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第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第5話、蘇生の炎 その6

     第5話その6


「…………………え?」

 突然のホーモンの言葉に、言葉を失うフリルフレア。自分がバードマンでは無いというのは一体どういうことなのか?自分の背中に翼が生えている以上バードマン以外考えられない。ホーモンの言おうとしている事が全く理解できなかった。

「バ、バードマンじゃないって一体どういうことですか?私、どこからどう見てもバードマンですよね?」

 叫びたい気持ちを必死にこらえてなるべく穏便に問いかけるフリルフレア。しかしホーモンは黙ったまま首を横に振った。

「いや、残念じゃがお前さんはバードマンでは、少なくとも既存のバードマンでは無い」

「な、何で……」

「フリルフレアさん。お前さん、親御さんとの間に血縁は無いじゃろう?」

「⁉」

 ホーモンの言葉に再び言葉を失うフリルフレア。ドレイクはもちろんの事、パーティーを組むときにローゼリットやフェルフェル達にも自分の身の上や冒険者になった目的は伝えておいた。だが見知ったばかりのホーモンにはそのことは教えていない。フリルフレアが孤児院で育ったことなど知っているはずが無いのだ。だからその事に驚きを隠せなかった。

 だが、驚きを隠せなかったのは相棒のドレイクも同じだったようだ。素早くフリルフレアとホーモンの間に割って入ると、おもむろにホーモンの胸ぐらを掴む。

「おいジジイ。何でフリルフレアの親の事を知っている!」

 ホーモンを睨み付けながら警戒心をむき出しにするドレイク。しかしホーモンは慌てた様に手をバタバタと振って「違う違う」と言っていた。

「別にわしはフリルフレアさんの親御さんを知っとるわけじゃない。ただ、血縁関係が無いはずじゃと推測しただけじゃよ。その翼を見てのう」

 ホーモンはそう言ってフリルフレアの深紅の翼を指差した。そのホーモンの言動にますます意味が分からくなる一同。全員が頭の上に?マークを多数浮かべている。

 そしてドレイクが意味が分からないながらも手を放すと、ホーモンはホッとしたように衣服の乱れを直していた。

「どういうことです?」

 問いかけるアレイスローにホーモンは軽く咳ばらいをすると、神妙な面持ちで口を開いた。

「その事を説明するには、まずバードマンの成り立ちから話さんといかん」

「バードマンの成り立ち?」

 何故そんな話になるのか意味が分からないスミーシャ。だがホーモンなそんなスミーシャを一瞥しただけで先を続けた。

「そもそもバードマンとは太古の昔、風神様……風の精霊王であるフレスベルグ様がこの地上に生み出した種族。そして風神様の力で生み出された我々は、風神様……風の精霊王フレスベルグ様の影響を非常に色濃く受けている」

「どういうことだ?」

 ホーモンの言いたい事が分からず若干イライラするドレイク。だがホーモンは慌てる事無く静かに先を続けた。

「簡単な話じゃ。風神様は6対の翼を持った巨大な鳥の姿をしておられる。そしてその翼は1対ごとに白、黒、灰色、茶色、青、銀色をしておるのじゃ」

「ええっと……て言う事は…」

 何となく嫌な予感がしたフリルフレア。不安げに先を促す中ホーモンは静かに頷いた。

「ここまで言えば、大方予想は付いておるじゃろうが……バードマンの翼はこの6色以外ありえんのじゃ」

「………」

 ホーモンの言葉に眼を見張り、言葉を失うフリルフレア。

「もちろんフリルフレアさんが新種のバードマンじゃと言う可能性も無くはない。じゃから一応既存のバードマンでは無いという言い方をさせてもらったのじゃ。じゃが、少なくとも普通のバードマンでなないことは確実じゃ」

「そ、そんな……」

 思わずその場でガックリと膝をつくフリルフレア。今の今まで自分の事をバードマンだとばかり思っていたのでそのショックは大きかった。それに、バードマンでなければ自分は一体何者なのか?大きな謎が残ることになる。

 そんなショックを受けたフリルフレアを見てドレイクが彼女の肩を優しく抱くと、頭を軽くなでる。ドレイクなりに慰めている様だった。

「それがフリルフレアの親とどう繋がるんだ?」

「なに、簡単な話じゃ。今までない赤い翼の赤子が生まれたりなれば、その噂は瞬く間にバードマン中に伝わるじゃろう。じゃがそんな話は聞いたことも無い。だからそのお嬢さんはバードマンの里で生まれたのではないと考えたのじゃ。恐らく実の両親とは赤子の時に生き別れたとかじゃろう?」

 そのホーモンの言葉にフリルフレアはフルフルと首を横に振った。

「私…5歳以前の記憶が無いんです。だから本当の両親がどんな人なのかも覚えて無くって……」

 少し辛そうにそう言うフリルフレア。それを聞いたホーモンは申し訳なさそうに頬を掻いた。

「そうじゃったか……。余計な詮索をしてしまったかもしれん。許してほしい」

 そう言って頭を下げるホーモン。そんなホーモンの態度から誠意を感じ取ったのかフリルフレアは首を横に振った。

「良いんですホーモンさん。こっちがホーモンさんの意見を訊きたいって言ったんですから、気にしないでください」

「そう言ってもらえると助かるのぅ」

 ホーモンはいまだ申し訳なさそうだったが、フリルフレアは気にしないことに決めた。ホーモンに意見を求めたのは自分達だ。ならばどんな意見でも受け止めるべきだろう。

「それで…私がバードマンじゃない事と私が蘇ったこと、一体どんな繋がりがあるんですか?」

「ふむ、その事じゃったな……」

 ホーモンはそう言うと黙って口髭を弄り始めた。口髭を弄るのが癖なのかそのまま黙って口髭を弄り続けている。

「おい爺さん、何か言え……」

「ちょっとドレイク、言い方」

 黙っているホーモンに掴み掛ろうとするドレイクを止めるフリルフレア。フリルフレア自身もホーモンの言葉の続きが気になったが、焦らず待つことにする。

 そしてホーモンはその口をゆっくりと開いた。

「フリルフレアさん……お前さんは恐らく、フェニックスに連なる何か…じゃ」

「……へ?」

「フェニックスに連なる……何か?」

 ホーモンの言葉に思わず間抜けな声を上げるフリルフレア。ドレイクもホーモンの言おうとしている事がいまいち理解できずに頭の上に?マークを浮かべていた。いや、それはその場にいる一同全員に共通することだったかもしれない。とにかくその場にいる全員がホーモンの言葉の意味を理解しきれずにいた。

「あの……それって一体どういう…?」

 意味が分からず問い返すフリルフレア。しかしホーモンは静かに首を横に振った。

「残念じゃが、わしが思いつく限りの事はここまでじゃよ」

「でも、フェニックスって……?」

 意味が分からないと言いたげなフリルフレア。そんな彼女を見てホーモンは口髭を弄りながら何か言葉を選んでいる様子だった。

「つまりじゃ、お前さんは綺麗な深紅の翼を持っておる。わしも文献で見ただけじゃが、フェニックスも綺麗な深紅の翼を持っているらしいのじゃ。そしてフェニックスの別の呼び方は二つ、一つは鳳凰、そしてもう一つは不死鳥。その名の通りフェニックスは死んでも炎の中から蘇ると聞く」

 ホーモンはそう言うとフリルフレアに視線を向けた。

「この炎の中から蘇るという能力、フリルフレアさんが蘇った時の状況と一致しているとは思いませぬかな?」

「た、確かに……」

 ホーモンの言葉に頷くローゼリット。確かに死んでも炎の中から蘇るというフェニックスの特徴はフリルフレアが蘇った場面と共通点が非常に多い気がする。

(だとすると、フリルフレアはフェニックスの力を持った人間……いや、バードマンなのか?)

 ホーモンの意見は納得できる部分も多い。推測の域は出ていないがその信憑性は高そうだとドレイクは思った。だが、分からないことも多い。

「それじゃこいつは……バードマンの突然変異か何かなのか?」

「え?私も突然変異なの?ドレイクみたいに?」

「いや、別に俺は突然変異体じゃねえそ?」

「そんなに真赤なのに?」

「いや、赤いことをお前にどうこう言われたくないんだが……」

 そう言って改めてフリルフレアをじっと見つめるドレイク。(自分だって真赤なくせに何言ってるんだこいつは)とか考えていたドレイクはふととあることに気が付いた。それはもしかしたら気が付かない程度にささやかな違い、恐らくいつもフリルフレアを見ていたドレイクだからこそ気が付いたささやかな変化だった。

(あれ?こいつの翼……ちょっと大きくなってないか?……それによく見れば髪の色が少し赤みを増している気が………)

 改めてマジマジとフリルフレアを見つめるドレイク。本当にわずかな変化だったが間違いない。フリルフレアの翼がほんの半回りほど大きくなっているし、髪の色が少し赤みを増して明るくなっている。しかし何故そんな変化が起きたのか全く分からない。

(まさか、死んで蘇った時の影響か?)

 そうかとも思ったが、そんな変化が起きる意味が分からない。

「え、えっとドレイク?何?人のことジロジロ見て…」

 あまりにジロジロ見すぎていたせいかフリルフレアがわずかに身を引く。そんな彼女を見ながらこのことを伝えるべきかと考える。まあ、もしかしたら単に成長期で翼が成長しただけかもしれないので何とも言えない。

 考えた末にドレイクはとりあえず黙っている事にした。

「それで?爺さん、結局結論はどうなんだ?」

「結論…か…。残念じゃが、結論から言うと全く分からんと言う事じゃ。あくまで可能性じゃが、何かしらの理由でフェニックスの力を宿したとしか考えられん」

「フェニックスの力を………」

 思わず呆然と呟き自分の手を見つめるフリルフレア。フェニックスの力と言われても実感がわかなかった。

「それにフェニックスは聖炎魔法、あるいはたんに聖炎と呼ばれる特別な力を持つと聞く。もしフェニックスの力を持っておるならば、そう言った力も扱えるかもしれぬ」

 ホーモンの言葉に改めて考え込むフリルフレア。聖炎……聖なる炎。

(確かに私、炎系の精霊魔法が得意だけど……今考えると、もしかしたら一部その聖炎魔法って言うのが混じっているのかも……)

 思い当たる節はあった。精霊に呼び掛ける必要が無く、発動の呪文だけで撃てる魔法が一部存在する。それに炎の羽根を撃ち出す魔法や傷を癒す炎の魔法など、フリルフレアの翼から炎を出す魔法がいくつかある。それらがその聖炎魔法でないという確証はなかった。

「つまり爺さん、フリルフレアが蘇った理由は…」

「ふむ。恐らくはその娘の中にフェニックスの力が宿っており、それによって蘇ったのじゃろう…」

 ホーモンの意見はにわかには信じがたかったが、それでもフリルフレアの状況を表すにはある意味ピッタリの表現だと感じられた。

 そしてその場の全員の視線がフリルフレアに注がれていた。


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