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第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第7話、再度の襲撃 その6

     第7話その6


 ザンゼネロンが姿を消した後、ドレイク達は瓦礫の山と化した小屋の中からホーモンを引きずり出した。瓦礫に押しつぶされて死んでしまったのではないかと心配したのだが、特に命に別状は無さそうだった。しかし無傷だったという訳では無く、足首にかなり深い傷を負い、左腿から右脇腹にかけての大きな裂傷、さらに細かい瓦礫や木の破片が入って眼が痛いとわめいていた。

 フリルフレアがその場で回復魔法を使い治療したのだが、以前のイーブスの時と同様あまり効果が無く応急処置程度にしかならなかった。

「おかしいなぁ……」

 そう呟いて頭をひねるフリルフレアだったが、とりあえずの処置は済んだのでこれで良しとしておく。

 そしてドレイク達は前回の襲撃の時と同様消火活動や救護活動を手伝う事となった。

「あ、そうだ。もしかして…」

 そんなことを言いながらドレイクが自身の大剣を抜き放ち魔力を開放させる。ドレイクの魔剣は炎を吸い取り刀身に纏わせる能力を持つ。ならば火事で燃え盛っている炎も吸い取れるのではないかと考えたのだ。結果、ドレイクの機転により火事は前回よりも早く鎮火することとなった。

 一方のフリルフレア達は救護活動に専念し、重傷者をフリルフレアが魔法で治療し、ローゼリットとスミーシャが軽傷者の応急処置に回った。また、途中からアレイスローとフェルフェルも合流し救護活動に参加したのだった。

 その結果、今回の襲撃の被害は前回よりもずっと少なくて済み、一人を除いて犠牲者を出さなくて済んだのだった。

 そう……残念ながら一人だけ犠牲者が出てしまったのだ。その人物は………襲撃の際に警備隊を取り仕切る立場でありながら所在が分からなかった、警備隊長のヒカーツだった。彼だけはドレイク達がザンゼネロンと戦った広場にて変わり果てた姿で発見された。その身体にはたくさんの斬り傷があり、特に左胸から右腿にかけての巨大な斬り傷があった。その傷はふさがり始めていたとはいえあまりにひどい傷だった。ただ、警備隊員の話ではヒカーツにこんな傷はなかったはずだと言う事だったので、昔の古傷が開いたという訳では無いだろう。そんな傷がいつついたのかは分からなかったが、ヒカーツの死因についても謎が多かった。一見するとその巨大な傷が致命傷に思えるが、この大きな斬り傷はふさがり始めていたのだ。ならば致命傷だとは考えにくい。他の小さな傷が死因なのかとも考えられたが、それらの傷もよく見ればふさがり始めたものだったという。集落の医者と、剣士として斬り傷に詳しいベルフルフの見立てでも死因が分からなかった。

 夜になって消火や救護活動が一段落し一息ついたドレイク達。しかしどうにも分からないことが多く、情報を整理する必要を感じたドレイク達は借りている小屋に集まって話し合いをしていた。その場にはドレイクやフリルフレア達以外にベルフルフの姿もあった。

「では、獄魔獣ザンゼネロンはまた突然現れて突然消えたんですね?」

「ああ、前回みたいに火の玉になってな。今回はそのまま突っ込んできたが、結局小屋を破壊してそのまま消え去った訳だ」

 アレイスローの問いかけにそう答えたローゼリットは「意味が分からない」と言いたげに肩をすくめた。

「光の魔物もそんな感じだったな。突然消え去った」

「お前が倒したんじゃないのか?」

「いや、あれはそう言う消え方じゃねえ。奴はまだ生きてやがる」

 ドレイクの言葉を否定する様に首を横に振るベルフルフ。炎の球になって消え去ったザンゼネロンと突然消え去った光の魔物。2体の魔物はなぜ突然現れて突然消えるのか、謎が深まるばかりだ。

「おいベルフルフ。お前の鼻であの魔獣野郎の居場所を嗅ぎ当てられないのかよ」

「おいおい、俺様はその獄魔獣ってのに会って無いんだぜ?しかもこの集落何処も鳥くせえからどれがその匂いだか分かんねえよ」

「ああ、そうか」

「赤蜥蜴、お前だって俺様ほどじゃねえが鼻が利くだろ?お前はどうなんだよ?」

「いや、俺も同じだ。それにあの魔獣野郎あんまり獣臭くないんだよな」

 はあっとため息をついて肩を落とすドレイクとベルフルフ。こういう時の二人の行動はどことなく似ているように思える。

「でもどういうことなのかなドレイク?ザンゼネロンと光の魔物の目的って……」

「目的なあ……」

 少し不安げにそう言ってドレイクを見上げるフリルフレア。魔物たちの目的によってはさらに再度の襲撃の可能性がある。

「目的は……恐らく『食事』でしょうね……」

 アレイスローの言葉に全員の視線が集まる。

「え?食事?」

「…光の…魔物も?」

 スミーシャとフェルフェルの言葉にしっかりと頷くアレイスロー。

「考えても見て下さい。ザンゼネロンは前回の襲撃の時に何人もバードマンを食べてます。ならば目的は食事だと考えるのが妥当です」

「そう言われればザンゼネロンは確かにそうかもしれないが……光の魔物はどうなんだ?」

 ローゼリットに少し疑いの視線を向けられるアレイスロー。だが彼はそんなことは気にせずに話を進めていった。

「光の魔物も同じです。奴は今回の襲撃でドレインタッチと言う能力を使いました。これは触れた相手の生命力を奪う能力です。つまり光の魔物も生命力を奪う……食事をしていたんですよ」

 アレイスローの言葉に納得する一同。確かに彼の言ったことは的を射ていると思われる。

「でもよ、目的が食事ってことはあいつら今回喰いそびれてるんだよな?」

「あ、そうだね」

 思わずドレイクの言葉にうなすくフリルフレア。魔物2体が今回の襲撃で食事をしそびれたと言う事は………。

「つまり、次の襲撃は近いってこと?」

「恐らく、そうでしょうね」

 スミーシャの言葉に頷くアレイスロー。

「…でも…いつ…どこで…襲撃…されるか…分かんない…」

 フェルフェルがそう言うと、全員考え込んでしまった。確かにいくら近々襲撃がある可能性が高いと言ったって、いつ、どこで襲撃さあれるか分からなければ手の打ちようがない。まさか今日から集落全体を24時間体制で毎日見回るのもドレイク達だけでは無理があるだろう。警備隊の力を借りられれば可能かもしれないが、残念ながら現在の警備隊はほぼ機能していないと言って良い。警備隊長のヒカーツが死んでしまい、他にも多数のけが人が出ているからだ。残念ながら警備隊は当てにならなかった。

「と、そこでそんな皆さんに朗報と言うか何と言うか……」

 突然アレイスローがそんなことを言いながらカバンの中から1冊の分厚い本を取り出した。見たことのない本だがかなりの厚さがある。

「この本はですね、ザンゼネロンの襲撃を受け、後ベルフルフさんから光の魔物の話を聞いた後にラングリアの魔導士ギルドと連絡を取って特別に送ってもらった本です」

「送ってもらった?ラングリアから馬でも飛ばしてきたのか?」

 ドレイクの言葉に、少しドヤ顔になるアレイスロー。そして嬉しそうに被っている大きなとんがり帽子を取った。

「ふっふっふ。実はですねこの魔法の帽子、魔法抵抗力を上げるだけでなく、トランスポーターとしても使える優れモノなんですよ!」

「とらんすぽーたー?」

 何だそりゃ?と言いたげにアホっぽい発音をするドレイク。しかしアレイスローのドヤ顔と蘊蓄は止まらなかった。

「トランスポーターと言うのはですね!契約した魔導士ギルドからアイテムを送ってもらうことが出来る魔法の装置なんです!もちろんこちらからも送ることもできます!つまり、ギルド側と連絡さえ取っておけばいくらでもアイテムを送ってもらえるんですよ!」

 胸を張って「どうだ!」と言わんばかりにドヤ顔しているアレイスロー。フリルフレアはそんなアレイスローが帽子の中から様々なアイテムや、果ては鳩やドレイクを引っ張り出す場面を想像した。

「スゴイですねアレイスローさん!まるで奇術師みたいです!」

「いや、奇術と言うか……魔術なんですけど……」

 フリルフレアにツッコミを入れるアレイスロー。しかしすぐに気を取り直して「オホン」と咳払いすると手に持った本を広げた。

「話がそれました。この本は魔物に関する書物で、魔物研究所にあった物です」

「あ、パパ先生の勤め先」

「そう言えばフリルフレアさんのお父さんは魔物研究員と言ってましたっけ」

「ええ、そうです」

 頷くフリルフレア。アレイスローも頷くと本のページを適当にパラパラとめくる。

「そしてこの本には獄魔獣ザンゼネロンに関する記述や、光の魔物の正体の可能性がある魔物に関する記述も書かれています。これを読めば、奴らに対抗できるはずです」

「何だよ!そんなスゲエ本があるなら何で読んでねえんだ⁉」

「本を探すのに時間がかかったらしくさっき送られてきたばかりなんです」

 非難を浴びせてくるベルフルフに、ジト目を送るアレイスロー。

「とにかく私はこの本を読んで対策を練ります。皆さんは襲撃に備えて警戒を怠らないでください」

 アレイスローの言葉に頷いた一同。アレイスローはそのまま書物を読み始め、ドレイク達とベルフルフを含めた残りのメンバーで二人ずつ集落の中を見回りながら、残りは休息をとるべく眠りについた。


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