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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 第1話、アルミロンドという街 その4

     第1話その4


「グビッグビッグビッグビッ……プハー――――!美味い!」

 キンキンに冷えたエールを一気に飲み干しながらドレイクが叫んでいた。

 ここは白いタヌキ亭の1階にある食堂兼酒場である。ゆっくりと時間をかけて温泉をたっぷりと堪能したフリルフレア達、しかし温泉を出るなり「腹が減って死にそうだ……」と言ってへばっているドレイクを見て苦笑しながら食堂へと向かった。途中ドレイクに「お前ら風呂が長すぎるんだよ……」とぐったりしながら文句を言われたが、フリルフレアは完全にどこ吹く風といった風だった。それどころか、「ドレイクももっと温泉でゆっくりしてればよかったのに」と言い返してやった。ちなみにドレイクはその言葉に言い返す気力もないのか、「へいへい…」と小声で答えただけで言い返してもこなかった。

 そして食堂兼酒場に到着したドレイク達は席に着くとそのまま各々好きな料理をたっぷりと注文し、フリルフレア以外の全員は良く冷えたエールも注文した。ちなみに、相変わらずドレイクに「たまにはエールでも飲んでみたらどうだ?」と勧められたフリルフレアだったが、首を横に振りながら「いい、私は冷たいミルクにする」と言って注文していた。

 少ししてまず運ばれてきたエールとミルク。そのまま全員で木製のジョッキを掴むと、「そんじゃ、今日は飲んで食べまくるぞ!カンパーイ!」と叫びながら突き出されたスミーシャのジョッキに全員カンカーン!と音を立ててジョッキをぶつけた。

 そのまま全員ゴクゴクと喉を鳴らしてエール(フリルフレアはミルク)をあおった。渇ききった喉を通るエールの冷たさと刺激がたまらない。

「グビッグビッグビッグビッ……プハー――――!美味い!」

 真っ先にエールを飲み干したドレイク。カウンターにいる酒場のマスターに対して手を振りながら、「エールもう一杯!」と叫んでいた。

 そしてすぐに運ばれてくるエール。それと同時にドレイク達の注文した料理の数々が所狭しと大きな丸いテーブルの上に並べられた。相変わらずドレイクが凄まじい量を注文したのだが、それ以外にもかなりの量が注文されている。その様子に思わず酒場のマスターは「こいつら財布は大丈夫なんだろうな?」と内心疑っていたが、実はドレイク達はこのアルミロンドの前の町で冒険者ギルドに寄り、獄魔獣ザンゼネロンの懸賞金、つまり討伐報酬をもらっていたのだ。その額が思いのほか多かったため、実は懐にかなりの余裕があるのだ。ちなみに、同様に討伐報酬が出るであろう死天使ファブリエルの方に関しては、仕事の報酬がもらえないベルフルフがあまりにも気の毒だったので、彼に譲ることにした。

 また、本来の依頼であるフェニックスの卵の探索については、実は期限が設けられていない特に急ぐ必要のない依頼だったため、他の仕事をしながら並行して探索していこうという結論になっていた。

 運ばれてきた料理に目を輝かせるドレイク。舌なめずりしながら炙った牛の腿肉を手に取った。

「よしゃー!いっただっきまーす!」

 そのまま炙った牛の腿肉に勢いよくかぶり付くドレイク。熱々の肉を噛むと口の中に肉汁が広がり、同時にピリッとした強めの胡椒の風味と、少し強めの塩の味が口いっぱいに広がる。そのままモグモグと咀嚼し、ゴクンと飲み込むと、そこにエールを再び流し込む。

「ゴクゴクゴク……プハー!やっぱ炙った肉とエール!最高の組み合わせだな!」

 上機嫌にそう叫ぶドレイク。その隣ではフリルフレアが糸を引くほどたっぷりとチーズの入った熱々のチーズオムレツを「ハフハフッ」言いながら口の中に運んでいた。

「あ、すいませんマスター、白の葡萄酒をいただけますか?」

「あ、あたし蜂蜜酒!」

「赤の葡萄酒をくれ」

「…フェルは…林檎酒…ほしい…」

 一杯目のエールを飲み干したアレイスロー、スミーシャ、ローゼリット、フェルフェルが各々好みの酒を注文している。そして酒を待ちながら目の前の料理に手を付けていた。

「しかし、フリルフレアは本当にオムレツが好きだな」

 そう言いながらチーズを乗せたバゲットを口に運ぶローゼリット。その隣ではフライドポテトを咥えたスミーシャが、ウンウン頷いている。

「ホントだよねー。てかフリルちゃん、卵料理全般好きだよね?」

「そうですね。基本的に卵料理は大概好きですよ。甘いものも好きですけど」

「じゃあもしかして、卵を使った甘いものが一番好き?」

「一番かどうかは分かりませんが、確かにプリン大好きです」

 そう言ってミルクを飲み干すフリルフレア。そしてミルクの入っていたジョッキを掲げながら「すいませ~ん!リンゴジュース下さ~い!」とか叫んでいた。

 その後、すぐに運ばれてきたリンゴジュース。フリルフレアはリンゴジュースを一口飲むと、そのまま再びチーズのたっぷり入ったオムレツに取り掛かった。

 そんなフリルフレアの向かい側ではフェルフェルがフーフー息を吹きかけながら熱々のビーフシチューを口に運んでいた。大き目にカットされた牛肉や野菜がゴロゴロ入った具沢山のビーフシチューはいかにも見る者の食欲をそそる。

「…ハフハフ…モグモグ…ふぅ………やはり…ビーフシチューは…最高…」

 シチューの中の大振りな牛肉を食べ、満足げに息を吐くフェルフェル。そんなフェルフェウを見てアレイスローが思わずゴクリと喉を鳴らす。

「フェルのビーフシチューも美味しそうですね……。私もそっちにすればよかったですね」

 そう言いつつも、ソースをたっぷりとかけたサーモンのフライを口に運ぶアレイスロー。魚料理が好きな彼だが、肉類も好きらしく、食事の時にはどちらを頼むかよく迷っていた。

「だったら今から追加すればいいじゃねえか」

 そう言いながらドレイクは焼いたソーセージにかぶり付く。プツンと小気味良い食感と共に口の中に肉汁が広がる。そして同時に感じるピリリとした辛味。辛いタイプのソーセージだったらしく、そこがより一層エールに合う。

 エールをゴキュゴキュと飲んでいるドレイクを見てアレイスローは苦笑いしていた。

「ドレイクさんじゃないんですからそんなに食べられませんよ」

「そうか?あ、でも美味そうだから俺は食ってみようかな。お~いマスター!ビーフシチュー追加!あとエールも!」

「あいよー」

 カウンターの方で応えるマスターの声を聞きながらドレイクの食欲に呆れるアレイスロー。心の中で(一体何人分食べてるんですかね?)とぼやいている。

「はいよ!追加のエールお待ち!」

「お!あんがと!」

 マスターの持ってきたエールを受け取り、そのまま美味そうにエールに口を付けるドレイク。そしてテーブルの上に置かれたオニオンフライを2~3個まとめて口の中に放り込むと、再びエールを一口飲んだ。

「くは~!美味い!」

「そいつは良かった。悪いけどビーフシチューは少し時間がかかるからな」

 ドレイクはマスターのその言葉に軽く手を上げて応える。マスターはそれだけ言うとその場から離れて行こうとした。

 ふとその時、アレイスローは今まで気になっていたことをマスターに訊ねることを思い立った。それはこの街に入ってからずっと気になっていたことだ。

「あの、すいませんマスター。ちょっとお伺いしても良いですか?」

「ん?何だい?」

「この街、以前通った時に比べると随分人の姿が見えない気がするんですが……何かあったんですか?」

 アレイスローの言葉にマスターがピクリと反応する。確かにアレイスローの言葉通り、今この食堂にはドレイク達の一行しかいなかった。いや、それどころか、この宿屋自体に客はドレイク達しかいない。そして街中でも人通りがあまりにも少なかった。出歩いている人の姿もほとんどなく、店も閉まっていることろが多かったのだ。

 アレイスローの質問に、深々とため息を吐いたマスター。

「……実は…今、この街には異常事態が起きているんだよ……」

 そう言うとマスターは頭を抱えて再び深々とため息をついたのだった。


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