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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第1話、アルミロンドという街 その8

     第1話その8


「てか、あんたらのパーティー、ちょっと変わってるよな」

 ドレイク達6人をジロジロと見ながらアルウェイがそうぼやいている。それを聞いたノイセルも「確かに変わっていますね」と同意していた。

「変わってるって………何がだ?」

 それを聞いたドレイクは頭の上に?マークを浮かべている。確かに変わり者であるドレイクだが、人からどうこう言われるほど変わり者であるという自覚は無かった。

「パーティーメンバーの構成だよ。ヒューマンが一人もいないじゃないか」

「ああ、そう言えば」

 アルウェイの言葉に「そう言えば」と言いながら手を打つアレイスロー。ドレイク達のパーティー構成は、リザードマン、フェニックスっぽい何か、ハーフエルフ、ケット・シー、エルフ、バードマンであり、人間種の中でも最も人口の多いヒューマンが一人もいないパーティーというのは確かに珍しかった。

「それによ」

 そう言うとさらにジロリとドレイクを睨み付けるアルウェイ。何か言いたいことがあるようだ。

「ドレイク、だったな。俺は今まで赤鱗のリザードマンなんて会った事無いんだが……」

「あ、そうだよね。リザードマンの部族は青鱗、黄鱗、白鱗、紫鱗、黒鱗の5部族のはずだもんね」

 胡散臭いものを見る目でドレイクを見ているアルウェイに同意するリュート。だが、リュートがドレイクを見る視線は兄とは違い純粋な好奇心によるものに見える。

「どういうことか説明してもらおうか」

 どことなくイチャモンをつけているだけにも見えるアルウェイの態度だったが、得体の知れない赤鱗のリザードマンとはいっしょに仕事は出来ないという感じなのだろう。誰もアルウェイの事をとがめることはしなかった。

「ドレイク、確かにそれは俺も気になっていたことなんだ。あんたは一体…?」

 サイザーも申し訳なさそうにドレイクに問いかける。しかし、それに対してドレイクは腕を組みながら首の関節をパキパキ鳴らしながらキッパリと言い放った。

「知らん」

「「「は?」」」

 キッパリと言ったドレイクの言葉に思わずサイザーやアルウェイ達の声がハモる。

「わざわざ気にしてもらったところ悪いんだが、俺は5年以上前の記憶が無くてな、鱗が何で赤いのか俺も知らないんだ」

「…………………」

 ドレイクの言葉に部屋の中がシーンと静まり返る。記憶が無いなどというショッキングな内容をあっさりカミングアウトしたので皆あっけにとられている様子だった。

「それは……その、あれか?何か事件に巻き込まれて鱗が赤くなり、同時に記憶を失ったってことか?」

「いや、だからそれすらも分かんないんだが…」

 ライデンが考え込みながら言葉を絞り出すが、ドレイクはアッサリと首を横に振った。

「何か邪悪な徒に呪いをかけられたという事なのでございましょうか?」

「でも、それだったらもっと毒々しい色になりそうじゃね?」

 ノイセルとユーベラーが顔を見合わせてそんなことを言っているが、当のドレイクは全く気にもしていない。

「まあ、そう言う訳だからよ、なんか赤いけどあんま気にしないでくれよ」

「いや、気にするなって言われても……あたいらは今回だけの付き合いだからそれでもまあ構わないけど、あんた達はそれで良いのかい?」

 ドレイクの言葉にあっけにとられながらも、「仲間たちはそれで良いのか?」と心配してくるシェリエル。そんなシェリエルの言葉に対しフリルフレアが微笑み返す。

「心配してくれてありがとうございますシェリエルさん。でも私達、ドレイクが赤いのにはもう慣れちゃってるんで、だから心配しないでください」

 フリルフレアの言葉にローゼリット達もウンウン頷いている。スミーシャにいたっては「まったくもってフリルちゃんの言う通りよ!」とか言いながら盛大に頷いていた。

「そ、そうなのかい?まあ、あんた達がそう言うならあたいはこれ以上は何も言わないけど……」

 フリルフレア達が揃って気にしないと言っているのでこれ以上口を挟む必要もないと感じたシェリエルは軽く手を上げて「もう口は挟まない」と意思表示をすると、黙って成り行きを見守ることにした。

「まあ、赤いリザードマンの事はそれでいいや。けどよ、他にも珍しい奴らがいるよな?」

「珍しい奴ら?」

 まだイチャモンを付けようとするアルウェイと、それに反応して疑問の声を上げるライデン。

「おいアルウェイ、いい加減そのくらいに……」

 アルウェイがあまりにもドレイク達に絡むので少し眉をひそめるサイザー。これから協力しなければならないというのにこのままではケンカに発展しかねない。

「いや、悪いけどサイザーさん、俺は信用できない奴と一緒には仕事はしたくないんでね。珍しい奴が居るなら理由ぐらい聞いておきたいのさ」

「しかしだな…」

 あくまでからもうとするアルウェイと止めようとするサイザー。だが、すぐにアレイスローが「気にするな」とばかりに手をパタパタと振って笑いかけた。

「いえいえ、気にしないでください。変わったパーティーなのは事実ですから。それで珍しい奴とは?」

「そいつらだよ」

 アレイスローの言葉に答える様にフリルフレアとフェルフェルを指差すアルウェイ。

「彼女たちが何か?」

「とぼけんなよ。俺は今まで赤鱗のリザードマンは見たこと無かったが、赤い翼と青い翼のバードマンも見たこと無かったぜ」

 そう言ってフリルフレアとフェルフェルを睨むアルウェイ。そんな鋭い視線を受けた党のフリルフレアとフェルフェルは互いに顔を見合わせている。

「それとも何か?お前らの翼の色が珍しいのも記憶が無くて分からないってのか?」

 明らかに無理矢理からもうとしている様に見えるアルウェイ。フリルフレアとフェルフェルがどう答えるべきか迷っていると、思わぬところから助け船が来た。

「あ、兄さん。ちょっと良い?」

「ん?何だよリュート?」

 突然口を挟んできた弟に疑問の声を上げるアルウェイ。しかしリュートは気にせずにフェルフェルの方を指示した。

「そちらの赤い翼のフリルフレアさんの方は分からないんだけど、青い翼のフェルフェルさんの方は別におかしなところはないんだよ」

「何でだよ。俺は青い翼のバードマンなんて見たことないぞ?」

「いや、確かに珍しくはあるんだけど別にいない訳じゃないんだよね。バードマンの翼の色は風の精霊王様の翼の色と同じ白、黒、灰色、茶色、青、銀色の6種類だったはず」

「おや、詳しいじゃないか坊や。確かに風の精霊王フレスベルグの翼の色は白、黒、灰色、茶色、青、銀色の6色。……そう言えばあたいもバードマンは風の精霊王に連なる種族だって聞いたことあるね」

 リュートの知識に驚いたのか口を挟んでくるシェリエル。魔導士でありながら精霊に関しても知識を持っているリュートに感心しているようだ。

「ええ、それにその中でも青と銀色の翼を持った人たちは珍しいと聞き及んでいます」

「つまりどういうことだよ?」

 弟が自分の意見に反対したのが気に入らないのか若干イライラしながらそう言うアルウェイ。しかしリュートは気にせず言葉を続けた。

「つまり、そちらのフェルフェルさんは普通のバードマンだって言う事だよ」

「…うぇ~い…フェルは…普通の…バードマン………フッ…」

 勝ち誇ったようにそんなことを言いながらアルウェイに対してドヤ顔をするフェルフェル。最後の若干嘲笑う様な吹き出し笑いがいかにも怒りを誘いそうだ。そしてそのフェルフェルの挑発とも取れる行動により、アルウェイの機嫌はさらに悪くなる。

「チッ!……んじゃその青羽根は良いけどよ、そっちの赤羽根の小娘はどうなんだよ!」

「……赤羽根の小娘…」

 小娘扱いが気に入らないのか、密かにアルウェイを睨むフリルフレア。しかし、視線が合いそうになって慌てて視線を逸らしていた。

「ごめん、そっちの…フリルフレアさんの方は僕じゃ分からないよ…」

 申し訳なさそうに言うリュート。どうやら心情的にはフリルフレアのことも兄から庇ってあげたいのだが、翼が赤い理由までは分からないため何も言えないらしかった。

「おい、どうなんだよ。何でフリフリのメイド嬢ちゃんの羽根は赤いんだ?」

 なおも睨んでくるアルウェイ。だがアルウェイの言葉にカチンとくるものがあったのか、フリルフレアが真正面から睨み返していた。

「どうでも良いですけど!私はフリフリじゃなくてフ・リ・ル・フ・レ・ア・です!それにこのエプロンはメイドじゃなくて防具だってさっき言ったじゃないですか!」

 予想外に気が強く、噛み付いてきたフリルフレアに思わずビクッとするアルウェイ。だがすぐにビクついたことを誤魔化す様に咳払いすると、フリルフレアを睨み付けた。

「防具だったらそんな紛らわしい格好してんじゃねえ!それにお前の羽根が赤い理由にはなってねえだろ!」

「私の羽が赤かろうが何色だろうがあなたには関係ないじゃないですか!それに……」

 ムカついたのか怒鳴り返すフリルフレア。だがすぐにドレイクがフリルフレアの頭の上に手を置いて止めに入る。

「そのくらいにしとけフリルフレア。ワザと怒らせようとしてくる奴相手に怒っても時間の無駄だ」

「でもドレイク!」

「良いから、ここは俺に任せとけ」

 そう言うとドレイクはフリルフレアの頭をクシャクシャと撫でる。ただでさえくせっ毛なのにさらにグシャグシャになり、フリルフレアは「ミィィィ…」と呟きながら髪を整えだした。

「え~と……おいマッチョ」

「……………まさか俺の事か?」

「他にマッチョいねえだろ。とりあえずお前はマッチョな」

「はあああああ⁉」

 ドレイクに突然マッチョ扱いされ呆気にとられつつも苛立ちの声を上げるアルウェイ。

「フリルフレアと俺はな、相棒なんだよ。こいつも昔の記憶が無くてな、今のパーティーを組む前は一緒に記憶探しの旅をしてたんだ。だからこいつも俺と同じで翼が赤い理由が分かんないんだよ」

「な……お前!俺がそんな雑な説明で納得するとでも……」

「悪いが納得してくれ。他に言い様がないんだ」

「……ぐ…」

 ドレイクの言い分に言葉に詰まるアルウェイ。アルウェイ自身はドレイクの言葉を信用していなかったが、真実だとすればこれ以上追求しようがないと考えたのだ。

「……兄さん、それくらいにしておこうよ。ドレイクさんもフリルフレアさんもあんまり根掘り葉掘り詮索されたくはないはずだよ。それにこれからこの人たちと協力していかなきゃいけないんだから」

「………まあ、お前がそう言うなら…」

 リュートがドレイクとフリルフレアの肩を持つのが気に入らなかったが、我慢して大人しく引き下がるアルウェイ。

「よし、ならこれで話は終わりだな。早速手分けして調査を開始して………」

「ちょっと待てよサイザーさん」

「何だ、まだ何かあるのかアルウェイ?」

 昏睡事件を一刻も早く解決したサイザーはさっそく調査を開始しようとするが、またもや口を挟むアルウェイ。

「まだ、全体のリーダーを決めてないぜ」

「全体のリーダー?」

 アルウェイの言葉に頭の上に?マークを浮かべるライデン。周りの皆も同様に?マークを浮かべている。

「そうだ!全体を指揮するリーダーがいなきゃまとまらないだろ?まあ、安心しろよ。ここは全員の中で一番冒険者ランクが高い俺がリーダーとして……」

「お前さんよりあっちのエルフの……えっと…アレイスロー、だったよな。あっちの魔導士さんの方がランク高いだろ?」

 ちゃっかり自分がリーダーの座に収まろうとするアルウェイを遮るようにライデンが口を挟む。

「そうですね。それに13人もの人数をまとめる人物となると、この中でございましたら、6人パーティーのリーダーであるアレイスローさんが最適だと存じます」

 ノイセルの言葉に、思わず「わ、私ですか?」と自分を指差すアレイスロー。しかし、とんでもないとばかりに両手をバタバタと振っている。

「誤解しないでいただきたいのですが、私はあくまでパーティーの交渉担当でしかありませんよ。リーダーは別にいます」

「え?そうなのでございますか?」

 アレイスローの言葉が意外だったのか驚きを隠せないノイセル。

「でも、ランク10ならあんたが一番ランク高いんじゃないのか?普通は一番ランクの高い奴や、経験が豊富な奴がリーダーやるだろ?」

 もっともな疑問をぶつけてくるユーベラー。

「いえ、内のパーティーで一番ランクが高いのはドレイクさんです」

「へ?リザードマンの兄ちゃんが?」

 ユーベラーが疑問の声と共にドレイクへ視線を送る。他の皆の視線もドレイクへと集中していた。

「そう言えばあんたは自己紹介の時ランクを言わなかったな。それで?一体ランクいくつなんだ?」

「ランクか?13だが?」

 ドレイクはそう言うと首から下げた冒険者認識票を取り出してみせる。そこには確かに13という数字が刻まれている。

「「「ラ、ランク13⁉」」」

 平然と答えたドレイクに対し、アルウェイやライデン、サイザーさえも驚きの声を上げる。

「スゴイな!なら決まりだ!ドレイク、君が全体のリーダーとして指揮を取って……」

「え?やだよ」

 サイザーが言い終わる前にキッパリと断るドレイク。思わず皆ポカンとしている。

「いや、しかしドレイク!あんたが一番ランクが高くて…」

「いや、俺ずっとソロでやっててランク13になったから、頭使うの得意じゃないんだよ」

 ライデンの言葉にも首を横に振るドレイク。

「確かに、ドレイクって基本馬鹿だもんね」

「そう言うお前だって特別頭いいとは言えないぞフリルフレア」

 馬鹿扱いされたのが悔しいのかしっかりと言い返すドレイク。しかしリーダーをやるつもりなど全くなかった。

「いや、しかしそれならだれがリーダーを……」

 困ったと言いたげなサイザー。そんな彼を見ていたローゼリットとスミーシャが顔を見合わせてから口を開く。

「なあ、リーダーはあんたじゃダメなのか?サイザーさん」

「そうそう、冒険者ギルドのサブマスターなんだから人を使うのは慣れてるでしょ?赤蜥蜴なんかよりよっぽど向いてるとあたしは思うんだけど」

 ローゼリットとスミーシャの言葉に思わずポカンとするサイザー。

「いや、しかし俺は冒険者は引退した身だし……」

「別に問題あるまい?あんたならここに居る全員も納得するはずだ」

 そう言って全員を見回すローゼリット。皆口々に「確かに」とか「まあ、サイザーさんなら」などと言っている。

「……良いのか?俺が指揮を執ってしまって」

「問題ないよ。むしろあたし達からお願いしたいくらい。逆に赤蜥蜴がリーダーとかマジ無理。それならフリルちゃんに指揮をとってもらった方が100倍まし」

「え?わ、私ですか?」

「そうそう。あ、そうだ!やっぱサイザーさんじゃなくてフリルちゃんを全体のリーダーに………」

「ミィィィィィ!私じゃ無理ですよ!」

 とんでもないと言いたげにバタバタと手を振るフリルフレア。ちなみに余計なことを言い出したスミーシャは隣のローゼリットから手刀を後頭部に喰らい撃沈していた。

「それじゃ決まりだな。リーダー役、たのむぜ髭マスター」

「……髭マスター?」

 ドレイクに髭マスターなどと妙な呼び方をされて頭の上に?マークを浮かべるサイザー。しかし当のドレイクはニコニコしながらウンウン頷いている。

「髭の生えてるサブマスターだから略して髭マスターだ。分かりやすいだろ?」

「え?ええッと………?」

 ドレイクの言おうとしてることを理解できず、頭の上にいくつもの?マークを浮かべるサイザー。それに対してフリルフレアが頭を下げる。

「すいませんサイザーさん。ウチのドレイク、どういう訳か人の名前とか覚えるの凄く苦手で………勝手にあだ名付けるかもしれませんが許してやってください」

 ドレイクの後始末とばかりに、深々と頭を下げるフリルフレア。本当に申し訳なさそうに頭を下げているのだった。


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