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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第四章 勇者村内政編

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第86話 一難去ってまた一難

 獣人たちを連れてロニ村へ戻った。

 村人たちは教会に集まっていた。

 神父の格好をした初老の男が出迎える。村長だった。

「勇者さま、村を救ってくれてありがとうございます」

「村人たちは大丈夫か?」


「あれだけの被害の割には人的被害はとても少なく済みました。冒険者が2人。村人が2人です。けが人は無数に出ましたが、一命を取り留めたものが多いです。意識不明者がまだ数人いますが」

「お、そうか。どこにいる? 治してやれるはず」

「え、本当ですか、勇者さま、長いすに寝かせています!」

「わかった」

 俺は教会の中へ足早に入った。

 浅くはない怪我をしてる男が多いので《快癒》を唱えながら通路を歩く。

「おお!」「痛みが!」「マジか!」「勇者さま!? すげぇ!」「ありがてぇ!」

 教会内に驚愕の声と俺を褒め称える声が響いた。



 祭壇前の長いすには確かに死にかけている人たちがいた。

 土気色の顔で横たわる血まみれの青年と、首と背骨が折れている少年。胸を突き刺された僧侶。はらわたがはみだして苦しんでいる中年男。

「偉そうに言ったが、これは俺でも厳しいかもな――《快癒》」

 触れながら治療する。


 青年はすぐ治った。少年は骨と神経を正してから治した。僧侶は心臓が動いていたため、肺を元通りにしたら治った。

 中年が大変だった。内臓は先に治して、位置を調整しながら戻して腹を閉じた。もう一度《快癒》をかけて腹膜炎を予防しておく。

 少し時間がかかったけれども、3人とも脈と呼吸は浅いが一命を取り留めた。


「よし、一週間は動けないだろうが、命は助かったはずだ」

「え!? あの勇者さま……そちらは亡くなった人ですが……」

「あ、そうだったのか! 呼吸はまだしていたからてっきり」

「本当に助かったのですか!? ――そんなまさか! どうしてですか! 私の祈りでも届かなかったのに……」

「まあ、勇者だからな」


 少年の傍にいた女性が「本当にありがとうございます!」と涙を流してお礼を言ってきた。

 他の村人も驚いている。

「すげぇ」「信じられない」「さすが勇者さま」「本当に勇者の力なのか……?」

 さすがにやりすぎだったかもしれないが、命を助けたんだから気にしない。



 一通り眺めて全員生きているので教会の外に戻った。

 獣人たちは身を硬くして立ちすくんでいた。

 村長に言う。

「それでだ。獣人たちが穀物を返したいそうだ。彼らは魔物に脅されて従わされていただけなんだ」


 村長の顔が曇る。

「そう……ですか」

「信じられない気持ちも分かる。許せない者もいるだろう。しかし、ここは勇者ケイカの名前に免じて、許してやって欲しい。その代わり、村の補修費用を払おう」


「それは、ありがたい申し出ですが……今、村を捨てるかどうかの話し合いの最中でして」

「村を捨てる?」

「農地を覆うだけの結界を頼む費用がないのです。何十年もかけて、こつこつ広げてきましたが……もう」

 村長は堪えきれずに、目を覆った。ぐすっと鼻をすすり上げる。


「農村なのに畑を耕せなかったら終わりだな」

「はい……あぁ、私の代で廃村にしてしまうとは……」

 村長は目を真っ赤にして泣く。

 獣人たちは悲しげに俯いた。


「まあ、結界なら俺が張れるから安心しろ。もちろんタダ――いや、蕎麦1袋でしてやる。ちなみに俺の村の農地も5倍に広げてきたところだからな」

 がばっと村長が顔を上げる。

「ほ、本当ですかっ、勇者さま! ありがとうございます! それなら村は立て直せます!」

「それなら、さっそく直すか。獣人たちは村のがれきでも運び出してくれ」

「「「わかりました」」」



 ところが。

 突然、少年が表に飛び出てきた。獣人たちを指差して叫ぶ。

「こいつらだよ、結界壊したの! 僕見たんだ!」

「なに!」「本当か!」

「豚みたいな顔をした獣人が壊したんだ!」

 大人たちが殺気立つ。


 俺は言った。

「それは獣人じゃない。魔族だ。ややこしいが、獣の人間と、獣の魔族がいる。その違いだ」

「でも、でも、だって!」

 まだ言いたがる少年を、俺は神の威圧を込めて睨み付けた。


「黙れ。勇者の俺を疑うというなら、牢屋行きだが……いいのか?」

「ひぎっ」

 少年は尻餅をついてぶるぶる震えた。


 それから大人を睨む。

「お前たちもそうだ。獣人たちは魔族に無理矢理従わせられていただけで、本当はしたくなかったんだ。わかるな?」

「は、はい……っ」

 男たちは震え上がった。



 そこへ馬の蹄の音が聞こえた。

 見れば5頭の馬に乗ったベイリーと村人、それに剣士が村に入ってきた。

 ミーニャは巫女服をなびかせて併走していた。嬉しそうに耳がピコピコ揺れている。


「ケイカお兄ちゃん!」

「よく来たな、ミーニャ、それにベイリーたち。今から村を掃除するから、獣人たちと一緒に手伝ってくれ」

「うん」

 勢いよく頷いて、そして獣人たちへと向かった。


 俺は村長を見る。

「じゃあ、結界を張りに行こうか」

「はい。こちらです」

 村長に案内されて、結界を張った。



 途中、池にまだ潜んでいたリザードマンと火トカゲの残りがいたが、ミーニャが見つけて切り裂いた。その後、解体されて素材になった。

 あと魔族や魔獣の死体も黙々と解体処理したそうだ。

 素材の半分は村に残され、残りはミーニャが持ち帰ることになった。


 その間に、俺は村を大きな正方形、農地をいくつかの正方形で囲んだ。



 数時間後、村の入口に戻った。

 ミーニャやベイリー、それに獣人たちが整列している。

 村長が穀物袋を渡しながら言う。ずっしりと重い。25~30Kgはあるようだ。

「勇者さま、村を救っていただいてありがとうございました。こちらはお礼の蕎麦です……小麦でなくてよろしいのですか?」


「蕎麦がいい。75日で収穫できるからな。今から育てるつもりだ」

「今からですか!? 初雪までに収穫が間に合わないかと」

「ま、その辺はどうとでもなる。あと結界だが」

「はい、なんでしょう?」


「結界はちょっと厳し目に設定しておいた。魔族と魔物、それに村に悪意を持つ者は入れなくなった。あと……1日経てば獣人も入れなくなる。それでいいな?」

「はい……獣人の方には申し訳ありませんが、この被害があった後です。ご了承ください」



 後ろに控えていた狐族長のマハルが頭を下げた。

「当然の処置だと思います。本当に申し訳ありませんでした」

 獣人たちもそれぞれに頭を下げる。

「ごめんなさい」「申し訳ありません」「お許しください」


「まあ、長い時間掛けて許してもらうしかないだろう……あと、これは相談なんだが」

「なんでしょう?」

「結界をものともしない強い魔族が村に侵入した場合、すぐに知らせる装置があったらほしいか?」

 ――おそらく侵入したのは豚のグルモン。

 元の結界がどれぐらいの強度か知らないが、上級魔族には存在しないも同然だろう。



「そのようなものがあるのですか!? ぜひお願いします!」

「わかった。出来上がり次第届けさせよう――では帰ろうか」

「うん」

 ミーニャが頷いて俺と並んで歩く。その後ろに獣人たちが続く。



 村人は手を振って見送る。

「ありがとう勇者さま」「旦那を救ってくれて感謝します」「さすがです、勇者さま」


 俺たちは丘を越えて、南東のケイカ村へと進んでいく。

 俺はミーニャと一緒にブーホースに乗っていた。

 同じく馬に乗るベイリーが傍へ来る。

「ケイカさま、獣人たちを村へ住まわせるんですか?」

「そうだ」

「村の人たち、怖がるんじゃないですかね?」

「そうだろうな――」

「奴隷にするか、せめて偽の奴隷紋でもつけておいたほうが……」


 うーん、と俺は考え込んだ。

 すると後ろからマハルがやってくる。

「会話を聞いてしまいました。私どもは迷惑を描けるつもりはありませんが、不安が解消されるのでしたら奴隷になります」

「うーん。それをすると、偏見はいつまでたっても消えないんだよなぁ。できることなら共存したい」

 マハルとベイリーが目を丸くする。

「人間と「獣人と共存!?」


「それに獣人はもう住んでたじゃないか――なあ、ミーニャ」

「ん」

 こくっと頷くミーニャ。風で黒髪がサラサラと流れた。



 ベイリーが頭を掻く。

「そうでした、すいません。ミーニャさんがおられましたね」

「ケイカお兄ちゃん。いい方法がある」

「なんだ?」

「獣人は同じ獣人で一番強い者に従う。だから私が勝てばいい」


「いやいや……私が一番強いですが、子供に負けるとは思いませんが」

「ケイカお兄ちゃんに強くしてもらった。誰にも負けない」

「ケイカさまには逆立ちしたって勝てませんがね……」



 ミーニャがマハルをジロッと睨む。

「私の力を疑うのは、お兄ちゃんに対する不敬」

「いや、それは事実であって……」

 耳を垂れて俺の様子を伺うマハル。


 俺はニヤッと笑った。

「いいじゃないか。村人みんなが集まる時に、戦え。手を抜かず、全力でな」

「ケイカさまがそう言われるのでしたら、全力でいかせてもらいますが……今からでしょうか?」

「いや、祭りの日に人が集まるから、そこで戦おう」

 ――しかも、賭けをして盛り上げてやろう。

 いい出し物になる。


 俺の内心を知ってか知らずか、ミーニャはツンと澄まして呟いた。

「絶対……勝つ」



 ――と。

 頭にガツンと衝撃が走った!

『ケイカ! でっかいの来た!』

 ラピシアからの心話だった。

 ――痛てぇ……って、大きいのだと!

 やはり本隊は別にいたのか!


 俺は急いで《千里眼》で村を見た。


 そこには確かにでかいのがいた。

 緑色の宝石のような巨体が村の西側、新しいため池辺りにいた。

 ――グリーン山のドラゴンじゃないか!

『だれ?』

 ――いやいや。会っただろ。たまごのお母さんだよ。

『ドラゴンの顔 見分けつかない』

 ――まあ、それもそうだな。俺も並ばれたら分からないな。……とりあえず、すぐ帰るから村人たちには安心しろと言っといてくれ。

『わかった!』



 俺は馬から飛び降りた。

「村に用事ができた。先に帰る。みんなはゆっくり帰ってきてくれ」

「わかった」

 こくっと頷くミーニャ。

 マハルとベイリーも頷いた。

「わかりましたケイカさま。あとから行きます」

「馬に乗っていかなくていいのかい?」

「走ったほうが早い――勇者だからな」

 ベイリーは首を傾げたが、俺はもう走り出していた。



 ――それにしても自分から村へ来るなんて、いったいどうしたんだ?

 何もなければいいが。

 嫌な予感を感じながら、俺はケイカ村へと急いだ。皆が見えなくなると《疾風神足》を使って。

40万字超えてました。ありがとうございます。

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