第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第3話、ナイトメア その9
第3話その9
「や、やっと解読が終わりました~………」
そう言いながらヘロヘロになったアレイスローが冒険者ギルドに顔を出したのはドレイク達が遺跡に調査に行った日の翌々日の昼頃だった。同じようにヘロヘロになったリュート、ユーベラー、クロストフもその後に続いて現れる。そして眠り続けているフリルフレアを除くそれ以外のメンバーはギルドの会議室にすでに集まっており、彼らを出迎えていた。
リュートが書き写してきた祠や石の柱の文字を解読していたアレイスロー達。文字を書き写した紙と、古代魔導語の辞書、そしてその解読結果がどの魔物に当てはまるのかを調べるための魔物辞典を引っ掻き回しながら丸一日以上かけて解読を行っていたのだ。4人とも当然徹夜で作業をしていたので疲労困憊である。
実際一番顔色の良いアレイスローでさえ目の下に隈を作っている。他の3人は冒険者ギルドの会議室に到着した途端崩れ落ちていた。ユーベラーは崩れ落ちて床に突っ伏したまま「オイラ…もう文字見たくねえ……」と言ってピクピク痙攣していたし、リュートは青白い顔で口元を押さえ「うぷ……気持ち悪い……」と言って俯いている。そしてクロストフは「すいません、気付け薬飲んできます」と言って青い顔のまま水をもらいに部屋を出ていった。
「お前ら大丈夫かよ?」
「大丈夫ですよドレイクさん………と言いたいところですが…正直今にも寝落ちしそうです」
なれない解読作業によほど神経を使ったのだろう。空元気を出す気力も無さそうなアレイスローだった。そして眠そうに眼をこすりながらいくつかの紙の束を取り出した。
「す、すみません…アレイスローさん…僕……ちょっとダウンです……」
青白い顔で「気持ち悪い」と言っていたリュートがそう言って弱々しく手を上げる。実際今にも倒れそうに見える。
「こっちは大丈夫ですよリュートさん。先に休憩していてください」
「すみません……」
リュートはそう言うと部屋の隅の方へ行き、ローブにくるまって座り込んでしまう。そして物の数秒後にはそのまま横に倒れ込んで静かな寝息を立て始めてしまった。
それを見ていたユーベラー。突っ伏したまま顔だけを上げて、申し訳なさそうにアレイスローを見つめる。
「わ、悪いアレイスローの旦那……オイラも…」
「はいはい、分かってますよ。ユーベラーさんも先に休憩していてください」
「す、すまねえ…旦那…」
そう言うと突っ伏した姿勢のまままるで虫の様にカサカサとリュートの横まで移動するユーベラー。そしてそのままの姿勢のままピタリと動きを止めると、数秒後にはいびきが聞こえ始めた。
そんな二人を少し羨ましそうに見ていたアレイスローだったが、気を取り直したのか両手で顔をパチンと叩く。
「では、気を取り直していきましょう。リュートさんが書き写してくれた文字の解読が終わりました」
そう言うと机の上に紙の束を広げるアレイスロー。その紙に解読結果が書かれている様だった。
「それでアレイスロー。結局何が書かれていたんだ?」
「はい、順を追って説明します」
サイザーの言葉にそう答えたアレイスローは紙束の中から10枚を取り出すとそれを机の上に広げる。
「まず、10本の柱に書かれていた文字ですが…」
そう言うと10枚の紙の内1枚を指差すアレイスロー。
「この柱に書かれていた文字はどれも同じ文が書かれていたものだと推測出来ました」
「同じ文だと?」
ローゼリットが疑問の声を上げるが、アレイスローはしっかりと頷いた。
「はい、柱の破損が激しくてすべての文字を確認できたわけでは無いので100%とは言い切れませんが、まず間違いありません」
「それで?なんて書かれてたんだよ?」
眠ってしまった弟のリュートの方にチラチラと視線を送りながらもアルウェイが先を促す。アレイスローは指差していた紙を取ると皆に見せるように掲げて見せた。
「10本の柱にはこう書かれていました。『計10の石の柱をもって悪しき夢を招く魔神をこの場に封印する。この結界を破壊することなかれ。もし、悪夢を招く魔神を解き放てば大いなる災いが降り注ぐだろう』」
アレイスローはそこまで言うと紙を机に戻した。
「柱には『悪夢を招く魔神』と言う言葉が書かれていました。どうもこの魔神こそが今回の事件の原因ではないかと考えられます」
アレイスローは先程広げた10枚の紙をまとめると、今度はそれ以外の紙を広げた。
「そして今度は祠に書かれていた方の文字です。正直こちらは柱以上に欠損が激しかったようで文字もかなり抜けてしまっていました。ですので一部推測で補完した所もあります。それにかなりの文字数でしたので、こっちは内容を少しまとめさせてもらいました」
「わざわざまとめてくれたのかい?」
「解読だけでも大変だったのに悪いなぁ」
シェリエルとライデンがそう言って顔を見合わせている。
「はい。祠の方には『悪夢の王をこの地に封印する。悪夢の王はある意味異界の者とも言え、この多層世界の精霊界と同じ階層にかつて存在した夢の世界である夢界に君臨した王だった。その王の名はカッドイーホ。悪夢の元凶にしてナイトメアを総べる王である』と書かれていました」
アレイスローが言い終えると、皆が騒然とした。そう……確かに元凶が書かれていたのだ。
「おい弐号、つまりそのカッパ巻きって奴が今回の事件を…」
「カッパ巻きではなくカッドイーホですが……恐らくそうでしょう」
フリルフレア不在のためドレイクのボケにわざわざツッコミを入れて置くアレイスロー。
「…悪夢の…王…それに…ナイトメア…つまり…ナイトメアロード…」
フェルフェルの言葉に皆が深刻な顔になる。ある意味未知の魔物、しかもそのナイトメアのロードである。生半可な相手では無いのは確実である。しかし、そんな中ドレイクだけは首をボキボキと鳴らしながらナイトメアロードを倒すために闘志をみなぎらせていた。




