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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第5話、第一の悪夢・吸血 その5

     第5話その5


「チッ…うかつだった」

 思わず舌打ちするドレイク。考えてもみればここは悪夢の中だ。人々を苦しめたり恐怖させたりするのが悪夢ならば、戦う力のない人間二人を別行動させれば襲われるのも当然だった。フェルナンドにイラついてその事に気が付かなかった自分を呪いたくなるが、今はそれどころではなかった。とにかく全力で悲鳴のした方に向かって走り抜ける。そしてアトレストとフェルナンドの居る通りに出る角を駆け抜けながらドレイクは叫んでいた。

「青年!オッサン!無事か⁉」

 ドレイクが叫びながらその通りに出た瞬間だった。

「フェルナンドさん!逃げ………」

 アトレストの言葉はそこで途切れていた。相変わらず腰を抜かしているフェルナンド。そんな彼を逃がそうと突き飛ばすアトレスト。だが、そんなアトレストの首が少しずつずれていく。彼らの後ろには今まで襲い掛かって来ていたデビルモスキートとは違う巨大な蚊の化け物がいた。その化物は体長がおそらく5m以上。前足に当たる部分がまるでカマキリの様な鋭い刃になっている。後ろの脚も太くどこか人間を思わせる形になっており、細長いはずの身体も太く硬くなっているのが分かった。そして相変わらずヒューマンのものと思われる頭がおぞましい表情でこちらを睨んでいる。そしてドレイクがその姿を見た時には既にその刃の様な前足を一閃させた後だった。

 フェルナンドを突き飛ばした姿勢のまま、アトレストの首がずれていく。そしてそのまま………ポトリと落ちた。

「青年!」

 思わず叫ぶドレイク。だが、時すでに遅くアトレストの頭は首から離れ地面に落ちる。そして一瞬後に体の方も前のめりに倒れ込んだ。斬られた首の断面からとめどなく血が噴き出している。

「シェハアアアアア!」

「フシュウウウウウ!」

「ヒョホオオオオオ!」

 アトレストの身体が倒れ込んだ瞬間妙な喚き声をあげながらアトレストの身体に群がるデビルモスキート。巨大強化型デビルモスキート以外にも通常のデビルモスキートが何体か潜んでいた様だった。そしてアトレストの首からあふれ出る血を喉を鳴らして美味そうに飲み干していく。

「ヒ、ヒイイイイイイ!」

 悲鳴を上げながらその場から離れようと身体を引きずるフェルナンド。だが、まだ腰が抜けているのかまともに動けてはいない。

「おいオッサン!生きてんのか⁉」

「あ、当たり前だ!さっさとワシを助けんか!」

 ドレイクの叫びに対し、腰を抜かしたままの情けない格好で、しかし態度だけはデカく怒鳴り返すフェルナンド。ドレイクは「やれやれ……このオッサンは…」とぼやきながら背中の大剣を抜き放ちデビルモスキートたちに駆け寄っていく。

「チェリャアアアァァァ!」

 駆け寄り様にアトレストの身体に群がっていたデビルモスキートに向けて大剣を一閃させる。ザシュッ!と音を立てて、血を貪っていたデビルモスキート達を一刀のもとに斬り捨てるドレイク。そしてそのまま巨大強化型デビルモスキート——ラージデビルモスキートとでも呼ぶべきだろうか?——に詰め寄る。

「ケシャアアアアアアアア!」

 次の瞬間ラージデビルモスキートがその両腕の刃をドレイクに向かって振り下ろす。その刃は鋭そうに見える。人間の首を一撃で落とせるのだからかなりの切れ味を秘めているはずだ。ドレイクはそのまま振り下ろされた2本の刃を大剣で受け止めた。

ガキイイイイン!

 ラージデビルモスキートの左右の刃とドレイクの大剣がぶつかり合い火花を散らす。ドレイクは前足の刃を弾くと、そのまま大剣を一閃させる。

ガキイイン!

「何⁉」

 思わず叫び声を上げるドレイク。前足の刃を弾き、そのままの動作で斬りつけた流し斬りだったためそれほど力を込められたわけではない。それでも、仮にも魔剣の一撃を完全に防いだのだ。さすがに驚きは隠せなかった。

「何だ!大口叩いた割りには大したことない奴だな!さっさとその化物を殺さんか!」

 ドレイクの背中に野次が飛ぶ。視線だけを後ろに向けると、いつの間にか腰が回復したらしいフェルナンドがかなり離れた場所で物陰に隠れ、顔だけを覗かせて喚き散らしていた。

 思わずゲンナリするドレイク。

(あのオッサンだけ助ける意味、あんのか?)

 そうは思ったが、この状態から見捨てる訳にもいかないし、そもそも目の前のラージデビルモスキートは倒さなければならなかった。

「しかし……若干分が悪いな…」

 思わずそう呟くドレイク。次の瞬間ラージデビルモスキートが前足の左右の刃を連続でブンブンとドレイクに何度も振り下ろしてくる。ドレイクはそれらを確実に大剣で受け止めながら隙をついてラージデビルモスキートの腹部に向けて大剣を一閃させた。

サシュッ!

 今度は大剣の刃が肉を斬り裂く感触が伝わってきた。大剣の刃がラージデビルモスキートの腹部を斬り裂いたのである。だが浅い……ドレイクの刃はラージデビルモスキートの腹部を浅く斬り裂いただけだった。

「チッ………妙に硬い奴だな…」

 手ごたえの浅さにボヤくドレイク。だが妙な感じだった。確かにラージデビルモスキートの身体は頑丈だし、かなり硬い。だが、ドレイクの大剣で両断できない程ではないはずだ。

 ならば恐らく、何か魔法的な防御能力を持っているのだろう。だが、そうなると少々厄介になってくる。

 魔法的な防御を打ち砕くとなると、普通に斬りかかっていたのではかなり効率が悪い。そもそも普通に考えると魔法的な防御を破る方法は限られてくるものなのだ。

 一つ目は防御を打ち破る魔法をかける事だ。だが、これはドレイクが魔法を使えないので却下である。

 二つ目は魔法防御を破る魔力を持った武器で攻撃することである。だが、これもドレイクの魔剣にはそんな魔法はかかっていないので却下になる。

 三つめは防御魔法に使われている魔力と同程度以上の純粋な魔力を剣に纏わせてぶつけ、相殺する方法である。これは実は魔力を自在に操る「魔闘術」と呼ばれる技術なのだが、残念ながらドレイクはその魔闘術を使えないので却下になる。

 となると4つ目の方法が現実的と言う事になってくる。4つ目の方法は理屈の上では3つ目の魔闘術の方法と同じである。違いがあるとすれば、この方法は魔力を使うのではなく「(オーラ)」を使うと言う事だった。ある意味魔力と対の存在とも言える氣……この際魔力と対の存在と言う事で「氣力」と呼ぶことにするが、その氣力を持って魔法の防御を打ち破るというのがその手段だった。

 ドレイクは考える。魔力はろくに扱えないが、氣力ならばある程度扱いに自身がある。それに、氣力を剣に纏わせたりと言った技術はついこの間、獄魔獣ザンゼネロンに対抗するために生み出そうとしていた技術に通じるものがある。

(ならば………)

 いまだ左右の前足の刃を振り回し続けているラージデビルモスキート。その刃を大剣で受け止め、あるいはかわし続けるドレイク。そんな中で氣力を練り上げ、大剣に纏わせなければいけない。それをこのラージデビルモスキートの猛攻をしのぎながらやらなければいけなかった。

 だが………不思議と焦りはなかった。それどころか、出来るという不思議な確信も持っている。もちろん以前、獄魔獣ザンゼネロンと戦った時にみっちり氣力の扱いを訓練したのもある。だが、それ以上に今のこの状況が成功への鍵のように思えた。失敗できない状況だからこそ逆に落ち着いてやれる。そんな気がしていた。

 さらに前足の刃を振り回しドレイクに斬りかかってくるラージデビルモスキート。その攻撃を大剣で受け止めながらドレイクは隙を伺っていた。

 そしてその瞬間は意外にもすぐやってきた。ラージデビルモスキートの左右の刃での猛攻、だがそれを確実に防ぎ続けるドレイク。自分の攻撃が防がれ続けた事に苛立ったのか、ラージデビルモスキートが一際大きく刃を振り被る。

「キャシャアアアアアア!」

 そして叫び声と共に凄まじい勢いで刃を振り下ろす。

ガキイイイイィィィン!

 甲高い金属音を上げながら振り下ろされた刃を大剣で受け止めるドレイク。そして次の瞬間ラージデビルモスキートはこのまま力で押し切ろうとドレイクに体重をかけてくる。しかしドレイクはその刃を受け止めたまま、身体の中で氣力を練り上げていた。何気に獄魔獣ザンゼネロン戦での特訓が功を奏したのか、体内をすぐに氣力が駆け巡る。そして氣力を大剣の刀身に集中させた。

「ヌ…ウオオオオオオオ!」

 次の瞬間全身に力を込め、ラージデビルモスキートの刃を押し返すドレイク。氣力は刀身に纏わせているため、身体の方に回す余力はないが、それでもドレイクは自身の力のみでラージデビルモスキートの巨大を押し返す。そして渾身の力でラージデビルモスキートの刃を弾きながら両手で握りしめた大剣を一閃させた。

バキイイィィィン!……………カランカラン…。

 その瞬間ドレイクの大剣はラージデビルモスキートの刃を叩き折っていた。いや、その表現は正確ではない。その折られた刃の断面を見れば、それが折られたのではなく、斬られたのだと言う事が分かるはずだ。

 ………そう。ドレイクは己の気力を大剣の刀身に纏わせ刀身自体の強度と切れ味を増強したのだ。そしてその威力を増した大剣でラージデビルモスキートの刃を叩き斬ったのだ。

「ギ!ギギィ!ギイヤアアアアアアアア!」

 前足でもある刃を叩き斬られ悲鳴だか喚き声だかを上げるラージデビルモスキート。その顔はおぞましい顔をしていながらも怒りに満ちている事が明かる。そしてその瞬間、口を大きく開くとドレイクの血を一滴残らず吸い尽くそうとドレイクに襲い掛かった。

 だが、ドレイクの方もそう来ることは分かり切っていた。そして大剣を握りしめたままわずかに腰を落とすと、凄まじい勢いで地面を蹴る。

ダッ!

 次の瞬間大剣を振り被ったドレイクはラージデビルモスキートの頭を超える程ジャンプしていた。そしてそのまま大剣を両手で握りしめる。

「チィェストォォーーーー!」

 叫びと共にドレイクの大剣が振り下ろされた。

ザッバアァァァン!

 凄まじい一撃だった。氣力を纏わせたドレイクの大剣の一撃は、ラージデビルモスキートの5mを超える巨体を一刀のもとに縦に両断していた。

「おお!やりおった!」

 ドレイクの遥か後方でフェルナンドが歓声を上げている。何とも調子のいいオヤジである。

 そんなフェルナンドの声を無視し、ドレイクは自分の手と大剣に視線を落とした。イメージした通りの動きだった。威力の方も申し分ない。これならばうまく使えばかなりの戦力になりそうだ。

「さしずめ……氣刃の太刀…ってところか」

 そう呟きながらドレイクは大剣を背中の鞘に納めた。


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