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第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第9話、それぞれの決着 その11

     第9話その11


「ギイヤアアアガアアアゲエエエエエエエヒヒヒヒヒヒィ!」

 フリルフレアの悲鳴が響き渡る中、ザンブリエルが聞く者を恐怖に陥れるおぞましい叫び声を発した。そしてその瞬間、ザンブリエルの全身を炎が包み込むと、その炎が黒い闇の刃の触手を伝って燃え広がっていく。そしてそのままその炎が全身を貫かれたドレイクへと燃え移っていった。

「ぐがああああああああああ!」

 全身を貫く激痛に加え、炎が全身を焼く熱さと激痛がドレイクの身に襲い掛かる。あまりの激痛に悲鳴を上げるドレイク。

「いや!いやあ!…ドレイク!ドレイクゥ!」

 あまりに悲惨なドレイクの姿を目の当たりにし、半ばパニックに陥りながらもドレイクへと駆け寄るフリルフレア。とにかくこの燃え盛る炎を消さないとドレイクが燃え尽きてしまう。

 パニックに陥りながらも何とか精神を集中させ、水の精霊界へと精神を接触させようとするフリルフレア。しかし、パニックと焦りでなかなかうまくいかない。それでも何とか精神を水の精霊界に接触させたフリルフレアは急いで精霊に語り掛ける。

「アクセス!水の精霊ウンディーネよ、あなたの命の滴を私に分け与えて!『メイクウォーター!』」

 次の瞬間フリルフレアの両掌から水が勢いよく吹き出す。そのままその水をドレイクへとかけ続けるフリルフレア。しかしドレイクを包む炎は全く衰える様子が無い。まるで焼け石に水だった。

「やだ…やだよドレイク!……死んじゃやだよぅ!」

 必死になりながら精霊魔法で生み出した水をかけ続けるフリルフレア。

(お願い…早く消えて!)

 心の中で必死に懇願し、瞳から大粒の涙をこぼしながら、それでも魔法で水をかけ続ける。

 そして……しばらくして炎が消えたころには、ドレイクの全身は凄まじい火傷に覆われていた。そして、炎が消えたタイミングでドレイクから全ての闇の触手の刃を引き抜くザンブリエル。

「……………ごふぁ…」

 その瞬間ドレイクは口から大量の血を吐いてその場に倒れ込んだ。

「ドレイク!しっかりしてドレイク!」

 思わず泣きながら倒れ込んだドレイクを揺さぶるフリルフレア。しかしドレイクからは全く反応がない。完全に意識を失っているのが分かった。

「く………よくもドレイクを!」

 ドレイクがやられたことでフリルフレアの心の中で恐怖よりも怒りが勝った。ザンブリエルをキッ!と睨み付けるフリルフレア。だが、そんなフリルフレアに対し、ザンブリエルは左手を向けるとそこから闇の球を撃ち出した。

バシュッ!

「きゃあ!」

 黒い闇の球の直撃を受けて10数mほど吹き飛ばされるフリルフレア。そんなフリルフレアに視線を向けていたザンブリエルだったが、そのままドレイクのすぐ横まで歩いてくると、倒れて意識を失っている彼を見て邪悪な笑みを浮かべた。

 次の瞬間ザンブリエルの右手に黒い闇と炎が集まっていく。そしてその闇と炎は混じり合って行き、その姿を一振りの剣へと変えていった。

 その闇と炎の剣をザンブリエルは逆手に持って掲げる。その光景を見たフリルフレアは顔が真っ青になった。恐怖で心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥る。

「いやぁ!ダメ!やめてぇ!お願い!ドレイクを殺さないで!」

 ザンブリエルがドレイクに止めを刺そうとしていると知り、フリルフレアが懇願する様に叫び声をあげた。それでザンブリエルがその凶行を止めるとは思えなかったが、それでも叫ばずにはいられない。ドレイクを助ける為ならどんなことだってやる想いだった。たとえ自分の命を差し出すことになっても……。

 だが、そんなフリルフレアの想いを踏み躙るようにザンブリエルが邪悪な笑みを浮かべる。そして闇と炎の剣を掲げたままドレイクの真横へと来た。

「お願い!お願いします!ドレイクを助けて!……代わりに私の命をあげますから…!」

「ざんぜんでじだ」

 フリルフレアの懇願虚しく。ザンブリエルは邪悪な笑みを浮かべたまま彼女に向かって舌を出した。

 そして…………………その右手を振り下ろした。

ズブリ…。

「……やだ…………………ドレイク………」

 目の前の光景にもう悲鳴を上げることもできないフリルフレア。全身が震え、かすれた声を出すことしかできなかった。その瞳に映る光景が……信じられなかった。

 ザンブリエルの振り下ろした闇と炎の剣の切っ先がドレイクの胸を貫いていた。そしてザンブリエルはそのままゆっくりと剣を引き抜く。

 ドレイクの胸から大量の血が溢れ出す。それを見たフリルフレアは呆然としながら膝から崩れ落ちた。膝と両手を地面につき、ただただ血を流し続けるドレイクを見つめることしかできないフリルフレア。

「……あ……あ………」

 かすれた声が口から洩れる。信じられない……いや、信じたくない目の前の光景に感情や思考がついて行かない。

 一体何が起きたのか?目の前でドレイクが胸を貫かれたという事実さえ理解が追い付かない。それでもフリルフレアの中でその事実がじわじわと浸透してくる。

 全身を貫かれ、炎で焼かれ、そして………胸を貫かれた。

 それはつまり………………………死。

(ドレイクが………………死んじゃった……?)

 信じられないその事実に思考が追い付いた時、フリルフレアの中で何かが叫び声をあげていた。

「あ……ああ………あああああああああああああああああああ!」

 フリルフレアの口からまるで炎のような叫び声が上がる。そしてその瞬間フリルフレアの身体を輝く炎が包み込んだ。

 その炎はフリルフレアの使う回復魔法の炎によく似ていたが、それよりもさらに力強い炎だった。その炎がフリルフレアを包み、膨れ上がっていく。そしてその炎が弾けた時、フリルフレアの身体に変化が起こっていた。

 フリルフレアの赤茶色の髪が燃える炎のような真紅の髪に変わっていた。そしてその長いくせ毛をまとめていた三つ編みは解け、髪の先を止めていたゴム紐もはじけ飛んでいる。そして髪全体が炎の様に揺らめいていた。さらに背中の深紅の翼は二回りほども大きくなっており、その翼自体にも尾ひれの様なヒラヒラした羽根が付いている。そしてお尻の付け根の辺りから長い尾羽が3本ほど伸びていた。

 その翼や尾羽を持ったその姿はどこかフェニックスを彷彿とさせるものだった。

 フリルフレアのその姿を見たザンブリエル。じっと見ていたが、フリルフレアが静かにザンブリエルに視線を向けると、まるで恐れる様に後退った。

 フリルフレアはそのままドレイクの元へと歩み寄った。それに対しザンブリエルはさらに後退る。

 そしてフリルフレアはドレイクの身体を抱き起すと目を閉じてドレイクの胸に耳を当てた。

トクン、トクン。

 わずかだが鼓動が聞こえる。その事実にフリルフレアの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。

「ドレイク………良かった…生きてた……」

 そう呟いたフリルフレア。そのまま涙を拭うと、ドレイクの頬に手を添えた。そして自分も目を瞑ると、ドレイクの竜の様な口の先に自身の唇を重ね合わせたのだった。


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