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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第3話、ナイトメア その6

     第3話その6


 ドレイク、ローゼリット、アルウェイ、リュートの4人はアルミロンドの西方にあるという遺跡を目指して歩いていた。

 皆で夜中に集まり、今後の方針を決めたドレイク達。目を覚まさないフリルフレアのことはスミーシャに任せ、ドレイク達は遺跡に行く準備をした。すぐにでも出発したかったが、夜には夜行性の魔物もおり、夜目の効かないヒューマンやハーフエルフは不利である。そのため明け方になるのを待ってから遺跡に向けて出発したのだ。

 他のメンバーもそれぞれ行動を開始していた。アレイスローたち魔導士ギルド組はドレイクの壊した扉を片付け、ドレイクにビビっていた職員に事情を説明し、全て終わったころには辺りが明るくなりかけていたのでそのまま書物庫で調査を再開した。サイザーたち街中調査組は、相手が夢を司る者かも知れないので街中が寝静まっている夜中の内から調査を開始していた。そして最後に、眠ったままのフリルフレアはスミーシャが宿へ連れ帰った。様子を見ながら、もし何か異変があったらすぐに知らせるようにと魔導士ギルドから通信用の水晶を渡されている。

 皆に街での調査を任せ、一路遺跡を目指すドレイク達。街道から外れた獣道を歩きながら周囲を警戒していた。

「しかしよ~……ローゼリットって美人だよな」

 軽口のつもりなのか、そんなことを言いながら馴れ馴れしくローゼリットの肩を抱こうとするアルウェイ。しかし、アルウェイの指先がローゼリットの肩に触れた瞬間、パアン!と弾けるような音を立ててアルウェイの手が弾かれる。見ればローゼリットの裏拳が思いっきりアルウェイの手を弾いたのだ。

「いってえ!何すんだよローゼリット!」

「それはこちらの台詞だなアルウェイ。私は貴様に馴れ馴れしく肩を抱かれるいわれはないぞ?」

 非難がましい視線を送ったアルウェイだったが、睨み返してくるローゼリットの眼光の鋭さに思わずたじろいでいる。

「おいおいマッスル、金目ハーフには気を付けた方が良いぞ?寝首を掻かれるからな」

「寝首を掻かれる?何言ってるんだ?」

「いや、結構マジな話で」

 アルウェイは「何を大げさに言ってるんだ?」と鼻で笑っているが、ドレイクは結構顔が本気だった。恐らく寝首を掻かれるとは、暗殺者ギルド事件の時にローゼリットの襲撃を受けたことを言っているのだろう。だが、それを察したのかローゼリットの鋭い視線が今度はドレイクに向く。

「おい赤蜥蜴、私がなんだって?」

「………いや、何だろうな……」

 何となく誤魔化すドレイク。もっともとても誤魔化せているようには見えないが……。

「で、でもローゼリットさんて本当に美人ですよね」

 3人の様子を少し離れて見ていたリュートが突然そんなことを言い出す。恐らく自分も同じ意見を言う事で兄の事を擁護しているのだろう。しかしローゼリットもリュートまで邪険に扱う訳にもいかず、ため息をついて仕方なく相手をすることにする。

「別に私はそれほど美人でも無いだろう?ハーフエルフの中でも平均位だと思うが?」

 そんなことを言い出すローゼリットだったが、実際これは謙遜などではなく本当にそう思っての言葉だった。本人は本心からそう思っているのだ。だが、実際はそうではない。フリルフレアにフェルフェル、スミーシャ、そしてローゼリット、可愛らしかったり美しかったりと容姿に恵まれた女性が4人もいるドレイクのパーティーだったが、その中でも1番は恐らくローゼリットだった。それに身体のスタイルも抜群であり、アルウェイでなくとも鼻の下を伸ばしてしまうだろう。ただ、ドレイクはローゼリットのことをあまりそう言う目で見ていない様子だったのだが……。

「私なんかよりも可愛い娘はいくらでも居るだろう?リュートは気になる娘とか居ないのか?」

「え⁉ぼ、僕ですか⁉」

 ローゼリットとしては軽口のつもりなのだろうが、逆に話を振られしどろもどろするリュート。しかし、そんな弟の恋バナに興味があるのかアルウェイがガッシリとリュートの両肩を掴む。

「何ぃ!リュート!お前好きな娘がいるのか⁉」

 そう言ってアルウェイがガクガクとリュートを揺さぶっている。あまりに激しく揺さぶられているのでリュートが半ば目を回している。

「に、兄さん……お、落ち着いて……」

「これが落ち着いていられるか!おのれ!この俺を倒せる男でなければ弟との交際は認め~ん!」

「「お前は妹を溺愛するお兄ちゃんか」」

 動揺するあまり言っている事が若干怪しくなっているアルウェイと、思わずそれにツッコミを入れるドレイクとローゼリット。珍しく二人のツッコミが綺麗にハモる。

「兄さん!僕男の人と付き合ったりしないよ!」

「む!そうだな……間違えた」

 弟の言葉に正気に戻るアルウェイ。あまりにひどい動揺の仕方に(おいおいコイツ大丈夫かよ?)とドレイクが内心呆れていた。

「それで?リュートは気になる娘とか居ないのか?」

「ええ⁉その話に戻るんですか⁉」

 話を戻したローゼリットに、リュートが驚きながら非難がましい視線を送っている。ちなみにアルウェイは「そうだ!リュート!一体どこの誰が好きなんだ⁉」とか後ろの方でわめいていた。

 兄とローゼリットに迫られ、思わず涙目になるリュート。そしてそれほどこの話題に乗り気では無さそうなドレイクに助けを求める。

「ド、ドレイクさん…助けて」

「いや、助けてって言われてもな……」

 思わず苦笑いするドレイク。助けを求められても、一体どうしたものか……。

「別に隠さないで正直に言ったらどうだ?」

「そんな!ドレイクさんまで……」

 見捨てられたと思ったのかショボンとするリュート。そんなリュートを見ながら「面白い奴」と思うドレイク。

「別に言ったところで何かある訳じゃあるまい?それに別にお前さんの恋バナを言いふらしたりしないさ」

 そう言って肩をすくめるドレイク。それを見たリュートはポカンとしていたが、すぐに「そ、そうですよね…」と言って涙を拭っていた。

「それでリュート⁉お前の好きな奴は一体誰なんだ⁉」

「おい、お前はお前で少し落ち着けアルウェイ」

 弟に詰め寄るアルウェイの首根っこを掴みながら思わず止めに入るローゼリット。実の兄が一番弟を怖がらせているような気がする。しかし、そんな様子を見て逆に落ち着いたのかリュートが「ははは」と笑い声をあげた。

「それで⁉お前の好きな娘は誰なんだ⁉冒険者ギルド受付のスザンヌか⁉黒イノシシ亭のマリーか⁉それともまさかこの間一回組んで一緒に仕事をした筋肉女戦士のエリザベスなのか⁉」

 再度詰め寄るアルウェイ。しかしリュートは少し顔を俯かせながらモジモジしている。

「ううん、違うよ。って言うか……好きって言うより、まだ気になってるだけなんだけど……」

 そう言っている割にはやたらとモジモジしているリュート。恥ずかしがっているのだろうが、女顔のせいで友達との恋バナに恥ずかしがっている女子にしか見えない。そしてドレイクの方にチラリと視線を送っている。

 その視線に気が付いたドレイク。「何か用か?」とばかりに首を傾げているが、その視線に気が付いた者はもう一人いた。アルウェイである。

「ちょっと待てリュート!お前まさか!この赤蜥蜴野郎が好きだとか言うんじゃないだろうな⁉」

「「ブフーーッ!」」

 アルウェイのあまりと言えばあまりの言葉に思わず吹き出すドレイクとローゼリット。しかしリュートは顔を真っ赤にして両手を振っている。

「ちちち、違うよ兄さん!」

「そんなに動揺するってことはやっぱり……」

「違うってば!僕が気になってるのはフリルフレアさんで……」

 思わず叫んでからハッとするリュート。そして気まずそうにドレイクの方を見ている。

「ほう…フリルフレアか。なかなか見る目があるなリュート」

 ローゼリットがそう言ってニヤリと笑っている。

「フリルフレアは良い娘だぞ。料理は上手いしよく気が利くし、おまけに可愛い。私も嫁にするならフリルフレアだな」

「お前には踊り猫がいるじゃんか」

「スミーシャは相棒だ。もう家族みたいなものだからな」

 嫁と家族は違うのか?と突っ込みたかったドレイクだがとりあえずはよしておく。そしてフリルフレアのことが気になると言ったリュートに視線を向けた。

「あっと……すいませんドレイクさん」

「?…何で謝るんだ?」

 突然謝罪してきたリュートに疑問の声を上げるドレイク。だが、その態度は心なしか不機嫌そうにも見える。

「だって、フリルフレアさんはドレイクさんの相棒なんでしょう?だから何か申し訳なくって……」

 何やら申し訳なさそうにしているリュート。それを見たドレイクは深々とため息をついている。

「別にお前さんが誰を好きになろうがそれはお前さんの勝手だろ。別に俺の事を気にする必要はねえよ」

「あ、えっと……はい」

 ドレイクにそう言われ、それでも申し訳なさそうにしながら頷くリュート。ちなみにドレイクは言葉ではああ言っていたが、結構機嫌が悪いように見える。どうやらフリルフレアのことを好きだという人物の登場が気に食わないらしい。相棒を独占したいという気持ちでもあるのだろう。そしてドレイクはさらに鋭い視線を周囲に向ける。

「それにそろそろお喋りは終わりだな」

「さすがに鼻が良いな赤蜥蜴。囲まれてるな」

 そのままドレイクは背中の大剣を抜き放ち、ローゼリットは左右の手に短剣を握りしめる。それを見たアルウェイとリュートはパチクリと瞬きしていたが、ドレイクとローゼリットの雰囲気に危険を察知し、アルウェイは背中の大剣を抜き放ち、リュートも杖を取り出している。

「来るぞ!」

 ドレイクが叫んだ瞬間だった。ドレイク達の前に薄汚い緑の肌をした無数の人影が姿を現した。ほとんどは小柄な者だが大柄な物もかなり混じっている。

 それは……ゴブリンの集団だった。

「チッ……偶発的遭遇(ランダムエンカウント)か!」

 ドレイクはそう叫びながらゴブリンとホブゴブリンの群れに突撃していった。


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