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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第3話、ナイトメア その7

     第3話その7


「ほい、これで終わり」

 そう言うとドレイクはギャーギャー喚いているゴブリンの頭を片手で握り潰して止めを刺した。そしてその死体を無造作にその辺に放り投げる。薄暗い森の中、返り血を浴びた赤い鱗(もともと全身真っ赤だが…)、地面に転がる無数のゴブリンの死体。その様子はまるで今まで殺戮を楽しんでいた悪のリザードマンの様だった。

 突如30匹を超えるゴブリンとホブゴブリンの襲撃を受けたドレイク達。おそらくゴブリンたちは近くの村でも襲いに行こうとしていたのだろうが、ドレイク達を発見したので急遽獲物を変更したのだろう。だが、それがゴブリンたちにとっての運の尽きだった。

 瞬く間に血祭りにあげられていくゴブリンたち。ドレイクは大剣の一振りでゴブリン3匹同時に薙ぎ払い、ローゼリットは左右の短剣で確実にゴブリンの喉を斬り裂いていく。その二人の戦いぶりに思わず呆然とするアルウェイとリュート。アルウェイも自分たちに襲い掛かって来たゴブリン3匹とホブゴブリン1匹を倒したが、リュートに至っては全く出番が無かった。特にドレイクの鬼神の如き戦いぶりに二人そろって圧倒されており、ドレイクが抜き手でホブゴブリンの胸を貫いて倒したのを見た時は二人そろって自分の眼を疑っていた。

 とにかくそんな感じであっさりとゴブリンの群れを倒しきったドレイク達。ドレイクは大剣を振り血のりを払ってから、背中の鞘にしまっている。それを見ながらアルウェイは額から嫌な汗が噴き出るのを感じていた。

(こ、こいつ…化物だ…。どういう身体能力してやがる……)

 ドレイクに対し戦慄を覚えるアルウェイ。単純な外見的な事を言えば、アルウェイから見てドレイクは大柄ではあるがさほど自分と体格は変わらないように思えた。いや、むしろアルウェイの方が若干大柄かもしれない。この戦闘を見るまでアルウェイ自身ドレイクとの筋力差はほぼ互角、もしくは自分の方がわずかに上だとみていた。例えランクで負けていても筋力や身体能力では負けていないと……。だが、ドレイクの戦いぶりを見てその認識が甘かったことを痛感させられていた。

 ドレイクは大柄な外見からは想像もつかないほど敏捷だ。身軽さはともかく、走るスピードだけならローゼリットとさほど変わらない程だ。そしてそれ以上に筋力が凄まじい。抜き手でホブゴブリンを一撃で倒し、長大な両手剣を片手で軽々と振り回している。そんなことは普通の冒険者ではまず不可能なことだ。

 それにアルウェイはもう一つ気になっている事があった。

(あいつの剣、片刃の真っ赤な刀身がうっすらと光ってる……どう見ても魔剣)

 魔剣に限らず魔法の武具は冒険者の特に戦士にとっては喉から手が出る程欲しい物。しかしアルウェイの剣は業物ではあったが魔剣ではない。そこでもまるで自分がドレイクに劣っているように感じてしまう。

(いや、待てよ?もしかしてあの魔剣ミスリル製なんじゃないか?だから見かけに反して実は軽いんじゃ……?)

 ミスリルは普通の鉄に比べて重量が半分以下である。だからもしドレイクの魔剣がミスリル製であるならば片手で振り回すことも可能なのではないかと考えたのだ。

(ようし、それなら……)

 アルウェイは自分も大剣をしまうとドレイクに向き直った。

「なあドレイク、あんたのその剣、魔剣だろ?ちょっと見せてくれないか?」

「はあ?」

 突然のアルウェイの提案に思わずすっとんきょうな声を上げるドレイク。

「いや、んな事より先を急ごうぜ」

 ゴブリンの死体を踏んづけながら先に行こうとするドレイク。だがアルウェイも食い下がってくる。

「まあまあ、ちょっとくらい良いだろ?俺も魔剣には憧れがあってよ」

 そう言って、「なあ、良いだろう?」と馴れ馴れしく肩を組んでくるアルウェイ。当のドレイクは面倒くさそうにアルウェイを一瞥したが、諦めたのかため息をついて背中の大剣を抜いた。

「ほれ」

 そう言って若干ぞんざいに魔剣を突き出してくるドレイク。アルウェイは「お!サンキュー!」と言いながら嬉々として魔剣を受け取った。

 その瞬間ガクッと体勢を崩しかけるアルウェイ。ドレイクがあまりに軽々と渡してきたので(やっぱりミスリル製の軽い魔剣か!)と油断していたのだ。だがドレイクの魔剣はミスリル製などではない。材質は不明だが、通常の両手剣より若干重量が重いほどだ。その事実にアルウェイの首筋を冷たい汗が伝い落ちた。

「は、ははは…!や、やっぱスゴイな魔剣てのは!」

 そう言って魔剣をドレイクに返すアルウェイ。ドレイクの真似をして片手で持っているのだが、若干腕がプルプルしている。しかしドレイクは特に気にした様子もなく魔剣を受け取るとそのまま背中の鞘にしまった。

「何をやっているんだお前達。早く行くぞ」

 ドレイクとアルウェイに呆れたような視線を送りながらローゼリットが早く行くように促す。彼女は既に先に進んでいる。

「ああ、悪い悪い」

 すぐにドレイクもローゼリットの後を追う。そのさらに後ろをアルウェイ、リュートが続いた。

「兄さん…」

 少し悔しそうな兄を心配してかリュートがアルウェイに声をかける。だがアルウェイはそれに答えることなく、ドレイクを追い抜く勢いでローゼリットの後ろまで走っていった。

 そしてそこからさらに30分ほど歩いたドレイク達。そこには森の中でありながら木が生えていない少し開けた空間があった。そしてその中心には何やら石の柱に囲まれた祠の様なものがあった。もっとも、その祠の様なものはボロボロになり半分崩れ去っているし、周囲の石の柱も半数以上折れている。

「ここが目的の遺跡なのか?」

「まあな、最も遺跡と呼ぶにはいささかしょぼいがな」

 ローゼリットの問いに答えたアルウェイはそう言いながら肩をすくめた。確かに遺跡と呼ぶにはあまりに小さい祠だ。しかも全体的に崩れかけている。

「でも……確かにこれ、おかしいですね」

「どういうことだ?」

 リュートの言葉に疑問を口にするドレイク。リュートは少し考え込みながら石の柱に触れていた。

「この遺跡ってこの石の柱が魔法的な封印になっていて、ここから中には入れなかったんです。でも、今はその封印自体が破壊されてる……」

 そう言ってリュートはさらに石の柱を触っている。ドレイク達もそれぞれ別の柱を見たり触ったりして観察してみた。

「おいボクッ娘、その封印の魔力みたいなのは残ってるのか?」

 ドレイクの言葉にリュートは「僕、ボクッ娘じゃないのに……」と悲しそうに呟きながら首を横に振った。

「もう魔力は残ってません。恐らく破壊された時に封印も一緒に解かれちゃったんだと思います」

「チッ!何も分からずじまいか…」

 つまらなそうにそう言うアルウェイ。しかし、祠と石の柱を見て回っていたローゼリットがあることに気が付いた。

「ちょっと待て、この祠も柱も外に向かって破壊されてるな?」

「外に向かって?」

 ローゼリットの言おうとしている事が分からず全体を見回すドレイク。だが、どういうことなのかいまいち分からない。

「どういうことだ?」

「ああ、つまりだな……この破壊のされ方だと、恐らくこの祠を中心にして外に向かって力が発せられたんだと思う」

「???」

 まだ分かっていないドレイク。ローゼリットは少し考え込んで良い例えを探した。

「ええっと……赤蜥蜴、つまりだな…あの祠を中心に魔法で爆発が起こった様なものだと考えればいい。もっとも、周りの草や柱に焦げた跡が無いからおそらく爆発では無く魔力のみが弾けた感じだと思うが……」

「あ~………まあ、何となく分かった」

 ローゼリットの説明を何となくフィーリングで理解するドレイク。アルウェイはまだよく分かって無さそうだったが、リュートはしきりに感心している。

「本当だ!ローゼリットさんの言うとおりこれは恐らく中心からの魔力の爆発ですね。もしかしたら祠に何か封印されていて、それが解放された衝撃でこうなったのかも……」

 リュートの推測もあながち間違っていないように思える。そして更に祠や柱を調べていく中、ローゼリットが声を上げた。

「ちょっと待て、おいリュート!もしかしてこの柱に刻まれているのは文字じゃないか?」

「え⁉ど、どれです⁉」

「こっちだ」

 ローゼリットに呼ばれ、リュートは比較的無事な柱に近寄っていく。そしてマジマジと柱を覗き込む。ちなみに後ろからドレイクとアルウェイも覗き込んでいた。

「ほ、本当だ!ローゼリットさん、お手柄ですよ!これは魔導文字です!」

「魔導文字?」

「はい!それも恐らく古代魔導文字の一種ですね!ええと……」

 柱に刻まれたその魔導文字を見て考え込みながらブツブツと呟いているリュート。

「これは……『石』それに『柱』あと……これは『封印』かな?」

「おいリュート、どういうことだよ?」

「う、うん兄さん…やっぱりこの石の柱は封印の為の物だったみたい。それも恐らく中心の祠自体を封印するための物だったみたい」

「そうなのか?……そんな変な文字だけでそこまで分かるのか。さすがは俺の弟、優秀だな!」

 そう言って「ガハハハ!」と笑いながらリュートの頭をなでるアルウェイ。

「もう兄さん!いつまでも子供扱いしないでよ!」

 嬉しそうな、でも少し迷惑そうなそんな複雑な顔をしているリュート。兄に褒められたのはうれしいが、子供扱いされるのは嫌なのだろう。どことなくドレイクとフリルフレアのやり取りに似ている様に見える。

「なあボクッ娘」

「え?何ですかドレイクさん?」

 ドレイクの呼びかけに普通に返事をしてしまうリュート。もう『ボクッ娘』と呼ばれることは諦めて受け入れたらしい。

「いや、このへんてこな文字ならそっちの祠にも書いてあったぞ?」

「ほ、本当ですか⁉」

 ドレイクの言葉にリュートは急いで祠の前に行く。高さ自体は2m程ある祠だが、そこには確かに消えかけた文字がいくつか見て取れる。

「本当だ!これは……ええっと………う~ん…こんなことなら古代魔導語ももっと勉強しておくんだった…」

 そう言いながら頭をひねっているリュート。ドレイクも試しに覗き込んでみたが何が書いてあるのかさっぱり分からない。何となく読めそうな気がするのはきっと気のせいだろう。

「何だこりゃ……『王』か?」

 ドレイクが何となくそう言った瞬間リュートが弾かれたようにドレイクの方を見た。

「そうだ!そうですよドレイクさん!この文字は『王』を示す言葉ですよ!それにこっちは柱にも書かれてた『封印』です!スゴイですねドレイクさん‼古代魔導語、読めるんですか⁉」

 思わずドレイクの手を握りピョンピョン跳ねるリュート。しかし手を握られているドレイクは一瞬ポカンとしていたがすぐに渋い顔になる。

「いや、読める訳ないだろ。適当に言っただけだ」

「それでもドレイクさんのおかげで読めましたよ!」

 そう言って今度は握った手をブンブン振り回すリュート。その様子をアルウェイがすごい眼で睨んでいたが、ドレイクは気にしないことにした。

 そして更に解読を進めるリュート。

「えっと……これは『異界』かな?それに『別の層』……『悪夢』と…『ナイトメア』……『夢の世界』……?」

 祠も半分崩れているためまともに解読は出来ないが、それでも無事な文字を探して解読していくリュート。

「全部読めそうか?」

「残念ながら崩れてしまった部分や、読めない文字も多いので……ですがある程度は読めます」

 ドレイクの問いにそう答えたリュート。祠に彫られた文字を更に読み進んでいく。そしてある程度まで読み進めたリュートは突如ドレイク達の方を見た。

「これは、読める部分だけでも完全に解読するにはアレイスローさんやクロストフさんのお知恵を借りる必要がありそうです。書き写すので少しお時間をください」

 リュートはそう言うと紙とペンを取り出し、祠に彫り込まれた文字を書き写していくのだった。


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