第84話 村の経過と強盗!
3日後のケイカ村。
妖精のハーヤに作ってもらったケイカ式パイプの設置が終わった。
水路に流れ込む水は2~3倍に増えた。
元の風車も併用している。水のためというより、川下りする船の目印になっている可能性があるから残したのだった。
とりあえず水が増えたので、ラピシアに頼んで新しいため池を作ってもらった。
今あるため池の南西側。
新しく農地を広げたところの西端。
さらに農地拡大することも考えに入れて作った。
ラピシアが地面に手を当てて「えいっ」と言うだけで、ちょっとした湖ぐらいのくぼ地が出来上がった。
「四角くできるか?」
「うん!」
さらにゴゴゴッと地鳴りをさせて、長方形の巨大なプールが出来上がる。
あとは水路も掘ってもらい、ため池とつなげた。
どどどっと騒がしい水音を立てて流れ込んでいく。
「これでいい?」
「もちろんだ。よくやった。偉いぞ」
青髪の頭を撫でると、嬉しそうにえへへと笑った。
それにしても土木作業にかけては、ラピシアは最強だった。
さすが大地母神。
一方で、屋敷の庭は植樹が完成していた。
緑に囲まれた社は、見ているだけで空気が清々しく感じる。
ここでもラピシアが活躍した。
生え揃っていない生垣を見たラピシアは言った。
「これはどうして植えたの?」
「生垣といってな、2メートルぐらいの緑の壁にするんだ。これから育てないといけないが――」
「じゃあ、育てる!」
ラピシアが地面に手を当てて魔力を送った。やさしい母親のような力。
すると、木が少し伸びた。低い木でも1メートルにはなった。
――この力、畑にも使えるんじゃないか?
フィオリアが目を丸くする。
「こ、これは豊穣の力!? まさか、ラピシアちゃんは大地母――むぐっ」
俺はとっさに、ふくよかな唇を押さえた。
そして失敗に気付く。
――しまった!
言葉を止めたら、推測が正解だと教えるようなものだ。
俺は手を離すと、緑の目を覗き込んで言った。
「誰にも言うなよ」
「わ、わかりましたケイカさま――リィも言ってはだめよ」
「うん、わかった、言わない」
「俺たちだけの秘密だぞ」
「まあっ……わかりました、ケイカさま」
なぜかフィオリアは頬を赤らめた。
リィも顔を赤らめてもじもじする。
「ひ、秘密共有……夫婦の誓い……」
「これ、ダメですよ!」
リィを叱りつけながら、フィオリアはリィの手を引いて屋敷へ戻っていった。
傍にはラピシアが残る。
子犬のように目をキラキラさせて。
「ああ、偉い。ラピシアはとてもいい子だ」
「わーい」
きゃっきゃっと喜ぶラピシア。
大地母神や世界の帰趨に関係すること以外ではとても素直なので助かった。
ラピシアは仕事が終わったので外へ駆け出していった。
村の子供と遊んでいるらしい。
相手とケンカになっても全力は出すなと、さとしておいた。
俺は屋敷に入ってファルの部屋へ。
彼女は言われたとおりに手に収まるぐらいの小さな袋を作り続けていた。
部屋の隅にうずたかく積み重なっている。数百はあった。
「順調なようだな」
「はい、頑張ってます! ……でも、こんなに小さな袋、どうされるのです? 財布にもなりませんし」
「それはな――そろそろ次の作業に移ってもらったほうがいいか」
「なんでしょう?」
俺は記号を書いた木片を差し出す。ちょうど小袋に入る大きさ。
「この記号を書いた木片と同じものを作って、袋に入れてくれ。それで完成だ」
「はあ……わかりました」
ファルは金髪を揺らして、不思議そうに首を傾げた。
わからないのは無理もなかった。日本語で書いてあったから。
前にファルに頼んだ小袋の刺繍の模様。
それには「お守り」と書いてあった。
神社といえば、おみくじ、お守り、お札。
それらを扱うつもり。
お守りにしたのは、それを持ってなにか願うだけで、俺が聞けるから。
かなえるかどうかは俺の気分次第だが。
「それを売るつもりだ。――そういえば、ハーヤに作ってもらったペンダントは持っているか?」
「はい。とても素敵な模様です。ありがとうございます、ケイカさま」
胸の辺りからチェーンを引っ張って、魔法陣の描かれた魔法銀の板を取り出した。
魔法陣に干渉しない形で意匠が施されている。
咎人の判定を誤魔化すペンダントだった。
「肌身離さず持っておけよ」
「はい。でも、こんな素敵なプレゼントを男性から貰ったの、初めてです……しかも貰ったのはセリカさんやリィさんだけ……。そういうことなのですね」
ファルは何を勘違いしたのか体を恥ずかしそうにくねくねさせて、頬を赤らめていた。
――まあ、喜んでもらえたら、まんざらでもない。
「じゃあ、頼んだぞ」
「はいっ、ケイカさま! お勤め頑張ります!」
小袋を掴んで元気よく返事するファルをあとに、俺は部屋を出た。
屋敷の裏へ行く。
裏庭には工房と鍛冶場も完成していた。
木の匂いのするお洒落な工房と鍛冶場。
大工の奴隷が加わったのと、夜に妖精ハーヤが手伝ったおかげでとても早く完成した。
メルビウスは予定よりも早く終わって驚いていた。
「ケイカさん、もうできあがってしまった。……夢を見ているようだ」
「気にするな。次は風呂を頼むぞ。その次は長屋の増築。さらには屋敷からみて南のほうに旅館が欲しい」
「旅館? こんな何もない村に必要なのか?」
俺はニヤッと笑った。
「大勢泊まれる施設が必要なんだ」
「ケイカさんがそういうなら……できるだけ早く仕上げよう」
「頼んだぞ」
収穫祭は盛大にやるつもりだったので、王都や周辺の村から人を呼びたいと思っていた。
そのための宿泊施設。
でも、それだけじゃない。もっといろいろ作るつもりだ。
この村は王国の北限に位置し、魔王領と一番近い。
そのため人が少なく、無駄に土地が余っている。
開発し放題。
いろいろ構想が浮かぶ。商店も欲しいし、鍛冶屋も欲しい。
「――と。そのためには村長と打ち合わせしとかないとな」
俺は村の中央にある村長宅へ向かった。
◇ ◇ ◇
村長はL字型の建物の中庭にいて、調達した資材や物資を確認していた。
「これはこれはケイカさま」
「なにか賑やかだな」
「頼んでおいた祭り用の物資が届いたのですよ」
「祭りはどんな感じでするんだ?」
「この中庭がメイン会場です。まずはルペルシアさまの祭壇を運んで、畑を練り歩いて感謝をささげます」
「ふむ」
――神輿みたいなものだな。
「祭壇が帰ってきたら、楽器を鳴らし、村人総出で踊ります」
――盆踊りみたいなものだな。
「ふむ。ついでに勇者ケイカ村の改名披露もやってしまおう」
「それはいいですね。あの後、しばらく交渉は難航しましたが、急に話が進みまして。改名は受理されました」
「それはよかったな」
――王様に口利きを頼んだから、そのおかげだろう。
一番大きな問題は片付いた。あとは建物を立てて、人を増やせば自然と俺の名は広まるはず。
よかったよかった。
村長は言う。
「あとは王都から劇団を呼びますし、料理人も呼んで無料の食事を屋台で振舞います。かなり賑やかになります」
「夜まで祭りは続くのか?」
「大きなかがり火をいくつも焚きます」
「なるほど。結構大掛かりだな」
「近隣の村からも人が来ますから。メイン会場はここの中庭になります」
「そうか。祭りの流れはだいたいわかった――ん?」
俺は何気なく中庭を見渡すと、村人ではない集団に気が付いた。
5人の冒険者たち。鎧を着た戦士と剣士、弓を背負う探検者。魔法使いに僧侶。
「どうかされましたか、ケイカさま?」
「あの男たちは何だ?」
「雇った冒険者でございます」
「ふぅん。何か退治するのか?」
「いえ、この時期、収穫を終えた麦を狙って、盗賊や魔物が村を襲ってくるのでございます。その防衛に雇ったのです」
「そんなことがあるのか。なるほどな」
そのとき、中庭に1人の男が駆け込んできた。
「ケイカ村の村長、大変だ!」
「おや、これはロニ村長の息子ではないか。どうしたのじゃ?」
「ロニの村が魔物の群に襲われた! 結界が破られて危ない! 魔物は100匹を越える!」
「なんだって! 100匹!?」
――魔物100匹なら村どころか外壁を持つ町だって落とせる戦力。
村長が俺を見る。
「勇者さま……この村は自分たちを守るだけで精一杯です」
「わかってる。でも見捨てるわけにはいかないから、俺が助けに向かおう。道は?」
「西に出てしばらく行くと、北西に向かう道に分かれます。道なりに行けばロニの村です」
「わかった。お前はセリカ……いやミーニャに村人たちと助けに来るよう伝えてくれ。セリカにはこの村を守るように言ってくれ。村のみんなは防御班とロニ村救護班を組織してくれ」
「わかりました」
――防衛の指揮という点では、ミーニャより王女セリカの方がいいだろう。
俺は急いで駆け出した。和服の裾がはためく。
途中、村のはずれで子供たちと遊ぶラピシアに出会った。
「どうしたの? ケイカ」
「北西の村が襲われているらしいから助けに行ってくる」
「ラピシアも行く!」
ラピシアは目を輝かせて小さく拳を握った。
俺は一瞬考えたが、すぐに否定した。
「いや、敵の戦力がどれぐらいかわからない。俺たち全員が出たあとで、別働隊がこの村を襲ったら危険だ。お前はこの村を守ってくれ」
「わかった、ケイカ! みんなを守る!」
ラピシアは拳を握り締めたまま、ふんすと鼻息荒く答えた。
「あと村長に他の村が襲われていないかも調べるよう伝えてくれ。頼んだぞ」
「うん!」
素直な返事を背に、俺はまた駆け出した。
村を出て西へ走る。
黄色く色づく麦畑の間を通る道。
途中で北西へと向かう斜めの道が現れた。
俺はそちらへと進んでひた走る。村が見えなくなったところで呟いた。
「――《疾風神脚》」
土煙を引いて、最速で駆けた。
十分ほど走った後。
なだらかな丘を超えると、村が見えた。
徒歩なら数時間かかっただろう。
山のふもとにあって、大きな池を囲むように家が建っている。
その村のあちこちから煙が上がっている。
村の敷地では戦う人や、倒れた人がいる。
村人の大半は石造りの教会に逃げ込んでいるらしい。
池からトカゲ魔人やカエル魔人。北と西から魔獣を率いた魔族が攻めてきている。
少しはなれたところに熊魔族に率いられた狐や猫の獣人の集団が、穀物の詰まった袋を荷台に載せていた。数にして50人ほど。
村長が言ったとおり、収穫期を狙って来たようだ。
荷台を《真理眼》で見たところ小麦や大麦、それに蕎麦を持ち出していた。
村を攻める魔物の数は100体ほどなのでさほど多くはないが、広い村のあちこちに散らばっていて殲滅に時間がかかりそうだった。
「この広さだと俺の足でも、少し時間がかかるな」
その間に死人が増えそうだった。
できるなら、1人でも多く助けたい。
そこで俺は道端に落ちてる石を拾うと振りかぶった。
パシュウッ!
空気を音速で切り裂いてまっすぐに飛ぶ。
村の道が爆発して、小隊長と思われる獣魔族の頭が吹き飛んだ。
遅れて、ドゴォォン……と爆発音が響いてくる。
俺は《真理眼》で強い奴を見つけては、石を投げてぶち抜いた。
数に押されている村人のところへも投げた。魔獣をまとめて吹き飛ばす。
一度、豚人間みたいな魔族にホームランを打たれたがそれ以外は倒した。
教会の屋根に上っている猿みたいな奴らも打ち落とす。
はっきり魔物と分かる者たちを半減させた。
魔法を使わなかったのには理由がある。
俺の水と風では、あまり派手ではないためだった。
誰もがびびる震動と煙、爆発音によって、敵に被害以上の戸惑いを与えていた。
驚いた魔物たちが動きを止める。何が起こったかわからず混乱が広がる。
後続の部隊は、轟音に足がすくみ進行が止まった。
もちろん、後続を指揮する熊魔人も木っ端みじんに吹き飛ばしておいた。
戦う村人たちも驚いていたが、石が狙うのは魔物たちばかりと理解して歓声を上げた。
「救援が来た!」「助かったぞ!」「強い奴みんな死んだぞ、いける!」「押し返せ!」
わぁぁ、と村人たちが気炎を上げて襲い掛かった。
――よし、大成功。
俺は3つほど石を拾って懐へ入れると、村へと疾走した。




