第2章 赤蜥蜴と赤羽根とアサシンギルド 第6話、トラウセンの正体
第6話、トラウセンの正体
時間は僅かにさかのぼる。
ローゼリットを探すと言い出したフリルフレア。スミーシャを誘ったらしいのだが、彼女は拗ねて部屋から出ようとしなかったらしい。なので次は当然のようにドレイクの所にやってきた。
ドレイクに、一緒にローゼリットを探そうと誘うフリルフレアだったが、ドレイクは「なんで俺がそんな面倒なことしなきゃならんのだ」そう言ってフリルフレアを追い払った。
ベッドに横になりウトウトしだすドレイク。
「まったく、あいつはお人好しすぎるんだよ」
呟いてから目を閉じた。
・・・・・・・・・・・・・・・・
どれほど時間がたったのだろうか?ドレイクは夢を見ていた。それは何とも嫌な夢だった。
ラングリアの街中、冒険者街らしきところを歩くフリルフレアが見えた。人気の無い冒険者街の一角、そんなところをフリルフレアは少しニヤけながらわずかに顔を赤らめて歩いていた。その背後に男が一人迫っているとも知らずに……。
男は一見冒険者の盗賊風だったが、体格は平均よりも少し大柄だった。引き締まった筋肉質な身体をしている。茶色の髪を短髪にしており、顎髭を生やしていた。腰には大振りな短剣を差しており、動きやすそうな軽装に身を包んでいた。
そんな男がフリルフレアの背後に迫っていた。フリルフレアは気付く由もなかったが、男は懐から布と小瓶を取り出すと、その小瓶の中の液体を布にたっぷりと染み込ませていた。
(おい!フリルフレア、後ろに妙な男が!)
そう言って手を伸ばそうとするドレイク。だが、その瞬間ドレイクは気が付いた。腕は伸ばせない。と言うより、この夢の中に自分の身体は存在しない。ただ映像としてその夢を見ているだけだった。
(夢………本当に夢か?)
何か以前にもこんなことがあった様な気がする。だが、そんなドレイクの疑問を無視して夢は進む。
男が後ろからいきなりフリルフレアに抱き付き、手に持った布でその口を塞いだ。
「んむぅ!」
呻き声をあげて目をパチクリさせるフリルフレア。男はそのまま路地裏の暗がりの中へとフリルフレアを引きずり込んでいく。
(クソ!逃げろフリルフレア‼)
ドレイクの叫びは叫びにならない。今ここに居ないドレイクの声はフリルフレアには届かなかった。
「むう……うむううう!」
必死にもがくフリルフレア。自由な方の手で口を塞ぐ男の手を剥がそうとするも、男の手は全く剥がれない。
さらに暗がりへと連れ込まれるフリルフレア。何とか建物の壁を掴もうと必死に手を伸ばすが、それらはすべて空を切った。そしてもがくフリルフレアの力がどんどん弱くなっていく。
「………う………む……」
ガクッと体の力が抜け、意識を失うフリルフレア。
(フリルフレア!おい!起きろフリルフレア!)
届かない言葉をかけ続けるドレイク。だが、心のどこかで分かっていた。これはもう起きてしまったこと。
「ようこそ、暗殺者の世界へ」
男のふざけた言葉が耳に残る。そして意識を失ったフリルフレアを男が縄で拘束していた。手足を縛り、猿轡をし、ズタ袋に入れて担ぎ上げ、連れ去っていく。
「ふざけるなぁ!」
次の瞬間叫びと共にドレイクの拳が空を切った。
男のいたあたりを殴った……つもりだった。ベッドの上で体を起こし、拳を突き出したままドレイクは茫然とする。
「夢……だったのか…?」
あえて口に出して呟いた。夢だったことを……否、夢では無い事を確認するために。
「これは……あの時と同じ…」
マン・キメラ事件の時のことを思い出す。あの時も攫われて殺されるフリルフレアの夢を見た。いやそういう映像が頭に流れ込んできた。そしてあの時フリルフレアは本当に攫われていた。ならば今回も……。
ドレイクはベッドから降りると、傍らに立てかけてあった大剣を取り背負った。鎧は着込んでいる時間がもったいなかったのであきらめる。
「暗殺者の世界とか何とか言ってやがったな」
そう呟いてドレイクは部屋を飛び出すと階段を駆け上った。目指す部屋はすぐに見つかる。301号室、スミーシャとローゼリットが泊まっている部屋だった。
バァン!
勢いのままに問答無用で部屋の扉を開けるドレイク。中にスミーシャでも居ようものなら「あんた何女の子の部屋に無断で入ってきてるのよ!まさか私のこと襲う気⁉」とか言い出しそうだったが、幸いなことに部屋の中は無人だった。冒険者のくせに無人の部屋に施錠もしないとは不用心な奴らだと思わなくもないが、今はそんなことはどうでもいい。
それに実際は無人という訳では無い。
「おい金目ハーフ!居るのは分かってるんだ、出て来い!」
ドレイクの言葉に反応はない。思わず「チッ」と舌打ちするドレイク。苛立った様子で背中の大剣を鞘ごと取り外した。
「ここに居るのは匂いで分かっているんだ!出てこないなら引きずり出す!」
そのままズカズカと部屋の中に入ったドレイクは鞘を付けたままの大剣で天井の一角を思いっきり突いた。
ドガン!
天井の板が壊れ、ほこりが舞う。そしてその後、何者かが室内へと飛び降りてきた。それは天井裏に隠れていたローゼリットだった。
「赤蜥蜴……貴様、いつもいつも天井を壊し……」
「そんなことはどうでもいい!」
「どうでもよくあるか!誰が修理費を払わされていると思ってるんだ!」
「金が欲しけりゃくれてやる!今は力を貸せ!」
ドレイクの剣幕に一瞬気圧されるローゼリット。だが、焦り苛立っているドレイクの様子から何かを感じ取っていた。
「赤蜥蜴…何かあったのか?」
「正直、俺にも正確な所は分かっていない!だが、フリルフレアが危ない!」
そう言うとドレイクは目を閉じた。目を閉じることで鮮明に頭に流れる映像が確認できる。そう夢の続き……いや、これはもう夢と呼べるものでは無かった。フリルフレアの身に迫る危険が何か特別な力でドレイクに伝わっている、そんな風に感じられた。
ドレイクの頭の中に浮かぶ映像は未だ続いていたのだった。頭に浮かぶ映像の中で男はフリルフレアを担いだままどこかの建物へと入っていく。だが、男はずっと暗がりの中を通ってきたため、建物までの道筋が分からなかった。
「おい金目ハーフ、茶色の短髪と顎髭を生やした男を知らないか?少し大柄で、盗賊っぽい軽装をしているんだが…」
「茶色の短髪に顎髭?そんな奴はいくらでも居るだろう」
「ああ、だが……どうやら暗殺者らしい」
「暗殺者?……ギルドのか?」
「恐らく…」
ドレイクの言葉に考え込むローゼリット。わずかに考え込んだが、すぐに結論を出す。
「暗殺者ギルドで茶色の短髪に顎髭を生やしているのは一人だけだ」
「いるのか⁉何者だ⁉」
「サブギルドマスター、カッパー・レドナンス。通称『拷問卿』と呼ばれる男だ」
ローゼリットの言葉を受け、ドレイクの背中に冷たい汗が流れる。
(拷問卿⁉………もし本当にそいつだとしたら……)
カッパーらしき人物がなぜフリルフレアを攫ったのかは分からなかったが、予断を許さない状況なのは理解できた。このままでは、いつフリルフレアが拷問を受けるか分からない。
「おい、金目ハーフ!暗殺者ギルドまで案内しろ!」
「ギルドまで?何故だ?」
「恐らくフリルフレアは攫われて、そこに連れ込まれている!」
「な、何だと⁉」
驚愕の声を上げるローゼリット。
「待て赤蜥蜴!それはどういうことだ⁉何かギルドから連絡があったのか⁉」
「違う!だが、前にもあったんだ!フリルフレアが攫われて殺される映像が頭に流れ込んできた!今回も同じだ、あの時と!」
「そ、そんなことが……?」
にわかには信じがたい話であった。だが、ドレイクの様子は嘘をついたり、人をからかっている者のそれではない。真剣にフリルフレアの身を案じている眼をしている。ローゼリットにもそれくらいのことは分かった。
それにもしドレイクの言うことが真実ならば……。
(フリルフレアを…巻き込んだ……‼)
その事実に青くなる。ローゼリットはフリルフレアのことが嫌いでは無かった。いや、むしろ好感を持っていると言っていい。スミーシャ程態度に出したりはしないが、フリルフレアの優しさや真面目さ、正義感など、ある意味自分の持っていない物を持っていて羨ましいとさえ思う。それに、一緒に冒険したのは一度だけだが、それ以外の事でも自分たちを頼ったり、案じたりしてくれてまるで妹の様にも感じていた。
だから、そのフリルフレアを巻き込んでしまったかもしれないという事実に罪悪感が募る。カッパーが直接動いているとなれば間違いなく自分絡みの犯行だろう。それに、カッパーは人の命を何とも思わない「拷問卿」だ。このままでは間違いなくフリルフレアは拷問を受けることになる。
その罪悪感にローゼリットの胸が激しく痛んだ。
「分かった、とにかくギルドに案内する!」
「頼む!」
ドレイクとローゼリットは頷き合うと、部屋を飛び出し。虎猫亭を後にした。そして暗殺者ギルドへ向けて全速力で走り出した。
ローゼリットの案内のもと、ドレイクは町中を駆け抜けていた。しかし、その間もフリルフレアの危機を知らせる映像はドレイクの頭の中に流れ込んできていた。
いや、危機どころでは無かった。映像の中でフリルフレアはカッパーより拷問を受けており、翼の骨を折られ、右手の人差し指と左手の中指を潰されていた。そのうえ、大きな桶の様な物にたっぷりと水を張り、そこにフリルフレアの顔を無理やり押し込んでいた。息苦しさにフリルフレアが暴れているが、押さえつけられており、どうすることもできない様だった。
「クソ!このままじゃフリルフレアが殺される!」
「チッ!とにかく急ぐぞ赤蜥蜴!」
舌打ちとともにローゼリットは走るペースを上げた。流石に冒険者としては盗賊であり同時に暗殺者でもあるローゼリット、走る速度はかなりのモノだった。しかし、ドレイクもそれにピッタリとついて来ている。その大柄な身体からは想像できないほどの敏捷性だった。
そしてそのまま走ると、見たことのある建物が目に入った。それは、ドレイクが映像の中で見たフリルフレアが連れ去られた建物だった。
「ここか!」
「待て赤蜥蜴!相手がカッパー・レドナンスなら自分の拷問部屋を使うはずだ!」
「そう言えば……離れ小屋みたいなところに入っていったな」
「ああ、とにかくそこを目指す!」
そう言ってローゼリットは建物を迂回して別の方向へ向かう。離れの拷問部屋を目指したいた。ドレイクもそれに続く。
「くそ!無事でいろよ、フリルフレア!」
そう呟くドレイク。しかし、そのドレイクの頭に流れる映像では、頭ごと水に入れられ、溺れさせられているフリルフレアの姿があった。
(今行くからな!フリルフレア‼)
頭に流れる映像がそこにあるかのように手を伸ばすドレイク。だが、当然その手はフリルフレアには届かない。
そして、次の瞬間映像の中でフリルフレアの身体から力が抜けた。身体全体から力が抜け落ち、頭を水の中に漬けたままダランとしていた。そしてフリルフレアを押さえつけていた妙な魔物が、彼女の身体を水から引きずり出し床に置いた。その眼は見開かれており、光が宿っていなかった。
「フリルフレア!」
叫びと共に思わず足を止めてしまうドレイク。見開いた眼に後悔の色がにじむ。歯を食いしばり、拳を握りしめた。
「どうした赤蜥蜴⁉」
突然のドレイクの様子に、こちらも脚を止めるローゼリット。ドレイクの様子からただならぬことを感じ取っていた。
「まさか、フリルフレアの身に……」
「いや、まだだ!」
ドレイクは自分に言い聞かせるようにそう叫んだ。そのまま不安げにこちらを見ているローゼリットを追い抜き走り出す。
(そうだ!まだ、終わっていない!あの時だって……)
ドレイクはマン・キメラ事件の時のことを思い出す。あの時もドレイクはフリルフレアの危機を夢として映像で見ていた。その中ではフリルフレアは殺されていた。翼を切り取られた挙句、大男に首を絞められて殺されたのだ。
だが、その後フリルフレアの身体は光る炎に包まれた。そして助け出したフリルフレアは生きていた。それも無傷で……。
(なら、またあの光る炎が……!)
そしてドレイクの期待通り、映像の中のフリルフレアは光る炎に包まれていく。そしてその炎が収まったとき、そこにはきれいな体のままのフリルフレアが横たわっていた。その身体には拷問の痕や怪我などは一つも見当たらない。
そして、そこでドレイクに流れ込む映像はプツリと消えてしまった。
「赤蜥蜴!あの小屋だ!」
ローゼリットの指さす先に、小屋が一つある。一見して回りを木々で囲んでおり、見つからないようにカムフラージュしている事が分かる。そして、それを確認したドレイクはそのままの勢いで扉に走り寄ると右手の拳を握りしめ、力を込めた。
ドガアアン!
激しい轟音とともに、振り抜いた拳が扉がぶち破る。そのまま中に突入っしたドレイクは中を見回した。ローゼリットもそれに続く。
「どこだ⁉フリルフレア‼」
ドレイクの咆哮があたりに響き渡り、中に居たカッパーが顔をしかめる。
「何だお前は?」
カッパーの問いかけに答えず、ドレイクは中を見回した。そして床に横たえられたフリルフレアとその身体を覗き込んでいるロッテーシャに視線を向けた。
「フリルフレアを返してもらうぞ!」
次の瞬間ドレイクの力任せの拳がロッテーシャの身体を討ち貫いた。
バサァ!
振り抜いたドレイクの拳にロッテーシャのドレスが巻き付いていた。一瞬にしてドレスを脱ぎ去ったロッテーシャ。そのドレスを目くらましに使い、ドレイクの拳を難なく避けたのだった。
「随分と乱暴なのねぇ?珍しい赤いリザードマンさん?」
飛び退いてカッパーのさらに後方に降り立ったロッテーシャは元から中に着込んでいたのか、ピッチリとした戦闘服に身を包んでいた。そんな彼女の言葉をドレイクは鼻で笑い飛ばす。
「暗殺者なんぞを優しくエスコートする必要があるってのか?」
「あらごあいさつね?私みたいな淑女を捕まえて」
「本当の淑女は自分のことを淑女だなんて言わないだろ」
そう言いながらドレイクはフリルフレアを抱き上げた。そしてその横にローゼリットが並び、短剣を抜き放ち油断なく構える。
「赤蜥蜴……フリルフレアは…」
「…大丈夫だ、無事だ」
思わずホッとする二人。フリルフレアの胸は確かに上下していた。ドレイクはフリルフレアの猿轡を外すと口の中にたっぷりと詰め込まれていた布をすべて取り出した。そしてナイフでフリルフレアを縛る縄を切っていく。
「まさか、お前の方から姿を現すとは思わなかったぞローゼリット」
「カッパーサブマスター!これは一体どういうことですか⁉」
ローゼリットの言葉にカッパーは「ハッ」と鼻で笑った。
「どうもこうもあるかよ。お前がいつまでたっても連絡をよこさないから、逃げ出したんだと思って仲間のこの嬢ちゃんに居場所を訊いてたんだ」
「訊いていた?拷問していたくせによくも……」
「拷問?俺が拷問したって言う証拠があるのか?」
「き、貴様……よくもぬけぬけと……」
とぼけるカッパーに対し怒りをあらわにするローゼリット。その横ではドレイクがフリルフレアを起こしていた。
「おい!フリルフレア!起きろ!」
顔を軽くはたき、何度も声をかける。そしてフリルフレアはうっすらと目を開けた。
「ん……ん?」
目が覚めた瞬間、ドレイクと目が合うフリルフレア。
「え……え…え?」
訳が分からず混乱する。フリルフレアはドレイクに抱きかかえられており、いわゆる「お姫様抱っこ」をされていた。そして目の前で自分を覗き込むドレイク。近すぎるドレイクの顔に思わずフリルフレアの顔が赤くなる。
「へ?な…何これ?……どういうこと⁉」
状況が全く理解できないフリルフレア。頭の中で必死に記憶をたどる。
(えっと、私ローゼリットさんを探してて……って、居るし!)
すぐ横にいるローゼリットに心の中でツッコミを入れておく。
(それで……そうだ!冒険者街にいた時に後ろから口を塞がれて眠らされたんだ!………そうだ!それで私ここに監禁されてたんだ!)
目の前にいる男と女のことも思い出す。カッパーとロッテーシャ、自分を誘拐した犯人だった。だが、その後のことを思い出そうとすると、記憶にモヤがかかったように思い出せなかった。
「無事だったか……ハァ…お前ちょっと心臓に悪いぞ」
「え、あっと……ごめんなさい」
ドレイクが自分の身を案じてくれていたことを感じ取り素直に謝るフリルフレア。だが、その顔はまだ赤かった。
「あの……ドレイク…そろそろ下ろして…」
「ああ、そうだな」
ドレイクに降ろしてもらい、地面に足を付けたフリルフレア。そのままちゃっかりドレイクの後ろに隠れる。ローゼリットもそのフリルフレアを庇うように一歩前に出た。
「私に用があるなら直接私の所に来ればよかっただろう!」
「お前がいつまでたっても姿を現さなかったから仕方なくその嬢ちゃんに訊いてたんだよ!」
カッパーの言葉にフリルフレアが反応する。
「仕方なく?あなた私を無理矢理誘拐してきたくせに、よくそんなことが言えますね!」
ドレイクの後ろからビシッと指さすフリルフレア。隠れながらだったために全く様にはなっていない。
「サブマスター、私の仲間に手を出した落とし前は付けてさせてもらいますよ」
凄むローゼリット。その瞳の輝きはカッパーの命を刈り取らんとするほど鋭かった。
「お前が『拷問卿』って奴だな……ラッパー・レドナンス」
ドレイクの視線が鋭くなる。その視線を受け、カッパーは大振りな短剣を引き抜くと、逆手に持ち柄頭を口元まで持ってきた。
「YO!YO!俺の気持ちも天翔!俺の命も全焼!響く心に雷光!曰くこけしに最高!チェケラ!…………って、何やらせんじゃあ‼」
ノリノリでラップをかましていた割にはツッコミも激しいカッパー。
「ミィィ。ドレイク、ラッパーじゃなくてカッパーだからね?」
「あ、そうだったか?まあ、どっちでも良いだろ。そんなことよりも覚悟してもらおうかタッパー」
「晩御飯の残り物でも詰めて帰る気なの?タッパーじゃなくてカッパーだって」
「どっちでも良いだろ」
こんな時でも相手の名前を間違えるドレイクに若干の頭痛を感じるフリルフレア。何度も名前を間違えられたカッパーも苛立っているのが見て取れる。
しかし、カッパーが苛立っていることも気にせず、ドレイクは拳を握りしめると左半身を一歩前に出し、右拳を腰元に構えた。
「フリルフレアにしたことの報いを受けてもらうぞ、アッパー!」
ダァン!と音を立てて床を蹴り駆け出すドレイク。しかし、同時にカッパーも床を蹴り駆け出してくる。
二人がぶつかろうという瞬間、ドレイクは右拳に力を込め振り上げた拳をそのまま一気に振り抜いた。
「ハッ!」
カッパーの鼻で笑うような声。そしてドレイクの拳を屈むようにしてやり過ごしたカッパーはドレイクの下から拳を握り込む。
「アッパーってのは、こう言うヤツの事か⁉」
次の瞬間下から一気に伸びあがったカッパーの拳がバキィ!と音を立ててドレイクの顎を直撃する。
アッパーの衝撃で大きく一歩下がるドレイク。そしてアッパーを喰らったその姿勢のまま動きが止まる。拳の衝撃が脳に伝わり、意識が飛んでしまったかのようだった。
「ドレイク!」
フリルフレアの叫びが室内に響く。ローゼリットは「チッ」と舌打ちしながら、短剣を握りなおす。
「大口叩いていた割には大したことないのねぇ」
ロッテーシャがさも小馬鹿にした様におかしそうに笑っている。
「そんなバカでかい剣じゃ室内で振り回せないから格闘を選択したのは評価してやるが……」
そういうとカッパーは左手に持った大振りな短剣をドレイクの腹部に向かって何度も閃かせる。そして最後にドレイクの胴を薙ぐように短剣で切り捨てた。
そしてドレイクに背を向け、ローゼリットに向き合うカッパー。
「生憎だが暗殺者ってのは素手でも暗殺ができる様に訓練されてるんだ。冒険者の喧嘩殺法如きじゃ相手にならないんだよ」
そう言って「くくく」と笑い、ローゼリットに向かって歩き出すカッパー。ロッテーシャは傍観しており、ブレインイーターも指示が無いのでただ立ったままだ。
「くっ!」
フリルフレアを庇うようにして短剣を構えるローゼリット。フリルフレアも魔法を使うためか、精神を集中させる。そんな二人をあざ笑うかのように歩み寄るカッパー。
「おい」
そんなカッパーの背中に声がかかる。その声にピタリと足を止めるカッパー。その瞬間カッパーの持つ大振りな短剣に一本のひびが走る。
「そんなもんか?」
再びカッパーの背中に掛けられる声。カッパーの持つ短剣に二本三本とひびが入る。勢いよく振り返ったカッパーの視界に、アッパーを撃ち抜かれた姿勢からゆっくりと首を戻していくドレイクが映る。
「き、貴様……」
「効かねえなあ、そんなヘタレアッパー」
そう言ってドレイクは首の関節をポキポキと鳴らした。次の瞬間カッパーの手に持った短剣に無数のひびが入り、その刀身が砕け散る。どうやらドレイクの鱗の強度に短剣の方が耐えられなかったようだ。
「お、おのれ…」
忌々し気に呟き、折れた短剣を捨て去るカッパー。歯ぎしりをしながら両拳を突き出しファイティングポーズを構える。
「調子に乗るなよ!赤いだけのリザードマン如きが!」
怒りをあらわにし、ドレイクに駆け寄るカッパー。
「せっかくだ。お前の言う冒険者の喧嘩殺法って奴を見せてやるよ」
ドレイクの挑発にさらに激昂するカッパー。振り上げた右ストレートを一気に振り抜いた。それに対し、ドレイクも右ストレートをカッパーの拳めがけて打ち抜く。
ゴキィン!
正面からぶつかり合う拳と拳。だが、ぶつかった拳とは別にカッパーの右肩から嫌な音が響いた。
「ぐわあ!」
衝撃で飛ばされ倒れ込むカッパー。その右肩は力が抜けたようにダランとしている。ドレイクの拳の衝撃で、肩の関節が外れたのだ。
「ぐうう、き、貴様……」
右肩を押さえドレイクを睨みつけるカッパー。しかし、ドレイクはそんなカッパーを鼻で笑い飛ばす。
「どうだよ、お前のバカにした冒険者の力は。あと、俺の鱗はミスリル並みに固いらしいから、そんな鈍らじゃ傷一つ付かないぜ」
そう言って刀身の砕けた短剣を指差すドレイク。そこに、フリルフレアが駆け寄ってくる。
「ドレイク!心配させないでよ!」
「何だ、心配してたのか?」
「当然でしょ!もう!」
そう言って頬を膨らませるフリルフレア。そこにローゼリットも近寄ってくる。
「サブマスター、何のために私を探していたのかは知りませんが、諦めた方が良いのではないですか?」
「ふざけるな!ここまでコケにされて、黙っていられるか!蜥蜴野郎、絶対に殺してやるぞ!おい、ロッテーシャ!」
カッパーの呼びかけに、今まで傍観を決め込んでいたロッテーシャが動く。
「カッパー、その蜥蜴さん、相手にするのはあまり得策じゃないわよ?」
「何だと⁉」
ロッテーシャは自分の仮面の目元を指でコツコツと叩いた。
「私の解析じゃ、その蜥蜴さんただモノじゃないわよ。相手にしてもこっちが消耗するだけよ。私はごめんだわ」
そう言ってロッテーシャは窓を開け放つと、窓枠に足をかけた。
「そう言うわけだから、ゴメンあそばせ」
そう言ってヒラリと窓から外へと逃げだすロッテーシャ。それを見ていたカッパーは顔を真っ赤にして全身をプルプルと震わせている。
「怖気づいたかロッテーシャ!こうなったら奥の手だ!」
カッパーは懐から小さな宝珠を取り出すと、それを掲げた。
「来い!全てのブレインイーター共!」
カッパーの言葉に宝珠が輝く。そして、部屋の中の空間が歪み、何者かが転移してきた。その数4つ。
そのうち3つは先ほどから後ろに控えているのと同じ、ブレインイーター。そしてもう一つの人影は、初老の男、左手に義手を付けているのが分かる。それを見てローゼリットは茫然と呟いた。
「マ、マスター?」
「な、なぜマスターがここに⁉」
驚きの声を上げるローゼリット。ブレインイーターと共に現れたのは紛れもなく暗殺者ギルドマスター、トラウセン・セルイスだった。
「マスター?ってことは、こいつがギルドマスターのドラえも……」
「ストップドレイク!青タヌキじゃないから!トラウセンだから!」
「あ、ああ…そうだったか」
フリルフレアの剣幕に若干気圧されるドレイク。だが、そんなドレイクたちを気にも留めずローゼリットはトラウセンに近づいた。
「どういう事なんです?マスター⁉」
トラウセンの身体を掴み揺さぶるローゼリット。だが、トラウセンは冷たい瞳でローゼリットを見ているだけだった。その瞳にはどこか生気が感じられない。
そんなローゼリットの様子を見たカッパーが盛大に笑い声をあげる。
「はっはっはっは!哀れだなローゼリット!」
「何だと!」
カッパーを睨みつけるローゼリット。だが睨まれたカッパーはローゼリットの視線など気にも留めず、小馬鹿にした様に鼻で笑った。
「お前……ここ最近のトラウセンをどう思った?」
「ここ最近の?……………らしくないとは思っていた…」
「らしくない?」
「そうだ……昔のマスターは暗殺をするにしても、無関係な人間を巻き込まないように細心の注意を払ってきた。だが………」
「だが……なんだ?」
「だが……ハッキリ言って最近のマスターは命を軽んじている。無関係な人間もお構いなしに殺している。こんな……こんなやり方は……マスターじゃない!」
「それはそうだろうな、だってこいつはトラウセンじゃないしな」
「え……………?」
カッパーの言った言葉の意味が理解できなかった。頭の中で、再度繰り返す。
『こいつはトラウセンじゃないしな』
意味が分からなかった。目の前のトラウセンを凝視するローゼリット。目の前にいるトラウセンがトラウセンじゃないなら一体何だと言うのだ?
意味が分からない。ローゼリットの頭が混乱する。
「鈍い女だな。つまりはこういう事だよ」
カッパーが宝珠を掲げる。宝珠が輝きを増し、それに呼応するようにトラウセンの身体が蠢き始める。
「な……何…?」
思わず数歩下がるローゼリット。彼女の目の前でトラウセンは姿を変えていく。そして蠢く身体は一回り以上大きくなり、身体は白く、頭はイカのような形になった。頭の下からは無数の触手が生えている。その姿はまさしく、ブレインイーターのそれだった。
「…………え?」
呆然とするローゼリット。そんなローゼリットの様子を見てカッパーが笑い声をあげる。
「ははははははは!どうしたローゼリット!トラウセンだと思っていた者がブレインイーターだった感想は!」
いまだ事態を理解しきれないローゼリット。立ち尽くすローゼリットにブレインイーターは触手を伸ばすが、それは駆け寄ったドレイクによって弾かれた。
「おい!しっかりしろ金目ハーフ!」
「あ、赤蜥蜴……だが、マスターが……」
「ローゼリットさん‼」
フリルフレアもローゼリットに駆け寄り、その手を握る。そしてつらそうな顔で首を横に振った。
本物のトラウセンに何が起きたのか、フリルフレアでも理解できた。そんなフリルフレアを見つめるローゼリット。そのままカッパーに視線を向ける。
「おいカッパー、本物のマスターはどうした?」
「おいおい、今さら訊くのかよ?……そんなもん、生きてる訳無えだろうが!ブレインイーターに脳みそ吸い尽くされてとっくにくたばってるよ!」
そう言って「ぎゃははは!」と嫌らしく笑うカッパー。それを聞いたローゼリットの肩が震えていた。
「そうか……死んでしまったのか……」
「何だぁ?泣き叫ぶかと思ったが案外淡白な反応だな」
「現役を退いたとはいえマスターも暗殺者だ。いつかはこうなることは分かっていたさ………」
「ほう…」
俯いたローゼリットの拳がブルブルと震えている。必死に怒りを押さえ込んでいるのが分かる。
「暗殺者なんて所詮は人殺しを商売にする悪人。ろくな死に方をしないのも覚悟はしていた……」
「ローゼリットさん……」
ローゼリットを案じ、心配そうに彼女の拳を両手で包み込むフリルフレア。そしてローゼリットはその手を握り返した。
「それでも……こんな殺され方は無かったはずだ……こんな…」
ローゼリットの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。たとえ悪人だったとしても、自分に良くしてくれた、親代わりと言ってもよかった。それでも……無残に殺された。
「せめて……仇は討つ!」
ローゼリットはフリルフレアから手を離すと、左手でも短剣を引き抜き、両手に短剣を構えた。
「は!お前が俺を殺るってのか⁉おもしれえ!」
そう言ってカッパーは右肩を掴むと、無理矢理中に押し込んだ。ゴリッと音を立てて肩の関節がはめ込まれる。「っつー、痛てえな」と言いつつ顔をしかめるカッパー。
そのまま後方に飛び退くと、壁に飾られていた器具を取り外す。それは手甲にギザギザの鉤爪が取り付けられたような器具だった。それを両手にはめ込むカッパー。
「拷問具、ベノムクロー。このギザギザで返しの付いた鉤爪で引っかかれると激痛が走る上に、傷口がボロボロになって治りが悪くなるのさ」
そう言って「くくく」と笑うカッパー。だが、そんなカッパーの言葉を無視してローゼリットはカッパーに近づく。
「赤蜥蜴、あの魔物たちを頼んでいいか?」
「任せろ」
ローゼリットの言葉に答えるドレイク。そのまま室内だと言うのに大剣を抜き放つ。
「ドレイク⁉こんな狭い所でそんな大きな剣振り回せないよ⁉」
「そうでもないさ。大剣だって室内なら室内なりの振り回し方ってもんがある」
そう言ってニヤリとフリルフレアに笑いかけるドレイク。
「小賢しい……殺せ!」
カッパーの号令にブレインイーターたちが動き出す。
頭の下の触手を蠢かせ、両手を前に突き出しその鋭い爪で襲い掛かってくるブレインイーター。一番弱そうだと思ったのだろう。5体全てフリルフレアに向かって突進してくる。
「ミイイイィィィ⁉わ、私⁉」
思わず悲鳴を上げるフリルフレア。当然の様に丸腰だったため、ワタワタと周りを見回す。そこでドレイクと目が合う。
「ド、ドレイク!」
とっさに両手を伸ばしてドレイクの後ろの隠れるフリルフレア。ブレインイーターたちはドレイクも標的に入れたのか、そのまま突っ込んできた。
「シャアアアアアア!」
奇声を上げ迫りくるブレインイーターたち。それに対しドレイクは大剣を両手で構えると、それを勢いよく上に掲げた。
ドスン!
大剣の切っ先が天井に突き刺さる。だが、ドレイクは気にすることなく、そのまま剣を握りしめた。
「キシャアアアア!」
再び奇声を上げるブレインイーター。だが、次の瞬間ドレイクの腕に力が籠められ筋肉が膨れ上がる。
「ゼリャアアアアアアア!」
叫びと共に振り下ろされる大剣。大剣は突き刺さったままの天井を切り裂きながら振り下ろされ、ザパアアン!と激しい音を立てて、先頭にいたブレインイーターを二体同時に両断していた。
断末魔を上げる暇もなく絶命する二体のブレインイーター。だが、残ったブレインイーターはそれを見ても臆することなく、再び突っ込んでくる。
「シャシャシャアア!」
「オオオオ!」
さらに突っ込んでくるブレインイーターに大剣を突き出すドレイク。大剣はブレインイーターの身体をあっさりと貫き、その命を奪い取る。
「チィ!クソが!」
それを見て叫ぶカッパー。そして次の瞬間ローゼリットに向かって一気に駆け出す。それに対しローゼリットの方も短剣を二本構えカッパーに向かって駆け出した。
ギィン!キィン!ガキン!
ローゼリットの短剣と、カッパーの鉤爪が何度もぶつかり合う。この戦いにおいて、カッパーの方が本来ならば実力は上なのだ。だが、先ほどのドレイクとの拳のぶつけ合いで肩の関節を外されたカッパーは、関節を元通りはめ込んだとしても痛みで右肩をまともに動かせなかった。利き腕を封じられたカッパーは、徐々にローゼリットに追い詰められていく。
「クソ!小娘がぁ!」
鉤爪を繰り出そうとするも、痛みのために右手がほとんど動かせないカッパー。そしてローゼリットは左手の短剣でカッパーの右手の鉤爪をはじく。思わず痛みで顔を歪めるカッパー。
次の瞬間ローゼリットの瞳が輝き始める。そして両手の短剣をカッパーに向かって投げつけると、そのまま懐に両手を突っ込んだ。そして取り出す……必殺の鋼線を!
投げつけられた短剣を弾くカッパー。だが、視線を戻すとそこにローゼリットの姿は無かった。「解析眼」を発動させたローゼリット。その力によりカッパーの視界や動きを解析し、死角になる様に、そして自分の最小限の動きで最大の効果を発揮するように動く。
そしてカッパーの死角から鋼線を閃かせるローゼリット。床を、壁を、天井、机、土台等様々な場所を踏み台にしてカッパーの周りを飛び回り鋼線を絡みつかせていった。そして、床に降り立った時、カッパーの全身は鋼線でがんじがらめにされ身動きが取れなくなっていた。下手に動こうとすればその時点で全身を切り刻まれる。
「一つ答えろカッパー」
「な、何だと?」
「何故……何故マスターを殺した!」
ローゼリットの問いに、ポカンとした顔をするカッパー。だが、すぐに大声で笑いだした。
「はーはははははは!いまさらそんなこと聞いてどうする気だ?答えたら助けてくれんのか?」
「そ、それは……」
「は!相変わらずメンタルの弱い出来損ない暗殺者だな!まあいい、知りたいなら教えてやるよ」
そう言ってニヤリと笑うカッパー。どこかローゼリットをバカにしている様にも見える。
「トラウセンはな、暗殺者ギルドをたたむつもりだったんだよ!でもそんなことされちゃたまんねえからな!俺にはギルドマスターになって全暗殺者を従えるって夢があるからな!それで邪魔になって殺したんだよ!」
「何故……魔物をマスターに化けさせていたんだ」
「おいおい、質問は一つじゃなかったのか?まあいい、いきなりトラウセンが死んで俺がギルドマスターになったら疑う奴が出てくるかもしれないだろ?だから、まず俺の傀儡としてトラウセンに化けさせ、その後自然な流れで俺にギルドマスターの地位を譲る手はずだったんだよ」
カッパーの言葉に奥歯を噛み締め必死に怒りを抑えるローゼリット。
「カッパー、もう一つだけ質問だ。この計画お前が考えたのか?」
「ああ?質問の多い奴だな。この計画を考えたのは…」
ドス!
「ゴフ!」
カッパーが突然口から血反吐を吐きだす。いつ投げつけられたのか、カッパーの背中に大振りな短剣が突き刺さっていた。その刃は寸分の狂いもなくカッパーの心臓を貫いていた。
「カッパー!」
「あんまりお喋りな男って嫌いなのよね」
カッパーの後方、そこに立っていたのは逃げ出したと思われていたロッテーシャだった。その手の中にはカッパーの背中に突き刺さっている短剣と同じものがあり、それを手の中で弄んでいる。
「ロッテーシャ!貴様!」
「まあ、ご名答よね。あなたの想像通り、カッパーにこの計画を持ち掛けたのは私よ」
「ならば、マスターを殺したのも!」
「とどめを刺したのはブレインイーターだけど、動けなくなるまでいたぶってあげたのは
、わ・た・し」
「そうか……貴様が本当のマスターの仇か!」
ロッテーシャを睨みつけるローゼリット。しかしロッテーシャは肩をすくめてため息をついた。
「何熱くなってるの?バカみたい」
「何だと!」
「ブレインイーターも大した役に立たなかったみたいだし……ホント、どいつもこいつも無能だらけで困っちゃうわね」
ロッテーシャが視線を向けた先では、床に大剣を突き立てたまま片手で最後のブレインイーターの頭を握りつぶしているドレイクの姿があった。
「そっちの赤い蜥蜴ちゃんの方がよっぽど役に立ちそうね」
「お褒めに預かり光栄だな仮面女」
頭を握りつぶしたブレインイーターを体ごと放り捨てるドレイク。合計5体分のブレインイーターの残骸が散らかっていた。もっともそのほとんどは砂の様に崩れかけていたが………。
「だが、生憎と年増には興味が無くてな」
「確かにあなたロリコンっぽそうだものねえ」
そう言ってロッテーシャはフリルフレアに視線を送る。
「誰がロリコンだ!」
「誰がロリですか!」
ドレイクとフリルフレアの叫びが響く。しかし、そんなことは気にせずロッテーシャはローゼリットに視線を向けた。
「ローゼリット、あなたが必要よ。暗殺者ギルドに来なさい」
「断る!マスターが居なくなった暗殺者ギルドにもう未練はない。あとはお前を倒してマスターの仇を取るだけだ!」
「まったく、頭の固い子ねぇ……誰に似たんだか?」
そう言ってため息をつくロッテーシャ。懐に手を伸ばしている。
「しょうがないわね、今日の所は引いてあげるわ。でも近い内にあなたは必ず私の元へ来ることになるわ」
そう言うと懐に入れていた手を出すロッテーシャ。その手には小さな球の様な物が握られていた。それを床に向かって投げつける。
ボウン!
辺りに凄まじい煙が充満する。
「煙玉か!」
ローゼリットの叫び、だが返ってきた声はすでに遠かった。
「ご名答。それじゃ、また会いましょう。ゴメンあそばせ」
しばらくして煙が晴れた時、そこにロッテーシャの姿は無かった。




