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第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第9話、それぞれの決着 その6

     第9話その6


「さらばだベルフルフ!」

 エナジードレインを受けて疲労のあまり立ち上がれないベルフルフの頭上に向けてファブリエルが白銀の剣を振り下ろした。ベルフルフは不意打ちともいえるエナジードレインを受けてかなりの生命力を奪われたはずだ。今はしゃがみ込んでいるうえに、恐らく立ち上がる力さえ残っていないだろう。ファブリエルは自分の勝利を確信していた。

ガキイィィン!

 だから響き渡った金属音に、一瞬何が起きたのか理解できなかった。ファブリエルの視線の先ではベルフルフが魔剣を掲げファブリエルの白銀の剣を受け止めている。予想外の事態に驚愕し、眼を見開くファブリエル。

(バ、バカな……。奴は立ち上がることも出来ずにうずくまっていたはず、だというのに一体どこに剣を持ち上げる力が…⁉)

 驚きのあまり思わず動きを止めてしまうファブリエル。しかしその隙にベルフルフは魔剣を一閃させファブリエルの白銀の剣を弾く。そして、半ばうずくまった姿勢のまま後方に一気に飛び退いた。

「き、貴様…」

 いまだ驚愕したショックから立ち直れないファブリエル。しかしそんなファブリエルを無視してベルフルフはしゃがんだまま懐に手を突っ込んだ。そして懐から液体の入った小瓶を取り出す。ベルフルフは片手の親指で器用にその小瓶の蓋を弾き飛ばすと、その中身を一気に呷った。

ゴクゴクゴク。

 ベルフルフがさもうまそうに喉を鳴らして瓶の中身を喉の中に流し込む。そしてすぐに飲み干すとそのまま瓶を放り捨てて立ち上がった。

「ふう~、やっぱ霊薬(エリクサー)美味(うめ)えなぁ!」

 上機嫌にそう言うベルフルフ。その顔には先ほどエナジードレインを受けた後の疲労感など微塵も感じられない。

「貴様!一体何を飲んだ⁉」

「あ?霊薬(エリクサー)だよ霊薬(エリクサー)。値段が高いのが難点だが、やっぱ味と効果は抜群だな!」

 そう言って上機嫌にケラケラと笑うベルフルフ。一方のファブリエルは歯を食いしばりながら忌々し気にベルフルフを睨んでいる。

「お、おのれ……そんなものを用意していたのか……」

「は!冒険者ならある程度水薬(ポーション)の類を常備しておくのは常識だぜ。まあ、俺様は細かく持ち歩くのが面倒くせえからもっぱらこの霊薬を使ってるがな」

「グヌヌヌ…。ならばさっき俺の剣を受け止められたのはどういう事だ⁉貴様はエナジードレインを受けてまともに動けなかったはず……」

「ああ、あれはなかなかヤバかったぜ。だから意味もなく立ち上がって無駄な体力を使ったりせず、全神経を集中させてお前の動きを感じ取り、腕だけを動かしてお前の剣を受け止めたんだ。そんで最後の力を振り絞ってここまで移動したという訳だ」

「貴様……!ではその霊薬を使う事を前提で動いていたと言う事か!」

「おうよ。まあかなり高い買い物ではあるが、命にはかえられねえからな」

 そう言ってニヤリと笑みを浮かべるベルフルフ。ファブリエルはエナジードレインを使っていくらか体力を回復したが、ベルフルフは霊薬のおかげで体力が全快だった。どちらが有利であるかは明らかだった。

「くそ……。ならば、回復した体力もろとも再びエナジードレインで奪ってくれる!」

 ファブリエルは叫びながらベルフルフに左手を向ける。一見何もない左手だが、その左手からベルフルフの生命力を吸い取ろうとしているのは明白だった。

 しかし、ベルフルフの方もそんなことは百も承知だ。その瞬間大きく後ろに跳躍すると、そのままファブリエルからかなり離れた位置に降り立った。

「ふ…ふはは…。どうしたベルフルフ、この俺に恐れをなしたか⁉」

「フッ…。寝言は寝てほざけ」

 ベルフルフはファブリエルの台詞を鼻で笑い飛ばしながら魔剣を天に掲げた。

「ワオーーーーーーン!」

 狼の遠吠えの如くベルフルフが叫び声を上げる。そしてそれに応えるように輝く魔力が魔剣の刀身を包み込んでいった。

「貴様!何だそれは⁉」

「これが俺様の愛刀の真の力さ。所有者の戦意を高揚させ身体能力を底上げし、魔力で刀身を覆い破壊力を増す。それがこの魔剣『ウォークライブレード』の能力」

 ニヤリと笑いながらわざわざ魔剣の能力を説明するベルフルフ。それをベルフルフが優位な状況だと判断し油断したのだと考えたファブリエル。再び左手をベルフルフの方に向ける。例えベルフルフが離れたとしても大した問題では無いのだ。エナジードレインの射程は実は半径100m程にも及ぶ。この周囲で戦っている以上、エナジードレインの射程から逃れることは出来ないのだった。

 恐らくベルフルフはエナジードレインが近距離でなければ使えないと思っているのだろう。その油断こそが本当の命取りだとファブリエルは考えていた。

 だから確信していたのだ、自分の勝利を…………。ベルフルフがその魔剣を振り下ろすまでは………。

「牙狼剣、飛天光牙!」

 次の瞬間振り下ろされたベルフルフの魔剣から輝く魔力が刃となって撃ち出された。

ザシュッ!

「ぐわああああああああ!」

 何かが斬れる音、そしてファブリエルの悲鳴が響き渡る。ファブリエルは右手に持っていた白銀の剣をカランッとその場に落とすと、左手を押さえてうずくまった。

 ………いや、正確に言えば左手を押さえたのではなかった。左手首の辺りを押さえているが、そこからは血が溢れ出していた。そしてファブリエルの左手首から先はその足元に落ちていた。ベルフルフの技は魔力の刃となって襲い掛かり、ファブリエルの左手を斬り落としたのだ。

「おいおい、まさか遠距離攻撃できるのが自分だけだと思ってた訳じゃねえよな?俺様だってこれくらいのことは出来るんだぜ?」

 そう言って勝ち誇った笑みを浮かべるベルフルフ。うずくまり、左手を押さえているファブリエルとどちらが優位かは明白だった。

「お、おのれ……ベルフルフ!」

「生憎と、恨み言を聞いてやるつもりは無いんだよ」

 憎しみの込もった声を絞り出すファブリエルにそう言い捨てるベルフルフ。そしてそのまま魔剣を携えて走り出しファブリエルとの間合いを一気に詰める。

「おのれ……おのれぇ!」

 悔しそうにそう叫びながらファブリエルが無数の闇の矢を撃ち出す。しかし魔剣を振り回しあっさりとそれらを弾き飛ばすベルフルフ。そして力強く地面を蹴り上げると高々と跳躍し空中で1回転する。そしてそのままの勢いで上空からファブリエルに斬りかかった。

「牙狼剣、彗星鋼牙!」

ザバアァァン!

「がはあああああああ!」

 ファブリエルの悲鳴が再び響き渡る。上空からの全体重を乗せたベルフルフの斬撃はファブリエルの身体をバッサリと斬り裂いていた。肩がら腹の辺りまで魔剣の刀身がめり込むほど斬り裂いている。これは明らかな致命傷だった。

「ゴフゥ!………おのれ……おのれ…ベルフルフ……!」

 血を吐きながら恨み言を口にするファブリエル。しかし、この状況ではどんなに恨んでも勝敗は覆らない。死天使の名を持つ堕天使である自分がこんな一介の冒険者如きに敗れるなどあり得ない、許されることでは無い。そう考えるファブリエルだったが、すでに血は大量に流れ、意識は混濁していた。死がすぐそこに近づいていたのだった。

(くそ……この俺が…たかだか冒険者……如きに………………ん?)

 その時上を見上げるファブリエルのかすんだ視界にある者が映った。それはこちらに向かって飛んできている。

ニヤァ………。

 ファブリエルはそれを見た瞬間とてもイヤな笑みを浮かべた。

(そうだ……あいつがいた。……あいつほどの生命力をすべて喰えば……どんな致命傷でも……回復するはず…)

 ベルフルフがファブリエルの身体から魔剣を引き抜くと、そのままドサリと倒れ込むファブリエル。そのまま上空に向けて弱々しく右手を伸ばしている。

(……さあ…早く来い…)

 血を吐きながらもファブリエルはうっすらと笑みを浮かべていた。


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