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年収200万円のダンディズム  作者: 鴉野 兄貴
四月。すべては一〇〇円の時計から
2/3

DAIS〇の時計

 一一〇円があれば珈琲が買える。

 和歩は悩んだ。取敢えず自動販売機の珈琲一三〇円は死んで良いぞ日本政府。


 税別七八円でIONに行けば実質黄燐(おうりん)の発泡酒が買えるのに何故見もしない時計を買わねばならないのか。全ては失恋から始まったのだ。


『持つものは大事ではない。態度がダサい』


 彼は教授の言葉を復唱する。『DAIS〇に行く』というと馬鹿みたいに買い物を頼まれてしまった。皆彼をこき使い過ぎである。


「えっと川南君は書類入れ」


 ジップロック形式で横に書類を入れることができるらしい。不意の雨でも書類を濡らさない。


「水面さんはマグネットホワイトボードとマーカー」


 程よいB5サイズで下敷き代わりにもなり鉄板にまるまる張り付けられるし何かと役立つらしい。


「渋谷くんはお菓子か……計器壊したら知らんぞ」


 しかし自身がフケまみれであり、風呂などここ一週間入っていないことは頭にない彼。



 ところで貧乏人にとってDAIS〇はパラダイスであり、また男の子にとってホームセンターは神の施設である。異論は認めない。


 地方から出てきたときに食器や生活用品など一通りそろう。ちょっとした着物類もある。よくわからないアイデア商品やお菓子、店舗によっては酒類もある。


「教授、地味にバーバリアル好きだからな」


 多めに買っておいてあげよう。どうせ教授の財布だし。買い物用のカートを押しつつ彼は進む。


 教授が『キーケースも買っておきなさい』というのだが彼はその必要性を感じていない。以前鍵を薬剤で穴のあいたままのポケットに入れて無くしかけた反省は彼にはないらしい。


 というかピンクとかダサくないか。

 残るは蛍光色だし。

 あ、パンツは買っておこう。洗うの面倒だし。


 会計を済ませて何か忘れていると気づく。

 あっ時計だ。


 店員さんに聞いて腕時計を見る。二種類しかない。色もブラックとホワイトのみ。普通にダサいぞ。これをつけてカッコイイと思う方がおかしい。



 どっちがダサくないか少し真剣に考える。


 ゴテゴテした装飾は機能性に全く意味をなさないと判明している。ならばシンプルな方が軽くていいだろう。彼はデジタル時計を誤読する傾向がある。ならば結論はこれしかない。


 馬鹿みたいに重たい買い物を終えて、ごみを捨てて所持品を軽くして大学に戻る。カサカサいう袋から白い時計を取り出して細い手首に巻き付けた。


 白い文字盤。

 チープなプラスティックのバンド。

 カチコチと動いていない時計板をみて取り扱い説明書をゴミの中から取り出してみる。


「あ、これを引っ張れば動くのか……動いた」


 音もたてずに精緻に動く時計の文字盤。

 白の中で小さく蠢く三つの針。

 大きくシンプルに文字が刻まれ、機能性だけはしっかりしている文字盤。

 横を指で回してスマホと時間を合わせる。教授曰くたまにズレるので調整が必要らしい。


 太めのバンドが手首に巻き付く。

 思ったより軽い。これなら持っていても気にならない。軽く振り回す。悪くない。



 白衣を汚しつつ一〇〇円ショップで買った猫缶を片手に彼は猫たちと戯れる。教授たちが空腹で倒れそうなのに大丈夫か。

 右手についた時計に刻まれた時間は4時ちょうど。

 折しも四月下旬の事だった。

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