの場に残らなきゃ、彼が死ぬことは無かったのよ!」

「いや、それはあの若造が勝手に残っただけで……」

「若造じゃないわ!アトレストさんよ!それに何⁉あなたを心配してくれたアトレストさんに対してその言い草なの⁉」

「いや、ワシはただ……」

「あなたが殺したのよ!アトレストさんを!この人殺し!あんたなんか……あんたなんか……アトレストさんじゃなくてあんたが死ねばよかったのよ!」

 そう叫びその場から駆け出すフェミリン。しかし、ドレイクの横を走り抜けようとした瞬間にドレイクに腕を掴まれた。

「放してくださいドレイクさん!」

「放さねえよ。放したらお前さんどっかに行っちまうだろ?こんな状況で一人になるなんて自殺行為だぜ?」

「でも!…でも!…………うわあああああああああん!」

 感情が再び爆発したのか、堰を切ったように泣き出してしまうフェミリン。大声で泣きじゃくりながら自分の手を掴むドレイクの手にしがみつくようにへたり込んでしまった。

 先ほどまでの激昂していたフェミリンの様子に驚いていたベルベラだったが、フェミリンが泣き出してしまったことで我に返ると急いで彼女に駆け寄る。そして声を上げて泣きじゃくるフェミリンの肩を抱き「辛かったね……大丈夫かい?」と優しく声をかけてあげていた。また、トーキもフェミリンに寄り添い「泣かないで、フェミリンお姉ちゃん……」と言って心配そうに顔を覗き込んでいる。

 ドレイクはフェミリンがもう自棄になって走り出したりしないと感じ取ったので掴んでいた腕を放した。フェミリンはまだ座り込んだまま泣いていたが、ベルベラとトーキのおかげで落ち着きを取り戻しつつあった。

「まったく!何なのだこの小娘は!ワシの事を人殺しだとか、ワシが死ねばよかっただとか無礼なことを!おいリザードマン!この小娘には罰が必要だ!まずは裸にして……ぶべぎゃ!」

 また自分勝手に妙なことを口走り始めたフェルナンド。もう相手にするのも面倒くさいのでドレイクはフェルナンドの言葉が終わるよりも早く無言のまま彼の脳天に手刀を叩き込んでおいた。妙な悲鳴を上げて倒れ込むフェルナンド。どうやらドレイクの手刀の一撃により失神した様だった。喚き散らす馬鹿が気絶してせいせいするドレイク。

「ドレイク、安全な場所とは言い難いけど今日はこれ以上は……」

「そうだな、どこかその辺の建物でも拝借しよう」

 ベルベラの意見に同意するドレイク。フェミリンはずっと泣いているし、フェルナンドは気絶させてしまった。ここは無理に進まず、少し休息をとるべきだろう。

 改めて周りを見回すドレイク。周囲の建物はどれも崩れかけの物ばかりであり、正直廃墟の様にも見える。だが今はそんな廃墟でもあるだけましだ。デビルモスキート達から隠れるにはそれだけでも十分である。

「そこの小屋を借りるとしようかね」

 ベルベラが目の前にある小屋を指差す。その小屋は他の建物に比べて損傷も少なく屋根や壁は崩れていない。唯一窓が外れていたが、そこまで贅沢は言っていられないだろう。

「ちょっと中を確認してくるよ」

 ベルベラはそう言うと小屋の扉を開けて中を確認しだした。そしてすぐに戻ってくる。

「何かの作業小屋みたいだけどちょうどいいね。あそこに行こう」

「分かった」

 ベルベラがフェミリンを支えながら小屋に入っていく。そしてその後をトーキがトテトテとついて行った。そしてドレイクは面倒くさそうにフェルナンドに視線を向ける。眼を回して倒れている中年太りのオヤジなど運びたくもないが、このまま放っておく訳にもいかない。デビルモスキート達に見つかれば、小屋の中に居るメンバーにも被害が出かねない。だがまともに運ぶのも面倒くさかった。

 結局ドレイクはフェルナンドの脚を掴んで引きずって行くことにした。ドレイクがフェルナンドの脚を掴みズルズルと引きずって行く。引きずっている間、ガッガッ!と何かぶつかる様な音がしたので振り返ってみるとフェルナンドの頭が何度も地面にぶつかり、バウンドしてはまたぶつかっていた。

 きっとこのままだとフェルナンドが気が付いた時に彼の頭がこぶだらけになっている事だろう。

(ま、別にどうでも良いか)

 わがまま放題言ってくる貴族の中年オヤジにはいい薬だろう。そんなことを考えながらドレイクはフェルナンドを引きずったまま小屋の中へと入っていった。


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