第96章 徴税官と旅立ち
第五章開始です。
勇者になった俺は、すでに四天王を3人倒した。
そして隣国ファブリカ王国で魔王の手による戦争を食い止め、奴隷になっていた妖精ハーヤを助け出した。その後、ケイカ村に戻って村を発展させ、エルフたちの未来を助け、猫と狐の獣人たちを助けた。
収穫祭では大地母神ルペルシアを降臨させてラピシアと親子対面させた。
信者も沢山集めた。
ケイカ村の朝。
俺は屋敷で出発の準備をしていた。
レオたちからの報告を受けて、王国の南東にある湿地帯にいる吸血鬼――地獄王がたまごを持っていると知ったから。
そいつをやっつけて、隣の大陸へ行く。
まあ用意といっても単純で、背負い袋に適当に食料や薬、毛布を詰め込んでいくだけだが。
すると修道服を着たファルが顔をのぞかせた。
「ケイカさま。村長と徴税官がこられました。応接室でお待ちです」
「徴税官? ありがとう。すぐ行く」
応接室に向かいながら、なんのようだろうか? と首を傾げる。
勇者は税金を払う必要がなかった。
魔王を退治するための活動が制限されては意味がないから。
絨毯の敷かれた応接室はテーブルを挟むようにソファーが向かい合って置かれていた。内装はまだ少なく質素なもの。
ソファーには村長と豪華な服を着た男が座っていた。
村長が立ち上がる。
「おはようございますケイカさま。お忙しいところ急に訪ねてすいません」
俺は座りながら尋ねる。
「なにかあったのか?」
「こちらの方が徴税官のティアックさまでございます」
身なりの良い若い男が薄笑いを浮かべて俺を見る。
「これは勇者さま。お初にお目にかかります、わたくしめはティアック・ミルフォードでございます。このたびは麦の収穫量から税を決めるために来たのですが、少し気になることがあったので寄らせていただきました」
ティアックはどこかの貴族らしく、話し方や振る舞いは慇懃なものだった。
逆にイラッとしたが、旅立ち前なので手短に済ます。
「それで気になることとは?」
「話を聞くと「お守り」を販売されているとか。店舗の許可料と物販税を領主に払っていただかないと、この村では商売することができません」
「なるほどね。いくらぐらいだ?」
「収益がどれぐらいかわかりませんが、だいたい大金貨で46枚(460万)ぐらいになるでしょう。これだけいただければ許可を取らずに商売したことには目を瞑りますから」
いやらしい目をして薄笑いを浮かべる。暗に口止め料寄こせとまで言ってきやがった。
払えない額ではなかったが、こいつに払う気は起こらない。
だいたい、魔王を倒すためには信者5万人集めないといけないわけで、この村でやってる事は必要経費であり、税金かかるほうがおかしい。
だから俺は首を振った。
「それは払うことはできないな。なぜなら商売をしていないから」
「な、なんとおっしゃる! 今見てきましたが、すでに庭で販売をされているではありませんか」
「すべて勇者として魔王を倒すのに必要なことだからやってる。だいたい売ってはいないしな。貰ったお金は活動援助費や寄付であって、儲けではない」
「そんな、戯言を……勇者さまといってもなんでも許されるものではないのですよ?」
「ほーう。じゃあ、俺が間違ってるかどうか、ダフネス国王に出て直接申し開きするか? 俺ならアポなしで会えるぞ」
「あ、いやっ!? ……そこまでは」
ティアックは焦りながらへつらいの笑みを浮かべる。
俺は口の端を歪めて追い討ちをかける。
「そんな、遠慮しなくてもいいんだぞ? ひょっとしたらお前が正しくて、王様の覚えも良くなるかもしれないじゃないか。目を瞑ることに熱心な貴族ティアック・ミルフォードとして。よし、行くか!」
ティアックは挙動不審に立ち上がる。
「いや~あはは。いえいえ確認に来ただけなので、事情が分かれば問題ないのですよ、あはは。では魔物退治頑張ってくれたまえ」
ティアックは応接室から出て行った。
村長が慌てて後を追う。
「ティアックさま!? ――ケイカさま、失礼します。――お待ちください、ティアックさま!」
静かになる応接室。
俺は屋敷を出て行くティアックを千里眼や多聞耳で追った。
「くそ、これだから馬鹿力だけの田舎者は嫌いなんだっ! ちょっと下手に出たら頭に乗りおって! 覚えてろよっ」
ティアックは激しく憤りながら大股で馬車へと向かった。
「負け犬の遠吠えにしか聞こえないな……面と向かって言えよ」
何回来ようと野良犬のように追い払えそうだった。
「一応、嫌がらせを受けたら俺に知らせるよう村人達に言っとくか」
そんな事を考えながら自分の部屋へ戻ると、壁に四角い穴が開いて虹色の光があふれ出した。
にゅーっと四頭身の妖精ハーヤが出てくる。
「ケイカさん、ケイカさん。魔族警報銅像できました~」
「おー、できたか。等身大だろうな?」
「はいー、そっくり同じです」
「じゃあ、リィかフィオリアに、ロニ村へ運ぶように言っておいてくれ」
「らじゃー。あとのはどうしますか?」
一瞬何を言われたか分からず問い返す。
「――ん? あと? あとってなんだ?」
「あと10体あります」
「1体だけじゃなかったのか!! ――ああ、そうか。個数までは指定してなかったもんな」
「違いましたか? 沢山の村に配布するのかと思ってました」
つぶらな瞳で俺を見てくる。
「うーん、ただで配っても信仰には繋がらないからなぁ。……いや、ロニ村の噂が広がれば、警報銅像を欲しがる人も増えるか。他の村から言ってきたら恩を売る感じで渡すようにしてくれ」
「はーい」
ハーヤは壁にあいた妖精の扉をくぐってどこかへ消えた。
◇ ◇ ◇
しばらくして用意ができたので全員で屋敷を出発した。
20人ほどの大部隊で用水路に沿って東へ向かう。
俺のパーティーとレオのパーティー。それに獣人たちが力を合わせて巨大な車輪――外輪船の輪を運んだ。
これを大河を利用してドルアースまで運ぶつもりだった。
ラピシアに頼んで、道を舗装しながら数時間歩くと大河に出た。
川幅50メートルはある、深い大河がゆうゆうと流れている。
土手から見下ろすとすでに体長5メートルほどの蛇――ナーガたちが8人きていた。
白い肌のイエトゥリアがよく目立っている。
「久しぶりだな、ケイカさま」
「イエトゥリアも元気そうだな」
一回り大きいダリアが言う。
「ナーガ族全員、楽しく暮らせてもらっている。本当に感謝する」
「それはよかった。――じゃあ手筈どおり、この輪を港町ドルアースまで届けてくれよ」
「任せておけ」
俺とラピシアで軽々と掴んで、そっと水面に降ろした。
外輪1つをナーガ3人が受け取る。
獣人たちが騒ぐ。
「お、おい。あの重いのをたった2人で」「さすが勇者さまだ……」
レオもはしごを用意しながら苦笑する。
「ケイカさんには驚かされてばかりですよ」
「驚くっつーか、ありえねぇー」
ティルトはやれやれと首を振った。
その後、獣人たちと別れ、俺のパーティーとレオパーティーは船に乗った。
「じゃあ、レオ。船の改造、頼んだぞ」
「任せてください、ケイカさん」
レオたちには外洋船を外輪船に作り変えてもらうようにお願いしていた。
妖精ハーヤを現場監督にするわけにはいかないため。
俺の乗る船を引くイエトゥリアが言った。
「それではケイカさまよ。急いでもよかろ?」
「ああ、頼む」
「しっかり捕まっておくのだぞ」
イエトゥリアが白い蛇体をうねらせた。尾の先がピシャッと水面をはねる。
船の速度がグンッと上がる。
高速船は少し改造されて、揺れにくくなっていた。
下りの流れもあって、滑るように進んでいく。
ラピシアが満面の笑みで、飛ぶように流れる景色を見ていた。
◇ ◇ ◇
王都を過ぎてさらに数時間。
日が傾きかける頃、東の岸についた。浅瀬になっている。
「この辺でよいか?」
「ああ、いいだろう」
ラピシアが大きなジャンプで飛び降りた。白いワンピースの裾がはためく。続いてミーニャが巫女服を揺らしてひらりと飛ぶ。その後、俺が続いた。
最後のセリカは、下りる時に足をふらつかせた。
倒れそうになるところへ、手を取って抱き寄せる。
「大丈夫か?」
「あぅ……ちょっと船の揺れに……」
俺の腕の中で呟いた。うつむく顔が赤い。
イエトゥリアが水の中から体を出して言う。
「人間は大変だのう」
「急いでもらったからな、仕方ない」
「迎えは1週間後でよいのか?」
「ここから3日と聞いている。それぐらいで頼む」
「わかった。まあ、勇者さまのことは仲間全員に伝えてあるから、時間がずれたら下りの船を手を振って止めてくれたらよい。一日5本出ておるからな」
「そうさせてもらうよ」
「では気をつけてな」
イエトゥリアは船を引っ張って南へと進んでいった。
それから俺たちは東へと向かった。
日が暮れた頃、ヨブの村へ付いた。
30軒ほどの小さな村。
村長宅に泊めてもらう。
勇者だと告げると、なぜか歓迎された。
夕食の席で村長は言う。
「この間は魔物を退治していただき、本当にありがとうございました」「刈り入れ前でどうなるかと」「村は助かりました」
口々に感謝される。
でもまったく身に覚えがない。
すると村長は言った。
「しかし今日は仮面をつけておられないのですね」
「え? ――ああ、もう魔族に遠慮する必要がなくなったからな」
仮面と聞いてピンと来た。
――レオたちだ。
前に俺の手柄にしてくれと言ったが、まさか正体を隠すために仮面をつけて行動してたとは。
どうりで、村の女性が「ケイカさまの素顔ってこんな感じだったのですね」などと言ってくるわけだ。
レオたちはどれだけ格好つけて活躍したんだか。
想像するだけで、妙に恥ずかしかった。
横を見るとセリカが金髪を揺らしてクスクスと笑っていた。
夜も更新します。




