第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第5話、蘇生の炎 その5
第5話その5
「そ、そんな……私、一度死んだの……?」
呆然と呟くフリルフレア。そして両手を握りしめると搾り出す様に「信じられない……よ…」と続けた。
ドレイクから昨夜の話を聞いたフリルフレア達はその衝撃的な内容に驚きを隠せなかった。特に当事者であるフリルフレアは頭の整理が追い付かず、事実を受け入れきれずにいる。
「ええっと…それじゃ今ここに居る私って……幽霊なの⁉」
さらに言えばかなりパニクッている様でもある。そんなフリルフレアの頭をドレイクがポンポンと叩いた。
「落ち着けフリルフレア。俺がこうやって触れるんだから幽霊なわけないだろ」
「でも、でも!もしかしたらドレイクが幽霊を触れる特殊体質なだけかも⁉」
「んな訳あるか。それにさっき踊り猫もお前に抱き付いてただろ」
「あ、そっか。……じゃあ、私本当に生きてるの……?」
なおも少し不安そうにそう言うフリルフレア。するとフェルフェルがフリルフレアの両頬を思いっきり引っ張る。
「ひぎ!い、いひゃいいやい!いひゃいれふよふぇうふぇうはん!(ひぎ!い、痛い痛い!痛いですよフェルフェルさん!)」
「…ふむ…大丈夫…フリル…ちゃんと…フェルが…触れた」
そう言って親指をグッと立てるフェルフェル。どこが大丈夫なんだと言いたかったフリルフレアだったが、フェルフェルがあまりにもドヤ顔で親指を立てていたので、諦めて仕方なくため息をつきながら親指を立てて「グッジョブ」と意思表示した。
「さて、昨日の夜あったことはこれで全部話したが……爺さん、あんたの率直な意見を訊きたい」
「と、申されますと?」
突然話を振られたが、特に慌てた様子も見せずに口髭を弄っていたホーモン。それでもドレイクの言おうとしている事が何かをあえて問い返した。
「あんたの意見を訊きたいことは二つ。俺のブチギレた時の力の事と、フリルフレアが蘇ったことだ」
「そうですな……」
ホーモンはそう言うと腕を組んで黙り込んでしまった。いかに物知りとは言っても所詮は一集落の長、こう言った能力には明るくないのかもしれない。だが、ドレイクがそう思っていた時にホーモンは口を開いた。
「まず、先に一つ言っておきますが……あくまでわしの話は推測の域を出ていないことを理解しておいてほしいのですじゃ。仮に事実と違ったとしても責任はとれん」
「それで構わない。続けてくれ」
ドレイクの言葉に頷いたホーモン。そのまま目を閉じると言葉を選ぶように語り出した。
「まず…ドレイクさん…じゃったか?あんたが発揮した力の事じゃが」
「ああ」
「詳しいことは分からんが、恐らく『気闘術』と呼ばれる力に類するものじゃろう」
「フォ、気闘術?」
あまりなじみのない言葉に思わず聞き返すドレイク。
「気闘術と言うのは一部の武闘家などが使うとされる武術で、己の体内に流れる『氣』と呼ばれる力を使った特殊な技じゃ。その『氣』と言うのはなんでも体に纏えばその力を増し、撃ち出すことで飛び道具としても使えるらしい」
「そ、そんな便利な力があるのか?」
聞いた限りあまりに便利なその「氣」と言う力に驚きを隠せないローゼリット。しかしドレイクとフリルフレアにはその「氣」と言う力に覚えがあった。
「ねえドレイク、その氣って力……」
「ああ、俺が使う『氣』の事で間違いないだろうな。だとすれば納得もいく」
「どうして?」
「恐らくブチギレた拍子に氣を制御する部分がイカレちまったんだろう。それで氣が全力で表に出たんだと思う」
「な、なるほど…」
ドレイクの言葉に納得した様なしてない様なフリルフレア。しかしドレイクの言おうとしている事は何となくわかった。
「まあ、リザードマンが氣を使ったという話は聞きませぬが、リザードマンはドラゴンの眷属ですからのう。可能性が無い訳では無いと思うんじゃ」
ホーモンの言葉に何となく納得した様なしてない様な一同。しかし、気になることがあったのかスミーシャが手を上げた。
「ねえホーモンさん。何でリザードマンがドラゴンの眷属だと、その氣って奴を使えるわけ?」
「ふむ、いや何、あくまで可能性の話なんじゃよ。じゃがな、全ドラゴンの最上位種たる真龍ヴァーハイトドラゴンは竜の気闘術ともいえる『竜気闘術』を扱える唯一の種族。ならば眷属たるリザードマンにも同じ素質があっても不思議ではないと思うのじゃ」
「なるほど」
何となく納得したスミーシャ。そのままオズオズと引き下がった。
「次は……フリルフレアさんじゃったな。そのお嬢さんが蘇った話じゃな」
「は、はい」
思わず緊張した様にゴクンとつばを飲み込むフリルフレア。そのままの姿勢でホーモンが口を開くのを待った。
「さて、こちらなんじゃが……わしの意見を聞く前に一ついいかの?」
「構わないが?」
ドレイクに促されたホーモンはフリルフレアの方を向いた。
「フリルフレアさん……おぬし、何者じゃ?」
「へ?」
ホーモンの言葉に思わずポカンとした表情になってしまうフリルフレア。正直突然何者じゃ?と問われるとは思ってもみなかった。
「何者って……見ての通りのただのバードマンの女の子ですけど?」
「……………」
そんなフリルフレアを黙って見つめるホーモン。その眼差しには何か疑念の色が感じられる。そして首を横に振ると口を開いた。
「違うんじゃよフリルフレアさん」
「違うって……何が違うんですか?」
「フリルフレアさん……お前さんはバードマンではないんじゃ」
「…………………え?」
呆然と呟いたフリルフレアの声が静まり返った部屋の中に響き渡った。




