第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第5話、蘇生の炎 その3
第5話その3
フェルフェルが急いで元居た場所に戻ると、すでにザンゼネロンの姿はなかった。そしてドレイク達が光り輝く炎の様な物の前に集まっている。
「………?」
状況が分からないフェルフェルはそのままドレイク達の所に近寄っていった。そしてドレイク達の見ている者に視線を落とす。
それは……フリルフレアの身体だった。
「え⁉…フリル?」
思わず驚きの声を上げるフェルフェル。目の前でフリルフレアの身体が燃えているという事実に頭が混乱する。一体何が起きているのか?だが、燃えているならば助けるべきなのでは無いだろうか?
「…フリル…今…助け…」
思わず伸ばしたフェルフェルの手をローゼリットが掴む。驚いて彼女の方を向くと、ローゼリットは黙って首を横に振っていた。手を出すな、そう言いたいらしい。
「???」
訳が分からず、見守るしかないフェルフェル。だが、それはある意味ドレイク達も同じだった。ザンゼネロンを追い払った(取り逃がしたともいえる)ドレイク達はフリルフレアの亡骸を前に何もすることが出来なかった。何故ならばその時にはすでに彼女の亡骸は光輝く炎に包まれていたからだ。そしてその炎は段々とその勢いを弱めて来ていた。何が起きているのかは分からないが、そこに横たわったフリルフレアの身体は綺麗なものだった。
そう………ザンゼネロンによって腹を裂かれたフリルフレアの身体はズタボロだったはずだ。だが炎に包まれている彼女の身体には傷一つ付いていない。服は確かに血まみれでボロボロだったが、身体自体はまるで生きているようにも見える。
そんな中ドレイクはあることを思い出していた。それは以前のマン・キメラ事件やアサシンギルド事件の時に起きたこと。その時ドレイクは何故かフリルフレアの危機を夢のような形で見ることが出来た。いや、あれは夢と言うよりはその映像が頭に直接流れてきていると言った方が良いだろう。とにかくその映像の中で、フリルフレアは2度も殺されている。そしてその都度光る炎に包まれて蘇っていたのだ。だから、もしその映像が本当に起きた事だったならば………。
ドレイクの心に希望が宿る。もしかしたらフリルフレアは助かるかもしれない。
そしてそんなドレイクの希望に応える様にフリルフレアを包み込んでいた炎を音もなく消え去った。
「い、一体……何が起きたの?」
目の前で起きたことが理解できず呆然と呟くスミーシャ。傍から見れば「フリルフレアの遺体が燃やされて、でも炎が消えたら遺体の損傷が治っていた」と言う風にしか見えない。だが実際にはそれ以上の事が起きていたのだ。
「フリルフレア」
ドレイクはフリルフレアの傍らにしゃがみ込むと、彼女の頬を軽く叩いた。ぺちぺちと音を立てて数回叩くと、フリルフレアは「う~ん……」と言いながら身じろぎをする。
「え……ウソ……フリルちゃん?」
スミーシャが「信じられない」と言いたげにフリルフレアの手に手を伸ばす。
「こ、これは一体……?」
アレイスローも何が起きたのか分からず困惑している。フェルフェルに至ってはそもそもフリルフレアが死んでいたことも知らないので何が起きているのかサッパリだった。
そしてそんな中、ローゼリットだけが少し冷静にその様子を見ている。
(やはり……フリルフレアは蘇ったか)
フリルフレアの血色のいい顔を見て少しホッとしながらそんなことを考えるローゼリット。アサシンギルド事件でフリルフレアが捕まった際のドレイクの言動から何となくフリルフレアには秘密があるであろうことは察していた。だがこのことを詮索するつもりは無かった。フリルフレアはフリルフレアだ。それ以外の何者でもない。今はとにかく仲間の無事を素直に喜んだ。
そしてしばらくドレイクが頬をペチペチ叩いていると、フリルフレアは「うう~ん…」とか言いながら両手を伸ばして盛大に伸びをした。そしてうっすらと眼を開けると、そのままゆっくりと上体を起こす。
「ふわ~ぁ……あ、ドレイクおはよ」
欠伸をしながら伸びをしてそう言うフリルフレア。そんなフリルフレアを見ていつも通りの彼女だと安心したのか涙腺が緩むドレイク。それを誤魔化す様に涙を拭うと、少し乱暴にフリルフレアの頭を撫で回した。
当然のようにクシャクシャになるフリルフレアの髪。
「ミイイィィィ。ちょ、ちょっとドレイク!髪の毛が乱れるよ!」
そう言ってドレイクの手を退かそうとしたフリルフレア。だがドレイクは強引に頭を撫で続けた。
「うっさい、心配かけた罰だ」
そう言ってフリルフレアの髪がグシャグシャになるまで撫で回すドレイク。強引に撫で回すドレイクに困った顔を向けたフリルフレアだったが、次の瞬間さらに困ることになる。
「良かった……良かったよフリルちゃん!」
感極まったのか、叫びながらスミーシャが抱き付いてくる。そしてそのままその豊満な胸をフリルフレアの顔面に押し付けると「ホントに無事でよかった~!」と叫びながら泣き出してしまった。
「?????」
意味が分からず頭の上に?マークをたくさん浮かべているフリルフレア。正直スミーシャの胸のせいで息苦しいのだがそんなフリルフレアを置き去りにして、皆何やら感極まっていた。
ローゼリットはフリルフレアの肩に手を置いて「心配したんだぞ…」と涙ぐんでいたし、アレイスローは「これは……奇跡だ!フリルフレアさんに奇跡が起きたんだ!」と大げさに天を仰いでいる。フェルフェルは状況が全く分からなかったが、とりあえず知ったかぶりでまわりの状況に合わせ、「…え、え~と…フリル…無事で…何より…?」とか言いながら自分の頭の上に?マークを浮かべつつ、スミーシャの真似をしてフリルフレアに抱き付いておいた。
「…それで…この…状況…一体…何?」
「ぷはぁ!…私が訊きたいですよ!」
抱き付いたままフリルフレアにそう問いかけたフェルフェル。スミーシャの胸から顔だけでも脱出したフリルフレアだったが、彼女も状況を理科していないためまともな答えは返ってこなかった。そんな中ドレイクが満足するまで撫でたのか、フリルフレアの頭から手を放す。思わず撫でられすぎてその場所がハゲてないか不安になったフリルフレアだが、その心配は杞憂だった。それどころかてっぺんのアホ毛はドレイクに撫でられた後でも元気に一回転している。
そしてその後もスミーシャに抱きしめられ続け、ローゼリットやアレイスローにも頭を撫でられたフリルフレア。正直彼女は「何でこんなモミクチャにされてるんだ」と言う気分だったが、それを言い出せそうな雰囲気でもない。それにザンゼネロンの撒き散らした炎があちこちに火事を引き起こしている。いつまでもこんなことをしている場合では無かった。
その後ドレイク達は消火活動や怪我人の救護活動を手伝い、それが終わったころには夜が明けかけていた。




