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第7話 言葉の暴力と試験勉強

 宿屋一階の酒場にて。

 俺はごろつき3人のステータスを呼び出していた。


--------------------

【ステータス】

名 前:サズ

職 業:山賊

クラス:剣士Lv22

属 性:【土】

【装 備】

武 器:破魔の氷剣【強殺品】:魔物に氷の追加ダメージ

防 具:チェインメイル【盗品】:紋章入り



【ステータス】

名 前:マズ

職 業:山賊

クラス:弓士Lv18

属 性:【風】

【装 備】

武 器:疾迅の大弓【盗品】:連撃可能 命中に補正

防 具:妖精の服【拾得品】:命中と精神力に補正



【ステータス】

名 前:ガフ

性 別:男

年 齢:30

種 族:人間

職 業:山賊頭

クラス:戦士Lv34

属 性:【火】

【装 備】

武 器:爆殺の大剣【強殺品】:爆発の追加ダメージ 低確率で即死発動

防 具:キメラの鱗鎧【強殺品】:敏捷力に補正 重さがない 浮遊

--------------------


 雑魚なので数値は省いた。

 重要なのは、職業【山賊】だな。

 胡散臭い奴らだとは思っていたが、そのまんまな職業だったとは。

 【盗賊】ならまだ「迷宮荒し=冒険者」の可能性もあったのだが。


 そして装備。

 【盗品】やら【拾得品】やら。

 【強殺品】は殺して奪い取った物のこと。

 もちろん、普通の服や装飾品も盗品ばかり。

 

 想像以上にどうしようもないクズどもだった。



 俺は山賊たちの座るテーブルまで来た。

 三人ともバカにしたような薄ら笑いを浮かべている。

「なんだよ、貧弱野郎」

「顔も服もしけてやがって」

「女に金払わせるぐらいだからな」

 ぎゃはは、と醜い声で笑う男ども。


 一瞬、切れそうになったが、俺はぐっと奥歯を噛んで我慢した。

 ――こらえろ、俺。ここで暴力沙汰になったら輝かしい未来が水の泡だ。


 大きく深呼吸すると、怒りを押さえ込んだ。



 俺はガフの傍へ寄ると据わった目で見下ろした。

「お前らうるさい。警備兵呼ぶぞ」

「おうおう、呼んでみろよ。こっちは酒場で楽しく飲んでるだけなんだからよ」

「いいのか?」

「酒場で騒いで捕まるかよ」

 ガフは黄色い乱杭歯を見せて、げらげら笑った。


 俺は奴に顔を寄せ、小声でささやいた。

「本当にいいのか? その剣と鎧、お前のものじゃないだろう? どうみても名入りの一品。調べられたら困るんじゃないのか?」

「なっ、なにっ!」

 奴の目の色が変わる。


 俺は薄笑いを浮かべて見下ろした。

「黙って出ていけ。そして二度と来るな。そしたら警備兵は呼ばないでおいてやる。勇者試験前にもめ事は困るだろう?」

「くそっ! てめえ!」

 俺とガフは睨みあった。髭面の汚い顔。目が心底濁っている。

 山賊二人は目配せしあって事態の推移を見守っている。

 意外と賢い奴らだな。



 唐突にガフが立ち上がった。ガタンッと机が揺れ、いすが転がる。

「勇者試験、楽しみにしてな! 筆記試験で落ちるんじゃねぇぞ! てめぇを必ず八つ裂きにしてやる!」

「そうか。勇者試験では人が死んでもかまわないのか」

 俺はにやりと凄惨な笑みを浮かべた。


 うっ、と俺の迫力に息をのむ山賊ども。

 ガフはすぐに気を取り直し、床に唾を吐いた。

「けっ、飲み直しだ!」

 そのまま肩を怒らせて店を出ていこうとする。


 その背に俺は呼びかける。

「おい、お前。金払っていけ」

「ちっ!」

 ガフは懐から大金貨一枚を出して店の親父に投げつけた。

 そして手下を連れて出ていった。



 静かになる店内。

 緊張がほぐれて空気がゆるむ。


 俺はカウンターまで戻った。

 親父が目を丸くしている。

「あんた、何を言ったんだい!? それとも魔法か?」

「いいや、ただ挨拶しただけさ」

 俺がにやりと笑うとミーニャが細い腕で、ぎゅうっと抱きついてきた。

「お兄ちゃん……ありがとう」

 華奢な体から子供のような高い体温を感じる。

 頭をなでてやる。細く艶やかな黒髪。

「よかったな」

 気持ちがよいのか猫のように目を細めるミーニャ。


 親父はまだ驚いていた。

「まさか暴力沙汰を起こさずにあいつらを追い払うなんて……」

 俺がもめ事起こして全員拘束されることまで考えていたに違いない。

 ここでは殺さなかっただけだが。

 神を侮辱した罪は身をもって償ってもらう。



 セリカが赤い唇から吐息を漏らす。

「さすがですわ、ケイカさま。ケイカさまこそ勇者にふさわしいです」

「ありがとうな。それはそうとして。勇者の試験はどういうものなんだ?」

 ガフは勇者試験で殺してやると言っていた。

 事故に見せかけて殺すのか、それとも直接殺そうとしてくるのか。

 その辺りを知っておかないと不利になりそうだった。


 セリカは考えながらもすらすらと答えた。

「勇者試験では、勇者に必要な『賢さ』『勇気』『強さ』そして『心の正しさ』を試されます」

「『賢さ』が、筆記試験だな」

「ええ、そうですわ」



 親父が顎を撫でながら言う。

「『勇気』はあれだな、試練の塔だ。楽しみだぜ」

「親父も参加するのか?」

「バカ言うない。俺たちは見てるだけさ」

「魔法か何かで放送中継されるのか」

「その通り。誰が一番早く突破するか賭けるのさ」

「なるほど」

 となると、試練の塔で合法的に殺すのは難しそうだ。


 セリカが横から言う。

「試練の塔は中がダンジョンで、複雑な迷路になっています。モンスターがいてトラップもあります。3名以上のパーティーを組んで挑まないといけません」

 3名……ガフが手下を二人連れていたのはそういう理由か。

「俺たちもあと一人は適当に雇うしかないか。また金がいるなぁ」

 親父がニカッと笑う。

「なら腕の立つ奴、探しとこうかい?」

「いいのか? 金はあんまり出せないぞ?」

「なぁに。ツケが溜まってる奴らがいるからよ。棒引きする代わりに呼んでやるよ。一週間もあれば集まらぁな」

 親父が酒場のカウンターにある帳面を手に取ると、指を舐めてからぺらぺらとめくって見ていった。

「助かる。ありがとうよ」

「ありがとうございます」

 俺とセリカは素直に礼を言った。



 それからセリカに顔を向けて尋ねる。

「参加者は全員同じ場所から一度に入るのか?」

「いえ、別々の入り口から、です。中で出会うことはほとんどないかと」

「そうか。じゃあ、あるとするならその次だな」

 まだ抱きついているミーニャをなでながら言った。ゴロゴロと喉を鳴らしている。ネコミミがぴくっと跳ねるように動く。


 セリカが首を傾げつつ答える。

「その次? ええと、『強さ』の試験は闘技場でおこなわれます。塔を突破した勇者候補たちでトーナメントの一騎打ちをします」

「そこでは相手が死んでしまうこともあるんだな?」

「その通りです。お気をつけください」

 青い瞳に心配そうな光をたたえて見つめてくる。

 

「心配するな」

 俺は余裕の笑みを浮かべてつつ、彼女の頭をなでてやった。

 柔らかな金髪が指先に心地よい。

 セリカは顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。


 闘技場とは、おあつらえ向きじゃないか。

 多数の民衆の見守る中で身の程を知ってもらう。

 その方法はいずれ考えよう。今から楽しみだ。



 俺は親父を見る。

「それじゃ、これから一ヶ月間、泊めてもらえるな?」

「当然だとも」

「いくらで?」

「もうもらってるさ」

 そう言って親父はガフの投げた大金貨を見せてニヤッと笑った。


 俺も思わずほほえみ返す。

「助かるよ」

「あんた、名前は?」

「ケイカだ。連れはセリカ」

「俺はキンメリクだ、よろしく。――おい、ミーニャ! いつまでじゃれついてる! この二人を案内してやるんだ」

「……わかった」

 ミーニャは親父の手から鍵を受け取ると、奥の階段へ向かった。丈の短いスカートが揺れて、背中までの黒髪が流れるように揺れ動く。

 階段の下まで行くと、振り返った。

「ついてきて……」

 俺とセリカはミーニャのあとに続いた。



 案内された部屋は三階にある南東に面した角部屋だった。

 南と東に窓があるためとても日当たりがよかった。眺めもいい。

 しかもスペースが広くて家具の備え付けもあり、どうみても宿泊費が高そうだった。

 俺はミーニャに尋ねた。

「いいのか、この部屋で? 一ヶ月は占領させてもらうぞ?」

「はい……お父さんがここの鍵出したから……」

「そうか……でもなあ、どうするセリカ?」

「え、いや……その」

「いやなら換えてもいいんだぞ」


 俺がそう尋ねる理由。

 ベッドが一つしかないからだった。キングサイズの大きなベッドが壁際に、でんっと据えられている。

 セリカが耳まで真っ赤な顔をしながら、指を噛みつつベッドを凝視している。

「べ、別に、わたくしはどこでもかまいません」

「そうか。二人で寝ても充分な広さがあるしな。ミーニャ、この部屋に止まるよ」

「はい……ケイカお兄ちゃん」

 ミーニャは細い手を伸ばして俺に鍵を渡すと、黒い尻尾をゆらゆら揺らして出て行った。あまり喋らないおどおどした態度の子だったけど、少しだけ足取りが軽くなったように感じた。



 開け放たれた窓から清々しい風が吹き抜けた。白いカーテンが風に揺れる。

 俺はベッドに座ると、横をポンポンと叩いた。

「セリカ、座ったらどうだ?」

「ええ!? 昼間からですか!?」

「ああ、今からだ」

 するとセリカは頬を染めて、大きな胸の前で細い指先をもじもじとさせた。

「そ、そんな……明るいうちからだなんて……」

「何を言ってる? 今からしないと試験に間に合わないだろう?」

「へ? ――ああ、そうですよね! 勉強しないとっ」

 セリカが金髪を乱しながら、わたわたと隣へやってきて座った。


 二人並んでベッドに座る。くっつくように座ってきたため、彼女の金髪から花のような香りがした。

「筆記試験ではどんな問題が出るんだ?」

「試験では各国の地理歴史、魔王との戦いの記録。武器防具、アイテムの知識。各種魔法体系。モンスターの種類と対処法。などです」



 ……多いな。

 確かにそれらを知っていることは勇者として冒険をする上で必須の知識と思われるが。


 ――はたしてあの頭の悪そうなガフが通過できるか?

 絶対無理だろう。

 でも奴は自信満々だった。


 何か裏があるな、これは。

 調べた方がよさそうだ。



 とはいえ、これから勇者として生きていく上で知っておいたほうがいい知識ばかりなので、今日のところはセリカに教えてもらった。

 面倒くさいけど。


 ただ勉強してみると、そこまで難しくはなかった。

 まあ、歴史はどこの世界でも同じで人間の愚かさの繰り返しだったし、武器道具やモンスターはゲームなどの知識が役立った。

 似た生物は、空想でも異世界でも弱点は同じというわけだ。

 魔法にいたってはすでに名前は違えど、似たような体系――神法術を収めてあるし。

 わからないのは造物使役術――ゴーレムやホムンクルスを作って使役する魔法ぐらいか。

 なんとかなるだろう。 


 とりあえず布教が暇で漫画やゲームで遊んでおいてよかった。

 素直に喜べないのはなんでかな……くっ。



 結局、覚え終わる頃には夜になっていた。



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