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サンフラワー・フィールド

作者: 雪野つぐみ

 とある星、終焉を迎えた文明に、ひとつのコンピュータがありました。

 「世界再現シミュレータ“アカシック・プログラム”」これはその名の通り、様々な世界を計算、構成し再現する、まるで神様のようなコンピュータ。

 そして今、この中にはこの星の全人類が存在するのです。


 「……対象ウイルスの“排除(デリート)”完了。さすがにソロだと疲れるな……」

 ここは電脳(コンピュータ)世界とは言え、頭や身体を酷使すると疲れる。難儀なリアリティーだ。

 少し、お気に入りの場所に行って休むか。

 その場所のアクセスポイントを入力し、“接続(アクセス)”をタッチする。

 『この先の世界へ接続(アクセス)するには、認証が必要です』

 いつものように表示されるメッセージ。認証コードを入力し、“認証”と書かれたパネルをタッチ。

 『リンネ・ヘイズコード 認証しました』

 目の前に現れる扉。それを開けば、私だけのお気に入りの場所だ。


 扉の先は、一面の花園。

 タワシを思わせる花芯に黄色い花弁の花が咲いている。私達の世界で“向日葵”と呼ばれていた花だ。

 私の妹、アフィエルの好きだった花。

 「……わかってるさ。自己満足だって」

 花園の中心には、小さな石碑。その脇に座り込んで一人話す。

 「あの日、私が風邪を引かなければ、お前は犠牲にならなかった。ずっと……悔しい」

 データの海に飲まれた妹。今やこの“アカシック・プログラム”の一部だ。

 私は“アカシック・プログラム”の片隅に向日葵畑(ここ)を作り花を絶やさないようにし、私だけが訪れられるようにした。

 ただの自己満足だ。


 「そこにアフィはいないのに?」

「誰だ!」

私とは違う声に振り返る。そこにいたのは、桃色の髪に蒼い瞳、向日葵畑には似つかわしくない黒いコートの少女だった。

 「わたし?わたしは……なんて言うかな……」

「ここは私以外は入れないはずだが」

「知ってるよ。えっと、そうだ。わたしは世界の意志代行者。ある世界が意志を求めて生み出したの」

 “代行者ちゃん”か“概念存在ちゃん”って呼んでね、と言う彼女は、ウイルスのようなものではない。かといって、内部に人間のデータがあるわけでもない。

 「向日葵の花、リンネちゃんは昔アフィと二人で育てたんだよねー。向日葵畑に行ってから『おうちで育てたい』ってダダこねて」

「何故それを知っている!?」

「アフィの記憶にあったから。わたしたち“アカシック・プログラム”の存在は、本質的にアフィの記憶にアクセスできるんだよ。わたしたちはアフィの一部なんだから」

 ふわふわとした足取りで、彼女は私のそばまで来て石碑に腰を下ろした。

 「起きちゃったことはね、変わらないんだよ。例えアフィが元に戻ったとしても、アフィの脳まで再生できるわけじゃない」

「わかっているさ……」

「それとね、一つ教えてあげる」

 彼女はそう言って、私の頬に手を当てた。

「リンネちゃん、ずっと悩んでたよね。『あの時自分が……』って。でもね、アフィは自分がバラバラになる瞬間もリンネちゃんのこと、恨んでなかったよ」

「そんな……」

「アフィはずっとリンネちゃんに憧れてた。昔から頭が良くて、天才って言われるリンネちゃん。自分はリンネちゃんになれないから、あの時リンネちゃんの代わりになるのも受け入れた」

 私の顔を覗きこむように体を傾ける彼女。

 「『こんな目に合うのがお姉ちゃんじゃなくて、良かった』」

「良いわけないだろう!」

 つい、怒鳴ってしまった。目の前の彼女に怒鳴ってどうする。

「アフィの自我が、最後に思ったことだよ。わたしはこれをリンネちゃんに伝えなきゃいけなかった」

 アフィの記憶を理解する中で唯一意思を持つ存在としてね、と彼女は微笑んだ。

 「だから、暗い顔しない!」

むに、と頬をつねられる。

 「……痛い。つねるな」

「あ、痛かった?ごめん」

「……とりあえず、お前が何でここに来たのかはわかった。

 私、そんな暗い顔してたか?」

 「してたよー。プログラム内じゃ全然笑わないし」

 そう言いながら彼女は立ち上がり、向日葵の一本を引き抜いた。

 「アフィは向日葵が好きだった。わたしも、向日葵は好きだよ」

「おい勝手に引き抜くな」

 引き抜いた向日葵を、こっちに差し出してくる。それは0と1に包まれ、やがて手のひらに乗るサイズの髪飾りになった。

 「Mr.セイジョウがアフィに婚約指輪の代わりに贈ったのも、向日葵の髪飾りだった」

 今目の前の彼女の手にあるのはそれと同じもの。アフィはその髪飾りを婚約者に会う時には必ず着けていた。

「リンネちゃん、向日葵畑作ってくれてありがとう」

「お前のための場所じゃないがな」

「……まあね。じゃあ、わたしは行くね。また、何処かで」

 そう言うと彼女は0と1に包まれ、消えた。

「……またな」

それが届いていたかはわからない。

 「さて、私も行くか」

行き先など決まってはいない。またいくつかの世界をさ迷うだろう。

 アフィの欠片を探す旅は、まだまだ終わりが見えないのだから。


どうも、雪野つぐみです。

今回はまた珍しくSFです。新しいシリーズです。


今回はちょっとわかりにくいところ(主にリンネとアカシック・プログラムの過去)がありましたので軽く解説。

リンネとアフィエルはアカシック・プログラムの研究者の一人(二人)でした。あるときシステム内部へ入って活動する実験の最中に事故が起き、アフィエルの脳はアカシック・プログラムに取り込まれ、自我崩壊を起こしてしまいました。

その後研究者たちの研究によって、アフィエルのデータの一部を発掘することに成功、リンネはそれを希望に現在もシステム内で活動中。


最後に、この作品を読んでくださった皆様、メール放置してしまったにもかかわらず今回も一緒に実施してくださった共同主催の文房群さん、名ばかりな気がしなくもないSF研の皆様に、感謝をささげます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 企画お疲れ様です! なにやら幻想的な雰囲気のあるお話に期待で胸が膨らみます! 待望の新シリーズ。 果たしてどんな話になるのか、楽しみにしてますね!
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