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作者: 香坂律稀

学校という箱の中で会った人って、合計で何人なんだろう。小学校、中学校、高校……。先生やクラスメイト以外にも、委員会、縦割り、部活、課外活動、行事……。考えてみると、膨大な人との交流の場って学校だったんだって気付く。


何でかなぁ、その中の一人でしかないはずなのに。何で、一人だけ特別になっちゃうかなぁ。何で、その特別にも特別がいるんだろうなあ。何で、その特別の特別が、最低な野郎だって知ってるのがあいつじゃなくて俺なんだろうなあ。



あいつと初めて会ったのは、入学式。お互いに道案内を頼もうとしていたのが、最高に可笑しかった。運がよけりゃクラスメイトになれるかもなんて、ちょっとした期待は実現しなかったけど、仮入部の時俺以外誰も入らないと思っていた歴史研究部に来ていて驚いた。私ってレキジョなんだーって言いながら無邪気に笑った顔に心がざわついたのをよく覚えてる。クラスが違っても、同じ趣味の人間同士、俺とあいつは馬が合った。LINEで一番長く話している女友達は、きっとあいつだ。


顔を合わせたら何かしら話す、とそのような調子が何ヵ月も続いたら、案の定俺とあいつが付き合っているのではという疑惑が出来た。俺はきっとその時はすでにあいつのことが好きだったんだと思う。でも、簡単に素直になれる訳でもないし、からかわれるのは恥ずかしいしで誰にも知られたくなくて、好きになるわけがないと言ってしまった。それはあいつの耳にも入って、俺の「いい男友達」枠が確定した。その時はそれでも良かった。あいつと気軽に話せるし、何よりもその関係が心地よかった。頑張ったら、恋人になれるかもしれないなんて淡い期待も抱けたし。


でもそうは問屋が卸さない。あいつに特別が出来た。そして、告白して付き合い出した。あいつは幸せそうだった。恋人を想って緩む頬の色は、余計にあいつを輝かせた。俺じゃない野郎のために可愛くなったあいつは本当に可愛くて、それが余計に虚しかった。


あいつの彼氏になった野郎は、俺のクラスメイトだった。平均的な男子高校生の俺よりも、顔がよく、女には甘いやつだから、当然のようにモテた。あいつと付き合い出してからも、女はやつの周りに集まった。俺は知っている。やつはあいつじゃない女とも付き合っていると言ったことを。やつにとってあいつは、沢山いる女の一人だったということを。やつは、それが当然だと思っていることも……! きっとあいつもそれを了承した上で付き合ってるとでも思ってるんだろう。んなはずねえだろうがよ……!


あいつはきっと事実を知っても、私が彼の沢山いる女の中の一番にならなきゃいけなかったんだと言って、自分のせいにするんだろう。でもそれは、あの野郎を思い上がらせるだけだ。あいつは筋金入りの馬鹿だ。そんな優しいやつなんだってことを知っているのは俺なんだ。あいつの恋人ではない俺なんだ。あいつはきっと、これを俺じゃないあの野郎に知って欲しいんだ……。



「学校っていう箱は残酷だよな。いつも現実を突きつける」

「またそんな事言ってるの? 本当、君って箱が好きだよねー。それはそうかもしれないけどさ、箱と言えばお城ってある意味箱だよねー。守るための、頑丈で綺麗な箱」


ああ、俺はこいつの箱になりたい。こいつを守るための箱に。俺が箱で頑丈だったら、中に居るこいつは傷付かないだろう? 俺が綺麗な箱であれば、こいつは俺を見てくれるかもしれないだろう? だから俺はこいつを守る箱になりたい。このままの関係を望んでいる訳ではない。でも、今俺が出来ることは、箱になることだけだとわかっていた。なら、なってやろう。傷付かせない為だけに作られた、歪んだ、でも何も通さない箱に。

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