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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第3話、ナイトメア その3

     第3話その3


「フリルフレア!」

 ドレイクは叫びながら書物庫の扉を開け放ち、中へ飛び込んだ。

 皆寝ていた為だろう、書物庫の中はランタンに小さな明かりが灯っているだけで、全体的に薄暗い。だが、床にいくつかの影が転がっていてそれが寝ているアレイスロー達であろうと言う事だけは分かった。のん気に寝息を立てているであろうその人影に、思わず蹴り飛ばして叩き起こしてやりたい衝動に駆られるが、そこはグッと我慢する。そして寝転がっている人影をざっと見回す。転がっている人影は6つだった。

「おいフリルフレア!無事なのか⁉」

 叫ぶドレイクの声がうるさかったのか、「う~ん……」と声を上げながらいくつかの人影がもぞもぞと動き出す。

「……うるさいですね…一体何ごとですか………って、ドレイクさん?」

 もぞもぞと起き上がり、ランタンの明かりを大きくしたアレイスローが眠そうな声を上げていたが、そこにいたのがドレイクだと知り思わず驚きの声を上げる。その隣ではリュートが身体を起こし眠そうに目を擦っていた。

「一体どうしたんですかドレイクさん?」

 さすがに冒険者ギルドにいるはずのドレイクの出現に驚きを隠せないアレイスロー。起き上がり、書物庫の中の明かりをつけて回りながらドレイクを不思議そうに見ている。

「おい弐号、フリルフレアは何処だ?」

「フリルフレアさんですか?その辺に寝てません?」

 ドレイクの問いに、顎で机の反対側を指示すアレイスロー。そうこうしている間にも皆次々と目を覚ましてくる。

 リュートはまだ眠そうに眼をこすりながら「一体どうしたんですか……」と不満そうにドレイクを見ている。ユーベラーは体を起こし、腹をボリボリと掻きながら大欠伸をしていた。シェリエルは「何なの一体……」と眠そうに体を起こしながらドレイクにジト目を送っている。そしてクロストフだけは「おお……赤鱗のリザードマン、珍しいですな」とドレイクに興味を示していた。

 そんな中、フリルフレアだけは何の反応もしていない。ドレイクがアレイスローの示したあたりに視線を送ると、そこには寝息を立てているフリルフレアの姿があった。

 思わず安堵するドレイク。てっきりフリルフレアがどこかに連れ去られたのだとばかり思っていたので彼女の姿が見えて安心したのだった。

「無事だったか……」

 焦りが消え、安堵したためか身体がドッと重くなる。緊張が解けたからだろう。思わずそのまま寝ているフリルフレアのすぐ横に座り込むドレイク。

 そうこうしている間に部屋の明かりをつけ終えたアレイスローがドレイクの所にやってくる。他のメンバーもその場から動いてはいないが、立ち上がったり、座ったままドレイクの方を見ていた。

「あの……フリルフレアさんがどうかしたんですか?」

 リュートが若干不審そうな眼でドレイクを見ている。こんな夜中に突然押しかけてきたのだ。一体どんな一大事があったのかと疑念を抱いているのだろう。。

「あ、いや…すまん。俺の勘違いだったみたいだ」

「勘違い~?」

 ドレイクの答えに不満そうな声を上げるユーベラー。恐らく勘違いで起こされたのが不満なのだろう。見ればシェリエルも同じように不満そうな顔をしている。

「勘違いなんですか?まあ、何もなかったならいいですけど…」

 そう言ったリュートはどことなくホッとした様子に見える。優しい彼の事だから、フリルフレアに何かあったのかもしれないと危惧していたのだろう。

「それで、ドレイクさん。何を勘違いしたんですか?」

「あ、ああ…」

 アレイスローの言葉に、思わず言葉を濁すドレイク。正直な話説明するのが非常に難しいことだ。フリルフレアの危機を感知できると言う事を、言うだけなら簡単だがどうしてそんなことが可能なのか理由が分からない。ドレイク自身、フリルフレアがドレイクにかけた呪いなのではないかとさえ思っているのだ。だが、どう説明したら信じてもらえるか…。

 ドレイクがそんなことを考えていると、書物庫の扉の外に人の気配を感じた。そしてすぐに扉が開かれる。そこにはローゼリットとスミーシャ、フェルフェルにサイザー、アルウェイとライデンの6人が立っていた。

「おい赤蜥蜴、一体何があったんだ?」

「あんたが急に飛び出して行くから驚いてみんなで追いかけてきたんだからね」

 ローゼリットとスミーシャにそう言われ、思わず黙り込むドレイク。この状況で「すいません、勘違いでした」とは若干言いにくい。だが、このまま何も言わない訳にもいかない。

「え~と……すまん、俺の勘違いと言うか早とちりと言うか……」

 バツが悪そうにそう言うドレイク。

「はあ?あんだけ騒いどいて勘違いだって言うの?」

「あ、ああ…」

 ドレイクが騒いだせいで夜中に叩き起こされ、あまつさえ勘違いだと言われ、いい加減頭に来たのだろう。すごい剣幕でドレイクに詰め寄るスミーシャ。さすがのドレイクも思わずたじろいでいる。

「待て、おい赤蜥蜴」

 ドレイクに向かって「フシャーー!」と猫の様に威嚇し噛み付かんばかりの勢いのスミーシャを遮り、ローゼリットがドレイクに詰め寄った。

「お前、フリルフレアがどうとか言ってたみたいだが……どういうことだ?」

「あ、いや……まあ、とりあえずフリルフレアは無事だったってことだ」

 ドレイクが眠っているフリルフレアを指差す。フリルフレアは今も静かな寝息を立てていた。

「う~ん……まあ、フリルちゃんが無事だったならいいか!」

 直前までドレイクを威嚇していたスミーシャだったが、そんなことを言いながらフリルフレアにに添い寝する様に寝転がる。そしてそのまま抱きしめて滅茶苦茶頬っぺたにスリスリし始めた。さらに反対側にしゃがみ込んだフェルフェルが「…うぇ~い…フリル…起きる…」といってフリルフレアの反対側の頬っぺたをつまんでいる。ちなみにそれを見ていたサイザーが「いや、別に無理に起こさんでも……」と呆れていた。

 しかしそんな中、ローゼリットだけは緊張を解いていなかった。鋭い視線をドレイクに向けている。

「おい赤蜥蜴、お前もしかしてあれを見たんじゃないのか?」

「あれ?」

「とぼけるな。私は以前お前がフリルフレアの危機を感知したのを知っているぞ」

「あ……」

 思い出したドレイク。確かに暗殺者ギルド事件の時にドレイクがフリルフレアの危機を感知したのをローゼリットに話している。

「確かに……それらしい夢を見たんだが…」

「なら何か起きているのかもしれないだろ!」

「けど、フリルフレアは無事だぜ?のん気に寝てるけどよ」

 そう言ってフリルフレアの方を見るドレイク。ローゼリットもつられて視線を送る。

 その時、身体を起こしたスミーシャが不安そうにドレイクとローゼリットを見上げた。フェルフェルも立ち上がって不思議そうにフリルフレアを見ている。

「ね、ねえ…ローゼ、赤蜥蜴……」

 不安そうなスミーシャの声に思わずドレイクの身体に緊張が走る。そしてスミーシャが恐る恐る口を開いた。

「起きないの……」

「何がだ?」

「フリルちゃん……起きないの……」

 ドレイクの言葉に答えたスミーシャの顔が真っ青になっている。そして彼女の腕の中では今だフリルフレアが寝息を立てていた。

「どういうことだ?」

 ローゼリットの言葉にフェルフェルがおずおずと口を開く。

「…フリル…スミーシャが…スリスリしても…起きなかった…フェルが…ほっぺ…つねっても…起きな…かった…」

 そう言ったフェルフェルも顔を青くしている。

 きっと普段のフリルフレアならば寝ている所にスミーシャがスリスリすれば飛び起きて、「ミイィィィ!やぁ!スミーシャさんやめてください!」とか叫ぶだろうし、フェルフェルが頬っぺたをつねれば「ふぃぃぃぃ!いひゃいれふ!ふぇうふぇうふぁん、ひゃめえふあはい!」と何を言っているか分からないまでも抗議するだろう。だが、今のフリルフレアはそれもしないでずっと眠っている。

 その瞬間ドレイクは弾かれた様にフリルフレアの横にしゃがみ込むと、そのまま彼女のおでこに強烈なデコピンをぶちかました。

バシン!

 結構すごい音がする。かなり痛いだろうし、寝ていても絶対に跳び起きるほどの威力だった。だが、フリルフレアは気が付いた様子も見せず眠っている。

「おい!フリルフレア!起きろ!」

 焦ったドレイクがフリルフレアの肩を掴んで揺さぶるが、彼女は一向に目を覚まさない。

「ドレイクさん…これは一体…?」

「分からん!だがフリルフレアが起きない!」

 状況がつかみきれていないアレイスローと、焦るドレイク。その時、「あ、あの…」と言う声と共に恐る恐る手を上げる者がいた。リュートである。

「何だ?」

「いえ、その……何をしても起きないって…フリルフレアさんの症状、今回の昏睡事件と一緒な気がして……」

「あ…」

 リュートの指摘に思わず間抜けな声が出るドレイク。確かにリュートの言う通り、叩いてもつねっても起きない現状のフリルフレアはアルミロンド集団昏睡事件の被害者と全く同じ状況に思える。

「ど、どういうこと?フリルちゃんは……?」

「フリルフレアも集団昏睡事件に巻き込まれたってことか……」

 不安げなスミーシャと苦々しく呟くドレイク。まさかフリルフレアの身にこんなことが起きるとは思ってもいなかった。考えてもみれば、事件解決のためにやってきた騎士団員や魔導士団員達も被害にあっているのだ。自分たちも被害にあわない保証などどこにも無かったのだ。その事実に気が付かなかった自分自身のふがいなさに苛立ちと怒りを覚えるドレイク。

「クソッ!」

 吐き捨てるように悪態をつくドレイク。相棒の異変に気が付かなかった自分自身を呪いたい気分だった。


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