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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第四章 勇者村内政編

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第91話 収穫

 朝から畑の刈り入れが慌ただしく始まった。

 本当は数日後だったが、俺が明日から雨が振ると忠告したため。

 熟した麦が濡れると発芽する危険があった。

 奴隷も獣人たちもほぼ全員参加してもらった。


 俺とセリカは、猫人族の少女と応接室で会っていた。

 明るい茶髪にネコミミ。背は低いがとてもとてもしなやかな手足をしている。陸上選手のように無駄のない筋肉。年は20歳と、見た目よりも年上だった。


「ケイカさま、おはようございます。連絡係りをしていたアニーラですにゃ」

「獣人地区のすべてを回っていたのだな」

「はい。全部の村へ手紙や伝言を届けていましたにゃ。走るのが得意ってか、逃げ足が速いのですにゃ」

「では各獣人たちが住んでる村の位置と人数、魔王軍の駐屯地や砦の場所、あと簡単な地形を教えて欲しい」



 セリカがペンを持つと書いた地図を見せた。

 セリカの国は獣人地区と交流があったので、大まかな地理は知っていた。

 

「わかりましたにゃ……えっと、ここが猫族の村で5人ほど怪我人と老人が残っています。北西に行くと丘があって虎族が70名ほど。森に狼族と犬族の集落で900名ほど。山の中腹に熊族がいてでも10人ぐらいしか。熊族は山を歩き回って生活してるので。北の林に猪族が200人、狸60人。林の北には砦というか洞窟があって……」


 獣人の部族は25ほど。総数2300人。思ったよりも少ない。

 どうやら魔王軍で強制労働させられたり、別の場所へ逃げたり。また食料にされたりなどで数を減らしたらしい。

 ただもともと100人規模の村がほとんどだったらしい。

 


 アニーラの言葉と数字を、セリカが地図に書き込んでいった。

「あと昔は5つほど獣人がいたそうですが、消えました。部族全員で逃げたか、魔王軍に襲われて全滅したかだと思われますにゃ」


「一桁台の部族がいるな。竜人族3、蛇人族5、象人族2、獅子人族6。滅びかけじゃないか」

「魔王軍に戦いを挑んで負けたのです。ほとんど虐殺されましたにゃ。それに加えて、猫、鼠、狐、鹿も協力したので数を減らしました」



「牛人族も10人ぐらいで少ないな」

「数自体はそれなりにいるはずです。ただ牛の女性は全員胸が大きいので、魔族の慰み物として連れ去られています。そして衰えてくると喰われる運命です。男は幼いうちに喰われます。獣人で一番美味しいそうですにゃ」



「悲惨だな。ということは魔王軍の上官クラスのところに分散しているというわけか……そういや保護した獣人の中に、1人いたな。確かに巨乳だった」


「牛人族スジャータさんは、勝利の宴のために喰われる予定だったので、助けてもらえてとても喜んでいました」

「喰われる?」

「麦粥を口などから無理矢理流し込んで、お腹をパンパンに膨らませてから丸焼きにする予定でした」


「……それはよかったな。逆に数が多いのが魔王軍に従っている部族か」

「生きるためです、しかたありませんにゃ。お許しください勇者さま」

 アニーラは頭を下げた。ネコミミがしゅんと垂れていた。

 というか、時々語尾につく「にゃ」が気になった。



「別に咎めるつもりはない。攻撃してきたら知らないが……しかしだいたいわかった。魔王軍の町や砦の位置も把握した。とても参考になった、ありがとうな」

「にゃ! お役に立てて光栄です! これからも怖いこと以外は協力しますにゃ!」

 アニーラは尻尾をピーンと立てて背筋を伸ばした。


「怖いこと?」

「魔族はいじめてくるですにゃ。だから逃げ足早くなったですにゃ!」

「そうか。それは大変だったな」

「だからこの村で暮らせてほっとしてますにゃ」


「それはよかった。――あとはスジャータか。牛獣人1人だけだと、辛い目に遭うかもしれないから、マハルには、いじめられないように注意するよう伝言を頼む」

「細かいところまで配慮されるなんて、さすが勇者さまです! すぐに伝えますにゃ!」


 そして、彼女は勢いよく出て行った。

 伝言を届けた後は、畑仕事を手伝うらしい。



 あとには俺とセリカが残された。

 セリカが金髪を手で後ろに払いながら言う。

「助けてあげたいですが、場所的に難しいですね」

「予想より数が少ない。今のままでは防衛が難しいな」


「そうですね……自治領を作ってダフネス王国に編入してもらうとしても、攻められたときに救援に駆けつけられないでしょう」

「大森林が防波堤になってたが、攻める時には足かせになる。だから俺がいつでも駆けつけられるようにしたい」

「どうされるのですか? まさか、ケイカさまはできるのですか?」

「一つ方法はある。妖精の扉を使う」


 セリカは驚きで青い瞳を丸くしながらも頷いた。

「……ケイカさまができると言われるなら、きっとできます」

「ああ、任せておけ」

 俺は手を伸ばしてセリカの頭を撫でた。金髪の心地よい感触。

 セリカは頬を染めてうつむく。もたれかかってくる。

「はぅ……わたくしも頑張りますね」

 しばらくセリカの体温を感じてから、体を離した。別の場所に向かう。

 引き続きセリカには屋敷を取り仕切ってもらった。


       ◇  ◇  ◇


 屋敷の裏に回って、ハーヤの工房へ。

 4頭身の妖精ハーヤは相変わらず作業台の上で何かを作っていた。小さな手が残像しながら動いている。

「朝から熱心だな」

「わぁ。もう朝ですか。おはようございます。寄付箱はリィさんに頼んで設置してもらいました」

「ああ、ありがとう、助かったよ。それで、外輪船の仕様は決まったか?」

「設計図はできたので、4~5日あれば作れます。大きな車輪を作って、シャフトとゴーレム核を繋げばできますー。あとは川に乗せて港まで運び、既存の船に設置すれば完成!」


「船体まではやっぱり無理か」

「仲間がいないですから。ボクの手じゃ小さすぎます」

 悲しげな顔でうつむくハーヤ。三角帽子がへなっと垂れた。



「それももうすぐだ。辺境大陸へ渡って、妖精界を取り戻してくる」

「わぁ! 本当ですか? ケイカさん、ありがとうございます」

 落ち込んでいた顔を、ぱあっと輝かせて俺を見上げた。


「だから、製作のほうに取り掛かってくれ」

「わかりました。ところで外輪船よりもっといいアイデアができたのですが……」

「嫌な予感しかしないな」


 ハーヤは胸に手を当てて得意げに言った。

「外輪船はエネルギー効率が悪いです。ジェットを船体につければ、3日で辺境大陸へいけます!」

「ほう。波を受けて船体は木っ端微塵だな」

「船体に魔法をかけて耐えます~。あと、スクリューも効率良いですよ~。1週間でいけます。浸水しますが。これも魔法で防げばいいです」


「却下」

 俺が即答すると、ハーヤは涙目になった。

「なしてですか~!?」

「魔法に頼りすぎると、魔法除去の魔物に出会ったときに全滅する。魔物じゃなくても魔法除去の結界があるかもしれない。できるだけ魔法を使わずに航海したいんだ」

「なるほど。深い考えがわかりました。人間さんの技術にあわせればいいんですね」

「そういうことだ。欲しい物資があったら俺かセリカに言ってくれ。では頼んだぞ」

「はーい」

 ハーヤはまたハンマーを持って、金属を加工し始めた。


       ◇  ◇  ◇


 夜になって刈り入れが終わった。

 畑には何箇所かに分けて麦わらが干されていた。

 落ちた穂を拾う人もいる。

 しかし村人たちは年に一度の大仕事を終えて、みんな晴れやかな笑顔をしていた。

 村人と獣人たちとの間にはいまだ溝があるが、刈り入れを手伝ったことにより少しずつだが打ち解け始めていた。

 いい傾向だった。


 そして時間がかかりそうだったので、俺とラピシアも手伝った。

 黄金色に実った麦を刈り取ることは大きな喜びがあると知った。


 ラピシアは積み上がった麦を見ながら言う。

「麦がいっぱい!」 

「よく頑張ったな。あとは脱穀と乾燥だ」

「だっこく?」

「茎から麦の粒を外すんだ。――ほら、あんな感じに」

 村人が千歯扱きに似た脱穀機に麦わらを通して実をそいでいた。



「わぁ~」 

 ラピシアは目を丸くして、その様子を眺めていた。感動しているらしい。

 俺はそんなラピシアの頭を撫でた。子供の温かい体温を感じる。

「というか、手伝ってくれてありがとうな」

「ラピシア、いい子?」

「ああ、いい子だ」

 すると、俺の体に細い腕を回して、ぎゅうっと抱きついてきた。


 なぜか切なげに眉を寄せて言う。

「どれぐらい、いい子?」

「とてもいい子だ。いっぱい、いっぱい、いい子だ」

「うれしい……」

 俺のお腹に顔を埋めてきた。

 かすかに震えている。

 ――なんだか、いつもと様子が違う。


 彼女の薄い体を抱きながら尋ねる。

「どうした、ラピシア?」

 すると俺に抱きつきながら、囁くように言う。

「……ねえ、ケイカ」

「ん?」

「あと、どのくらい?」

「なにが?」

 俺の言葉に顔を上げた。幼い顔に大人びた表情。


「あと、どのくらい『いい子』にしてたら、お母さんに、会える?」

 ラピシアは金色の瞳に涙を浮かべていた。



 俺は、はっと息を飲んだ。

 ラピシアは最近ずっと、いい子だった。

 世界樹を救い、村を改善し、戦いでは常に言うことを聞いた。


 どんな命令や頼みごとも聞いてくれた。嫌な顔一つせずに。

 勉強や野菜は苦手らしく嫌な顔をしたが、それでもしっかりこなしていた。

 駄々をこねたのは大地母神として本能的に世界のためにしたときだけ。



 精神的に成長したからと思っていた。

 もちろんそれもあるが、お母さんが恋しくなればなるほど、いい子になろうとしていったのか。

 すべては一日も早く母親に会いたかったからだったのか。

 ――会わせてやりたい。一目ぐらい。


 ぎゅっと彼女の体を抱き締めた。汚れのない無垢な肢体。温かな体温。

 青い髪に顔を埋めながら言った。

「すぐに会える」

「ケイカ!? 本当!?」

「ああ、本当だ」

「ケイカ……好き」

 ラピシアはぎゅううううっと抱きついてきた。

 細い腕の全力で。

 あばらが折れるかと思った。


 俺は全力で耐えつつ、背中をぽんぽんと優しく叩いた。



夜にも更新します。


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