第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第1話、アルミロンドという街 その6
第1話その6
「オホン……すまない、少し昔話に時間を割きすぎた…」
そう言って恥ずかしそうに咳払いするサイザー。1時間近くも話し続けていたためどう考えても少しどころでは無かったのだが、ドレイク達はあえて突っ込まないことにした。
「町の人々同様ファンナが目覚めなくなってもう一週間になる。初期に昏睡状態に陥った者ならそろそろ2週間ほどになるだろう。正直そろそろ命に関わるレベルだ」
そう言って顔をしかめるサイザー。ドレイクが小さく手を上げて口を開く。
「そもそもよ、いまいち何が起きてるのか分からないんだが、一体何が起きてるんだ?」
「ああ、そうだったな、すまない」
ドレイクの言葉に答えるサイザー。そして少し頭の中で言葉を整理すると静かに口を開いた。
「一言でいうならば集団昏睡事件だ。それも街レベルで起きている事件だ」
「……つまり、アルミロンド集団昏睡事件ってところですね?」
「…………ああ、まあ名前を付けるとしたらそんな所だろう…」
やたら真面目な顔で事件に名前を付けるフリルフレアに、若干気圧されながら答えるサイザー。しかしすぐにまじめな顔に戻ると困り果てたように頭を抱えた。
「最初の被害者はギルドを訪れていた冒険者だ。ある宿屋から冒険者のパーティーがどれだけ起こしても起きないという連絡があってな」
「その冒険者たちは?」
「本当に何をしても起きなかった。ゆすっても叩いてもつねっても全く起きやしない。今も恐らく眠っているはずだ」
ローゼリットの言葉に困り果てた様子で答えるサイザー。
「街レベルでって言ってたけど、具体的にはどのくらいの人が昏睡状態に陥ってるの?」
街レベルというのがどれほどなのか想像できず疑問を口にするスミーシャ。
「正直言って正確な数は分からないんだが……恐らくは…」
そういって指を2本たてるサイザー。それを見たドレイク達は深刻な表情になる。
「20人もか……。だがそれくらいならば街レベルというほどじゃ……」
ローゼリットの言葉に力なく首を横に振るサイザー。ため息交じりに口を開く。
「いや……2000人だ……」
「「「2000人―――⁉」」」
予想をはるかに上回る数字に驚き思わず叫んでいるドレイク達。
「ちょ、ちょっと待ってよ2000人て……。もしかしたら200人かなー、とは思ってたけど……」
「まさか桁が2つ上だとは思いませんでした」
予想の遥か上を行っていた事態に動揺が隠し切れないスミーシャとアレイスロー。
「…てか…2000…人て………この街…人口…何人…?」
「約6000人だ」
「…人口の…約…3分の1…」
フェルフェルの言葉に、改めてどれだけの人間か昏睡状態に陥っているかを認識するドレイク達。町の人口の3割以上が眠っているとなれば大問題だ。
「って言うかよ、そんな大問題なら国の方で対処するんじゃないのか?」
「あ、それもそうだよね。エルベンスト王国の騎士団とかは動いてないんですか?」
ドレイクとフリルフレアの疑問に「もっともだ」とばかりに頷いているスミーシャとフェルフェル。だがサイザーは深々とため息を吐く。
「実はもう王国側も動いてくれているんだ。事件解決のために王国から第3騎士団の第1分隊30名、魔導士団からも20名ほどこの町に来てくれている」
「合計50人も来てくれているんですか?それなら……」
「全員5日ほど前に昏睡状態に陥ってそれっきりだ……」
「……………」
サイザーの言葉に思わず言葉を失うフリルフレア。まさか国からの救援が全滅しているとは思わなかった。
「なるほど、当然この昏睡事件の原因は……」
「ああ、目下調査中だ…」
アレイスローの言葉にそう答えたサイザーは本日何度目かになるため息を吐くと、文字通り頭を抱えた。
「正直冒険者ギルドもこのありさま、まともに調査に回す人員すらいない。原因に関しては一応魔導士ギルドの方でも調べてくれているんだが……正直あまり期待はできない。だから部外者である君たちにこんなことを頼むのは正直心苦しいのだが……」
そこまで言って一旦言葉を切ったサイザー。そして意を決したように口を開く。
「この昏睡事件を解決するために力を貸してくれないだろうか?もちろん相応の報酬は払わせてもらう。だから……頼む!」
そう言って深々と頭を下げてくるサイザー。それを見て顔を見合わせるドレイク達。そして互いに頷き合うと、代表してフリルフレアが口を開いた。
「頭を上げてくださいサイザーさん。私達で力になれる事なら何でもしますから」
そう言って微笑むフリルフレアだったが、その横ではドレイクが驚きの表情を浮かべている。
「え⁉あれ⁉面倒くさいから断るんじゃないのか?」
「ミイイイイイ!何でそうなるのよドレイク!」
ドレイクのあまりと言えばあまりの言葉に、思わずドレイクの頬っぺたを思いっきり引っ張るフリルフレア。ちなみにドレイクの頬っぺたは竜みたいな顔な上に鱗があるせいで滅茶苦茶引っ張りづらい。
「ありがとう!助かる」
そう言って再度頭を下げるサイザー。
「実は今回の事件は規模が規模だけに、他の冒険者パーティにも力を貸してもらっているんだ。もちろん全員にちゃんと報酬を支払うから安心してほしい」
「ええ、ありがとうございます」
報酬はちゃんと支払うというサイザーの言葉に謝意を述べるアレイスロー。
「それで?他の冒険者パーティーって言うのは?」
スミーシャがキョロキョロと周りも見回すが……当然応接室には他に誰もいない。
「ああ。ほとんどの冒険者は昏睡事件の被害にあうのを嫌ってすぐに街を発ってしまったんだが……2つのパーティー、6人が力を貸してくれることになっている」
「なるほど、じゃあ俺たちと合わせて12人か」
ドレイクの言葉に頷くサイザー。そしてそのまま席から立ち上がる。
「その6人はさっきギルドに来ていたからな、今から紹介しよう」
サイザーの言葉に頷いたドレイク達。そのまま全員ソファから立ち上がった。




