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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第1話、アルミロンドという街 その5

     第1話その5


 翌日、ドレイク達は町の冒険者ギルドを訪れていた。

 白いタヌキ亭のマスターから話を聞いたドレイク達。マスターの話では何でも眠ったまま目を覚まさない人が何人もいるらしい。

「もし、もっと詳しい話を訊きたいなら、冒険者ギルドに行くと良い」

 そう勧められたドレイク達はどうするか迷っていたが、フリルフレアの「困っている人が居るなら助けなきゃ!」という言葉に触発され、冒険者ギルドを訪れていた。

 ドレイク達が冒険者ギルドの中に入ると、受付嬢が「いらっしゃいませ、アルミロンド冒険者ギルドへようこそ」と言って出迎えてきた。

 それに軽く手を上げて応えたドレイク達はギルドの中をザックリと見渡した。いや、ある意味見渡して確認するまでもなく入ってすぐに分かっていたことがある。

 あまりにも人が少なかった。普通冒険者ギルドの中は活気に満ち溢れ、冒険者たちであふれかえっているものだ。だが、このアルミロンドの冒険者ギルドの中は静まり返っていた。

 訪れている冒険者はドレイク達を含めて3組ほど、合計に15人にも満たない。またギルド職員の方もあまり人がいない様に見える。受付嬢を含めて数人の職員しか見当たらなかった。

「あ、あの……私達、この街で起きてる異常事態について詳しい話を聞きたくて来たんですけど……」

 フリルフレアがそう受付嬢に声をかけた。

「あ、その事でしたか……実は…」

「今この街じゃ、人間が眠ったまま起きないって事件が多発してるのさ」

 答えようとした受付嬢の言葉を遮るような声が、ドレイク達の後ろから聞こえた。ドレイク達が振り向くとそこには黒髪で口髭を生やした40歳位の男が立っていた。

「あ、サブマスター」

「事件の説明は俺がするから、そのまま仕事を続けてくれ」

「分かりました」

 受付嬢がサブマスターと呼ばれた男に頭を下げる。サブマスターと呼ばれた男はそのままドレイク達に向き合うと、歓迎の意を表する様に両手を広げ、少し疲れたような笑みを浮かべた。

「改めて、ようこそアルミロンド冒険者ギルドへ。俺はこのギルドのサブギルドマスター、サイザー・ミツラだ」

 そう言って手を差し出してくるサブギルドマスターのサイザー。どうやら握手を求めているらしい。思わず誰が握手に応じるべきか顔を見合わせるドレイク達。しかしあまり待たせても失礼なので、代表してアレイスローが握手に応じた。

「ご丁寧にありがとうございます、サイザーさん。私はアレイスロー・ストランティス、このパーティーの交渉役といったところです」

 サイザーとガッシリと握手を交わすアレイスロー。サイザーの手はガッシリとしており固く肉厚だ。よく見れば腕も太く筋肉質なのが分かる。恐らく元冒険者なのだろう。

「サイダーだってよ。なんか美味そうな名前だな」

「ミィィィ……ドレイク、シュワッとはじける炭酸飲料じゃないからね?サイダーじゃなくてサイザーさんだよ」

「あれ?そうだっけ?」

 ドレイクとフリルフレアがいつものボケとツッコミをしていたが、周りの人間はとりあえず気にしないでおいた。

「せっかくだから詳しく話をさせてほしい。場合によっては力を貸してもらいたいんだが……かまわないか?」

「ええ、分かりました」

 アレイスローの答えに満足げに頷いたサイザーはそのままドレイク達をギルドの2階にある応接室まで案内した。中には座り心地の良さそうなソファーが3台、コの字型に並んでいた。そしてもう一つイスがある。

「とりあえずソファーにかけてくれ」

 そう言ってソファーを示しながらイスに座るサイザー。ドレイク達もソファーに二人ずつ腰掛ける。

「改めて自己紹介させてくれ。ギルドマスターが不在なため現在このアルミロンド冒険者ギルドを取り仕切っているサブギルドマスターのサイザー・ミツラだ。よろしく頼む」

 そう言って頭を下げてくるサイザー。ドレイク達も反射的に頭を下げている。

「俺はドレイク・ルフト」

「フリルフレア・アーキシャです」

「ローゼリット・ハイマンだ」

「あたしはスミーシャ・キャレット」

「…フェルの…名前は…フェルフェル…ゼリア…」

「最後に、改めましてアレイスロー・ストランティスです」

 礼儀として簡単に名乗っておくドレイク達。しかし早くもサイザーの言葉に気になるところを見つける。

「あの……ところでギルドマスターさんが不在って…」

 オズオズと小さく手を上げながら質問するフリルフレア。それに対し、「困った」と言いたげに腕を組むサイザー。

「ああ、実はそれもこの人々が眠ったまま起きない事件に関係してるんだが……」

「とおっしゃいますと?」

 頭の上に?マークを浮かべながら問い返すフリルフレア。それに対してサイザーは肩をすくめる。

「いや、実はうちのギルドマスターもこの事件の被害者なんだ」

「「「へ?」」」

 困り果てた感じのサイザーの言葉にドレイク達の声がハモる。

「とりあえずあの絵を見てくれ」

 唐突にサイザーが指示した方を見ると、いくつかの人物の肖像画が並べられていた。そしてサイザーが指示したのはその端にある赤毛で美人の女性の肖像画である。

「あれが現アルミロンド冒険者ギルドのギルドマスター、ファンナ・ミツラだ」

 気が強そうだが知的な雰囲気をかもし出しているそのファンナという女性の肖像画を見ながら、フリルフレアはとあることに気が付いた。

「ええっと、すいません。ファンナ……ミツラさん……ですか?」

 フリルフレアがそう言うと、急にサイザーの鼻の下が伸びる。そして気持ち悪く照れながら得意げな表情になった。

「あ、気が付いちゃった?いやー、まいったなぁ…。そうなんだよ、実はそのファンナってのはその……俺の女房でさ…」

 そう言ってフヘヘと照れ臭そうに笑うサイザー。40過ぎのおっさんの照れ笑いが気持ち悪いことこの上ない。

「いや、そうなんだよ。実はこのファンナって奴がさ、気が強いうえに頭の切れる女でさ!しかも美人なんだよ!いやー、俺も現役の冒険者時代からずっと狙ってたんだけどよ!なかなか振り向いてくれなくってさぁ!」

「あの、サイザーさん?」

 急に惚気始めたサイザーに思わず眼が点になるドレイク達。アレイスローが声をかけても全く聞いていない。

「そもそもファンナはさ!俺たちのパーティーの紅一点だったんだけどあれだけの美人だろ?みんな狙ってたって訳よ!ファンナは魔導士だったんだけどよ!支援系の魔法が得意で、よくみんなで誰がファンナの魔法で支援を受けるかでもめてケンカになったっけ!だけどよ!そんな俺たちの事をファンナの奴は呆れながら蔑んだ様な眼で見るわけよ!そんな目で見られたら俺たちもたまらないからな!もっと蔑んですれー!って感じなわけよ!でもファンナは大体俺に支援魔法をかけてくれたんだよな!あ、俺は冒険者時代は戦士だったからよ!あとうちのパーティーには盗賊と神官がいてな!それとファンナの4人パーティーだったってわけ!これでも俺たち現役時代はランク9まで行ったんだぜ?それで俺はランク10に上がったらファンナに告白するつもりだったんだよ。そしたら盗賊のステイツの野郎が抜け駆けしやがって!あの野郎夜中にファンナを呼び出して急に花束なんか取り出して告白しやがったんだ!その場をのぞき見してた俺と神官のマッシュは『抜け駆けしやがって許せねえ!』ってステイツの野郎をその場でボコボコにして、それでマッシュの奴がステイツの奴をボコるのに夢中になっている隙に俺はファンナに気持ちを伝えたんだよ!『俺が!俺が一番お前のことを愛してるんだ!』って!その時のマッシュの『裏切られた!』って叫んでる顔は今でも忘れられないな、ありゃ惨めだった。そんで俺の告白を聞いたファンナはため息をつきながら『まったく、お前はつくづく馬鹿だな』って言いながら突然俺にキスしてきたんだ!それを見た時のステイツとマッシュの顔って言ったらなかったな!そんでその後ステイツとマッシュが俺に殴りかかって来たから俺は応戦したわけよ!何てったって俺は戦士、あいつらは盗賊と神官。殴り合いはどっちが有利かって話だったが、2対1はちょっときつかったな。そんでそんな俺たちを見て盛大にため息を吐いたファンナが突然攻撃魔法で俺たち3人とも吹き飛ばしてな!その日はそれで終わったんだけど、翌日にはパーティーは即解散って話になって、結局あいつらとは喧嘩別れしたんだが、その後俺とファンナはしばらくコンビでやっていたんだが、アルミロンドについて冒険者ギルドに行ったら職員を募集してるって話を聞いて、そろそろ落ち着いた方が良いんじゃないかって話し合った結果………」

「あ、あの…サイザーさん……?」

 凄まじい勢いで惚気話の様な昔話をまくしたてるサイザー。再び声をかけたアレイスローも華麗にスルーし、延々と自分の世界に酔いしれた話を続けるのであった。


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