第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第1話、アルミロンドという街 その7
第1話その7
サイザーについて応接室を出たドレイク達。そのまま2階にある会議室へと案内された。
「他のメンバーを呼んでくる。ここで待っていてくれ」
そう言って会議室を後にするサイザー。ドレイク達は顔を見合わせながらも大人しく待つことにした。
そして待つこと数分、サイザーは6人の冒険者を連れて会議室へとやってきた。
「皆、とりあえず席に着いてくれ」
そう言ってサイザーは会議室の真ん中にある長テーブルを指差す。ドレイク達も6人の冒険者たちも思い思いに席に着いた。そしてサイザーはテーブルの端に行くと、立ったまま頭を下げた。
「まずみんなに、今回のこの事件『アルミロンド集団昏睡事件』解決のために力を貸してくれることに、冒険者ギルドを代表して礼を言う。ありがとう」
どうやらフリルフレアの名付けた「アルミロンド集団昏睡事件」という名前が採用されたらしい。ドレイク的にはどうでも良い事だったが……。
「それで今回この12人の冒険者の皆に事件解決のために力を貸してもらう訳だが、お互い面識も無いだろう?」
サイザーの言葉にその場の全員が頷く。
「だからおせっかいかもしれないがこうして自己紹介の場を設けさせてもらった。順番に自己紹介を頼みたい。あと、冒険者ギルドからも俺が事件解決のために直接動く事になっている。改めてよろしく頼む」
そう言って再頭を下げたサイザー。ちなみにこの場で自己紹介をしないところを見ると、どうやらこの場にいる全員がサイザーの事を知っているようだ。恐らく他の冒険者達にもドレイク達同様サイザー自ら事件の説明をしたのだろう。
「それでは自己紹介を頼む」
そう言って席に着いたサイザー。するとすぐに一人の男が待ってましたとばかりに立ち上がった。
男は筋肉質で大柄であり、体格だけならドレイクにも匹敵する。少しボサボサで短めの黒髪をしており瞳の色も黒、使い古された革鎧を着ており背中には大剣を背負っていた。
「じゃあまずは俺からだな!俺の名はアルウェイ・セオル。歳は23、冒険者ランク8の戦士だ!力には自信があるぜ!」
アルウェイと名乗ったその男はそう言って力こぶを作って見せる。その腕は太く、それこそ盛り上がった力こぶの太さはフリルフレアの細い腰よりも太そうだ。更に自慢の筋肉を見せつける様にポーズをとってみせるアルウェイ。
(くくく、どうだよ俺の筋肉は!)
チラリと視線を送るアルウェイ。その視線の先に居たのは……ドレイクだった。どうやら同じ大柄な者同士、それに見ればわかるが同じ大剣使いのパワーファイターとあって対抗意識を燃やされたようだった。ちなみに当のドレイクはアルウェイのポーズなど見てもおらずに面倒臭そうに欠伸などをしている。
(クソ!あの妙なリザードマンめ!この俺をシカトしやがって!……ってかあれ?リザードマンって赤かったか?)
そんなことを考えていたアルウェイだったが、全員の視線が集中している事に気が付き軽く咳払いをする。
「まあ、とにかくこっちの弟共々よろしく頼む」
そう言って隣に座っている少年の最中をバンバン叩くアルウェイ。一方の背中を叩かれた少年は咳き込みながら恨めしそうにアルウェイを見上げている。
そしてアルウェイは「よし、俺が自己紹介したんだから次はお前だな」と言って少年を半ば無理矢理立たせると自分は席に着いた。無理矢理立たされた少年は困ったようにキョロキョロと周りを見回したが、すぐに恥ずかしそうに顔を俯かせてしまう。それでも口を開き小さな声で話し始めた。
「あの……僕はリュート・セオルって言います。……名前で分かると思いますけど、兄さんの…アルウェイ・セオルの弟です。歳は17、冒険者ランク4の魔導士です」
丁寧に…と言うよりは気弱そうにそう言ったリュートと名乗った少年魔導士。体格も兄のアルウェイに比べるとだいぶ小柄で、身長は160cm位だろうか?纏っているローブの上からでも線が細いのが分かる。また、髪と瞳の色こそアルウェイと同じ黒であるが、髪は肩の上くらいまで伸ばしているし、顔立ちもごついアルウェイと似ておらず優しそうな顔をしている。見ようによっては少女と間違えそうですらあった。当然手に持っている杖も細くて軽そうなものを持っている。
「兄が御迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」
そう言ってペコリと頭を下げるリュート。その言葉にアルウェイが「おいおいリュート、その言い方は無えだろ!」と言って笑いを誘っていたが、リュートの方は若干顔をしかめている。どうやら本気で兄が迷惑をかけると思っているようだ。
「アルウェイとリュートはこの街を拠点にしていてな、俺とも面識があるんだよ。二人とも若いが腕のいいコンビだ」
補足するように口を挟むサイザー。彼なりに二人のことを評価しているみたいだった。
そしてリュートが席に着くと、残りのメンバーで次は誰にするかと顔を見合わせる。
「じゃあ、次は俺達が行こうか」
そう言うと4人組らしき冒険者の内の一人が手を上げた。年の頃は30歳位だろうか?短めの金髪と青い眼をしている。
「俺はライデン・ゲノス、見ての通りのヒューマンで、さっきの筋骨隆々な兄ちゃんと比べるとちょっと見劣りするが、これでも戦士だ。歳は30で冒険者ランクは6。一応この4人のリーダーをやってる。よろしく頼むぜ」
ライデンと名乗ったその男はそう言ってペコリと頭を下げる。鎖帷子の上から胸部金属鎧をつけており、腰には片手でも両手でも使える大振りな刺突剣エストックを装備しており、左手には円盾を持っていた。喋り方は若干粗暴に聞こえるが、物腰は落ち着いており荒々しさは感じられない。30歳というには若干老け顔だったが、そこが逆に渋さをかもし出しており、一見してナイスミドルに見えた。
そしてライデンが席に着くと、今度は隣に座っていた少し耳の尖った女性が立ち上がった。耳の尖り具合がローゼリットに近いため、恐らくハーフエルフだろう。
「次はあたいの番だね!あたいの名前はシェリエル、シェリエル・リンクって言うんだ。見ての通りハーフエルフでね、精霊使いをやってるよ。歳は……まあ、野暮なことは訊かないでおくれ。冒険者ランクは6だよ。よろしくね」
シェリエルと名乗ったその女ハーフエルフは、そう言って軽く手を振った。
少しウェーブのかかった長い緑色の髪をしており、その瞳は濃い青色だ。軽めの革鎧を着こんでおり、腰の後ろには柄頭に透明で宝石の様な綺麗な石の付いた細身片刃刀を装備している。
「ほら、次はあんたの番だよ」
シェリエルはそう言うと隣に座っている男の肩を叩いた。そして自分は席に着く。肩を叩かれた男はしぶしぶ立ち上がった。
「初めまして皆さん、わたくしは戦と力の神であらせられる戦神ハルバス様にお仕えさせていただいております司祭のノイセル・ジェイカーと申す者にございます」
やたらと丁寧な喋り方でノイセルと名乗ったその男はそう言うと頭をペコリと下げたのだった。ノイセルはお世辞にも大柄とは言えず、身長はリュートと同じくらいだ。しかし肩幅はあるようであり、纏っている法衣から覗く腕は意外にも筋肉質である。恐らく細マッチョなのだろう。また法衣の下からは金属の擦れる音がしており鎖帷子を装備している事が分かるし、腰の後ろには戦棍を2本括り付けている。灰色の髪をオカッパ頭にしており、紫色の眼をしていた。
「司祭と申しましても、それはあくまで神殿内での地位でございまして、冒険者としての仕事はもっぱら神官戦士と言ったところでございます。歳は27歳、冒険者ランクは6でございます。皆様、なにとぞよろしくお願いいたします」
そう言うと再び頭を下げるノイセル。どうやらむやみやたらと丁寧な言葉遣いをする男のようだった。
ノイセルがそのまま席に着くと、さらにその隣に座っていた小柄な人影が立ち上がった。
まるでヒューマンの子供なのではないかと思うほど小柄なその人物はバサリとローブのフードを外す。そのに現れたのはやはり子供の様な顔だった。髪はボサボサの茶髪であり、黒い瞳をしている。少し大きいのかダボダボのローブを纏っているので余計に幼く見える。
「え……?こ、子供……?」
「いや、お前は人のこと言えないだろ」
現れた顔が幼い子供のようだったので思わず驚きの声を上げるフリルフレアだったが、隣のドレイクからしっかりとツッコミを入れられていた。
「悪いなお嬢ちゃん。オイラはこう見えてもアラサーでね、名前はユーベラー、ユーベラー・トムソンだ。ホビットでね、歳は29だよ。冒険者ランクは6、珍しいと思うかもしれないけど魔導士だよ」
ユーベラーと名乗ったホビットの青年(外見だけならほぼ少年だが)はそう言いながら少し得意げに胸を張った。確かに彼の言う通りホビットの魔導士というのは珍しい。何故ならばホビットというのは種族全体的に能天気で勉強の類が嫌いな為である。もちろん珍しいだけで全くいない訳では無い。要はホビットの中では変わり者だと言う事だ。ホビットにだって魔導士や精霊使い、司祭になる者だっているのだ。
「さっきの兄ちゃん、リュートって言ったよな?同じ魔導士同士、仲良くやろうぜ!」
「は、はい!よろしくお願いします」
少し兄貴分ぶったのかリュートに向かってパチンとウィンクするユーベラー。それに対しリュートは少し緊張した面持ちで頭を下げていた。恐らく人見知りで緊張しているのだろう。そんなリュートを見たユーベラーは少し満足げに頷くと席に着いた。ちなみにリュートの隣ではアルウェイがムスッとした表情でユーベラーを睨んでいる。どうやら実の兄貴がいる前で兄貴分ぶっているのが気に食わないらしい。
「さて、後はお前さん達か」
ライデンがそう言いながらドレイク達に視線を送ってくる。この3つのパーティーの中で最大人数の6人であるためある意味期待されているのかもしれない。
「ええと…私達の番ですけど、誰から行きます?」
アレイスローがドレイク達を見回すが、誰一人として手を上げる者がいない。深々とため息を吐いたアレイスローは仕方なく小さく手を上げる。
「じゃ、私から行きます。初めまして皆さん、アレイスロー・ストランティスと申します。見ての通りのエルフで歳は……いくつでしたっけ?」
「いや、知らねえよ」
アレイスローのボケに思わずツッコむドレイク。フリルフレアやスミーシャが、アレイスローのボケに脱力し突っ伏している。
「ああ!そうだ思い出した!216歳ですよ216歳!いやー、どうも200歳超えたあたりから数えるのが面倒になってきまして……。ええと、見ての通りの魔導士で、ランクは10です。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げたアレイスロー。そんなアレイスローに対してキラキラと尊敬のまなざしが注がれる。視線の主は……リュートだった。
「す、すごい!魔導士でランク10まで上り詰めるなんて!そ、尊敬です!」
「た、確かにな…。オイラが言うのも何だが、魔導士ってのはランク6以上に上がるのがかなり難しいクラスだからな。ランク10ってのはすごいぜ!」
ユーベラーもしきりに感心している。そんな二人に対して「ははは…照れますね」などと言いながらポリポリと頭を掻いているアレイスロー。そのまま席に着くと、今度はフェルフェルが立ち上がった。
「…フェルは…フェルフェル…ゼリア…バードマン…17歳…狩人…ランク5…」
相変わらず眠そうな半眼で周りを見回すフェルフェル。必要最低限のことしか言わないのでアルウェイやライデンたちが唖然としている。
「…以上…終わり…」
そう言うと、周りに質問する暇を与えず素早く席に着くフェルフェル。そして「してやったり」とばかりにドヤ顔になりながら背中の青い翼をパタパタ動かしていた。
「あの、その青い翼って珍しいですけど…」
「…フェルの…自己紹介は…もう…終わり…次の…人へ…どぞ…」
「え、あ……すみません」
何かを質問しかけたノイセルだったが、フェルフェルの質問拒否&強制次の人へ移行のため何故か謝っていた。
「しゃ~ないわね、んじゃ、次はあたしね。あたしはスミーシャ・キャレット、19歳、ケット・シーなのは見て分かると思うけど、クラスは踊り子でランクは7.よろしくね!」
立ち上がりながらそう言うと、パチンとウィンクするスミーシャ。思わずその大きな胸が上下に揺れる。その様子にその場にいた多くの男達が生唾を呑み込んだ。それに対してシェリエルは自分の胸とスミーシャの胸を見比べて顔を歪ませている。シェルエルの胸も決して小さくはないが、スミーシャの巨乳の前ではかすんでしまう。
「んじゃ、次はローゼね?はい交代」
そう言ってローゼリットとハイタッチすると席に着くスミーシャ。ローゼリットはいかにも仕方なくといった感じでつまらなそうに立ち上がった。
「ローゼリット・ハイマンだ。21歳、見ての通りハーフエルフだ。ランクはスミーシャと同じ7、アサシ……いや、盗賊をしている」
一瞬暗殺者と言おうとして言葉を呑み込むローゼリット。ドレイク達今のパーティーメンバーは暗殺者であるローゼリットを受け入れてくれているが、他の者達がそうだとは限らない。だから今はその事は黙っている事にした。そして「もう良いだろう」というと、さっさと席に着くローゼリット。余計な質問が飛んでこないようにさりげなく睨みを効かせておいた。
そしてローゼリットの自己紹介が終わったことで、残りが自分とドレイクだけだと言う事に気が付くフリルフレア。ドレイクが隣で欠伸をしているので仕方なく「じゃ、次私が行きます」と小さく手を上げた。
「ええっと……初めまして皆さん、フリルフレア・アーキシャです。歳は…一応15歳で、クラスは精霊使いです。冒険者ランク2になったばかりの駆け出しなんで、よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げるフリルフレア。年齢に関しては自他共に15歳と認識してはいるが、昔の記憶が無いため正確ではない。そのため「一応」と付けておいた。またバードマンと名乗らなかったのは前回の冒険でフリルフレアがバードマンでは無く「フェニックスに連なる何か」だと言われたからだった。この事は一応仲間内だけの秘密にしておこうという話になっており、かつフリルフレアは嘘をつくのが苦手なためあえて言わなかったのだ。恐らく何も言わなければ皆勝手にバードマンだと思い込むだろうという算段もあった。
「お嬢ちゃん、紅くて綺麗な翼ねえ?」
「てか、子供か?未成年がなんで冒険者を?」
「オイラここのメイドかと思ってた」
シェリエル、ライデン、ユーベラーがまくし立てる。翼に関しては「ははは…」と何となく笑って誤魔化したが、未成年とメイドに関しては黙っていられなかった。
「ミイィィ!私さっき15歳って言いましたよ⁉成人です!それにメイドじゃありませんよ!このエプロンは魔法のエプロンと言って優れた防御能力を誇り……」
「いや、もう良いだろ」
フリルフレアの説明が長引きそうなのでツッコんで止めに入るドレイク。止められたフリルフレアは何となく不満げな表情だったが、仕方なくしぶしぶ席に着いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しばしの沈黙が続いた。そしてフリルフレアは予想通りの事態に隣のドレイクの脇を突っつく。
「ドレイクの番なんだけど」
「何⁉そうなのか⁉」
「もうドレイク以外みんな自己紹介終わったよ」
「いつの間に……全く聞いてなかった」
「……………」
ドレイクのあまりと言えばあまりの言葉に思わずジト目で睨み付けるフリルフレア。当のドレイクは睨まれていることなど気にもせずに立ち上がる。
「ドレイク・ルフトだ」
それだけ言ってそのまま席に着くドレイク。
「ちょ!おま……それだけか⁉」
思わずアルウェイがツッコミを入れるが、ドレイクは「どうした?」と言わんばかりに頭の上に?マークを浮かべている。
「?…何がだ?」
「自己紹介それだけかって言ってんだよ!」
「ああ」
そう言って頷くとそのままそっぽを向くドレイク。ドレイクのあまりの態度にアルウェイが額に怒りマークを浮かべている
「テメエ!他にも言うことあるだろうが!クラスとかランクとか年齢とか!」
「ええ~、面倒くせえよ」
「面倒くさいだと!」
本気で面倒くさそうな態度のドレイクに怒りをあらわにするアルウェイ。思わず立ち上がったアルウェイが背中の大剣に手をかけようとした時、慌ててフリルフレアが止めに入る。
「す、すいませんアルウェイさん!うちのドレイクちょっとお馬鹿なもんで!私が代わりに紹介しますね!名前はドレイク・ルフト、年齢不明、種族はリザードマンでクラスは戦士、以上です!」
そう言って誤魔化すようにバタバタと手を振るフリルフレア。ドレイクに関しても5年以上前の記憶が無いために正確ではない。ちょっと誤魔化す感じで伝えたのだが、アルウェイは何とか納得してくれたようだった。しぶしぶ席に着いている。
何となくまとまりに欠ける自己紹介が終わったが、「本当にこのメンバーで大丈夫かなぁ?」と一抹の不安を覚えるフリルフレアだった。
 




