表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル100で旅立つ魔王討伐記(正直無理なので逃げたいです)  作者: 景浦良野
第2章 ゆうしゃ は たびだった
5/28

2-3(前編) 先生が教えてあげる

「ねえ。表と裏、どっちに賭ける?」


 彼女の名は知っている。

 この世界に転生したあの日、自分の前に立ち、魔王の攻撃から庇おうとしてくれた仲間の1人、ククリリだ。

 あの時はあまり顔をよく見てはいなかったが、特徴的な声と子供のような体格はよく覚えている。

 この世界で確認されている4種の人間、その内の器用さとマナの量に長けた種族、小人族の少女……否、女性。

 おかっぱの頭に赤い頬、くりっとした大きな目はこの世の汚れなど一切知らぬように見える。だが、実年齢は29歳。リアルに海兎の一回り以上を生きている、アラサー女子というやつであった。

 もちろん海兎からすればストライクゾーンの真ん中に違いないのだが、実物を見るといかんせん属性を盛り過ぎではないか? という疑念も湧き上がる。

 幼児のような手足は見た目通りに柔らかいのであろうし、服の下も決して年齢や性を主張しない寸胴体型なのだろう。

 それでいて魔術分野ではパーティ一の技量を誇り、彼女無しでは旅は成立しなかったとさえ、フェミィは誇らしげに語っていた。

 同年代……では間違いなく無いのだが、女子は女子同士、なにかと気が合うものなのだろう。彼女はいつも、マナイやククリリについては笑顔で語っていた。

 ここにいるはずのない仲間を前に完全に固まるフェミィと海兎を見て、ククリリはにんまりと笑った。


「ねえ答えてよーカイトちゃん。表? 裏?」

「……裏?」

「よーし開けるよー」


 当てずっぽうで海兎が答えると、ククリリが小さな足をどけた。

 金貨の表裏は全く分からない。フェミィが持っていたのはもっと小銭ばかりであったし、日本の硬貨のように数字が書いてある訳でもない、ただ女の顔が彫られているだけの面のどこに価値の判断基準があるのかも分からない。

 その辺りの大切な事はフェミィは面倒がって教えてはくれなかった。曰く、金銭にのみ囚われた魂は周囲を測る尺度をも金銭に換算しなければいられない罰を負うのだと。

 海兎はそれを単に自分への嫌悪と不信ゆえの壁だと考えていたが、ここでその因果の結果が出るとは思ってもみなかった。


「あちゃあ、表だね。表は大抵悪い結果なんだ。これ、ウチの信条」

「はあ」

「んん? 連れない態度。いつものカイトちゃんじゃないねえ?」

「あ、ええとね、ククリリ」

「いーよいーよ、とりあえず細かい話はさ」


 ぶんぶんと手を振ったククリリは、1軒の建物を指差した。


「お酒でも飲みながらゆっくり話そ」


…………


 ドン、と音を立てて置かれたジョッキを見て、海兎は肝を冷やしていた。まさか

 店内には強面、獣人、露出の高いお姉さんに、また強面。そんな中、机にジョッキが運ばれてはすぐさま空にする、底の抜けたタルのような妙齢の女性と向かいに座る神官と変態。

 いつどんな因縁をつけられ、喧嘩を売られるか分かったものではない。威圧があろうがレベルが高かろうが、怖いものは純粋に怖いのだ。

 それにしても、と海兎はさっきから全く底を見せないククリリに舌を巻いていた。

 体型もタルなら、肝臓もタルなのかも知れない。海兎は決して口には出さず、うんうんと頷いた。


「んでえ? キミはカイトじゃなくて、異世界からやって来たクズイカイトちゃんって言うのね。えへぇー、よろしくの握手ー」

「よ、よろしくの握手ー。手ぇ柔らか……ずっと握ってたい……」

「汚いから離れて。ククリリ、私はあなた達が魔王に囚われたと思っていたの。ずっと心配していたのに、一体どうやって?」

「よくぞ聞いてくれました! しからば話しましょう我が逃走劇! って言っても、魔王か誰かに蘇生(リバイブ)された瞬間、隙を突いて魔術を乱射してやったんだ。さすがの相手も大慌て、その混乱に紛れて一目散に走ったってワケ。そしたら川に落ちちゃってさ、気が付いたらこの近くまで流されてた」


 逃げて川に落ちて流される。どこかで聞いた事のあるような道中に、海兎はなるほどな、と相づちを打った。

 こちらの事情をすんなり呑み込んでくれたククリリは、見た目以上に愉快な人物らしい。そんな経験をしておきながら、何の事は無いとばかりにけろりとしている。

 もちろん、魔王への怒りが無いはずもない。ここで逃げた自分に当たり散らす事もしない。

 大人の余裕なのか、単純に性分なのか、どちらにせよ懐も底なしに広い人物なのかも知れない、と海兎は少し、彼女に対する評価を改めた。


「さて、さっきの賭けの支払い分なんだけどさあ」

「え゛」

「え? 当たり前じゃない。乗った賭けは絶対に支払う。でなきゃ運命に取り立てられる。これ、ウチの信条」

「……ククリリは賭け事が大好きなの。絶対に財布を持たせたくない人なのよ」


 そうと分かっていれば賭けになど乗らなかった。

 トンチキなテンションのお姉さんに何を要求されるのかなど分かったものではない。できれば口に出せない秘め事がいい。夜、1人で部屋へ……とか。

 そんな海兎の淡い妄想は、現実的な一言で掻き消された。


「とりあえずここの支払い、して貰おっかな。あ、お兄ちゃーん、ルービ追加ね」


 一瞬で唇から血の気の引いた海兎の石像のような顔にさすがに同情したのか、フェミィはこうも付け加えた。


「勤労の神グリーグリィは、自身の下に跪いた者の手が荒れているかどうかを恩寵を与える指標にしている、と言いますよ」


 相も変わらず役に立たないワンポイント神知識は、海兎の心にからっ風を吹かせるだけであった。


…………


「ふああ、飲んだ飲んだ。川の水ばかりだったから、すっかり血が薄まっちゃってたよ」


 ポンとお腹を叩くククリリに、フェミィはくすりと笑った。

 思えば、2人でこうして夜空を見上げて語らうのは、もうずいぶんと久しぶりかも知れない。

 ガルスが加入してからなにかと仲の良かった2人は、焚き火番も一緒に付いたりして、仲間内でも噂になっていたものだ。

 その話になれば決まってタキゾーが品の無い冗談を飛ばし、ひんしゅくを買うのが常であったが。

 フェミィも、彼女達の関係はそういうものなのだと、半ば確信めいて直感していた。


「あのクズイカイトちゃんって子、面白いねえ。もう手は出された?」

「なっ……そんな事、許すはずがないでしょう!?」

「なははぁ、フェミィちゃん、お堅いからなあ。そうやって大事にしてても、男は重く感じるだけだぞぅ」

「なっ、なっ、何をっ、何のっ……もう!」


 そっぽを向いたフェミィを笑い、ククリリは手にした瓶を呷った。

 店の酒をほとんど飲み尽くしてしまったというのに、こうしてまだ飲んでいる。彼女は本当に底なしだ。そもそもこの体のどこに、そんな量が入るのか。

 窓の外は一面の星空であった。とても、世界が絶望のさなかにあるとは思えない、美しい光景だ。

 もしかすると、人間同士で覇を競い争っていた時代の方が、今よりもずっと空はくすんでいたのかも知れない。

 魔術や兵器が容赦なく人命を奪った時代。それは、果たして現代よりもマシだと、そう言えたのだろうか。

 どちらにせよ、利を得ない者にとっては地獄でしかない。

 自分達はその割りを食った一番の被害者、最下層で産まれたからこそ分かる。

 万人全てに等しく不平等を強いる魔王の方が、何故かずっと平等で、温情的だとさえ思えた。

 当然、許す事などできはしないし、討伐の旅は続けるつもりだ。クズイカイトが何を言おうと、彼の力で必ず魔王を倒させてみせる。

 それが、自分と、彼の故郷であった焦土に誓った、忘れ得ない約束なのだから。


「……ガルス達は、どうしたの?」

「え? ああ。分かんない。ウチも逃げるのに必死だったから、姿は見ていないんだ。きっと上手く逃げ出せている、と思いたいけれど」

「そう。そうよ、ね」


 ここで悩んでいても3人の身の安全は保証されない。一刻も早く魔王城へ行き、事実を確かめるとともに、魔王を討伐しなければならない。

 そのためにも必要なのだ、クズイカイト、勇者の強化が。彼の態度を見る限り、それにより増長しないとも限らない。

 それでも、気に障るのは一時だけ。目的は個人の感情の全てを超越する。

 意を決したフェミィは、ククリリに向き直った。


「ねえ、お願いがあるの。あなたにしか頼めない事が」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ