第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第6話、対抗手段 その3
第6話その3
ドレイク達がザンゼネロンに対する対抗手段を考えたり特訓を始めたりしている頃、ベルフルフとアレイスロー、フェルフェルの3人は警備隊の詰め所で改めて簡単に自己紹介をした後、光の魔物を倒すべく作戦を練っていた。
「実体のない相手に物理攻撃が効くようなる魔法ってないのかよ?」
「そんな都合の良い魔法ありませんよ」
ベルフルフの単純な物言いにジト目で睨み付けるアレイスロー。どうもこのベルフルフと言う男は魔導士を便利屋と勘違いしている節がある。それに強引に引っ張ってきて自分を手伝えと言っているのだからまったくもって都合の良い話だ。だがベルフルフの様子を見ればそんなことは1ミリも気にしていない事が分かる。アレイスローからすれば迷惑この上ない男だった。
(まったく面倒なことになりましたね……。とはいえ、こちらも放っておく訳にもいきませんか)
そんなことを考えながらアレイスローは先程から黙っているフェルフェルに視線を向ける。彼女は何やら腕を組んで考え込んでいた。
「どうしたんですフェル?考え込むなんて珍しいですね」
「別に…珍しく…ない…フェルだって…考え事…くらい…する…」
心外だと言いたげなフェルフェル。そのまま非難する様な眼差しをアレイスローに送っている。どうやら馬鹿にされたと思ったらしい。
「え?でもいつも考え無しに行動するじゃないですか」
訂正しよう。馬鹿にされたと思ったじゃなくて確実に馬鹿にされている。しかしフェルフェルは心外だと思ったのか不満げに眉をひそめている。
「…そんな事…無い…フェルの…行動は…いつも…綿密な…計算に…基づいて…行われて…いる…」
「本当ですか、それ?」
アレイスローが疑わしげな視線をフェルフェルに送っている。当のフェルフェルは後ろめたい事でもあるのか視線を逸らしていた。どうやら口から出まかせだったらしい。
「でも、本当にどうしたんですか?何か悩み事でも?」
「…悩み事…違う…疑問…」
「何でカタコトになってるんですか…」
フェルフェルのしゃべり方にツッコミを入れるアレイスローだが、彼女の疑問というものに関しては想像がつかなかった。
「で、疑問って何ですか?」
「…うん……光の魔物…実体…無いみたいだけど…ベルフルフの…魔剣じゃ…斬れないの…?」
「………あ」
フェルフェルの疑問に思わず声を上げるアレイスロー。この世界には実体のない魔物も数多く存在している。代表的なもので言えばスピリットやゴーストなどだ。それらの魔物は確かに普通の武具では傷つけることは出来ない。だが魔剣に代表される魔法の武具や魔導士の操る付加魔法を使えば話は別だった。それを考えると魔剣を持つベルフルフが光の魔物を倒せなかったという事実に疑問が生じる。
「ベルフルフさん、一つ確認したいことがあるんですが…」
「あ?何だ?」
「あなたの剣って魔剣ですよね」
「おうよ!こいつは俺様の愛刀、その名も『ウォークライブレード』だ!こう言っちゃなんだが俺様が今まで見てきた中でも最強クラスの魔剣よ!」
そう言って自慢げに魔剣を引き抜いて見せびらかすベルフルフ。どうやら本当に気に入って使っているらしい。それに鈍く光る刀身から協力な魔剣であることが伺える。
「あなたほど経験豊富な冒険者が最強クラスと言った魔剣が通用しなかったのですか?」
「………ああ、その通りだ」
嬉々として自慢げに魔剣を掲げていたベルフルフだが、アレイスローの言葉に視線を鋭くしながら憎々し気にそう言った。そして魔剣を鞘に納めるとドカッと椅子に座り込む。
「だから俺様も訳が分からねえんだよ。普通の実態が無い魔物、それこそゴーストやスピリット程度なら剣圧だけでも消し飛ばせるんだが……」
「なるほど、それほどの魔剣が通用しなかったとなると……」
アレイスローは腕を組んで考え込んだ。ベルフルフの魔剣は彼の言う通りかなり強力な代物である。それが通用しないとなれば、それは根本から認識が間違っている可能性がある。
つまり、その光の魔物は実体がないだけでなく、その場に存在しない可能性がる。
(もしかしたら、光の中心に核の様なものが存在して光の魔物自体は幻覚の様な物?……
いや、でもそんな核があるとして、ベルフルフさん程の凄腕がそれを見落としたりするだろうか……?)
アレイスローは頭をフル回転させるが今までの情報では光の魔物の正体が全く分からないし、そもそもそんな魔物のことなど聞いたことも無い。
(まさか魔界から来た邪霊の類なのか?だとすれば私が知らない可能性も否定できない)
確かにアレイスローは高いランクの魔導士として魔物に関するかなりの知識を持っている。普通の冒険者では知らないレアな魔物に関する知識もしっかりと持っている。だが、そんなアレイスローでも全ての魔物の事を知っている訳では無いし、魔界に住む魔物に関する知識はそれほどなかった。だから光の魔物がそういった類の魔物だったとするといかにアレイスローでもお手上げなのである。
「おいアレイスロー。光の魔物にお前の魔法は通用しそうか?」
ベルフルフの問いにアレイスローは静かに首を横に振った。
「難しいと思います。ベルフルフさんの魔剣が通用しない時点で私の魔法攻撃も通用しないと考えておいた方が良いでしょう。まあ、相手にもし核の様なものが存在したなら広域魔法で確実に吹き飛ばせるんですが………」
「その口ぶりだと、その可能性も低そうだな」
「はい……」
神妙な面持ちで頷くアレイスロー。正直な話、情報が足りなかった。光の魔物が何なのか正体を特定するに足る情報が欲しい。
「ベルフルフさん、光の魔物に関して他に何か気が付いたことはありますか?」
「気が付いたこと?」
「う~ん」と唸りながら考え込むベルフルフ。しかし大して考えもせずにアレイスローの方を向いた。
「いや、別にないな」
「そうですか……」
ベルフルフが何かに気が付いていないかと期待していたのだが、残念ながら期待外れだった。肩を落とすアレイスロー。
「そうだ、警備隊のイーブスって奴が現場にいたから何か気が付いたかもしれねえな」
「イーブスさん、ですか?」
(どこかで聞いた覚えが……?あ、確かドレイクさん達が言っていた…)
ザンゼネロンの目撃者だったはずだ。本来ならば彼の話を聞くはずだったのだが、チックジャムの襲撃で大けがを負ってしまいそれは叶わなかったと聞いている。もっとも、アレイスロー自信ザンゼネロンに遭遇しているのでもう話を聞く必要も無いだろう。
(あれ?でも大怪我しているって言っていた気が……?)
光の魔物を目撃したというが怪我はもう良いのだろうか?まあ、イーブスがどれほどの怪我だったのかは分からないが、話を訊けるというのはありがたかった。ベルフルフが気が付かなかったことを何か気が付いているかもしれない。
「…それじゃ…その…イースト…って奴の…所に…行こう」
「………フェル、イーストさんじゃなくてイーブスさんですよ。ドレイクさんみたいな間違いしないでください」
アレイスローはフェルフェルにツッコミを入れると深々とため息を吐いた。




