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性交しないと出れない部屋の話(暇つぶし)

壁にかかっている札に愕然とする。

生まれてから約20年とちょっと、最近は酒の味も理解できてきた。目が覚めたら友人の家だった、というのは何度かあった。しかし、これはどういう事だろうか。

『この部屋は、性交しないと出られない部屋です』

一面真っ白な壁紙に囲まれた部屋の、たった一つある木造のドア。そこにかかっている札には、なんとも奇っ怪な言葉が書かれていた。

「これは、夢かな?」

夢の中で夢だと理解するのは初めての事だなと、どこか落ち着いた頭で考える。現実だったら、こんな訳の分からない状況なんてまず起こらない。試しにドアノブを回してみても、開く気配は微塵しなかった。力任せに引こうが押そうが、力の限り蹴りつけようが、木造のドアは文字通りビクともしなかった。これはいよいよ、本当に札に書いてあるとおりにしないと出られない、という夢なのだと確信した。


どれほど時間が経っただろうか。腕時計など持った事すらなく、唯一時間を教えてくれるはずのスマホはどこを探しても見つからなかった。体感的にはもう一時間位はたったような気がするが、退屈というのは時間をゆっくりに感じさせる力があることを俺はよく知っている。もしかしたらまだ三十分も経っていないのかもしれない。ああくそう、いつも一緒にいた、彼女なんかより何十倍も一緒の時間を過ごしているはずのスマホを再現できないなんて、なんと貧弱な夢なんだ。まあ彼女、いたことないけど。

「あー暇だな、なんでこんな夢を俺は見てるんだ」

なんて独り言を呟いてみても、返事どころな物音一つ無い。俺の頭は一体何が目的でこんな夢を見せているんだ。そもそも、この部屋を出る条件を達成させようにも、この部屋には俺以外誰もいない。一人で致せ、ということか?そんなんでいいならいくらでもやってやるぞ、こっちはこの道10年のプロ級だぞ。早熟系男子舐めんな。

寝る前の格好だったのだろうポロシャツとジーンズ姿から、まずベルトをはずしてジーンズを脱ぎ捨てた。いつもならスマホで妄想のお相手を探すところだが、残念なことにその相棒は今日に限って姿を隠してしまっている。脳内ファイルをパラパラとめくり、あの子やこの子を思い出しながらパンツを脱ぐ。俺は、下は全部脱ぎ、上着は脱がない派なのだ。いや、まずどんな派閥があるのかすら知らないけども。それから数分、ある程度の方針も決まり、下半身に血液が充分に巡ってきた。どこの誰がどこから見てるか知らないが、誰とも交わらない性交ってのを今から見せてやるぞこんちくしょう。しっかり見ておけよこの野郎。まあ夢なんだけど。あ、そういえばティッシュとかないんかな。

ういーん。

あまりにも壁が真っ白で、ティッシュが見えないだけなのかと下半身裸でうろうろとさ迷っていると、部屋の中心の床がゆっくりと開いた。今にも何かが上がってきそうな雰囲気だ、そういえば俺も最初はあの当たりで目が覚めたな。ということは、遂にお相手が上がってくるってことか。まったく随分と待たせてくれたものだ、俺はペタペタと開いた床まで歩いていった。

ういーん…がちゃん。

床の下から床が上がってきた。変な例えだけど本当なんだから仕方が無い。そしてその床の中心に、なかなかに可愛い女の子が横になっている。可愛い、というか、いやこれ、もしかしなくても。

「…う…ん」

ゆっくり目を覚ました女の子は、体を起こして目を擦った。

「おはよう」

「おはよう、ございます…」

寝ぼけているようで、まだ半開きの目で僕を見た。それから辺りを見渡し、自分が知らないところにいる、ということを少しずつ理解してきたようだ。

「ここどこですか?」

「さあ、俺もよくわからないんだ。俺は湊修一(みなとしゅういち)、二十歳だよ。君のお名前は?」

「わたし、橘夢華(たちばなゆめか)です。七歳です」

だよねえ、どおりで随分と可愛らしいと思ったよ。つか、これどうすんの?若い子が好きとかそういう次元を越えちゃってるよね、これ。もしこれが本当に夢なら、俺の潜在意識とかやばすぎでしょ。夢なら早く覚めて、そして夢のままで消え去って。

「あの、お兄ちゃん」

お兄ちゃん、だって?あぁなんていい響きなんだ。そういえば俺、昔は妹が欲しかったんだった。上に少し離れた兄が二人いるだけで、姉か妹、特に妹が欲しいと思ってたんだ。そっか、そっちの願望が出てしまったんだな。

「ん、どうしたんだい?」

紳士かつ頼りになる雰囲気が出るように、優しく答える。

「おズボン履かないんですか?」

そうだった、今の俺は半裸の変態紳士だった。

「ご、ごめんね!今履くからちょっと待っててね!」

興奮状態のままじゃなくてよかった。多分見てもわからなかったとは思うけど、なんというか良心が痛むところだった。いやどっちにしてもダメだけど。しっかりとパンツを履きベルトをしめ、最初の状態に戻った。さあて、これからどうするか。ふと気がつくと、夢華ちゃんがドアの前に立っていた。ガチャガチャと開けようと試みているようだ。

「このドア、開かないんですか?」

「そうなんだよね、俺も出たいんだけど」

夢華ちゃんはドアの札を指差す。

「開け方が書いてある?読めないけど」

「そうだね、書いてあるね…読めるけど」

読めるけど、どうすんのこれ。え、これ本当にしないと出れないんじゃ?

「お兄ちゃん?」

不安そうにこちらを見る少女の頭に手を乗せ、軽く撫でた。性交しないと出られない部屋かあ、そっかあ。

「いや、これは無理だろ…」

どうしよう。



続かない

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