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第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第9話、それぞれの決着 その12

     第9話その12


 フリルフレアがドレイクと唇を合わせると、その瞬間ドレイクの全身を輝く炎が包み込んだ。その炎は輝きながらドレイクの全身の傷を瞬く間に癒していった。

「これで良し……次は」

 フリルフレアはそう言うと右手を掲げた。それを見たザンブリエルは何か攻撃が来るものと、闇と炎の剣を構える。しかしフリルフレアはそんなザンブリエルを無視して魔法を発動させた。

「炎よ…癒せ。……『ヒーリングフレイム・サークル』」

 その瞬間フリルフレアの右手から炎が溢れ出す。そしてその炎は広がっていき巨大な魔法陣を描いていった。そしてその魔法陣からさらに炎が溢れ出す。そしてその魔法陣からあふれ出した炎はそのままローゼリット、スミーシャ、アレイスロー、フェルフェル、ベルフルフの所へ飛んで行き、その全身を輝く炎で包み込んだ。そしてその輝く炎はローゼリット達の全身の傷を瞬く間に癒していくのだった。

「これで、みんな大丈夫」

 フリルフレアはそう呟くと、ザンブリエルへと視線を向けた。ザンブリエルは突如姿を変え、瞬く間にドレイク達の傷を癒してしまったフリルフレアのことを警戒しているようだった。闇と炎の剣を構えフリルフレアのことを睨み付けている。

「……おばえ…なんだ…?」

 ザンブリエルが苛立たし気にそう言う。目の前のこの少女が自分にとって脅威となりうる存在だと本能的に感じ取り、その事実に苛立ちを感じているのだ。しかしそんなザンブリエルの苛立ちなど気にも留めていないフリルフレア。そして右掌をザンブリエルへと向けると、キッパリと言い放った。

「歪なあなたの存在を放ってはおけません。……あなたを浄化します」

 フリルフレアのその言葉を聞いたザンブリエルの顔が歪む。その顔は怒りの為か、歯を食いしばり激しく歪んでいる。先程まで無力で、自分を恐れていたはずのフリルフレアが急に自分を恐れなくなった事実がザンブリエルには気に入らなかったのだ。それに先程からのフリルフレアの態度は自分の事を歯牙にもかけていない風にもとれる。その事実がさらにザンブリエルを苛立たせた。

 だから……次の瞬間ザンブリエルは怒りのままに闇と炎の剣を振り被った。そして剣を振り下ろすと、そこから闇と炎が噴き出し、交わり合って黒い炎となってフリルフレアに襲い掛かった。

「ファイアリフレクション」

 フリルフレアが呟いた瞬間、彼女の身体を炎の球が包み込んだ。ザンブリエルの放った黒い炎がその炎の球に直撃する。しかし、黒い炎は炎の球に当たった瞬間あっさりと弾け飛んでしまった。

「!……おばえ!なんだ!」

 炎の球が黒い炎をあっさりと防いだのを目にしたザンブリエルは、苛立ちを隠そうともせずに叫んだ。そして、闇と炎の剣を振り回し、黒い炎を何度も撃ち出す。さらに、先ほどドレイクを貫いたあの刃の様な闇の触手も伸びて行き、フリルフレアに襲い掛かった。

ドン!ドドドン!ズドドドドドド!ドドン!

 激しい音を立てて黒い炎や、刃の様な闇の触手がフリルフレアに降りかかる。

 しかし……………それらがフリルフレアに傷を負わせることは無かった。なぜならば、それらすべての攻撃はフリルフレアを覆う炎の球によって防がれていたからだ。

 黒い炎が爆発して起こした砂煙が晴れたとき、そこにはいまだ炎の球が揺らぎもせずにあった。そして炎の球が消え、その後に立っていた無傷のフリルフレアを見て、ザンブリエルは驚愕していた。

「お、おでの…ごうげきが…ぎがない⁉」

 信じられないと言いたげなザンブリエル。だがフリルフレアはそんなザンブリエルの様子など気にもせずに、右掌と二回りほども大きくなった真紅の翼の先をザンブリエルへと向けた。

「いくよ…『フェザーファイア』」

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドン!

 その瞬間フリルフレアの深紅の翼の先から無数の炎の羽根が撃ち出される。だが、その炎の羽根はいつもの「フェザーファイア」と違っており、炎の羽根1つ1つがいつもの物と比べ3倍以上大きく、また炎の羽根の数も倍以上に増えていた。

 そして、総合的に考えて恐らく威力が5倍以上に増えたフェザーファイアがザンブリエルに直撃する。

「ぐぎぃああああああああああ!」

 炎の羽根の直撃を受け悲鳴を上げるザンブリエル。フリルフレアの魔法で撃ち出した炎の羽根はザンブリエルの全身を貫き、皮膚全体を焼き、ザンブリエルのすべてを焼き尽くす勢いだった。しかし、それでもしぶとく立っているザンブリエル。それを見たフリルフレアは胸の前で両手を掲げた。そして両掌から輝く炎があふれ出し、そのまま集まり輝く炎の球体になっていく。

「浄化します。……『ピュリフィケーションフレイム』」

 次の瞬間フリルフレアが輝く炎の球体を撃ち出す。その炎の球体はザンブリエルに当たるとその全身を包み込んだ。そしてそのままザンブリエルの身体を少しずつ分解していった。

「ぎいああ!な、だんだごれは!?」

 驚き、そしてある種の恐怖を感じ取ったザンブリエル。だが、そうしている間にもザンブリエルの身体は端から少しずつ分解し光の粒子となって消えていく。

「ま、までぇ!やべろ!やべでぐれ!」

 自分の身体が消滅していくしていく事実になす術がないザンブリエル。ジタバタと暴れ両手を振り回すが、既に闇と炎の剣も消滅し、それどころがその腕も半ばまで分解されている。そして脚も分解し、立っていることが出来なくなり地面に倒れ込むザンブリエル。

「い、いやだ!おではじにだぐない!おでは…」

「あなたに食べられた人たちだって死にたくないと思っていたはずですよ」

 フリルフレアの静かな言葉が響く。しかしそれを聞いたザンブリエルは残った手足をさらにジタバタと振り回す。

「にんげんなんがどうでぼいい!おでは!おでざまは!ごぐまじゅうで、しでんじで………あで?」

 そこまで言って動きがピタリと止まるザンブリエル。そのままフリルフレアを見つめながら呆然と呟いた。

「あで?……おで…なんだっげ?」

 そう呟いた言葉を最後に、ザンブリエルの身体は全て分解し光の粒子となって消えていった。獄魔獣か死天使か……ザンブリエルという歪な融合体になってしまったことにより、自分がなんであるのか分からなくなったのだろう。ザンブリエルは最後、自分の存在に疑問を持ちながら消えていったのだ。

「何だか……悲しい戦いだったね」

 フリルフレアは呆然と呟く。

(考えてみれば、ザンゼネロンも、ファブリエルもただ食事をしていただけなんだよね。でもその食事はこの里のバードマン達で……もし彼らがこの里に目を付けなかったら、戦わなくてすんだのに……)

 そう考えるとやり切れないものがある。だがそれは食物連鎖というこの世の理のもと、仕方の無い事なのだろう。

 これ以上考えても仕方ないと思い、あえて思考を中断する。そしてドレイク達の元へ向かおうとした、その瞬間だった。

グラ……。

「あ……れ…?」

 凄まじい脱力感を感じるフリルフレア。一瞬エナジードレインをうけたのかと思ったが、既にザンブリエルはいない。そしてそのまま前のめりに顔面からドサリと倒れ込むフリルフレア。

「………い……たい…」

 そしてフリルフレアはそのまま意識を失ってしまった。その光景を……唯一意識を保っていたベルフルフだけが見ていた。


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