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5話「冒険者」

冒険者。



この世界に自然に存在する、人類を脅かす魔物・・・俗に言う『モンスター』を倒すことを仕事とする職業。




・・・というのは名目上であり、実際はただの何でも屋のようなものらしい。


それでも生命のリスクは普通に生活している比じゃないため、冒険者になる人は極わずかだという。



ただ、そこさえ目を瞑れば・・・かっこよく言うと『命を捨てる勇気さえあれば』・・・基本的には誰でも冒険者になれるらしい。



そして、冒険者になるためにはまず各地にある冒険者ギルドで冒険者登録をしなければならない。


そのためにテオに連れられてやってきた冒険者ギルドは・・・その・・・。




「・・・船だ」




バカみたいにデカい船だった。


この国、ロッテリア王国は海に面してはいるらしいがここは海の上ではない。街中だ。



そんな街中にデカい船が堂々と置かれている光景は異様としか言いようがない。


「なァにボーっとしてんだっての。頭までイっちまったかァ?」



「あ、いや・・・とりあえず入るか」




木製の両開きのドアを開ける。




すると中には、沢山の老若男女が酒を飲んでいたり話していたり物を買っていたり・・・の大盛況だった。



まさに思い描いていた冒険者ギルドそのもの。


そうして、目の前にいた受付嬢らしき人が一瞬驚いた顔を見せ、直後新たな危険への挑戦者に送る歓迎の言葉をーーーーー





「テオリムさん!!!また何かやらかしたんですか!?!?もうイヤですよ!!私達はもうイヤですからね!!!」





「ちッ、違ぇよ!今日はアタシは何もしてねぇってんだよ!!やめろ、誤解だ!!テメェら後ずさるんじゃねぇよ!!」




・・・まだ何も言っていないのにテオリムに怒鳴り声を上げ、それを聞いた周りの冒険者達が一斉に後ずさる異様な光景が広がっていた。


(・・・おい、お前何したんだよ)


小声で聞いてみる。


(ナニって・・・ちょっとイラついたヤツの腕ェブッ飛ばしたり・・・ムカついた店のナカメチャクチャにしたり・・・嫌いな奴ァ入った銭湯のお湯にバハネーロパウダーブチ混んだだけだってんだよ・・・)


(ダメじゃねえかよッ!!お前問題児じゃねえかクソ!!)




「おっ、なんだテオ。ついに彼氏でも作ったのか?」




ふと、冒険者の中の1人が俺に気づきそうはやし立ててきた。


「マジかよテオ!いつの間にそんなことしやがって!」


「見ないうちにテオも大人になったもんだねぇ・・・」


「結婚式はいつだよテオ!」







「バッ、ふざけんじゃねえってんだよ!!だァレがこんな【ピー】が【ピー】したような【ピー】の【ピー】なんか伴侶にしなきゃいけねぇんだよクソァ!」





テオはとても淑女が言ってはいけないワードを4連発し、俺の心に消えない傷を残していった。


同時に、さっきまではやし立てていた冒険者達からの同情の視線が俺に注がれる。死にたい。あ、死んでた。



そんな可哀想なものを見る目を見回していると、ふとその中の1人と目が合った。



・・・あれ、どちらかというと同情というよりもっと熱っぽい目で見られてる気がする。


深いオレンジ色の髪を長く伸ばした、凛々しくも女性らしい顔立ちのその人は俺と目が合っているのに気づくと慌てて目を逸らした。




何なんだ一体。



「坊主、見ない顔だな・・・冒険者登録か?」



と、気の良さそうなおっちゃんがやや申し訳なさそうに話しかけてきてくれた。


「ぇ、あ、はい・・・そうです」


「そうか・・・そこの受付の姉ちゃんに言えばやってもらえるからよ。その、なんだ・・・強く生きろよ」


「今度メシ奢ってやるからさ・・・」


「元気だして、ね?」



なんだろうこれ、嬉しいようで嬉しくないや。あはは。


気持ちのやりどころに困ったので、受付嬢の方に話しかける。


「あの・・・冒険者、登録・・・」


「は、はい、わかりました。基本的には名前、年齢、血液型を書いて頂ければ大丈夫です」


軽いな・・・誰でも冒険者になれるというのは本当だったのだろうか。


でも、文字はどうすれば・・・


「今回はアタシが代筆してやるってんだ。その、アレだ、多少は悪ぃと思ってんだからな?」


と、テオが代筆をしてくれた。


文字は覚えないと困るし、後で勉強しておこう。


「アイカズ ユウタさん。これで冒険者登録は完了です。あとは、貴方の冒険者カードを作成しますので、こちらに血を垂らして下さい」


針で傷を付けて血を少し更に垂らし、しばらく受付付近で待つ。


すると、またあの橙髪の人がこちらを見つめていた。

美人な人に見られると恥ずかしくなってくる。一応思春期の男の子なのだ。



・・・ついさっき俺の中の大事な部分がぶち壊されてしまったが。



その人はまた俺が見ていることに気づくと目を逸らしてしまった。


なんか恥ずかしいな。



そうしているうちに受付嬢が戻ってきて、透明な薄緑色のカードを持ってきた。


「ユウタさん、できましたよ。これが貴方の身分証明、冒険者の証となり、部屋の鍵など、様々なサービスを利用できる冒険者カードになります。再発行には少しお金がかかりますので、無くさないようにしてくださいね」


そう言って渡されたカードを俺は首から掛けた。これで俺も立派な冒険者だ。


「また、冒険者カードには血液から分析した自分のステータスが書いてあります。戦ってレベルが上がると、ステータスも上がりますから頑張って下さいね。それと、人は『スキル』と呼ばれる特殊な力を持っている事がありますからそちらも確認しておいてください」



ほう、ステータス、そしてスキルか。


幽霊とはいえ勇者なのだから、全く戦えないという事は無いだろう。


そうやって淡い期待を込めて見た自分の冒険者カードは・・・


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



初めて彼が入ってきて、彼を見た瞬間私の心は締め付けられるようなときめきに襲われた。


黒髪黒瞳、少し日に焼けた肌とある程度ごつごつとしたその身体。


全てが私のタイプだ。


隣にいたテオの暴言など聞こえない。ただ彼を見ていた。


途中、目が合ってしまった。恥ずかしい。とても恥ずかしい。


そして私は思ったのだ。



彼が欲しい・・・と。

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