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第5章 赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢 プロローグ

赤蜥蜴と赤羽根と13の悪夢




     プロローグ


「こらピータス!またラナのことイジメて!」

 孤児院の庭に少女の叱りつける声が響き渡った。

 ここはアレストラル王国の南端に位置するラングリアという町、そこにある小さな孤児院である『アーキシャ孤児院』の庭だった。

 先ほど叱りつけた声の主の少女は、年の頃は10代前半に見える。赤茶色でクセのある長い髪を後ろで三つ編みにしており、同じような赤みのある大きな瞳が今は吊り上がっている。黄色いワンピースを身に纏い、その背中からは美しい深紅の翼が生えていた。

 このアーキシャ孤児院で最年長の少女、フリルフレア・アーキシャである。

 一方そのフリルフレアの前には利発そう……と言うよりは、悪戯好きで悪知恵が働きそうな、いかにも悪ガキっぽい10歳位の少年が立っていた。フリルフレアの弟的存在であるピータスと呼ばれたその少年は彼女に叱られたことで、面白く無さそうにそっぽを向いている。

「だって、ラナの奴イジメてほしそうな顔してんだもん」

 そう言ってピータスが指差した先には4歳位の大人しそうな少女が、地面に座り込んでメソメソと泣いていた。

「……うっく…えっく…」

 フリルフレアにとって少し年の離れた妹とも言うべきであるラナと呼ばれたその少女はしゃくり上げながら必死に首を横に振っている。

「……ちが…も………ラナ…いじめ……たくな………」

「ああ⁉何言ってるか分かんないんだよ!」

 俯いて泣きながら小さな声でとぎれとぎれ喋るラナを、ピータスがイライラした様子で怒鳴りつける。どうやらラナがメソメソしているのが気に入らないらしい。

「ひっ……」

 ピータスに怒鳴られ思わずかすれた悲鳴を上げるラナ。その様子にフリルフレアの眼がさらに吊り上がる。

「ちょっとピータス!ラナが怖がってるじゃない!」

 ラナを怖がらせているピータスを叱りつけるフリルフレア。そのままピータスの前を通り過ぎるとラナの横にやってきて、彼女の小さな身体を優しく抱きしめた。

「可哀想に、大丈夫ラナ?」

「ふええええ、お姉ちゃ~ん……」

 フリルフレアが頭を撫でてあげると、そのまま彼女の胸で泣き出すラナ。そんなラナを抱きしめながら「キッ!」とピータスを睨み付けるフリルフレア。しかし睨まれたピータスは悪びれた様子もなく、欠伸をしながら鼻くそをほじっていた。

「ちょっとピータス!ラナに言うことあるでしょ!」

「え~、言う事って?」

「ラナにごめんなさいでしょ!もうイジメないって!」

「へ!ヤなこった!」

「ピータス!」

 怒って叱りつけるフリルフレアだったがピータスはそんなのはどこ吹く風と言ったふうだ。そしてまったく反省した様子も見せずにフリルフレアとラナに向かって舌を出している。

「さっきも言ったろ?ラナがイジメてほしそうな顔してたからイジメてやったんだよ。感謝してほしいくらいだぜ」

「ラナがそんな顔する訳ないじゃない!」

「ど~だかな~?」

 そんなことを言いながら自分は悪くないと言いたげに頭の後ろで腕を組んで口笛など吹きだすピータス。しかしそんなことをすれば当然火に油を注ぐことになる。フリルフレアの眼がさらに吊り上がる。

「……ちが…も………ラナ…いじめ……たくな…………」

 ラナが泣いてフリルフレアにしがみつきながら先程と同じ言葉を繰り返す。正直やはり聞き取りづらいくらい途切れ途切れな上に小声だったが、それでもフリルフレアはラナの言おうとしている事をちゃんと理解していた。

『……ちがうもん……ラナ…いじめられたくないもん…』

 そう言っていたラナの言葉に偽りなどあろうはずもない。この子がイジメてほしいなどという訳が無いのだ。どうせさっきの言葉もピータスの口から出まかせに違いないとフリルフレアは思っていた。

(まったくピータスはいつもいつもラナのことイジメて!バークが一緒に居なかったことがせめてもの救いだわ!)

 心の中で憤慨するフリルフレア。悪ガキのピータスだけでも手を焼くというのに、ピータスの2歳年下の弟分のバークまでイジメに参加していたらと思うと気が重くなる。もっともそのバークは、彼の1歳年下の妹と言うべきシャオンに、「今日のお手伝い当番は私とバークお兄ちゃんだから、さっさと行くよ」と言われ、耳を引っ張られて連れていかれた。あまりにシャオンが年の割にしっかりしているうえに、正直あの光景を見せられると、どっちが年上だか分からなくなってくる。

 まあ率直な所、お手伝い当番だと言ってママ先生の手伝いにバークを引っ張っていってくれたシャオンに感謝したい気分だった。

(とにかく、今はピータスを叱らなきゃ)

 バークがいなかったせいもあってピータス一人の犯行になったのだろうが、だからと言って妹をイジメるのを許す訳にはいかない。みんなこのアーキシャ孤児院で一緒に暮らす家族なのだ。

 ピータスを叱るべく、振り向こうとするフリルフレア。しかし目の前で泣いているラナがフリルフレアの胸にしがみついているためピータスの方を向くことが出来ない。

「ふええええん、お姉ちゃん………」

 いまだ泣き続けて自分にしがみついているラナの頭をなでながら、そっと身体から引き剥がすフリルフレア。もちろん今回の件は100%ピータスが悪いのだが、ラナがすぐ泣きだす泣き虫であることもピータスを調子に乗らせる原因になっている。フリルフレアはしゃがんでラナの目線に高さを合わせると、優しくラナの眼を覗き込んだ。

「ラナ、お姉ちゃっはいつだってラナの味方だよ?だから泣き止んで?」

「ふえええええ……うう…」

「それにね?ラナが泣き止まないとピータスが調子に乗ってまたラナのことイジメに来るかもしれないの」

 フリルフレアの言葉に、ラナは涙で瞳を濡らしながらも不思議そうにフリルフレアの顔を見る。しかし、フリルフレアの言った言葉の意味を段々と理解していったのか、すぐに顔を歪めポロポロと涙をこぼし始める。

「やぁ~、…ピータスお兄ちゃん…やだぁ~…」

 どうやらあまりにピータスがラナをイジメるので拒否反応を示しているようである。しかしその様子を見ていたピータスはさらに面白がってラナに迫る。

「うぇへへ~、泣き止まないとまたイジメちまうぞ!」

「あんたは黙ってなさいピータス!」

 両手をワキワキと動かしながらラナを脅かすピータスをギロリと睨むフリルフレア。いい加減この悪ガキにもお灸をすえなければいけないと思う。だが、とりあえず今はラナを泣き止ませることが先だった。

「そうだ!ラナ、後でお姉ちゃんがおやつにプリン作ってあげるから!一緒に食べよ!」

「…え?……プリン?」

「そ、プリン!ラナ、お姉ちゃんの作ったプリン好きでしょ?」

「う、うん……プリン、食べたい」

「そっか!じゃあ、お家に戻って一緒にプリン作ろっか?」

「…うん!ラナもお姉ちゃんと一緒にプリン作る!」

 そう言ってニッコリと笑うラナ。気が付けばラナは泣き止んでおり、その顔も可愛らしい笑顔になっている。物で釣るような形になってしまったが、致し方ないだろう。今はラナが泣き止んでくれてホッとするフリルフレア。

「お姉ちゃん、プリン!」

「はいはい、一緒に作ろうね!」

 そう言ってラナと手をつないで孤児院に入っていこうとするフリルフレア。

「おお、いいねえプリン!俺も食べたーい!」

「あ、ピータス、あんたの分は無いから」

「えええええええ⁉」

 プリンと聞いて喜んでいたピータスだったが、フリルフレアの言葉に思わず悲鳴じみた声を上げる。

「てかあんた、今後一か月間おやつ抜きだから」

「何だってー⁉な、納得できねえよ姉ちゃん!」

「あんたが納得する、しないは関係ないの。ラナをイジメる悪いお兄ちゃんにはおやつ抜きの刑なんだよ、ね~」

「ね~」

 二人で笑顔で顔を合わせ「ね~」と言いながら微笑み合っているフリルフレアとラナ。ラナの機嫌もすっかり良くなったし、ピータスには「おやつ抜きの刑」という重罰を科すことが出来た。これに懲りて少しは大人しくなるだろう。

 ラナに微笑みかけるフリルフレア。ラナの眼はまだ少し赤かったが、もう涙は消えている。

 さあ、後はラナと一緒にプリンを作っておやつの時間にするだけである。今日の問題も万事解決した。………そう思っていた。

 だから……………正直油断していた。

 おやつ抜きの刑という暴挙に出たフリルフレアを、歯を食いしばって睨んでいるピータス。

(おやつを……人生で一番大事なおやつの時間を…)

 そんなことを考えながら拳を握りしめてプルプルと震えているピータス。孤児院に向かってゆっくり歩いているフリルフレアとラナの後ろ姿を睨んでいたが、ふと何かを思いついたようにニヤリと笑みを浮かべると、急に驚いたような顔になって孤児院の屋根の上を指差した。

「ああああああ!ね、姉ちゃん…あれ!」

「へ?な、何よ突然?」

 ピータスが突然叫び出したので驚いて振り返るフリルフレア。視線の先ではピータスが驚愕の表情を浮かべながら孤児院の屋根の方を指差している。

「?どうしたの?」

 頭の上にいくつも?マークを浮かべながらピータスの指さす先へ視線を送るフリルフレア。隣ではラナが同じように孤児院の屋根の方を見上げている。

 そしてピータスが叫びながら指差したその先には………………何も無かった。

 特にピータスが驚くようなものは何もない。いつも通りの孤児院の屋根があるだけである。別段変わった様子も見られない。その事実に頭の上にさらに?マークを浮かべるフリルフレア。何か見落としているかと思い、さらに屋根の方を確認しながらフリルフレアは口を開いた。

「何よピータス、別に何もないじゃない」

バサッ!

 フリルフレアが言った瞬間、何か布を翻すような音が聞こえた。それは……………ピータスがフリルフレアのスカートを盛大に捲り上げた音だった。

 そう、ピータスは別に孤児院の屋根の上に何かを発見した訳では無かった。ただ単にフリルフレアの注意を引くために何かある様な顔をして屋根の上を指差しただけなのだ。そしてピータスはそそくさとフリルフレアの真後ろに移動し彼女のスカートを盛大に捲り上げた。勢いをつけて捲り上げたため、フリルフレアの履いているショーツが盛大に露わになる。

 普段ならば、エロガキの性質と言うか何と言うか、ジッと姉の下着を見ていただろう。だが、今は違う。怒りと復讐に燃えるピータスはそのまま顔の前で両こぶしを合わせて握り込んだ。その時両手とも人差し指だけは立てておく。そして自然に腰を落とすと、そのまま数舜の溜めに入る。そしてそのまま一気に両腕を突き出した。

「カンチョー!」

スブシュッ!

「!!!!!!!⁉」

 ピータスの突き出した人差し指がフリルフレアのお尻の穴にめり込んでいた。


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