副キャプテン近藤の離脱
西暦2111年。綿棒を重ねて、太陽まで届かせるスポーツ競技が流行っていた。
この競技は団体戦で一週間の期間が設けられ、外で同じ条件下で行われる。
例えば、雨や雪がふってもおかまいなしということだ。
主人公率いる日本代表は王者であり、綿棒を、きちんと積み重ね、土台をきちんと作成していく整式型だ。
しかしながら近年、研究されてきて、その王者としての位置がぐらついている。
主人公は、この競技で日本代表ではあるが、本職は新聞記者である。
そして、大会前に新聞記者が新聞記者の質問を受けるという事態に陥ってしまった。
話は遡る。そこで事件は起きた。
何故なら、うちのチームの副キャプテン近藤が報道部の女性キャスターから質問を受けた時、彼の綿棒の持ち手である部分が中折れしたのだ。
これはこの競技で戦いが始まる前に起きてしまうと一番まずいことで、この責任をとって副キャプテン近藤が大会参加を辞退。
そのまま引退するという異例の会見になってしまう。
中折れした綿棒は所謂、100円ショップで売っている綿棒で、近藤はダイソーで購入したと答えている。
ここで中国代表の新手の嫌がらせが始まっていた。ダイソーで大損〈ダイソン〉をしてしまったのだ。
しかし、いいこともあった。ネピアとエルモアから共同開発した新商品の綿棒が緊急発売されたのだ。
中折れのしない硬度の高い綿棒で日光にも強い。
近藤の引退はくやまれたが、新商品の綿棒の出現により、記者会見は何とか落ち着いた。
だが、俺はここで疑問に思ったことがあった。
近藤はブラックタイプではなく、何故ホワイトタイプの綿棒を使用していたかということだ。
「汚れがわかりやすいからさ」
近藤はそう言っていたが、かつて彼は
「ほら、黒のほうが汚れがわかりやすいだろ?」
と言っていたのを俺は覚えている。
しかしながら、俺は理解に苦しでいる。
何故、そもそも彼は乾燥タイプの耳内具合のはずだが、そうも処理したがると。
そうした中で俺は一つの仮説にたどり着いた。
彼の左右の耳は、それぞれどちらかが燥乾で、どちらかが湿っていたに決まっていたのかもしれないと。
選手生命の危機が、耳垢を通して教えてくれたのだ。
大会初日、頼りがいのある近藤副キャプテンを欠きながらの、一回戦が始まった。
一回戦の相手は中国。くしくも近藤の仇の国だった。
綿棒に向かって、俺は手を掛けた。
神経が綿棒の脱脂綿につながり、俺の右手の一部と化した。
「よーい、はじめ」
スタートの合図がなり、俺は、太陽への果てしない階段を作り始めた。
一本一本、中折れしないように積み重ねていく。
おそらく俺は今日、誘惑に負けるだろう。
何故なら、目の前に綿棒があり、今にも1本抜き去り、ほじりたいくらいだ。
誘惑に負けじと、精神力を保つ。
「ファウル」
なんと中国勢がファウルをとられた。ここで俺たちに耳かきの権利が与えられる。
俺は目の前にある、自分が積み重ねてきた魂の建造物から、1本の綿棒を抜きとろうとした。
欲望と理性がぶつかり、俺の耳の中は湿ってきてしまった。
「しまった・・・」
後悔したが、もう耳の中は湿り気たっぷりの汗だくだ。
「もうダメだ」
意識が朦朧としてきて、目の前にある綿棒をごっそり抜き取ろうとする。
その時、俺の目の前でカメラの眩いフラッシュが光った。
見ると、そこにはまだ3歳になったばかりの愛息子が妻に連れられていた。
「パパ、これちゅかうの」
息子から渡されたのは、耳かきだった。ありがとさん。
その瞬間、俺は息子に対して、激昂していた。
これは耳かきであり、便利かつ永続的なものであるが綿棒ではないと。
かつて耳かきを使用して、不慮の事故を遂げたものがいるほど、
恐ろしいものだ。
だが逆に冷静になれた。この心持ちで仲間と交代するまで行こう。
近藤のためにもな。
俺の魂の脱脂綿がゆらゆらと湿りを帯びていった。
戦いは始まったばかりである。