第9話 学問の神
トトは久しぶりに驚いていた。
学問の神ともあればこの世界の大抵のことは知っているだろう。辞書レベルも99であり、長く生きている。そんなトトが驚くことなどほとんど無いのだ。
では何故今トトは驚きを隠せなかったのか。
それは勿論急な客が来たからである。
その名も「雫」。
炎魔法〈火炎〉によるロウソクへの着火を一時間も経たずして習得した者だ。
普通であれば火の着火の習得には早くてもまる一日はかかるであろう。勿論辞書レベルによるが…。
火の魔法に適正があり、更に適正武器も魔法系統なら納得はできる。
もしくは辞書レベルがかなり高い、ということでも納得できる。
しかしこれは辞書レベルだけの問題ではない。一時間も経たずに、というのは適正が無ければ不可能な事と言える事なのだ。
驚きながらもトトは冷静な結論を導き出した。
この者は適正属性が火であり、適正武器も魔法系統、更に辞書レベルは20以上なのだ、と。
しかしトトはすぐにこの考えが間違いだということを知る。
「トト先生。エシリア先生の授業で今、適正武器の話をしていまして、でも俺だけ適正武器がなしと表示されているのです。それについて相談したら校長室へ行き校長先生へ相談するように、と言われたので相談しに来ました。」
「ーーーは?」
トトにとって自分の予想が外れた、など考えにくいことだ。トトは世界の全てを知っていると言っても過言ではない。なにせ学問の神なのだ。
そんなトトに知らないものがあった、そんなことは無いはずだ。別にプライドとかそんな下らない理由じゃない。この者の存在が何かを、冷静に確かめなければ世界が危険だから、という理由から確かめているだけだ。イレギュラーな存在は時に世界を脅すこともある。トトは学問の神としてこれを調べなければならない。
(単なる知識欲、というのもあるが…。)
「まず確認なのだが、君は炎魔法〈火炎〉で火をつけることに一時間経たず成功したのだよね?」
「はい、そうですよ。」
「そして君は適正武器が無い、と?」
「はい。」
「一つ質問があるのだが、良いかね?」
「はい、何でしょうか?」
「君の適正属性は何だね?」
「えっと…血と表示されています。」
トトは声にならない驚きをつい顔に出してしまった。
適正属性は確実に炎だろう、と考えていたのだ。そうでなくてはできるはずもないのだ。
それに「血」だと?血を適正にするものは歴代にも数少ない。この者がイレギュラーである可能性が益々高まったのだ。
ただしまだ確信したわけではない。もう一つ聞かなければならない事がある。
「君の辞書レベルはいくつだね?」
「えーっと…他の人に言わないでもらえますか?できれば先生方にも。」
「あ、あぁ。約束しよう。」
「99です。」
「!?」
今確信したのだ。この者はイレギュラーである、と。辞書レベルの最高は確認されている限り80だ。神達はイレギュラーなので除くが。
しかし魔族から99が出た、81以上が出た事はもはやイレギュラーである。この者がもし危険な存在ならば排除しなくてはならない。それは世界のためだ。
(しかしそれ以上に知識欲が勝っていた。)
「君はこの世界に害をなそうと考えているかね?」
「そんなことは考えません。楽しく過ごせればそれで良いです。」
「なるほどね。ならいいんだ。」
「は、はぁ。」
「実は僕は君にすごく興味が湧いているんだ。君のことをもっと教えてほしい。その代わり、僕が知っている知識を教えよう。」
「勿論構いませんよ。」
「ではまず君について、自己紹介みたいなことをしてほしい。」
「はい。ていうか俺実を言うと異世界から来たんです。信じてもらえるか分かりませんが…。」
「あぁ、そういうことだったのか。どうりでイレギュラーなわけだ。」
「イレギュラー?」
「いや、気にしないでくれ。」
それから俺はトト先生にこの世界に来てからの事をすべて話した。
「なるほど、そんなことが。」
「はい。でも別に困ったことはありませんでした。そういえば…この世界って異世界から来た人いたりするんですか?」
「あぁ、いるよ。」
「いるなら会ってみたいです。」
それから俺はトト先生に使える魔法の確認方法、また血魔法について教えてもらった。
適正武器がないのは自分の血を操って武器の形状にできるかららしい。
そのためにはスキルと呼ばれるものが必要らしい。
スキルはCスキル、Rスキル、ユニークスキル、エピックスキル、EXスキルというものがあるらしい。Cスキルが最も簡単に取得できるが最も弱い。EXスキルに近づくほど取得は難しくなり効果は強くなる。
血を操るにはEXスキル「血液操作」が必要らしい。
取得条件は多くの生き物の血を浴びること。正直したくない。
また精霊についても教えてもらった。
精霊には意識のあるものとないものがいるらしい。
精霊はこの世界に満ちていて理に干渉している。魔法を使うと炎で攻撃できる。これは意識のない精霊のおかげだ。俺達はマッチで火を付ける、精霊は油やアルコールのような役目を担っているのだ。
意識のある精霊から力を借りて使う魔法は「精霊魔法」と呼ばれる。普通の魔法よりも少し違った効果が見込めるらしい。また上位種と契約することで使える魔法はとても強力らしい。
さらに魔法には術式を組み込むことも可能らしい。例えば炎魔法〈火炎〉に防御破壊術式を組み込めば、生物に対するダメージは下がるが、防御や結界に対するダメージは上がるらしい。
トト先生が教えてくれたことは俺がまだ知らないことばかりだった。有益な情報を手に入れられてよかった。今後も友好な関係でいたいと思う。